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Disease Atlas · 感染症 · 疾患

淋菌感染症

Gonorrhea

別名
Gonococcal infection淋病
臓器系
感染症生殖・産婦人科
科目
Medical MicrobiologyDermatology
トピック
微生物学 2/8:淋菌・モラクセラ属皮膚科 2-05:男性の淋菌感染症皮膚科 2-06:女性の淋菌感染症
鑑別疾患
クラミジア性器感染症
続発疾患
骨盤内炎症性疾患前立腺炎精巣上体炎・精巣炎結膜炎
関連疾患
HIV感染症・AIDS軟性下疳・鼠径リンパ肉芽腫症・鼠径肉芽腫梅毒
治療薬
セフトリアキソンドキシサイクリンセフィキシム
原因微生物
Neisseria gonorrhoeae
症状
圧痛異常子宮出血関節痛腫脹出血排尿痛発熱皮疹分泌物直腸炎テネスムス
適応薬
セフォペラゾン

🧠 全体像:淋菌は莢膜を持たない(=ワクチンが作れない)ぶん、の中に侵入して生き延びるという戦略で貪食から逃れる。線毛で尿道・頸管上皮に付着し、無症候のまま上行性に進展しうる——男性は尿道炎からへ、女性はから(PID)・不妊・へ。淋菌の拡大を背景に、治療はセフトリアキソン単剤が世界的な基本方針となっている。

病態と感染経路

Neisseria gonorrhoeaeで、性器・直腸・咽頭・の円柱上皮に感染する。莢膜を持たないためワクチンが存在しない一方、線毛()とで上皮に付着・侵入し、内でも生存するである。が炎症を引き起こす。性交から通常数日で症状が出るが、無症候でも伝播する。

flowchart TD
  A["N. gonorrhoeaeが性的接触で感染"] --> B["線毛で尿道・頸管上皮に付着"]
  B --> C["男性:尿道炎"]
  B --> D["女性:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cervicitis'>頸管炎</span>(多くは無症候)"]
  C --> E["前立腺炎・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='epididymitis'>精巣上体炎</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='proctitis'>直腸炎</span>へ上行"]
  D --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='PID'>骨盤内炎症性疾患</span>へ上行"]
  F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='scarring'>瘢痕化</span>→不妊・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ectopic pregnancy'>異所性妊娠</span>"]
  F --> H["腹膜への進展<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='Fitz-Hugh-Curtis syndrome'>Fitz-Hugh-Curtis症候群</span>"]

臨床像

感染部位・病型 男性 女性
尿道・頸管 、尿道口発赤、黄〜(“bonjour drop”) 粘膿性頸管分泌物、接触出血、多くは無症候
前立腺炎(片側陰嚢痛・腫脹) PID(下腹部痛、、子宮・、発熱)
直腸・咽頭 肛門痛・分泌物・出血・/多くは無症候 同左
特有の合併症 (PIDの肝周囲への波及、
(DGI) 発熱、移動性、少数の末梢膿疱性皮疹、(両性共通)
母子感染 分娩時の産道感染で新生児の(生後5日以内に急性発症、重症例で失明)

⚠️ 妊娠可能な患者の下腹部痛ではPIDを低い閾値で疑う。治療遅延は卵管障害を増やすため、検査結果を待たずを開始すべき状況がある。

診断

  • NAAT)が第一選択。男性は、女性は腟(自己採取でも医療者採取と同等の精度)が推奨検体。曝露部位に応じて咽頭・直腸も検査する。
  • 症候性男性のグラム染色で好中球内を認めれば強く支持するが、女性の頸管グラム染色は感度不十分で診断に用いない。も淋菌診断には用いない。
  • 、DGI、が疑われる場合は培養とを行う。DGIを血清抗体検査で診断しない。

治療

flowchart TD
  A["淋菌NAAT陽性"] --> B["下腹部痛・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cervical motion tenderness'>頸部移動痛</span>・発熱を評価"]
  B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ascending infection'>上行感染</span>なし"]
  C --> D["セフトリアキソン単回投与"]
  B --> E["PIDまたはDGI疑い"]
  E --> F["培養採取・病型別の複数日治療・専門診療"]
  D --> G["パートナー治療と3か月後再検査"]
  F --> G

合併症のない尿道・頸管・直腸・咽頭感染はセフトリアキソン単回投与で治療する。用法・用量・は地域で異なり、2025年BASHH指針は1 g筋注1、米国CDC現行指針は体重150 kg未満500 mg・150 kg以上1 gの筋注2とする一方、日本の医薬品添付文書では注射・(IV)に限定され、筋注の記載はない——尿道炎・・咽頭炎・には1 g(力価)の単回静注・には1日1回1 g(力価)の静注・とされている(は有効性を裏付ける報告が無い旨が付記されている)3。いずれの地域もアジスロマイシンとの一律併用は行わない方針へ転換している。クラミジア感染が除外されていなければ、ドキシサイクリン100 mgを1日2回、7日間追加する。

は、現行ガイドラインでは単剤の第一選択ではなくIM注射が使えない場合の代替に位置づけが変わっている。米国CDCは800 mg単回経口(セフトリアキソンほど高く持続的な血中濃度は得られない)2、英国BASHHは400 mgを6〜12時間あけて2回投与したうえでアジスロマイシンを併用する方式(単剤では咽頭感染のが報告されている)としており1、いずれも単回投与の第一選択からは外れている。

💡 2025年12月、米国FDAは新規作用機序(阻害)を持つ単回(Nuzolvence)を無合併症の尿道・頸管に対して承認した。ただし咽頭・直腸感染への適応は含まれず、商業化は2026年後半以降の見込みで、現行ガイドラインの第一選択にはまだ組み込まれていない4

⚠️ DGI、、髄膜炎、心内膜炎では単回治療ではなく、培養採取後に病型別の全身治療と専門診療が必要である。

フォローとパートナー管理

  • 咽頭淋菌、症状持続、感受性不明、代替薬治療、妊娠などではを行う。
  • 尿道・頸管感染でも約3か月後に再検査し、を確認する。
  • 直近60日間のを評価・治療し、双方の治療後7日間は性交を避ける。
  • クラミジア梅毒、HIVを検査し、HIV陰性で継続リスクがあれば(PrEP)、過去12か月にバクテリア性STIの既往があるMSM・トランスジェンダー女性ではも選択肢となる(2024年CDC指針)。
  • 新生児は分娩時のとして、出生直後に眼感染予防処置を受ける。

まとめ

  • 淋菌は莢膜を持たずワクチンが存在しない点が特徴で、PMN内で生存するという戦略で貪食を回避する。
  • 男性は尿道炎から、女性は(多くが無症候)からPID・不妊・へ上行性に進展する。
  • 診断はNAATが基本(男性:、女性:腟)。
  • 合併症のない感染はの拡大を踏まえたセフトリアキソン単回投与が基本(は地域差があり、米国CDC・英国BASHHは筋注、日本の添付文書は静注・)で、クラミジア未除外時はドキシサイクリンを追加する。PID・DGIは複数日のを要する。

出典

  1. 1.Update to CDC's Treatment Guidelines for Gonococcal Infection, 2020(Centers for Disease Control and Prevention (CDC) / MMWR・2020)淋菌感染の単回治療はセフトリアキソン500 mg(体重150 kg以上は1 g)単回筋注で、アジスロマイシン併用は薬剤圧・耐性拡大への懸念から推奨から外れたこと、クラミジア未除外時はドキシサイクリン7日間を追加すること、セフィキシムはIM注射が使えない場合に限る代替(800 mg単回経口、セフトリアキソンほど高い・持続的な血中濃度が得られない)であること、咽頭感染は治療7〜14日後に検査治癒判定を行うことを確認した閲覧 2026-08-03
  2. 2.British Association for Sexual Health and HIV (BASHH) National Guideline for the Management of Infection with Neisseria gonorrhoeae, 2025(British Association for Sexual Health and HIV (BASHH)・2025)2018年版から用量を引き上げ、無合併症の性器・咽頭感染の第一選択をセフトリアキソン1 g単回筋注としたこと、IM注射が禁忌のときの代替はセフィキシム400 mgを6〜12時間あけて2回投与+アジスロマイシン2 g(セフィキシム単剤は咽頭感染で治療失敗の報告があるため単剤を避ける)であること、シプロフロキサシンは感受性判明時でも現在は第一選択に位置づけないことを確認した閲覧 2026-08-03
  3. 3.NUZOLVENCE® (Zoliflodacin) Receives U.S. FDA Approval(Global Antibiotic Research & Development Partnership (GARDP)・2025)2025年12月12日にFDAがゾリフロダシン(Nuzolvence)を12歳以上・体重35 kg以上の無合併症尿道・頸管淋菌感染症に対する単回経口薬として承認したこと、第III相試験で現行標準治療(セフトリアキソン)に対する主要評価項目を達成したことを確認した閲覧 2026-08-03
  4. 4.セフトリアキソンナトリウム静注用・点滴用バッグ 添付文書(KEGG MEDICUS(JAPIC添付文書情報)・2026)日本の添付文書では淋菌感染症への投与経路が静脈内注射・点滴静注に限定され筋肉内注射の記載はないこと、尿道炎・子宮頸管炎・咽頭炎・直腸炎には1 g(力価)の単回静注・点滴静注、精巣上体炎・骨盤内炎症性疾患には1日1回1 g(力価)の静注・点滴静注とされていること、精巣上体炎については有効性を裏付ける臨床試験報告が無い旨が添付文書の項17.1.2に明記されていることを確認した閲覧 2026-08-03