疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 血液 · 症候群

脾捕捉症候群

Splenic sequestration crisis

臓器系
血液小児
科目
Internal Medicine
トピック
内科学 L-59:高再生性貧血
鑑別疾患
パルボウイルスB19感染症
合併症
循環性ショック
症状
蒼白頻脈脾腫
検査値
ヘモグロビン
元疾患
鎌状赤血球症

🧠 全体像は、まだ自己が完成していない乳幼児期の鎌状赤血球症患者だけに起こりうる窓の中の救急疾患である。反復梗塞で脾が線維化・しきる前——多くは5歳まで——の脾は、した赤血球をの静脈で機械的に閉塞させるだけの容積をまだ持っており、そこに大量の血液が急に閉じ込められると、循環血液量そのものが脾へ「盗まれ」てに至る。蒼白・脱力・頻脈の急激な発症と、普段を大きく超える脾腫大が唯一無二の手がかりである。

定義

過度の血液が脾臓に閉じ込められ、循環血液量の危険な低下を来す急性合併症で、ヘモグロビン2 g/dL以上の急な低下脾腫を伴うことで定義される1。診断は主に臨床的で、注意深い病歴とで達成できる1

疫学

項目
好発年齢 中央値1.4歳、75%が2歳前に発症。通常は生後6か月〜5歳1
推定 7〜30%1
初回後の再発率 50〜78%(1歳未満での初発例でより高い)1
死亡率 歴史的には12〜44%だったが、近年の症例報告では1%未満1

好発年齢の上限が、鎌状赤血球症の自己の完成時期とほぼ一致する。 反復梗塞で脾が線維化しきる前の乳幼児期にしか起こりえない病態であるため、によるが進むにつれてリスクは自然に低下していく。

病態

flowchart TD
    A["まだ線維化していない脾<br>(乳幼児期の鎌状赤血球症)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sickling'>鎌状化</span>赤血球が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='red pulp'>赤脾髄</span>の静脈を機械的に閉塞"]
    B --> C["脾からの血液流出路が急速に遮断"]
    C --> D["大量の血液が脾内に捕捉・貯留"]
    D --> E["劇的な脾腫大"]
    D --> F["循環血液量の急減"]
    E --> G["ヘモグロビン2 g/dL以上の急落"]
    F --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='circulatory collapse'>循環虚脱</span>・ショック"]

臨床像

  • 蒼白、脱力、頻脈の急激な発症が特徴である1
  • ベースラインを大きく超える劇的な脾腫大を認める1
  • 進行すると血行動態が不安定化し、に至りうる2

無形成発作との鑑別

⚠️ 同じ「急なHb低下」でも機序が正反対である。 は骨髄がに反応している最中に脾で赤血球が奪われる病態であるのに対し、によるは骨髄そのものがの破壊で産生を止める病態である。

項目
脾腫 著明(血液を捕捉するため) 目立たない
保たれる、またはむしろ上昇(骨髄は正常に反応) 著明に低下(骨髄産生が停止)
機序 脾での機械的な血液の捕捉 B19によるの破壊

治療

  • 急性期輸血:循環血液量を安定させるため5〜10 mL/kgを目安に輸血し、輸血後35%未満を目標とする1
  • ⚠️ 過剰輸血に注意する。 脾に捕捉されていた自己の赤血球は、脾腫が縮小するにつれて再び循環血中へ戻る(オートトランスフュージョン)。この自己の分と輸血分が重なると赤血球が過剰になり、続発するを招きうるため、輸血後を35%未満にとどめる目標値はこのリスクを避ける意味を持つ1
  • 血行動態が不安定な場合はに準じた初期対応(輸液・輸血によるボリューム)を並行する。
  • の適応:再発を確実に防ぐ唯一の方法だが、感染合併症のリスクを高めるというを伴う1。多くの患児は5歳までに反復梗塞による自己が完成するため、が不要になることも多い。再発を繰り返す例や重症例では、急性期の安定化後にを検討する。

予防・モニタリング

  • 保護者への教育がの柱である。 保護者が左上腹部を触診して毎日脾臓の大きさを確認する方法を学ぶべきとされている1。早期の脾腫大のが、に至る前の受診につながる。
  • ⚠️ のリスクを減らすことを示していない。 には有効なだが、は未解決の課題として残る1

鎌状赤血球症との役割分担

鎌状赤血球症ノートは疾患全体の病態・・慢性期管理を扱う。はそこから生じる乳幼児期に限定された個別の救急病態であり、このノートは定義・疫学(好発年齢・再発率・死亡率)・との鑑別・輸血の目安と過剰輸血のリスク・の適応・保護者教育という、あちらの1行が触れていない詳細を担う。

まとめ

  • は、ヘモグロビン2 g/dL以上の急落+脾腫で定義される乳幼児期の救急病態で、好発年齢は6か月〜5歳(中央値1.4歳)である。
  • 反復梗塞で脾が線維化しきる(自己が完成する)前の限られた期間にしか起こらない。
  • が保たれる点で、産生停止を機序とするB19)と鑑別できる。
  • 急性期は輸血で安定化するが、脾に捕捉されていた赤血球の再放出(オートトランスフュージョン)による過剰輸血・を避けるため輸血目標を設定する。
  • 再発率は50〜78%と高く、は再発を防ぐが感染リスクを高める。保護者への脾臓触知の教育が早期発見の柱になる。

出典

  1. 1.Splenic Sequestration Crisis(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)脾捕捉が過度の血液が脾臓に閉じ込められ循環血液量の危険な低下を来す急性合併症であり、ヘモグロビン2 g/dL以上の急な低下と脾腫を伴うことで定義されること、発症年齢の中央値が1.4歳で75%が2歳前に発症し通常生後6か月〜5歳に起こること、有病率推定が7〜30%であること、初回エピソード後の再発率が50〜78%で1歳前の初発例でより高いこと、死亡率は歴史的には12〜44%だったが近年の症例報告では1%未満に低下していること、赤脾髄内で鎌状化した赤血球が大きな静脈を機械的に閉塞し急速に進行すること、蒼白・脱力・頻脈の急激な発症とベースラインを超える劇的な脾腫大が特徴であること、診断は主に臨床的で病歴と身体診察で達成可能であること、急性期輸血は5〜10 mL/kgを目安に輸血後ヘマトクリット35%未満を目標とし脾から放出される赤血球の過剰と続発する過粘稠度症候群を避けること、脾摘は再発を防ぐが感染合併症のリスクを高めること、保護者が左上腹部を触診して毎日脾臓を確認する方法を学ぶべきこと、ヒドロキシ尿素は脾捕捉症候群のリスク低下を示しておらず一次予防が未解決の課題であることを確認した(Introduction節・Epidemiology節・Pathophysiology節・History and Physical節・Evaluation節・Treatment/Management節・Prognosis節・Deterrence and Patient Education節)閲覧 2026-08-12
  2. 2.Sickle Cell Disease(MSD Manual Professional Version・2026)脾捕捉症候群が反復する脾梗塞でまだ線維化していない脾を持つ小児に典型的に起こること、鎌状化赤血球の脾への急な捕捉が貧血を増悪させること、ヘモグロビンが2 g/dL(20 g/L)以上低下し血行動態不安定に至りうること、症候性貧血を伴う急性脾捕捉が輸血適応の一つであることを確認した閲覧 2026-08-12