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Microbe Atlas · 細菌

Shigella dysenteriae

志賀赤痢菌

分類
腸内細菌科 / EnterobacteriaceaeShigella
性状
Gram陰性 (G−)桿菌 Bacilli通性嫌気性 Facultative
科目
Medical Microbiology
トピック
2/12: Shigella genus5/14: Bacterial exotoxins and the related diseases. Prevention and therapy
原因となる疾患
赤痢反応性関節炎溶血性尿毒症症候群
作用する薬剤
シプロフロキサシン

🧠 全体像:属の本質は「極端に少ない感染菌量」と「上皮内アクチンを乗っ取る細胞内運動」の2点に尽きる。が非常に高いため、わずか10〜100個という菌量だけでヒトからヒトへ直接感染できる——これが保育園などでの集団発生を生む。を通過したあとは宿主のアクチン線維を乗っ取って隣接するへ次々に飛び移り、免疫システムを避けながら浅い潰瘍を広げる。(本菌)はこの属の中で唯一を産生し、属全体の中で最も重症化しやすい種である。

微生物学的な特徴

項目 内容
生息地 ヒトの結腸のみ——動物のような別宿主を持たないで、体外では長く生存できない
主要菌種 A群 (本菌)、B群 フレクスナー、C群 ボイド、D群 ゾンネ
運動性 ——大腸菌やが持つを欠く
酸への抵抗性 極めて高い——感染に必要な菌量が10〜100個と非常に少ない
生化学的性状 、H₂S陰性、ウレアーゼ陰性——いずれも「大人しい」生化学プロファイル

💡 の高さ=低感染量の理由。 胃酸をほぼそのまま通過できるため、のように大量の菌を摂取しなくても発症する。この性質が、糞口感染というより直接的なヒト-ヒト接触(保育園などの集団感染)で容易に広がる理由になっている。

病原性の仕組み

  1. 菌が経口摂取され、腸管に到達する
  2. に貪食されるが、での分解を逃れて脱出する。その後、のアクチン線維を乗っ取って自らをし、外側にあるへ移動する
  3. これにより免疫システムを回避しながら浅い潰瘍を形成し、結腸・の炎症を伴う血性下痢を引き起こす。潜伏期は約1〜4日
flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Shigella dysenteriae'>志賀赤痢菌</span>の経口摂取"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='M cell'>M細胞</span>に貪食されるが<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='phagolysosome'>ファゴリソソーム</span>を脱出"]
    B --> C["宿主アクチン線維を乗っ取り<br>隣接上皮細胞へ次々に移動"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='immune evasion'>免疫回避</span>しながら<br>浅い潰瘍を形成"]
    A --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Shiga toxin'>志賀毒素</span><br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='AB-type exotoxin'>AB型外毒素</span>)"]
    E --> F["28S rRNAの<span class='jp-term jp-term-diagram' title='adenine'>アデニン</span>1個を<span class='jp-term jp-term-diagram' title='depurination'>脱プリン化</span><br>→60Sサブユニットを不活化<br>→蛋白合成停止"]
    D --> G["血性下痢・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tenesmus'>しぶり腹</span>"]
    F --> H["小児で<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='hemolytic uremic syndrome, HUS'>溶血性尿毒症症候群</span>のリスク"]

は属の中で本菌だけが産生するである(より正確には*S. dysenteriae* の血清型1にほぼ限られ、同じS. dysenteriaeでも他の血清型はを持たない——微生物学 2/12:属)。細胞内に取り込まれると28S rRNA上の1個のN-を切ってを遊離させる( N-活性)。肝リボソームではその標的がA-4324と同定されている。この1塩基のだけで60Sは不活化され、1(EF-1)依存性ののリボソーム結合が阻害されてタンパク質合成が止まる1。これは大腸菌のEHEC/STECが産生する()と同じ標的・同じ酵素活性である1。もと同様に()を用いてを分泌させる(と共通する戦略)。

💡 「リボソームを切断する」ではなく「から塩基を1個だけ抜き取る」のがこの毒素の正体である。切れるのはrRNAの糖-塩基間のN-であって、rRNA鎖でもリボソーム本体でもない。

⚠️ EIECはのをそのまま獲得した大腸菌である。 大腸菌のEIEC()は由来のプラスミドを完全に獲得しており、・破壊の機序も臨床像もほぼ同一になる——とEIECは事実上「同じ武器を使う別の宿主生物」である。

感染経路と疫学

  • 糞口感染、特にヒト-ヒト接触(保育園などで多い)で伝播する
  • 少数菌での発症のため、水系汚染や食品汚染がなくても集団発生しうる
  • 衛生インフラの乏しい地域では重症のが流行することがある

起こす疾患

赤痢は属が共通して起こす疾患だが、を産生する本菌はその中でも最も重症化しやすい種である。

病期 症状
初期 水様性下痢+炎症
便に血液・粘液・膿が混じる(重症例では組織片も)。発熱、(便意はあるが排便できない持続的な感覚)

⚠️ 小児ではを合併しうる。 →の活性化→血小板減少→赤血球の溶血という経過をたどる。は大腸菌のEHEC/STECによると同じファミリーが関与する合併症である。

💡 「抗菌薬がを誘発するから使わない」はSTECの話であって、の話ではない。 が抗菌薬の回避を推奨しているのは推奨35のSTEC O157およびShiga toxin 2産生STECに対してであり、によると推定されるの有症状者は逆に推奨30の経験的抗菌薬投与の明示的な例外(治療する側)に挙げられている2。S. dysenteriae 1型では、発症72時間以内に抗菌薬を投与した小児20人で便中濃度が17人で低下し、全員がを発症しなかった。同じ検討でバングラデシュの治療試験に登録された378人(成人男性128人・小児250人)のうち93%が発症96時間以内に感受性のある抗菌薬を受け、を発症したのは小児1人(全体のリスク0.0026、小児で0.004)にとどまる3。赤痢を疑ったときに抗菌薬をためらう理由にはならない。

診断

検査 所見
による便検体(血液・粘液・膿を含む部分を狙う)
Salmonella-Shigella(Hektoen)培地 緑色(Salmonella entericaの黒色コロニーと鑑別)
無色コロニー(大腸菌は赤色を呈する)
コロニー(を反映)
(Serény test) ウサギの眼に接種しの発生をみることで毒素の侵入性を確認する

治療と予防

⚠️ (XDR)が増えている。 アンピシリン・アジスロマイシン・セフトリアキソン・・ST合剤の5剤すべてに耐性の株をXDRと呼ぶ。米国のPulseNet(2011年1月1日〜2023年10月20日)では、薬剤感受性データのある16,788株のうち510株(3.0%)がXDRで、その割合は2011〜2015年の0%から2023年には8.5%へ上昇した4。経口が存在しない例が増えているため、結果を待たずに経験的に単剤を選ぶのではなく、培養・を必ず行う。

💡 XDRの割合は「どの集団を、どの検査で数えたか」で大きく変わる。 上の3.0%・8.5%は米国全体のPulseNetの値である。地域の検査室では分母がはるかに小さくなり、はるかに高い割合が出ることがある(→ 微生物学 2/12:属のサンフランシスコの例)。数字を引くときは出所の集団を必ず添える。

まとめ

  • はヒトのみを宿主とするで、極めて高いにより10〜100個という少量の菌でヒト-ヒト感染が成立する。
  • を通過後、宿主アクチンを乗っ取って隣接上皮細胞へ次々移動し、浅い潰瘍と血性下痢を起こす。
  • (本菌だけが産生)は28S rRNAの1個をして60Sサブユニットを不活化し、タンパク質合成を止める——EHEC/STECのと同じ標的・同じ酵素活性。
  • 大腸菌のEIECはのを丸ごと獲得しており、臨床像・機序ともに酷似する。
  • 小児ではを合併しうるが、抗菌薬でが増えるのはSTECの話であり、ではむしろ早期の有効な抗菌薬投与が便中を減らし発症は稀である。
  • (XDR)株の増加(米国PulseNetで2011〜2015年の0%から2023年に8.5%)によりの選択が難しくなっている。

出典

  1. 1.Site of action of a Vero toxin (VT2) from Escherichia coli O157:H7 and of Shiga toxin on eukaryotic ribosomes. RNA N-glycosidase activity of the toxins(European Journal of Biochemistry・1988)Shigella dysenteriae 1型由来の志賀毒素と腸管出血性大腸菌由来のVero毒素(VT2)が、いずれもラット肝60Sリボソームサブユニットの28S rRNA上のアデニン1個(A-4324)のN-グリコシド結合を切ってアデニンを遊離させる(RNA N-グリコシダーゼ活性)ことで60Sサブユニットを不活化し、伸長因子1依存性のアミノアシルtRNAのリボソーム結合とタンパク質合成を阻害することを確認した。リボソーム本体もrRNA鎖も切断していない。閲覧 2026-09-05
  2. 2.2017 Infectious Diseases Society of America Clinical Practice Guidelines for the Diagnosis and Management of Infectious Diarrhea(Infectious Diseases Society of America・2017)推奨35で抗菌薬の回避が求められているのはSTEC O157およびShiga toxin 2産生STEC(strong, moderate)であって赤痢菌ではないこと、逆に推奨30では赤痢菌によると推定される細菌性赤痢(医療機関で発熱が確認され腹痛・血性下痢を伴う免疫正常の有症状者)が経験的抗菌薬投与の明示的な例外として挙げられていることを確認した。赤痢菌感染で抗菌薬がHUSリスクを高めるという記載は本ガイドラインに無い。閲覧 2026-09-05
  3. 3.Low Risk of Hemolytic Uremic Syndrome after Early Effective Antimicrobial Therapy for Shigella dysenteriae Type 1 Infection in Bangladesh(Clinical Infectious Diseases・2006)S. dysenteriae 1型による発症72時間以内の細菌性赤痢の小児20人で抗菌薬投与後に便中志賀毒素濃度が17人で低下し20人ともHUSを発症しなかったこと、バングラデシュの7試験に登録されたS. dysenteriae 1型感染者378人(成人男性128人・18〜60歳、小児250人・生後6か月〜15歳)のうち93%が発症96時間以内に感受性のある抗菌薬を受けHUS発症は小児1人のみ(全体0.0026、小児0.004)であったことを確認した。小児の登録範囲は生後6か月〜15歳であり、「10歳未満」という閾値はこの報告には無い。閲覧 2026-09-05
  4. 4.Emergence of Extensively Drug-Resistant Shigellosis — United States, 2011–2023(Centers for Disease Control and Prevention(MMWR Morb Mortal Wkly Rep 2026;75(13):173–178)・2026)米国のPulseNetサーベイランス(2011年1月1日〜2023年10月20日)で薬剤感受性データのある赤痢菌16,788株のうち510株(3.0%)がXDR(アンピシリン・アジスロマイシン・セフトリアキソン・シプロフロキサシン・ST合剤のすべてに耐性)であり、XDR株の割合が2011〜2015年の0%から2023年には8.5%へ増加したことを確認した。閲覧 2026-09-05