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Disease Atlas · 血液 · 疾患

脾梗塞

Splenic infarction

臓器系
血液循環器
科目
PathologyInternal Medicine
トピック
病理学 A/04:凝固壊死(臓器別の所見)内科学 L-54:急性腹症と腹痛の鑑別診断
鑑別疾患
腎梗塞
合併症
無脾症・脾機能低下症
症状
腹痛発熱
検査値
乳酸脱水素酵素白血球数
画像所見
楔状の造影欠損
元疾患
鎌状赤血球症感染性心内膜炎
原因となる疾患
動脈血栓塞栓症遊走脾

🧠 全体像:は、と機序をそのまま共有するもう一つの「見逃されやすいの梗塞」である。を欠くの枝が閉塞すると、が同じとして抜け、原因の中心もとという同じ二本柱になる。違いは年齢が示す確率——40歳未満なら基礎、40歳以上ならが原因である可能性が高いという振り分けが、・検査の組み立てを左右する。⭐ そしては、それ自体を治す病気ではない。 梗塞は多くが保存的に落ち着くのに対し、生死を分けるのは背景にある疾患のほうで、とりわけが背景にある例は転帰が明らかに悪い。「なぜ詰まったのか」を詰め切ることが、この疾患の診療そのものである。

原因

もっとも頻度の高い2つの原因はとである。出典はこれに加えて、、、膵疾患(膵炎、する膵腫瘤)を原因の大分類として並べ、自己免疫疾患・や遊走脾も症例報告として挙げている1。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='splenic artery'>脾動脈</span>本幹・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='segmental branch'>区域枝</span>の急性閉塞"] --> B{"原因は"}
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cardioembolism'>心原性塞栓</span><br>心房細動・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='infective endocarditis, IE'>感染性心内膜炎</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='patent foramen ovale, PFO'>卵円孔開存</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='prosthetic valve'>人工弁</span>"]
    B --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypercoagulability'>過凝固状態</span><br>鎌状赤血球症・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='polycythemia vera, PV'>真性多血症</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Protein C'>プロテインC</span>/S・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='lupus anticoagulant'>ループスアンチコアグラント</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='exogenous estrogen'>外因性エストロゲン</span>・悪性腫瘍"]
    B --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hematologic malignancy'>血液悪性腫瘍</span>(白血病・リンパ腫)<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='Myelofibrosis'>骨髄線維症</span>の脾内浸潤"]
    B --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='blunt abdominal trauma'>鈍的腹部外傷</span>"]
    B --> I["膵疾患(膵炎・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mass effect'>圧排</span>する膵腫瘤)<br>遊走脾の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ovarian torsion'>茎捻転</span>"]
    C --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='territory of innervation'>支配域</span>の脾実質が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ischemic necrosis'>虚血性壊死</span>"]
    D --> G
    E --> G
    F --> G
    I --> G
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='wedge-shaped'>楔状</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anemic (pale) infarct'>貧血性梗塞</span><br>被膜側が底辺・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='splenic hilum'>脾門</span>側が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pointed end'>尖端</span>"]

⚠️ は鑑別であると同時に原因でもある。 後述の鑑別表に膵炎を挙げているのは症状が似るからだが、出典は膵疾患そのものをの原因群の一つとして立てている1。「膵炎らしい」と決めた時点でを外さない。

⚠️ 原因が最後まで分からない例が4例に1例ある。 台湾6施設の救急部で造影CTにより確定した130例のうち、33例(25.4%)は基礎疾患を特定できず特発性と分類された2。原因検索が空振りしたことは、診断そのものの否定にはならない。

💡 脾腫を来す疾患は、それ自体がの危険因子になる。 、、、マラリア性脾腫症候群、Mycobacterium avium complex 感染を伴うAIDS、リンパ腫が挙げられている1。腫大した脾は血流の需要が増える一方で、支配動脈の予備は増えない。

⭐ 年齢が原因の見当をつける手がかりになる。 40歳未満の患者は基礎による例が多く、40歳以上の患者はによる例が多い1。鎌状赤血球症のようなは若年例の代表であり、した赤血球が反復して脾内の微小血管を閉塞することが、後述する()の土台になる。

⚠️ この40歳という線は目安であって、患者の中心はもっと高齢側にある。 救急部を受診した130例のでは平均年齢61.5歳・男性58.5%で、対照群と比べて有意に多かった既往は高血圧(46.1%対10.1%)と心房細動(23.4%対8.22%)だった2。年齢で原因の確率が入れ替わるという読み方は保つが、「若年の疾患」と覚えないこと。

臨床像

⭐ 痛みはとして最多だが、「脾らしさ」を欠く例が3割ある。 26例の症例集積(平均年齢52歳)では、限局性のが半数(50%)、左圧痛が36%、脾腫が32%で、31%は脾の領域に限局する徴候・症状をまったく持たなかった1。より新しい130例のでも、腹痛は71.5%(うち痛51.5%、9.2%、15.4%)で全例ではない2。

所見 26例の症例集積1 130例の2
腹痛(部位を問わない) ——(限局性50%) 71.5%
痛 50%(限局性) 51.5%
発熱(38℃超) 36% 10.8%
悪心・嘔吐 32% 20.0%
56%(12,000超) 64.7%(10,000超)
脾腫 32% ——(記載なし)

診断

⚠️ と同じ落とし穴がある。 急性期にはから造影剤を入れた腹部が第一選択のであり1、上記130例のコホートでも全例が造影CTで確定されている2。だけで否定しない。

  • LDH:はのマーカーで、26例の症例集積では71%で上昇していた1。⚠️ ただし出典は、も上昇もに特異的ではないと明記している——他の腹痛の原因を除外する材料として使うのが妥当な位置づけである1。ビリルビン・リパーゼのような肝胆道系・膵の指標が上がっていれば、そちらを痛みの原因として考える1。⚠️ で確立している「だけが正常の4〜5倍まで上がり・は伴わない」という乖離を、そのままへ持ち込まない。 ここで引いたの出典はその乖離を述べていない(130例のコホートで 120超は5例3.85%にとどまるが、乖離として解析されたものではない)2。
  • ⚠️ は「上がりやすい」が「測られていない」。 130例のコホートでは、表の上では 250超が9例(6.9%)にすぎないが、は測定されたのは11例だけで、そのうち9例(9/11)で上昇していたと書いている2。低い割合は感度の低さではなく、検査が組まれていないことを表している。
  • ・:対照群との比較では白血球1万超が65.0%対30.2%、血小板10万未満が23.9%対6.97%で、いずれも痛の対照群より有意に多かった(コホート全体を分母にした表示ではそれぞれ64.7%・23.1%)2。
  • 画像検査:造影CTでとして描出される。慢性期には正常化する例のほか、()や萎縮(陥凹した瘢痕)をたどる例がある1。
  • 超音波:の領域として描出されることがあり、経過とともに化して被膜が牽引される1。⚠️ ただし急性期には写らないことがある——梗塞部と正常組織のあいだにの差がつくまで1日ほどかかるためである。超音波が真価を発揮するのはむしろ短期の追跡で、・膿瘍・出血・破裂といった合併症を早期に捉える手段になる2。
  • (心電図・心エコー)と凝固異常の評価を、の場合と同様に行う。⭐ は必ず考える——後述のとおり予後がはっきり変わる背景であり、130例のコホートでも19例に菌血症の所見が記録されている(原著の表示は15.5%で、この行の分母は130例ではない)2。

治療

⭐ 治療は「の治療」ではなく「原因疾患の治療」である。 出典はこれを最初に述べており、そのものへの介入は支持療法に尽きる1。

  • 支持療法:の場合は・輸液・などで支える。原因が確定していなければ、支持療法・監視・追加検査のために入院を要することがある1。
  • ⚠️ 「7〜14日で治る」の主語は痛みであり、対象は合併症のない例である。 出典の記述は「合併症のないによる腹痛は7〜14日で介入なしに消退する」であって、疾患そのものが放置してよいという意味ではない1。実際、救急部を受診した130例のコホートでは全例が入院している2。
  • 背景ごとに変わること:鎌状赤血球症では低酸素とアシドーシスの是正を要することがある。ならと心臓の追加評価を要する。・自己免疫疾患が背景なら血液内科・・リウマチ科への相談が要る1。
  • や凝固異常が背景にあれば、その原疾患(心房細動など)に対するを、そのものではなく原疾患の治療として継続する。
  • 外科的評価を要する場面:、血管解剖の異常(遊走脾はその代表例)、血行動態の不安定1。
  • ⚠️ 危険な合併症は5つある——、膿瘍、出血、、動脈瘤。梗塞した脾組織が感染してすることも、出血性に転化することもあり、いずれも緊急の外科相談を要する1。
  • に至った場合は、莢膜を持つ細菌に対するワクチン接種を確実に行う1。対象菌は主として肺炎球菌で、・髄膜炎菌も含む3。詳細は・のノートに譲る。

予後——「良性の経過」は原疾患しだい

⚠️ そのものは自然軽快しても、患者が軽症とは限らない。 造影CTで確定した130例のでは、全例入院のうえで入室18例(13.8%)、9例(6.92%)だった。年齢・性・区分をそろえた痛の対照群では死亡ゼロだったので、この差は「腹痛の重さ」では説明できない。原著は、死亡・重症化の主因はではなく背景にある重篤な疾患であるとまとめている2。

⭐ を背景とするは、別格に重い。 同コホートでが原因と確定した13例では、9例(69.2%)がに入室し、4例(30.7%)が死亡、5例(38.4%)がまたはを受けた2。⚠️ 痛と発熱がそろったら、を見つけて終わりにせず心内膜炎を探す。

重症化・死亡を予測する因子として、で残ったのは次のとおりである2。

転帰 独立して残った因子()
入室 100超(5.18)、呼吸数20/分超(4.95)
死亡 発熱38℃超(18.1)、 1点以上(8.95)、悪性腫瘍の既往(7.48)

💡 並んでいるのは、いずれも「梗塞の大きさ」ではなく「感染と全身状態」の指標である。 の重症度を梗塞そのもので測ろうとすると外す。

鎌状赤血球症との関係:自己脾摘

💡 反復するが、脾そのものを失わせる。 鎌状赤血球症では、低酸素やアシドーシスを契機に赤血球がしてし、血管を閉塞する。出典はこの過程が小児期から始まる多発梗塞を生み、経過とともに脾を・萎縮させ、成人までに完全な自己()に至りうると記している1。・のような直接的な血管損傷は、鎌状赤血球症以外の背景でもの原因になりうる3。この状態になると(肺炎球菌など)に対する感染防御が失われ、ワクチン接種と発熱時の迅速受診が生涯にわたって重要になる。

⚠️ 「がいつ完成するか」は、何をもって完成とみなすかで変わる。 上の出典が「成人まで」と書いているのは完全な自己という解剖学的な到達点であり、鎌状赤血球症で脾機能が失われるのはもっと早い(学童期まで)。が乳幼児期に限られるのも、脾がまだ線維化しきっていないという同じ時間軸の別の断面である。💡 と抗菌薬予防を始める根拠になるのは機能のほうであり、画像で脾が見えることは脾機能が保たれている証拠にならない。

鑑別診断

疾患 鑑別のポイント
同じ塞栓性・の機序を共有するが側腹部痛・血尿が主体
リパーゼ高値、〜背部への持続痛。⚠️ の原因でもあるので、どちらかを選ぶ問題として扱わない
左下葉肺炎 発熱・咳・喀痰を伴い、胸部画像で浸潤影を認める
鑑別ではなく背景として探す。発熱を伴う痛では必ず考える

まとめ

  • はと機序を共有するの梗塞で、原因は(心房細動など)と・の二本柱。ほかに・膵疾患・遊走脾があり、4例に1例(25.4%)は原因不明のまま特発性と分類される。40歳を境に確率が入れ替わるが、実際の患者の平均年齢は60歳台である。
  • 臨床像はが主体だが26例の症例集積では半数にとどまり、31%は脾の領域に限局する徴候・症状を持たない。26例中21例で、の診断がそれまで未知だった基礎疾患の診断につながった。
  • 診断は造影CTでので確定する。ももに特異的ではない——測られたときには大半で上がっているが、それは除外の材料であって確定の材料ではない。超音波は急性期には写らないことがあり、むしろ合併症の追跡に使う。
  • 治療は原疾患の治療であり、そのものへの介入は支持療法に尽きる。「7〜14日で軽快する」は合併症のない例の腹痛についての記述で、救急部を受診した130例では全例が入院している。・膿瘍・出血・・動脈瘤の5つが緊急手術相談の対象。
  • ⚠️ 予後は背景疾患が決める。 130例のコホートでは6.92%、入室13.8%。とりわけを背景とする13例は入室69.2%・死亡30.7%で別格に重い。死亡のは発熱・陽性・悪性腫瘍の既往だった。
  • 鎌状赤血球症では小児期から始まる反復梗塞が成人までに()へ至り、感染リスクを生涯抱える。

出典

  1. 1.Splenic Infarcts(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)脾梗塞のもっとも一般的な2つの原因が血栓塞栓性疾患と浸潤性血液疾患であること(心原性塞栓=心房細動・感染性心内膜炎・卵円孔開存・人工弁、血液悪性腫瘍、骨髄線維症、鎌状赤血球症などの過凝固状態、鈍的腹部外傷)、40歳未満は基礎血液疾患による例が多く40歳以上は血栓塞栓性疾患による例が多いという年齢による原因の違い、症状では限局性左側腹部痛が50%・左側腹部圧痛が36%・LDH上昇が71%に認められたこと、造影CTで梗塞が楔形領域として描出され慢性期には正常化・液化・萎縮のいずれかをたどること、多くが7〜14日で無治療のまま自然軽快し重篤な合併症(膿瘍・出血・脾破裂)では緊急手術相談を要すること、脾摘後は莢膜を持つ細菌に対するワクチン接種が重要であることを確認した(Etiology節・Epidemiology節・History and Physical節・Evaluation節・Treatment/Management節)閲覧 2026-08-12
  2. 2.Risk assessment and prognostic analysis of patients with splenic infarction in emergency department: a multicenter retrospective study(Scientific Reports・2021)台湾6施設の救急部で2005年1月から2020年8月までに造影CTで確定した脾梗塞130例を、年齢・性・トリアージ区分をそろえた左上腹部痛の対照377例と比較した後ろ向き研究の全文(PMC8564514)を確認した。130例は全例が入院し、ICU入室18例(13.8%)、院内死亡9例(6.92%)。平均年齢61.5歳・男性58.5%。腹痛71.5%(うち左上腹部痛51.5%)、悪心・嘔吐20.0%、食欲不振13.1%、発熱38℃超10.8%、頻脈34.6%、白血球1万超64.7%、血小板10万未満23.1%。対照群と比べて発熱・頻脈・qSOFA陽性・高血圧既往(46.1%対10.1%)・心房細動既往(23.4%対8.22%)・白血球増多・血小板減少が有意に多く、糖尿病・慢性腎臓病・COPD・慢性肝疾患・悪性腫瘍・うっ血性心不全はむしろ少なかった。⭐ LDHについて考察は「検査された患者は少ないが、そのほとんどで上昇していた(9/11)」と述べており、表2の『LDH 250超 9例(6.92%)』は130例を分母にした表示である。33例(25.4%)は原因を特定できず特発性とされた。血液疾患22例の内訳は白血病6・リンパ腫5・真性多血症6・本態性血小板血症1・原発性骨髄線維症4(表1の同項は21例と表示)。感染性心内膜炎を背景とする13例では弁置換・弁形成が5例(38.4%)に行われ、考察はICU入室9/13(69.2%)・死亡4/13(30.7%)とする。⚠️ 結果本文は同じICU入室割合を61.5%とも書いており内部で食い違うが、表5に列挙されたICU入室18例のうち感染性心内膜炎を原因とするものは9例で考察側と一致する。⚠️ 心房細動の例数も表1が32例(24.6%)・表3が30例(23.4%)・結果本文が28例(21.5%)と3通りに書かれている。超音波については、梗塞部と正常組織の輝度差が確立するのに1日を要するため急性期には検出できないことがある一方、仮性嚢胞・膿瘍・出血・破裂といった合併症の早期発見のための短期の追跡には有用と述べている閲覧 2026-09-08
  3. 3.Overview of the Spleen(MSD Manual Professional Version・2024)機能的無脾症が鎌状赤血球症を含むさまざまな全身疾患で起こりうること、脾梗塞や脾静脈血栓症のような直接的な血管損傷の後にも機能的無脾症が生じうることを確認した。2026-09-08に本文を再取得し、無脾症の患者が莢膜を持つ微生物(主として肺炎球菌、ときにインフルエンザ菌b型・髄膜炎菌)による重症敗血症に特に罹患しやすいこと、そのため肺炎球菌ワクチン・髄膜炎菌ワクチン・インフルエンザ菌b型ワクチンの接種が重要とされることも同じ節で確認した。⚠️ 本ページの版表示は2024年12月3日更新(2024年12月1日公開)である閲覧 2026-08-12