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Symptoms · Published

テネスムス

Tenesmus

別名
しぶり腹裏急後重便意切迫
臓器系
消化器
科目
PathophysiologySurgery
トピック
病態生理学 2-2:炎症性腸疾患外科学 B/20:炎症性腸疾患の外科的側面
関連疾患
細菌性急性胃腸炎赤痢大腸癌潰瘍性大腸炎軟性下疳・鼠径リンパ肉芽腫症・鼠径肉芽腫淋菌感染症

🧠 全体像)は「排便してもすぐまた出そうな、切迫した便意が居座り続ける」という直腸局所の感覚そのものを指す。原因を問わず、直腸壁のが「直腸にまだ内容物がある」という信号を送り続けることで生じ、実際に内容物が残っているかどうかとは関係ない。頻度で見れば(感染性・炎症性)が最多の機序だが、同じ感覚は腫瘤()や虚血・重症炎症による壁のでも生じる。したがって評価の第一歩は炎症を疑うことではなく、で腫瘤の有無を確かめることである。

定義と用語の整理

は同じ感覚を指す同義語で、「排便後も便意が消えない・すぐまた便意が戻る」という訴えを表す。この訴えは、出血の性状を扱う血便、排便という行為に伴う痛みを扱う、直腸に炎症があるという病態診断そのものであるのいずれとも異なる軸を持つ。が主題にするのは、便意という感覚が実際の内容物の有無と乖離しているという一点である。

用語 主題 との関係
(本ノートの主題) 排便後も残る、切迫した便意という感覚そのもの
血便 排出される血液の性状・量という所見 など共通の原因で併発しうるが、対応は一対一ではない
排便という行為に伴う痛みの性状 痛みの有無・部位が主題で、便意の性質は問わない
直腸粘膜に炎症があるという病態診断 を来す頻度の高い機序の一つだが、炎症以外(腫瘤・虚血・)でも同じ感覚が生じる

⭐ 臨床的に重要なのは、は「炎症の」だけではないという点である。腫瘤が直腸壁を内側から押し広げても、虚血や重症炎症で壁のコンプライアンスが落ちても、脳は同じ「まだ何かある」という信号として受け取る。

病態生理

正常な排便反射では、直腸内容物が直腸壁を伸展させるとが興奮してを介し信号が広がるとともに、直腸を通じてへ充満感と便意を伝える1は、この経路が内容物の有無とに興奮し続ける状態であり、原因は次の3群に整理できる。

  • 炎症性(最多):直腸粘膜・壁の炎症がを直接刺激し、実際には空でも充満感の信号を送り続ける。(性感染症・赤痢などのの直腸、放射線性)がこの機序の代表で、LGVはStatPearlsでも慢性の特徴的症状としてが記載されている2
  • 腫瘤性:直腸内腔を占拠する腫瘤が、内容物があるのと同じように直腸壁を内側から押し広げ、を刺激し続ける。大腸癌(特に直腸の環状・粘液産生性腫瘍)が代表で、出血を伴わずだけで初発することがあるため見逃されやすい。
  • :放射線性線維化、重症炎症による壁の硬化、術後の直腸リザーバー容量低下があると、わずかな内容物でもが過敏に反応し、少量でも強い便意として感じられる。

⚠️ 見逃してはいけないもの

危険度の高い順に並べる。

  • ⚠️ 出血を伴わない持続的なだけで初発することがあり、「痔だろう」で片付けると発見が遅れる。年齢・排便習慣の変化・体重減少の有無を問わず、で腫瘤を触知しないことを必ず確認する大腸癌を参照)。
  • ⚠️ LGV 型はに酷似し、が特徴的症状として記載されている2。血性分泌物・陽性がそろえば、遺伝子型別の結果を待たずドキシサイクリンを開始する3
  • ⚠️ 重症 が持続するで、腹部膨満・発熱・頻脈・意識変容が加われば、炎症が大腸壁深部まで波及したを疑う。穿孔・腹膜炎に至れば致死率が跳ね上がるため、外科へ直ちに相談する。
  • ⚠️ 高齢・血管リスクを持つ患者で、症状の強さに比べて所見が乏しい腹痛にが伴えばを疑う。進行すると持続痛・・ショックへ移行する。

鑑別の進め方

flowchart TD
    A["持続する切迫した便意<br>排便しても軽快しない"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='digital rectal examination, DRE'>直腸指診</span>を最初に行う"]
    B --> C{"腫瘤を触知するか"}
    C -->|"あり"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='rectal cancer'>直腸癌</span>を疑い<br>直腸鏡・生検へ進む"]
    C -->|"なし"| E{"粘液<span class='jp-term jp-term-diagram' title='purulent discharge'>膿性分泌物</span>・<br>接触出血があるか"}
    E -->|"あり"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='proctitis'>直腸炎</span>を疑い<br>直腸鏡・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='rectal swab'>直腸スワブ</span>検査"]
    F --> G{"受容的<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oral-anal sex'>肛門性交</span>歴があり<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='chlamydia NAAT'>クラミジアNAAT</span>が陽性か"}
    G -->|"あり"| H["LGV<span class='jp-term jp-term-diagram' title='proctitis'>直腸炎</span>として<br>遺伝子型結果を待たずドキシサイクリン開始"]
    E -->|"なし"| I{"血性下痢・発熱・<br>腹部膨満を伴うか"}
    I -->|"あり"| J["重症<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ulcerative colitis, UC'>潰瘍性大腸炎</span>・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='toxic megacolon'>中毒性巨大結腸症</span>を評価"]
    I -->|"なし"| K{"高齢・血管リスクがあり<br>所見に比べ痛みが強いか"}
    K -->|"あり"| L["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ischemic colitis'>虚血性大腸炎</span>を評価"]
    K -->|"なし"| M["放射線性線維化・術後リザーバー低下など<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='reduced vascular compliance'>コンプライアンス低下</span>を検討"]

対症療法の考え方

そのものを鎮める治療は原則なく、原因への直接治療がすべてである。感染性・炎症性であればの対応(性感染症への抗菌薬、への直腸など)に委ね、腫瘤性であれば大腸癌の外科・薬物療法に委ねる。原因を除去できない進行癌・放射線性の難治例では、症状そのものを和らげるな処置を検討することがあるが、原因治療の代わりにはならない。

まとめ

  • は、直腸壁のが内容物の有無とに「まだ何かある」という信号を送り続けることで生じる、便意という感覚そのものの異常である。
  • 血便(出血の性状)・(痛みの性状)・(炎症という病態診断)とは異なる軸の症状であり、原因は炎症性・腫瘤性・の3群に整理できる。
  • 最も見逃してはいけないのはで、出血を伴わずだけで初発しうるため、評価はによる腫瘤の除外から始める。
  • LGVに酷似し、重症も見逃してはいけない危険な鑑別である。
  • 自体への対症療法は原則なく、原因(・大腸癌など)への直接治療に委ねる。

出典

  1. 1.2021 European Guideline on the management of proctitis, proctocolitis and enteritis caused by sexually transmissible pathogens(European Academy of Dermatology and Venereology / IUSTI Europe (JEADV)・2021)LGV直腸炎は炎症性腸疾患に酷似し見逃されやすいこと、血性分泌物・直腸潰瘍とクラミジアNAAT陽性がそろえば遺伝子型別の結果を待たずドキシサイクリンによる推定治療を開始し、陽性確定なら最低21日間・陰性なら7日間とすることを確認した閲覧 2026-08-03
  2. 2.Proctitis and Anusitis(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)テネスムスがLGV直腸炎(無症候性のこともあれば粘液性・出血性の直腸分泌物、肛門痛、便秘、発熱、テネスムスを呈しうる)と慢性直腸炎(直腸出血、下痢、切迫感、テネスムス、失禁、骨盤痛を呈しうる)の双方で特徴的な症状として記載されていることを確認した閲覧 2026-08-03
  3. 3.Physiology, Defecation(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)直腸の伸展が伸展受容器を刺激し筋層間神経叢を介して信号が伝わること、直腸求心性神経が直腸充満感と便意という感覚を担うこと、直腸壁の伸展が骨盤神経を介して脊髄の排便中枢へ求心性信号を送ることを確認した閲覧 2026-08-03