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Microbe Atlas · 細菌

Enteroinvasive Escherichia coli

腸管侵入性大腸菌

分類
腸内細菌科 / EnterobacteriaceaeEscherichia
性状
Gram陰性 (G−)桿菌 Bacilli通性嫌気性 Facultative
科目
Medical Microbiology
トピック
2/11: Escherichia coli2/12: Shigella genus5/35: Causative agents of diarrhoea and their diagnosis

🧠 全体像:EIEC()は「大腸菌という種の皮をかぶった」として理解する。属と同じ約220kbpの(pINV)を独立に獲得し、同じ()とipa遺伝子群で大腸上皮に侵入する——臨床像・はと事実上区別できない。決定的に違うのは進化の深さで、が徹底した遺伝子崩壊を経て「大腸菌をやめた」種であるのに対し、EIECは大腸菌としての代謝能(能や運動性を保つ株もある)を色濃く残す病原化の途上にある大腸菌である。本ノートはこのEIECという病原型に特化し、大腸菌全体の基本性状は大腸菌のノート、のはのノートに譲る。

微生物学的な特徴

項目 EIEC 属
種としての位置づけ Escherichia coliの一病原型(血清型O124・O143・O164など) 独立した属として分類されるが、系統的にはE. coliにされる
pINV(志賀菌属と同一起源、独立に複数回獲得) 同じpINV
遺伝子崩壊の程度 不完全——大腸菌に近い代謝能を保持 徹底的——多数の遺伝子が化・欠失
一部の株(EIEC O96:H19など)で陽性 通常陰性
運動性 一部の株で遊泳運動性を保つ

⭐ 「とEIECは事実上、同じ武器を使う別の宿主生物である」——側のノートに書いたこの一文が本ノートの出発点になる。両者は同じプラスミドを独立に獲得した平行進化の産物であり、EIECの方が「大腸菌をやめきっていない」ぶん進化的に若い1。

病原性の仕組み

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='apathogenic'>非病原性</span>の大腸菌"] --> B["pINV(約220kbpの<span class='jp-term jp-term-diagram' title='virulence plasmid'>病原性プラスミド</span>)<br>を水平獲得"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='type III secretion system'>T3SS</span>(mxi/spa遺伝子群)を発現"]
    C --> D["IpaB・IpaC・IpaDなどのエフェクターを<br>大腸上皮細胞へ注入"]
    D --> E["上皮細胞に侵入し<br>マクロファージを傷害"]
    E --> F["細胞内増殖・隣接細胞への<br>細胞間伝播(IcsA)"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='colonic mucosa'>大腸粘膜</span>の炎症・浅い潰瘍<br>→赤痢様の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inflammatory diarrhea'>炎症性下痢</span>"]

pINVプラスミドはmxi/spa遺伝子群による()と、IpaB・IpaC・IpaD・IcsAなどのエフェクターをコードする。これらを介して大腸を越え、マクロファージを傷害しながらへ侵入し、細胞内増殖と隣接細胞への伝播を繰り返す——と全く同じ機序である1。をコードする遺伝子は持たないため、のリスクは(特にS. dysenteriae)ほど強調されない2。

💡 EIEC O96:H19という「進化の若い」クローンの発見が、この病原型の成り立ちを裏づけている。 イタリア・英国でを起こした本クローンは、や大半のEIEC株と異なり能を保ち、病原変異を欠き、大腸菌に近い細胞外環境でのを維持していた——を獲得した直後の大腸菌に近い姿と考えられている3。

感染経路と疫学

起こす疾患

病原型 略称 機序 臨床像
(本ノート) EIEC pINV由来ので上皮侵入 ——軽症〜重症の、まれに発熱・・血液・粘液を伴う
(赤痢) — 同じpINV由来の 血性下痢・、HUS(主にS. dysenteriae)
ETEC ・ の主因、水様性下痢
EHEC/STEC 無発熱の血性下痢、HUSのリスク
EPEC Intimin/Tir付着 乳児の水様性下痢、施設内

臨床像・病原性はと区別できない2ため、EIECによるは臨床的には赤痢と同様に扱われる。

診断

  • に加え、EIECとは生化学的性状だけでは鑑別が難しく、分子検査(pINV上のipaH遺伝子、大腸菌に特異的なlacY遺伝子)が必要になる2
  • の有無だけでは鑑別できない——EIEC O96:H19クローンのように陽性の株が様の重症例を起こしうる3

治療と予防

まとめ

  • EIECは大腸菌の一病原型でありながら、と同じ(pINV)を独立に獲得し、同じ・ipa遺伝子群で大腸上皮に侵入する。
  • が徹底した遺伝子崩壊を経た「独立種」であるのに対し、EIECは大腸菌としての代謝能(・運動性)を保つ株もあり、病原化の途上にある大腸菌と位置づけられる。
  • 臨床像・病原性はと事実上区別できず、を持たないためリスクは強調されない。
  • 生化学的性状だけではと鑑別しにくく、ipaH・lacY遺伝子などの分子検査が必要になる。
  • EIEC O96:H19クローンによるイタリア・英国でのは、先進国でも集団感染が起こりうることを示す。
  • 治療は赤痢に準じ、重症例・易感染性宿主で感受性結果に基づき抗菌薬を選択する。

出典

  1. 1.The Intriguing Evolutionary Journey of Enteroinvasive E. coli (EIEC) toward Pathogenicity(Frontiers in Microbiology・2017)EIECと赤痢菌が同じ病原性プラスミド(pINV、T3SSをコードするmxi/spa遺伝子群とエフェクターipaB/ipaC/ipaD・icsA等を含む約220kbpのプラスミド)を独立に複数回獲得したこと、赤痢菌が徹底した遺伝子崩壊(gene decay)を経ているのに対しEIECは大腸菌に近い代謝能を保持し遺伝子崩壊が不完全であること、一部のEIEC株(多くのEIEC株・赤痢菌では失われている)が乳糖発酵能や遊泳運動性を保持していることを確認した。閲覧 2026-09-05
  2. 2.Updates on defining and detecting diarrheagenic Escherichia coli pathotypes(Current Opinion in Infectious Diseases・2020)EIECが志賀毒素を産生しないこと、臨床像・病原性は赤痢菌と区別できない(軽症〜重症の水様便がまれに発熱・しぶり腹・血液・粘液・白血球を伴う)こと、EIECと赤痢菌の鑑別にはpINVプラスミド上のipaH遺伝子に加え大腸菌に特異的なlacY遺伝子等の分子検査が必要になること、EIECによる下痢は世界中で見られるが低中所得国の小児で特に多く、先進国では渡航者下痢症の原因にもなることを確認した。閲覧 2026-09-05
  3. 3.Tracing Back the Evolutionary Route of Enteroinvasive Escherichia coli (EIEC) and Shigella Through the Example of the Highly Pathogenic O96:H19 EIEC Clone(Frontiers in Cellular and Infection Microbiology・2020)高病原性のEIEC O96:H19クローンがイタリアと英国で大規模アウトブレイクの原因になったこと、本クローンは赤痢菌や大半のEIEC株と異なり乳糖を発酵し病原適応的変異(pathoadaptive mutation)を欠き非病原性大腸菌に近い細胞外環境での増殖能を保つこと、病原性プラスミドを非病原性大腸菌が獲得した直後の状態に近いと考えられることを確認した。閲覧 2026-09-05