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Disease Atlas · 感染症 · 疾患

赤痢

Shigellosis (bacillary dysentery)

別名
Bacillary dysentery
臓器系
感染症消化器
科目
Medical Microbiology
トピック
微生物学 2/12:赤痢菌属
鑑別疾患
コレラ腸チフス
続発疾患
溶血性尿毒症症候群
関連疾患
細菌性急性胃腸炎
治療薬
スルファメトキサゾール・トリメトプリム(ST合剤)シプロフロキサシンアジスロマイシンセフトリアキソン
原因微生物
Shigella dysenteriaeShigella sonnei
症状
下痢発熱テネスムス
検査値
便培養

🧠 全体像:赤痢の本質は「極端に少ない感染菌量」と「上皮内アクチンを乗っ取る細胞内運動」の2点に尽きる。はが非常に高く、数十〜数百個という僅かな菌量だけでヒト-ヒト感染が成立する(保育園などでの集団発生の理由)。を通過後は宿主のアクチン線維を乗っ取って隣接するへ次々に飛び移り、免疫を回避しながら浅い潰瘍を広げ血性下痢を起こす——の「侵襲なし・毒素だけ」のとは対照的な、侵襲性下痢の典型である。近年は経口が効かない(XDR)株の増加が臨床上の大きな課題になっている1。

病態と感染経路

Shigella属(S. dysenteriae、S. boydii、S. flexneri、S. sonnei)はヒトの結腸のみを宿主とするで、糞口感染、特にヒト-ヒト直接接触(保育園など)で伝播する。が高いため胃酸をほぼそのまま通過でき、の原因菌のように大量摂取を要さない。

菌はに貪食されるがでの分解を逃れて脱出し、宿主アクチン線維を乗っ取って自らをし隣接するへ移動する。この機序により免疫を回避しながら浅い潰瘍を形成し、結腸・に炎症を伴う血性下痢を引き起こす。この病原性を担うプラスミドを丸ごと獲得した大腸菌がEIEC()で、事実上「同じ武器を使う別の宿主生物」である。

志賀毒素の作用機序

主にS. dysenteriaeが産生するは、細胞内に取り込まれると28S rRNA上の1個のN-を切断してを遊離させる( N-活性)。肝リボソームではその標的がA-4324と同定されている。この1塩基のだけで60Sは不活化され、1(EF-1)依存性ののリボソーム結合が阻害されてタンパク質合成が止まる2。

💡 「リボソームを切断する」ではなく「から塩基を1個だけ抜き取る」のがこの毒素の正体である。切るのはrRNAの糖-塩基間のN-であって、rRNA鎖でもリボソーム本体でもない。(EHEC)が産生する()も同じ標的・同じ酵素活性をもち、この共通性がという共通の合併症の基盤になっている2。

flowchart TD
  A["経口摂取(糞口感染、少量菌でも成立)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='M cell'>M細胞</span>に貪食されるが分解を逃れて脱出"]
  B --> C["宿主アクチンを乗っ取り隣接上皮細胞へ移動"]
  C --> D["浅い<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ulceration'>潰瘍形成</span>・結腸/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='terminal ileum'>終末回腸</span>の炎症"]
  D --> E["血性下痢(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tenesmus'>しぶり腹</span>を伴う)"]
  E --> F["S. dysenteriaeの<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Shiga toxin'>志賀毒素</span><br>→28S rRNAの<span class='jp-term jp-term-diagram' title='depurination'>脱プリン化</span>で60Sを不活化<br>→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='protein synthesis'>タンパク合成</span>停止"]
  F --> G["小児で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hemolytic uremic syndrome, HUS'>溶血性尿毒症症候群</span>のリスク"]

臨床像

病期 症状
初期 水様性下痢+炎症症状
便に血液・粘液・膿が混じる(重症例では組織片も)、発熱、(便意はあるが排便できない持続的な感覚)

⚠️ 小児では()を合併しうる。 による障害→の活性化→血小板減少→赤血球の機械的破壊(溶血)という経過をたどる。EHECによると同じファミリーが関与する合併症である。

💡 「抗菌薬がを誘発するから使わない」はSTECの話であって、の話ではない。 が抗菌薬の回避を推奨しているのは、STEC O157およびShiga toxin 2を産生するSTEC(毒素の遺伝子型が不明な場合を含む)に対してであって、に対してではない3。S. dysenteriae 1型では、抗菌薬がを増やすという所見は得られていない——発症72時間以内に抗菌薬を投与した小児20人では便中濃度が17人で低下し、全員がを発症しなかった。同じ検討でバングラデシュの治療試験に登録されたS. dysenteriae 1型感染者378人(成人男性128人・小児250人)のうち93%が発症96時間以内に感受性のある抗菌薬を受け、を発症したのは小児1人(全体のリスク0.0026、小児で0.004)にとどまっている4。赤痢を疑ったときに抗菌薬をためらう理由にはならない。

診断

検査 所見
血液・粘液・膿を含む部分を狙って検体を採取。まで必ず提出する(XDR株の存在ゆえ)
Salmonella-Shigella(Hektoen)培地 緑色コロニー(Salmonellaの黒色コロニーと鑑別)
無色コロニー
ウサギの眼への接種での発生をみて侵入性を確認する。を要する歴史的手法で、臨床診断には用いない(現在は培養・で置き換えられている)

治療

抗菌薬を出すかどうか

免疫正常者の血性下痢に対して、検査結果を待つ間の経験的抗菌薬投与は原則として推奨されない。ただしは次を明示的な例外として挙げており、を疑う像はその1つである3。

軽症例の多くは支持療法で自然軽快するため、抗菌薬の適応は「重症度」だけでなく「保育園などでの集団拡散を止める必要があるか」「易感染性宿主か」も含めて判断する。

経験的抗菌薬を投与する例外 内容
を疑う有症状者 医療機関で発熱が確認され、腹痛・血性下痢があり、頻回で少量の血便・・というの像を呈する免疫正常者
生後3か月未満の乳児 細菌性の病因を疑う場合
海外渡航者 体温38.5℃以上、または敗血症の徴候がある場合

薬剤の選択

のは、成人では等のフルオロキノロンまたはアジスロマイシンを地域の感受性パターンと渡航歴に応じて選ぶ3。感受性が判明したら結果に従って狭域化する。

flowchart TD
  A["血性下痢・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tenesmus'>しぶり腹</span>で赤痢を疑う"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='stool culture'>便培養</span>と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='susceptibility test'>感受性検査</span>を提出"]
  B --> C["軽症・免疫正常で例外に当たらない"]
  B --> D["発熱+腹痛を伴う<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bacillary dysentery (shigellosis)'>細菌性赤痢</span>像/生後3か月未満/渡航後の高熱・敗血症徴候"]
  C --> E["支持療法で自然軽快を待つ"]
  D --> F["経験的抗菌薬を開始し、感受性結果で狭域化"]
  F --> G["成人はフルオロキノロンまたはアジスロマイシン<br>ST合剤・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='third-generation cephalosporin'>第3世代セファロスポリン</span>は感受性に応じて"]

⚠️ (XDR)の増加。 アンピシリン・アジスロマイシン・セフトリアキソン・・ST合剤の5剤すべてに耐性のXDR株が米国ので増えており、感受性データのある16,788株のうち510株(3.0%)がXDR、その割合は2011〜2015年の0%から2023年には8.5%へ上昇した。菌種が判明した505株の内訳はS. sonnei 333株(65.9%)・S. flexneri 172株(34.1%)である1。経験的な単剤選択に頼らず、必ず培養・を提出する。

⚠️ XDR赤痢は「小児の病気」として増えているのではない。 米国のXDR症例は年齢中央値41歳(IQR 31〜54歳)、86.2%が男性、96.1%が18歳以上と、成人男性に強く偏っている1。集団発生の典型像(保育園の幼児)だけを思い浮かべていると、XDR株を持つ成人例を疑い損ねる。

まとめ

  • はヒトのみを宿主とするで、高いにより少量の菌でヒト-ヒト感染が成立する。
  • 通過後に宿主アクチンを乗っ取って隣接上皮細胞へ移動し、浅い潰瘍と血性下痢・を起こす。
  • (主にS. dysenteriae)は28S rRNAの1個をして60Sサブユニットを不活化し、タンパク質合成を止める。小児ではを合併しうる。
  • 抗菌薬でリスクが上がるのはSTECの話であり、では早期の有効な抗菌薬投与がむしろ便中を減らし、発症は稀である。
  • 発熱・腹痛を伴う像、生後3か月未満、渡航後の高熱・敗血症徴候では経験的抗菌薬を開始する。それ以外の免疫正常者の血性下痢では原則として検査結果を待つ。
  • XDRは2011〜2015年の0%から2023年に8.5%へ増加し、患者は成人男性に偏っている。培養・が不可欠である。

出典

  1. 1.Emergence of Extensively Drug-Resistant Shigellosis — United States, 2011–2023(Centers for Disease Control and Prevention(MMWR Morb Mortal Wkly Rep 2026;75(13):173–178)・2026)米国のPulseNetサーベイランス(2011年1月1日〜2023年10月20日)で薬剤感受性データのある赤痢菌16,788株のうち510株(3.0%)がXDR(アンピシリン・アジスロマイシン・セフトリアキソン・シプロフロキサシン・ST合剤のすべてに耐性)であり、XDR株の割合が2011〜2015年の0%から2023年には8.5%へ増加したこと、菌種の内訳がS. sonnei 333株(65.9%)・S. flexneri 172株(34.1%)であること、XDR赤痢の患者は年齢中央値41歳(IQR 31〜54歳)、86.2%が男性、96.1%が18歳以上と成人男性に偏っていることを確認した。小児が中心という分布ではない。閲覧 2026-09-05
  2. 2.Site of action of a Vero toxin (VT2) from Escherichia coli O157:H7 and of Shiga toxin on eukaryotic ribosomes. RNA N-glycosidase activity of the toxins(European Journal of Biochemistry・1988)Shigella dysenteriae 1型由来の志賀毒素と腸管出血性大腸菌由来のVero毒素(VT2)は、いずれも真核生物リボソームの28S rRNAに作用し、ラット肝60Sリボソームサブユニットの28S rRNA上のアデニン1個(A-4324)のN-グリコシド結合を切断してアデニンを遊離させる(RNA N-グリコシダーゼ活性)ことで60Sサブユニットを不活化し、伸長因子1依存性のアミノアシルtRNAのリボソーム結合とタンパク質合成を阻害することを確認した。リボソームやrRNA鎖そのものを切断する酵素ではない。閲覧 2026-09-05
  3. 3.2017 Infectious Diseases Society of America Clinical Practice Guidelines for the Diagnosis and Management of Infectious Diarrhea(Infectious Diseases Society of America・2017)推奨30で「免疫正常の小児・成人の血性下痢に対し、検査結果を待つ間の経験的抗菌薬投与は推奨しない(strong, low)」としつつ、その例外として①細菌性を疑う生後3か月未満の乳児、②医療機関で発熱が確認され腹痛・血性下痢があり、赤痢菌によると推定される細菌性赤痢(頻回で少量の血便・発熱・腹部痙攣・しぶり腹)を呈する免疫正常の有症状者、③体温38.5℃以上または敗血症徴候のある海外渡航者、を挙げていること、推奨31で成人にはシプロフロキサシン等のフルオロキノロンまたはアジスロマイシンを地域の感受性と渡航歴に応じて用いる(strong, moderate)とされていること、そして抗菌薬を避けるべきとされているのは推奨35のSTEC O157およびShiga toxin 2産生STEC(strong, moderate)であって赤痢菌ではないことを確認した。本ガイドラインには、赤痢菌感染で抗菌薬がHUSリスクを高めるという記載は無い。閲覧 2026-09-05
  4. 4.Low Risk of Hemolytic Uremic Syndrome after Early Effective Antimicrobial Therapy for Shigella dysenteriae Type 1 Infection in Bangladesh(Clinical Infectious Diseases・2006)S. dysenteriae 1型による発症72時間以内の細菌性赤痢の小児20人で、抗菌薬投与後に便中の志賀毒素濃度が20人中17人で低下し、20人ともHUSを発症しなかったこと、1988〜2000年にバングラデシュで行われた7件の赤痢治療試験に登録されたS. dysenteriae 1型感染者378人(成人男性128人・18〜60歳、小児250人・生後6か月〜15歳)のうち351人(93%)が発症から96時間以内に感受性のある抗菌薬の投与を受け、HUSを発症したのは小児1人のみで、HUS発症リスクは全体0.0026(95%CI <0.001〜0.015)、小児0.004(95%CI 0.001〜0.022)であったことを確認した。抄録の結論は「早期の有効な抗菌薬投与は便中志賀毒素濃度の低下と低いHUS発症リスクに関連する」であり、STECで報告されている「抗菌薬がHUSリスクを10倍以上に高める」という現象は、この検討では赤痢菌で再現されていない。閲覧 2026-09-05