薬剤ノート一覧へ

Drug Atlas · C9 Antibiotics / 抗菌薬 · 必修

セフォペラゾン

cefoperazone

分類
Antibiotics / 抗菌薬
商品名(EU)
Cefobid
科目
Pharmacology
トピック
C9: Cephalosporins
承認適応
敗血症市中肺炎腹膜炎尿路感染症骨盤内炎症性疾患淋病
標的微生物
Staphylococcus aureusStreptococcus pneumoniaeEscherichia coliKlebsiella pneumoniaePseudomonas aeruginosaBacteroides fragilisNeisseria gonorrhoeae
副作用
ジスルフィラム様反応出血皮疹下痢
監視検査値
PT-INR
解毒薬
ビタミンK

🧠 全体像は第3世代の中で胆汁排泄への偏りが最も強い薬である。胆汁排泄の比率が高いとしてはセフトリアキソン(約40%)も知られるが、セフトリアキソンが腎と胆汁の二重経路であるのに対し、は主排泄経路が胆汁で尿中回収率が20〜30%にとどまる。そのため腎不全単独では減量が不要な一方、肝・では逆に減量が必要という他薬とは逆転した注意点を生む。もう一つの顔は、3位側鎖の(NMTT)基による——系統の違うと同じ2つの副作用を、第3世代であるが共有する好例になる。

薬効群の中での位置づけ

世代・型 代表薬 NMTT側鎖 主排泄経路 特記事項
第3世代(胆汁排泄・NMTT側鎖あり) 胆汁 、緑膿菌にも活性
第3世代(腎・胆汁の二重排泄) セフトリアキソン 腎+胆汁(約40%) NMTT関連の副作用なし。胆汁排泄率の高さはとして表面化する
第3世代(標準・ NMTT関連の副作用なし
第3世代(緑膿菌カバー) セフタジジム 緑膿菌カバーはと共通
(NMTT側鎖あり) 系統は違うが同じ2つの副作用を持つ

NMTT側鎖の有無は、の世代・系統とは独立した軸である。 は第3世代で(第2世代扱い)と系統が違うが、同じ3位側鎖を持つため同じ副作用プロファイルを共有する。一方、同じ第3世代のセフトリアキソン・セフタジジムにはNMTT側鎖がなくこの副作用は起こさない。

機序

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cefoperazone'>セフォペラゾン</span>が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bacteria'>細菌細胞</span>壁へ到達"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='PBP'>ペニシリン結合蛋白</span>に結合"]
    B --> C["ペプチドグリカンの<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='transpeptidase'>トランスペプチダーゼ</span>反応を阻害"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='autolysin'>自己融解酵素</span>が活性化し<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bacteriolysis (lysis)'>溶菌</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bactericidal'>殺菌的</span>)"]
    E["3位側鎖のNMTT基"] --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ALDH'>アルデヒド脱水素酵素</span>を阻害"]
    F --> G["飲酒時に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acetaldehyde'>アセトアルデヒド</span>が蓄積<br>→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='disulfiram-like reaction'>ジスルフィラム様反応</span>"]
    E --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vitamin K epoxide reductase'>ビタミンKエポキシド還元酵素</span>(VKORC1)を阻害<br>(ワルファリンと同じ標的)"]
    I["広域<span class='jp-term jp-term-diagram' title='antimicrobial spectrum'>抗菌スペクトラム</span>による<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='gut microbiota'>腸内細菌叢</span>の抑制"] --> J["腸内でのビタミンK産生も低下"]
    H --> K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vitamin K-dependent clotting factor'>ビタミンK依存性凝固因子</span>の産生低下"]
    J --> K
    K --> L["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypoprothrombinemia'>低プロトロンビン血症</span>→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hemorrhagic diathesis'>出血傾向</span>"]

💡 の説明には2層ある。 添付文書が主に挙げるのは「に共通する抑制→ビタミンK産生低下」という一般的な機序だが1、NMTT側鎖を持つに特有のVKORC1直接阻害という機序も的検討で裏付けられており、この側鎖を持つ薬では出血リスクが他の抗菌薬の4〜5倍という報告もある2。「抗菌薬なら何でも起こりうる軽い機序」と「NMTT側鎖に固有の強い機序」が重なっている、と理解する。の機序も同じNMTT構造が分子の一部に類似するという仮説にとどまり、対照試験ではなく症例報告の蓄積が根拠である3

薬物動態

項目 値・特徴
半減期 約2.0時間(静注・筋注いずれも大きな差はない)
排泄 主に胆汁排泄(胆汁中濃度は血中濃度の最大約100倍に達する)。尿中回収率は12時間で20〜30%程度と低い
蛋白結合率 (25μg/mLで約93%、500μg/mLで約82%)
肝・ 半減期が2〜4倍に延長するため、重篤な胆道閉塞・肝疾患では1日投与量を4gまでに留める
腎不全時 が主経路ではないため、腎不全単独では通常は不要

適応

領域 使いどころ
全身・呼吸器 敗血症肺炎
腹腔内 腹膜炎など
尿路 尿路感染症
婦人科 を含む女性生殖器感染

Chlamydia trachomatisには活性がなく、でクラミジアが疑われる場合は別途抗クラミジア薬を併用する。

用法・用量

通常成人量は1日2〜4gを12時間毎にする。重症・低感受性菌の感染では1日6〜12g(1回1.5〜4g)まで増量することがある。腎不全単独では通常量でよいが、肝疾患・胆道閉塞では前述のとおり減量を要し、と高度腎障害が合併する場合は1日1〜2gに制限し血中濃度を確認する。小児での安全性・有効性は確立していない1

禁忌・注意

  • 禁忌への過敏症
  • 重篤な出血例(死亡例を含む)が報告されている。血小板減少・凝固異常の徴候をモニターし、他に原因のない持続出血があれば中止する
  • 肝疾患・胆道閉塞がある患者では1日投与量が4gを超えないよう調整する
  • ⚠️ 投与後72時間以内の飲酒で、発汗、頭痛、頻脈)が報告されている1
  • アミノグリコシド系との配合は物理的に不適合であり、同一ラインで混注しない

副作用

頻度 内容
高頻度 下痢(約1/30)、皮疹などの過敏症(約1/45)
頻度不明 、血小板減少、出血(致死例を含む)、
重篤・まれ アナフィラキシー(致死例を含む)、、黄疸・

⚠️ NMTT側鎖に由来する出血・は、いずれもではない。 添付文書は禁忌・という通常の見出し立てで記載しており、先頭に独立した枠は存在しない(の項、は使用上の注意の項)1。同じNMTT側鎖を持つも、第一世代も、同様にを持たない。

まとめ

  • 第3世代の中で胆汁排泄への偏りが最も強い(セフトリアキソンの二重排泄と違い主経路が胆汁)。腎不全では減量不要だが、肝・ではむしろ減量が必要という逆転した注意点を持つ。
  • 3位側鎖のNMTT基が、ALDH阻害によると、VKORC1阻害を含む機序による2つの副作用を起こす——系統の違うと共通する。
  • 出血リスクは他の抗菌薬の4〜5倍という報告があり、経口摂取不良・では特に注意する。
  • Chlamydia trachomatisには無効。ではクラミジアの除外・追加治療を検討する。
  • は無く、通常の・使用上の注意の項目として記載されている点に注意する。

出典

  1. 1.CEFOBID (sterile cefoperazone) prescribing information(FDA(Pfizer添付文書)・2017)枠組み警告の項目自体が存在せず禁忌・警告という通常見出しから始まること、低プロトロンビン血症は警告ではなく使用上の注意の項に置かれていること、肝・胆道疾患患者では半減期が2〜4倍延長し1日投与量を4gまでに留めるべきとされる一方腎不全単独では通常用量調整不要であること(胆汁排泄が主排泄経路のため)、低プロトロンビン血症の機序は「腸内細菌叢の抑制によるビタミンK合成低下」と記載されていること、投与後72時間以内の飲酒でジスルフィラム様反応(顔面紅潮・発汗・頭痛・頻脈)が報告されていること、通常成人量が1日2〜4g(12時間毎分割)、重症例で1日6〜12gまで増量しうることを確認した閲覧 2026-08-10
  2. 2.A Case of Alveolar Bleeding from Clotting Abnormality by Cefmetazole(Case Reports in Medicine・2019)NMTT側鎖を持つセフェム系がビタミンKエポキシド還元酵素複合体サブユニット1(VKORC1)阻害という、ワルファリンと同じ機序で凝固因子産生を妨げること、他の抗菌薬と比較した出血リスクがセフォペラゾン/スルバクタムで4.6倍、セフメタゾールで2.9倍と報告されていることを確認した閲覧 2026-08-10
  3. 3.Fact versus Fiction: a Review of the Evidence behind Alcohol and Antibiotic Interactions(Antimicrobial Agents and Chemotherapy・2020)NMTT側鎖の構造がジスルフィラム分子の一部に類似するという機序仮説と、根拠が主に症例報告レベルにとどまり対照試験が存在しないことを確認した閲覧 2026-08-10