微生物ノート一覧へ

Microbe Atlas · 細菌

Streptococcus pneumoniae

肺炎球菌

分類
G+ 球菌 / Gram+ cocciStreptococcus
性状
Gram陽性 (G+)球菌 Cocci
科目
Medical Microbiology
トピック
2/3: Streptococcus pneumoniae, oral streptococci and cariogenesis. Anaerobic cocci2/4: Streptococcus pyogenes2/5: Streptococcus agalactiae, Enterococcus genus
原因となる疾患
S状静脈洞血栓症Waterhouse-Friderichsen症候群グラデニーゴ症候群クループ・急性喉頭蓋炎・細菌性気管炎遺伝性・後天性溶血性貧血(遺伝性球状赤血球症・G6PD欠乏症・自己免疫性溶血性貧血・発作性夜間ヘモグロビン尿症)角膜炎鎌状赤血球症感音難聴眼窩蜂窩織炎急性中耳炎・慢性中耳炎(滲出性中耳炎を含む)急性乳様突起炎急性副鼻腔炎高IgE症候群骨膜下膿瘍細菌性髄膜炎市中肺炎電撃性紫斑病内耳炎(迷路炎)慢性副鼻腔炎溶血性尿毒症症候群涙嚢炎脾摘後重症感染症
作用する薬剤
アモキシシリンアンピシリンエルタペネムシタフロキサシンセフェピムセフォタキシムセフォペラゾンセフタロリンホサミルセフトリアキソンセフロキシム(-アキセチル)デラフロキサシントスフロキサシンバンコマイシンファロペネムペニシリンGペニシリンVメロペネムモキシフロキサシンリネゾリドレファムリンレボフロキサシンロキシスロマイシン

🧠 全体像:肺炎球菌の病原性はほぼ莢膜一点に集約される。100種類以上ある血清型1のが貪食を防ぐため、莢膜化細菌を除去する臓器である脾臓を失った患者(・機能的としての鎌状赤血球症)で重症化しやすく、肺炎・髄膜炎・中耳炎・副鼻腔炎という侵襲性感染を起こす。同じ性でも莢膜を持たないとはここで運命が分かれる——莢膜という「防御の鎧」を持つ本菌は侵襲性感染を、鎧を持たないは付着による局所病変()にとどまる。

微生物学的な特徴

グラム陽性ので「(先端が尖った柳葉型)」に見えるのが特徴。上気道に定着する常在菌でもある。

試験 所見 何を分けるか
溶血パターン (部分溶血、緑色) β溶血の・B群レンサ球菌と区別
感受性 同じ性の(S. mitisなど、耐性)との鑑別点
胆汁 陽性(胆汁中で溶解) ()との鑑別点。の補助として使う

⭐ 感受性と胆汁が本菌を確定する2点。 同じでもとは病原性の方向がまったく異なるため、この鑑別は臨床的に重い意味を持つ。属全体の溶血パターン・Lancefield分類の一覧はのページを参照。

病原性の仕組み

  • 莢膜(多糖体、100以上の血清型):病原性の中核。莢膜化細菌は脾臓のによる貪食・に依存して排除されるため、や(鎌状赤血球症など)の患者は重症・性感染のリスクが著しく上昇する
  • :表面のを切断し、定着・侵入を助ける
  • 肺胞に達すると好中球主体の炎症反応を起こし、下葉優位のを形成する
flowchart TD
    A["Streptococcus pneumoniae"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='polysaccharide capsule'>多糖体莢膜</span>で貪食を回避"]
    B --> C["脾臓(莢膜化細菌の除去臓器)が正常なら<span class='jp-term jp-term-diagram' title='localized infection'>局所感染</span>にとどまりやすい"]
    B --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='post-splenectomy'>脾摘後</span>・鎌状赤血球症では<br>莢膜化細菌の除去機構が働かない"]
    D --> E["侵襲性感染<br>(菌血症・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='electric shock (electrocution)'>電撃</span>性敗血症)"]
    A --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='IgA protease'>IgAプロテアーゼ</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mucosal barrier'>粘膜バリア</span>を突破"]
    F --> G["上気道からの隣接臓器への進展<br>(中耳・副鼻腔・肺)"]

⚠️ 患者の発熱は救急疾患として扱う。 莢膜化細菌(本菌・髄膜炎菌・)による(OPSI)は数時間でショックに至りうるため、ワクチン接種歴によらず経験的抗菌薬を即座に開始する。

感染経路と疫学

  • 上気道のが、鼻腔から中耳・副鼻腔へ、あるいは誤嚥で下気道へと隣接臓器へ進展する形で発症することが多い
  • 飛沫感染で伝播し、保育施設・高齢者施設で伝播しやすい
  • 高リスク群:・(鎌状赤血球症)、乳幼児・高齢者、、免疫不全、ワクチン未接種

起こす疾患

の原因菌第1位であり、以下4疾患の最頻原因菌でもある(覚え方 “MOPS”:髄膜炎 Meningitis・中耳炎 Otitis・肺炎 Pneumonia・副鼻腔炎 Sinusitis)。

疾患 特徴
下葉優位の、「」の喀痰
乳児期以降で成人まで一貫して主要な原因菌
・(を含む) 小児ので最も頻度が高い
・ とのの主要起因菌の一つ
感音難聴 髄膜炎後の内耳障害として難聴を残しうる
・・ 小児気道緊急症の鑑別に入る

診断

  • 血液寒天培地(5% CO₂培養)でのコロニー
  • (Quellung反応)またはで莢膜血清型を同定
  • 喀痰・血液・髄液のグラム染色でのグラム陽性を確認する

治療と予防

予防(ワクチン):莢膜が病原性の中心であるため、ワクチンもを標的とする。

ワクチン 対象 型 免疫応答
23価(PPSV23) 成人・。米国では成人にPCV15を用いた場合の追加接種として残る 23血清型 、主にIgM、を残さない
13〜21価(PCV13〜PCV21) 小児・成人 13〜21血清型(蛋白質と結合) 、IgGへのとを誘導

⭐ 成人でも結合型への切り替えが進んでいる。 日本の小児のは2024年10月から原則PCV20(PCV15も使用可)で、生後2か月から始める3。日本の高齢者の(65歳と、60〜64歳で一定の障害がある者に1回)も、2026年度から使用ワクチンがPPSV23からPCV20に変わった1。米国では50歳以上の全成人と危険因子をもつ19〜49歳に接種を勧め、結合型未接種ならPCV15・PCV20・PCV21のいずれかを用い、PCV15を選んだ場合だけPPSV23を追加する4。「成人は多糖体、小児は結合型」という区分は、もはや現行の運用に合わない

💡 なぜだけが乳幼児に効くのか。 多糖体単独では乳幼児の免疫(記憶を残さないIgM応答)しか誘導できない。を無毒化した蛋白質に結合させることで、の(IgGへの)を誘導できる。

まとめ

  • 莢膜(100以上の血清型)が病原性の中心。感受性・胆汁で(莢膜なし)と鑑別する。
  • ・鎌状赤血球症など莢膜化細菌の除去機構が働かない患者で性感染のリスクが著しく上昇する(OPSI)。
  • の原因菌第1位で、髄膜炎・中耳炎・肺炎・副鼻腔炎(MOPS)の最頻原因菌でもある。
  • ペニシリン・セファロスポリン感受性低下株の割合は地域差が大きく、髄膜炎では感受性低下のおそれがあればからバンコマイシン(またはリファンピシン)をに加える。
  • ワクチンは(IgM応答・なし)と蛋白結合型(IgG応答・あり)で免疫応答の質が異なる。小児は結合型で、成人も結合型へ移っている(日本の高齢者は2026年度からPCV20、米国は50歳以上にPCV15・PCV20・PCV21)。

出典

  1. 1.高齢者の肺炎球菌ワクチン(厚生労働省・2026)ページ本文を取得し、「ワクチンの効果」の節に肺炎球菌には100種類以上の血清型があると書かれていること、定期接種は65歳の者と60〜64歳で一定の障害がある者に1回行い、使用するワクチンが沈降20価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV20)であること、「令和8年度より、定期接種で用いるワクチンが23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(PPSV23)から、沈降20価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV20)に変更」されたことを確認した。閲覧 2026-09-27
  2. 2.ESCMID guideline: diagnosis and treatment of acute bacterial meningitis(European Society of Clinical Microbiology and Infectious Diseases (ESCMID)・2016)Wayback Machine に保存された誌面HTML全文(2025年6月29日取得)で、経験的治療の選択は年齢と地域の肺炎球菌のペニシリン・第3世代セファロスポリン感受性低下率によって決まり、感受性低下のおそれがあれば経験的治療にバンコマイシンまたはリファンピシンを含めること(真の耐性〔MIC 2 mg/L超〕が想定されない地域ではセフトリアキソン・セフォタキシムのみでよいとする専門家もいると付記)、表4.1で肺炎球菌のペニシリン感受性低下がある地域の生後1か月以降の小児と50歳未満の成人の経験的治療がセフォタキシムまたはセフトリアキソンにバンコマイシンまたはリファンピシンを加えるもの(感受性の地域ではセフォタキシムまたはセフトリアキソンのみ)であること、表4.2の標的治療がペニシリン感受性株(MIC 0.1 µg/mL未満)にペニシリンまたはアモキシシリン・アンピシリン、ペニシリン耐性で第3世代セファロスポリン感受性(MIC 2 µg/mL未満)の株にセフトリアキソンまたはセフォタキシム、セファロスポリン耐性株(MIC 2 µg/mL以上)にバンコマイシン+リファンピシンなどの組み合わせで、いずれも10〜14日間とされていることを確認した。2026-09-27に横断監査で同じWayback保存版を取り直し、表4.1・表4.2を照合した。閲覧 2026-09-27
  3. 3.子どもの肺炎球菌ワクチン(厚生労働省・2026)ページ本文を取得し、小児の定期接種では「2024年10月以降、原則として、沈降20価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV20)を使用」しPCV15も使用可能であること、生後2か月から初回接種を行い一定期間後に追加接種を行うことを確認した。閲覧 2026-09-27
  4. 4.Recommended Vaccines for Adults (Pneumococcal)(Centers for Disease Control and Prevention・2026)WebFetch 経由でページ本文(2026年2月25日更新)を取得し、米国では50歳以上の全成人と一定の危険因子をもつ19〜49歳に肺炎球菌ワクチンが推奨されること、結合型ワクチン未接種の成人にはPCV15・PCV20・PCV21のいずれかを用い、PCV15を選んだ場合はPPSV23を1回追加することを確認した。閲覧 2026-09-27