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Disease Atlas · 血液 · 腫瘍

脾辺縁帯リンパ腫

Splenic marginal zone lymphoma

別名
SMZLSLVL絨毛状リンパ球を伴う脾リンパ腫
臓器系
血液腫瘍
科目
PathologyInternal Medicine
トピック
病理学 C/13:濾胞性リンパ腫/マントル細胞リンパ腫/節外辺縁帯(MALT)リンパ腫病理学 C/17:脾腫を来す疾患内科学 H-21:非ホジキンリンパ腫
上位概念
リンパ腫
鑑別疾患
リンパ形質細胞性リンパ腫慢性リンパ性白血病有毛細胞白血病有毛細胞白血病バリアント脾原発赤脾髄びまん性小型B細胞リンパ腫
治療薬
リツキシマブソホスブビル
原因微生物
C型肝炎ウイルス
症状
脾腫
検査値
血算絶対単球数

🧠 全体像:(SMZL)は、著明な脾腫・末梢血の・という三点セットでするのB細胞リンパ腫で、と同じ「脾腫が前面に出てリンパ節腫脹が目立たない」臨床像を共有するため両者は鑑別の軸として対で覚える。もう一つの核心は感染との関連で、陽性例では化学療法を使わずにだけでリンパ腫が寛解しうるという、腫瘍学の中でも異例な治療反応性を示す。

病態・分子的特徴

SMZLは脾臓のに由来するリンパ腫で、抗原・による持続的な刺激と、の分化に関わる遺伝子の分子異常が組み合わさって発症すると考えられている。NOTCH2変異とKLF2変異がSMZLで最も頻度の高い変異で、文献上の頻度はNOTCH2が10〜25%、KLF2が12〜44%とされる(この論文自身の検討では84例中16.6%・45例中22.2%)1。同じ検討で、・CLL・・・・SDRPL・MBLの対照群ではどちらの変異も検出されなかった1。KLF2異常は7q欠失やIGHV1-02使用を伴う症例で濃縮する傾向があり、NOTCH2変異例は野生型と比べが有意に短く、予後不良のとしての意味を持つ1。

⚠️ 「SMZLに特異的」と覚えない。 ①この対照群の症例数は疾患あたり1〜15例と小さく(は1例のみ)、著者自身がKLF2について「他の報告とは対照的に検出されなかった」と限定を付けている。NOTCH2についても同じ論文が、1.5%・3.7〜4.3%・5.2%・1.94%と、他のB細胞リンパ腫でも時折報告されると書いている1。②対照群に節性(NMZL)が入っていない。 日本血液学会の診療ガイドラインは、KLF2変異・NOTCH2変異をNMZLとSMZLの両方に関連する異常として挙げている2。どうしの鑑別に使える所見ではない。

第5版(-HAEM5、2022年)は脾のB細胞リンパ腫・白血病を、①、②、③著明な核小体を伴う脾B細胞リンパ腫/白血病(SBLPN)(旧・とCD5陰性を置き換えたもの)、④脾原発びまん性小型B細胞リンパ腫(SDRPL)の4病型へ再編した3。

⚠️ この再編はSMZLの診断にも直接効く。 -HAEM5は、SBLPNが「類似の形態を示すごくまれなの症例」も吸収したと明記しており、著明な核小体を持つ細胞が主体の脾リンパ腫は、以前ならSMZLと呼ばれていてもSBLPN側へ移りうる。同分類は標本が無いと各病型の区別が常にできるとは限らないとも注意している3。なお同じ2022年の(ICC)はこの統合を行わず、とを別々の病名のまま残しているため、病型名を書くときはどちらの体系に拠るかを添える4。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='marginal zone B cell'>辺縁帯B細胞</span>への抗原・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='superantigen'>スーパー抗原</span>刺激"] --> B["NOTCH2変異・KLF2変異・7q欠失などの分子異常"]
    B --> C["脾臓<span class='jp-term jp-term-diagram' title='white pulp'>白脾髄</span>辺縁帯を主座とする腫瘍性B細胞の増殖"]
    C --> D["著明な脾腫"]
    C --> E["末梢血への流出:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='villous lymphocyte'>絨毛状リンパ球</span>"]
    C --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bone marrow infiltration'>骨髄浸潤</span>(結節性・間質性・びまん性、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intrasinusoidal infiltration'>洞内浸潤</span>も伴いうる)"]
    G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepatitis C virus'>HCV</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chronic antigenic stimulation'>慢性抗原刺激</span>"] --> B

臨床像

典型像は、リンパ節腫脹を欠く著明な脾腫と、・、血算でのを伴う、による貧血・血小板減少などの血球減少である。脾腫・血算異常の組み合わせで発見されることが多く、B症状(発熱・・体重減少)は診断時には目立たないことが多い。

有毛細胞白血病との鑑別

脾腫が前面に出てリンパ節腫脹を欠くB細胞腫瘍という点でSMZLとは臨床像が重なるが、・分子異常・骨髄所見のいずれでも明確に分離できる。

項目 (SMZL)
CD103・CD25・CD123 通常陰性 一貫して陽性
通常陰性 陽性
BRAF V600E 野生型(陰性) 95〜100%で陽性4
(TRAP) 陰性のことが多い(歴史的染色) 陽性(歴史的染色)
保たれることが多い が特徴的
パターン 結節性・間質性・びまん性。を伴うことがあるが特異的ではない4 びまん性+。になりやすい4
脾臓の主座 の辺縁帯

⚠️ 「脾腫++の細胞質突起」という表面的な像だけでと決めつけない。BRAF V600EとCD103・CD25・CD123・の免疫染色・での陰性所見がSMZLを積極的に支持する。

HCV感染との関連

⭐ SMZLは感染と強く関連するの代表であり、すべてのSMZL症例で検査を行うべきである。陽性の9例に単独または併用を行った検討では、化学療法を一切用いずに9例全例が寛解し(7例は)、一方で陰性の対照6例は単独ではしなかった5。この結果はがSMZLの発症・維持に直接関与することを支持する代表的な報告で、現在はを用いない(・・NS5B阻害薬など)による排除でも、・脾腫の顕著な縮小が得られることが報告されている6。

治療

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='splenic marginal zone lymphoma'>脾辺縁帯リンパ腫</span>と診断"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepatitis C virus'>HCV</span>検査を全例で施行"]
    B --> C{"症状または血球減少があるか"}
    C -->|"いいえ"| D["経過観察"]
    C -->|"はい"| E{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepatitis C virus'>HCV</span>抗体陽性か"}
    E -->|"はい"| F["肝臓内科にコンサルトし<span class='jp-term jp-term-diagram' title='antiviral therapy'>抗ウイルス療法</span><br>(CQ9・カテゴリー2A)"]
    E -->|"いいえ"| G["リツキシマブ単剤<br>(CQ10・カテゴリー2B)"]
    F -->|"適応とならない/無効"| G
    G -->|"無効で脾腫による症状がある"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='splenectomy'>脾臓摘出</span>を考慮"]
    H --> I["なお無効/全身症状・臓器障害/増殖が速い<br>→ <span class='jp-term jp-term-diagram' title='immunochemotherapy'>免疫化学療法</span>を考慮"]

無症候例は経過観察とし、血球減少・症候性脾腫・自己免疫性合併症(など)が生じてはじめてとなる6。日本血液学会の診療ガイドライン第3.1版も「SMZLは症状を有する場合および血球減少を呈する場合に治療対象となる」としている2。

抗体陽性の症候性例では、肝臓内科にコンサルトしたうえでを行うことが推奨される(CQ9、推奨グレード カテゴリー2A)2。が適応とならない、あるいは無効な場合はリツキシマブが推奨される。

⚠️ 陰性の症候性例で、リツキシマブ単剤とは同格ではない。 同ガイドラインCQ10(推奨グレード カテゴリー2B)はリツキシマブを推奨しており、は「侵襲性が高く、短期・長期の合併症に注意が必要であるため、近年はリツキシマブを推奨する報告が多い」として、リツキシマブが無効で脾腫による症状がある場合に考慮する位置づけである2。💡 数字で見ると、リツキシマブ単剤は106例の検討で90%超・10年無病生存70%、は5年無増悪生存50〜60%・70〜80%と報告されている(別々の集団の値なので直接比較はできないが、の侵襲に見合うが示されていない)2。

リツキシマブとがいずれも無効な場合、リンパ腫による全身症状・臓器障害を認める場合、腫瘍の増殖速度が速い場合の3つではを考慮する2。⚠️ や免疫性血小板減少を合併した例の標準治療は確立しておらず、症例ごとに方針を検討する2。

まとめ

  • SMZLは著明な脾腫・末梢血の・を三点セットとするB細胞リンパ腫で、リンパ節腫脹に乏しい点が特徴である。
  • NOTCH2変異(文献上10〜25%)・KLF2変異(同12〜44%)はSMZLで最も頻度の高い変異だが、「SMZLに特異的」ではない——他のB細胞リンパ腫でも低頻度に報告され、節性とは共有する。KLF2異常は7q欠失を伴う症例で濃縮する。
  • とはCD103・CD25・CD123・・BRAF V600E・・パターンで明確に鑑別できる。
  • -HAEM5は脾のB細胞リンパ腫・白血病を4病型に再編し、著明な核小体を持つ細胞が主体のごくまれなSMZL症例は著明な核小体を伴う脾B細胞リンパ腫/白血病(SBLPN)へ吸収された(ICCはこの統合を行っていない)。
  • 陽性例ではだけでリンパ腫が寛解しうるため、全例で検査を行い、症候性の陽性例では肝臓内科と連携してを行う(カテゴリー2A)。
  • 無症候例は経過観察とし、症候性で陰性の例ではリツキシマブ単剤が推奨される(カテゴリー2B)。はリツキシマブ無効で脾腫による症状がある場合に考慮する位置づけで、両者は同格ではない。

出典

  1. 1.Clinical and diagnostic relevance of NOTCH2- and KLF2-mutations in splenic marginal zone lymphoma(Haematologica(Campos-Martín Y, et al.)・2017)PMC5541884 のHTML全文で確認した。冒頭で挙げられる10〜25%(NOTCH2)・12〜44%(KLF2)は**先行研究をまとめた文献上の幅**であり、本研究自身の頻度はNOTCH2が84例中14例(16.6%)、KLF2が45例中10例(22.2%)である。他のB細胞腫瘍の対照群では、NOTCH2異常はSDRPL 0/9・CLL 0/13・マントル細胞リンパ腫 0/14・濾胞性リンパ腫 0/14・有毛細胞白血病 0/1・リンパ形質細胞性リンパ腫 0/15・MBL 0/4、KLF2変異はSDRPL 0/5・CLL 0/13・マントル細胞リンパ腫 0/9・濾胞性リンパ腫 0/13・有毛細胞白血病 0/1・リンパ形質細胞性リンパ腫 0/9・MBL 0/4 でいずれも検出されなかった。⚠️ ただし著者自身が限定を付けている——KLF2については「他の報告とは対照的に(In contrast to other reports)」検出されなかったと書き、NOTCH2については「この変化は他のB細胞リンパ腫でも時折報告されている」として節外性辺縁帯リンパ腫1.5%・びまん性大細胞型B細胞リンパ腫3.7〜4.3%・マントル細胞リンパ腫5.2%・濾胞性リンパ腫1.94%を挙げている。対照群に節性辺縁帯リンパ腫は含まれていない。KLF2異常は7q欠失・NOTCH2変異・IGHV1-02使用を有する症例で濃縮することが知られており、本研究でもNOTCH2変異とKLF2変異のあいだに有意な関連(P<0.005)を認めた。NOTCH2変異例は野生型と比べ無治療生存期間中央値が有意に短い。閲覧 2026-09-08
  2. 2.造血器腫瘍診療ガイドライン 第3.1版(2024年版) 第II章 リンパ腫 2 辺縁帯リンパ腫(MZL)(一般社団法人 日本血液学会・2024)ウェブ版の全文を取得して確認した。SMZLは症状を有する場合および血球減少を呈する場合に治療対象となること。CQ9(推奨グレード カテゴリー2A)は「症状のあるHCV抗体陽性SMZLは肝臓内科にコンサルトの上,抗ウイルス療法を行うことが推奨される」とし、抗ウイルス療法が適応とならない、もしくは無効な症状のあるHCV陽性SMZLではリツキシマブ単剤療法が推奨されること。CQ10(推奨グレード カテゴリー2B)は「症状のある未治療HCV陰性SMZLにはリツキシマブ単剤療法が推奨される」とし、106例に対するリツキシマブ単剤の全奏効率が90%超・10年DFSが70%、脾臓摘出による5年PFSが50〜60%・5年OSが70〜80%であること、脾臓摘出は侵襲性が高く短期・長期の合併症に注意が必要であるため近年はリツキシマブを推奨する報告が多いこと、リツキシマブが無効で脾腫による症状がある場合に脾臓摘出を考慮すること、リツキシマブと脾臓摘出が無効・リンパ腫による全身症状や臓器障害・腫瘍の増殖速度が速い、の3つの場合に免疫化学療法を考慮することを確認した。あわせて総論で、KLF2変異・NOTCH2変異は**NMZLとSMZLの両方**に関連すると記載していること、SEERデータでのSMZLの罹患率が人口10万人あたり0.25でB細胞リンパ腫の0.7%、リンパ腫補正10年生存率が62.7%であることを確認した。閲覧 2026-09-08
  3. 3.The 5th edition of the World Health Organization Classification of Haematolymphoid Tumours: Lymphoid Neoplasms(World Health Organization Classification of Tumours Editorial Board・2022)Europe PMC の fullTextXML(PMC9214472)で全文を確認した。WHO-HAEM5 の脾B細胞リンパ腫・白血病ファミリーは有毛細胞白血病(HCL)・splenic B-cell lymphoma/leukaemia with prominent nucleoli(SBLPN)・脾原発赤脾髄びまん性小型B細胞リンパ腫(SDRPL)・脾辺縁帯リンパ腫(SMZL)の4病型からなること。SBLPN は「hairy cell leukaemia variant」と「CD5-negative B-cell prolymphocytic leukaemia」を置き換える新病型で、さらに**類似の形態を示すごくまれな脾辺縁帯リンパ腫の症例**も吸収したと明記していること。脾摘標本が無いと各病型の区別が常にできるとは限らないとも注意していること。骨髄では SDRPL が洞内優位パターンを示すのに対し、SMZL と SBLPN はより多様な増殖パターンをとり、HCL は細網線維化を伴う典型的なびまん性パターンを示すこと。⚠️ 略号は全文を通じて SBLPN の1通りだけで、SLPN は0回である。閲覧 2026-09-08
  4. 4.Untangling hairy cell leukaemia (HCL) variant and other HCL-like disorders: Diagnosis and treatment(Journal of Cellular and Molecular Medicine・2024)Europe PMC の fullTextXML で全文を確認した。WHO第5版(WHO-HAEM5、2022年)が脾リンパ腫・白血病を①有毛細胞白血病②脾辺縁帯リンパ腫③著明な核小体を伴う脾リンパ腫(本総説の表記はSLPN/SBLPN、HCL-VとCD5陰性B前リンパ球性白血病を置き換えたもの)④脾原発赤脾髄びまん性リンパ腫の4病型に再編した一方、逐語で「On the contrary, B-PLL and HCL-V were maintained in the clinical International Consensus Classification」と述べ、国際コンセンサス分類(ICC)ではB-PLLとHCL-Vが維持されたとしていること。有毛細胞白血病がCD103・CD25・CD123に一貫して陽性でBRAF V600E変異を95〜100%に認め単球減少を伴うのに対し、脾辺縁帯リンパ腫はこれらの免疫マーカーが通常陰性でBRAF野生型であること。骨髄浸潤パターンが有毛細胞白血病ではびまん性間質浸潤(吸引不成功になりやすい)である一方、脾辺縁帯リンパ腫では結節性・間質性・びまん性を取りうり洞内浸潤は特異的ではないこと。⚠️ 本総説はHCL-VとB-PLLをまとめることの是非が議論中であるとして、あえてSBLPNではなくHCL-Vの語を用いると明記している。SLPNは本総説独自の略記であり、WHO-HAEM5の本文には現れない。閲覧 2026-09-08
  5. 5.Regression of Splenic Lymphoma with Villous Lymphocytes after Treatment of Hepatitis C Virus Infection(New England Journal of Medicine・2002)HCV陽性の絨毛状リンパ球を伴う脾リンパ腫9例にインターフェロンα±リバビリンを投与したところ、化学療法を併用せずに9例全例が寛解(7例はインターフェロン単独で完全寛解、残り2例もリバビリン追加後に部分・完全寛解)した一方、HCV陰性の対照6例はインターフェロン単独では奏効しなかったこと閲覧 2026-08-11
  6. 6.New Insights into the Biology and Diagnosis of Splenic Marginal Zone Lymphomas(Current Oncology・2021)無症候の脾辺縁帯リンパ腫には経過観察(active surveillance)が推奨される一方、症候性例には脾摘またはリツキシマブ単剤ないし化学療法が選択肢になること、HCV感染が本疾患の危険因子であり、HCV陽性例ではプロテアーゼ阻害薬・NS5A阻害薬・NS5B阻害薬などの抗ウイルス治療でリンパ球増多・脾腫の顕著な縮小が得られること閲覧 2026-08-11