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Disease Atlas · 感染症 · 疾患

コレラ

Cholera

臓器系
感染症消化器
科目
Medical Microbiology
トピック
微生物学 2/15:コレラ菌
鑑別疾患
赤痢
合併症
脱水循環血液量減少性ショック
関連疾患
細菌性急性胃腸炎腸チフス
治療薬
ドキシサイクリンアジスロマイシンシプロフロキサシン
原因微生物
Vibrio cholerae
症状
下痢
検査値
低カリウム血症代謝性アシドーシス

🧠 全体像は「細胞に入らず、殺さず、ただスイッチを入れっぱなしにする」病原体による純粋なである。Vibrio choleraeに付着するだけで細胞内には侵入せず、1つでを恒常的に活性化し続ける。炎症も細胞死も伴わないため、便に血液・膿は混じらず「米のとぎ汁様」の透明な大量になる。1日10〜20Lにも達しうる水分喪失が病態のすべてで、治療の柱は輸液——だけで死亡率を1%未満に下げられる

病態と感染経路

汚染された水・食品を介する感染で伝播し、不十分なが流行の背景となる。V. choleraeは線毛で腸管粘膜に付着するが細胞内には侵入せず、であるを放出する。Bサブユニットが受容体に結合しAサブユニットを細胞内に導き、Aサブユニットがを持続活性化してcAMPを上昇させる。cAMP上昇はCFTR型のCl⁻チャネルを開放し続ける一方でNa⁺再吸収経路を阻害し、上皮細胞自体は生きたまま浸透圧差だけで大量の水分が腸管内腔に漏れ出す。

flowchart TD
  A["汚染水・食品の摂取(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fecal-oral'>糞口</span>感染)"] --> B["V. choleraeが線毛で腸管粘膜に付着<br>(細胞内侵入なし)"]
  B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cholera toxin'>コレラ毒素</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='AB-type exotoxin'>AB型外毒素</span>)放出"]
  C --> D["Aサブユニットが<span class='jp-term jp-term-diagram' title='adenylyl cyclase, AC'>アデニル酸シクラーゼ</span>を持続活性化"]
  D --> E["cAMP上昇→Naポンプ阻害+Cl⁻分泌過剰"]
  E --> F["大量の水様性下痢(米のとぎ汁様)"]
  F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypovolemic shock'>循環血液量減少性ショック</span>・アシドーシス"]

臨床像

診断

検査 所見
アルカリ性pH約9で平滑・円形・黄色のコロニーを形成
便の 特徴的な運動性が観察できる
血清学的検査 O1・O139に対する。O1血清型はさらにInaba・Ogawa・Hikojimaに分かれる

臨床的には、流行地・状況での典型的な米のとぎ汁様大量から迅速に疑い、確定を待たずに輸液を開始することが重要である。

治療

治療の第一選択は輸液(、重症例は輸液)であり、抗菌薬はこれを補助する位置づけである。

flowchart TD
  A["米のとぎ汁様<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Watery Diarrhea'>水様下痢</span>を疑う"] --> B["脱水の重症度を評価"]
  B --> C["軽度〜中等度脱水"]
  B --> D["重度脱水・ショック"]
  C --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ORT'>経口補水療法</span>"]
  D --> F["急速な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intravenous'>静脈内</span>輸液で循環を安定化"]
  F --> E
  E --> G["高頻度<span class='jp-term jp-term-diagram' title='watery stool'>水様便</span>・脱水著明・重症例に抗菌薬を追加"]

💡 ORTが効く理由。 はCl⁻分泌と連動するNa⁺の通常吸収経路を阻害するが、小腸のNa⁺-グルコースは障害されない。経口的にグルコースを含む電解質液を投与すると、このを介して水分・塩分を効率よく吸収できる——毒素に妨げられない「抜け道」を利用した治療法である。

  • 抗菌薬は全例には投与しない。対象は重症脱水入院例、高頻度、初期4時間の輸液に反応しない例、または脱水の程度によらず妊娠・重症急性・HIV感染などのや60歳超の危険因子がある例に限られ、有病期間・排便量・を減らす目的で用いる2。現地株が感受性であればドキシサイクリン単回投与(成人・妊婦を含め300mg、12歳未満の小児は2〜4mg/kg)が年齢・妊娠の有無を問わず第一選択で、ドキシサイクリン耐性が判明・疑われる場合の代替はアジスロマイシン単回投与(成人1g、小児20mg/kg・上限1g)または単回投与(同量)である2
  • 生後6か月〜5歳の小児は下痢の重症度・原因を問わず20mg/日を10日間)を併用する——抗菌薬と異なり耐性化のリスクなく下痢の量と期間を減らせる2
  • 予防:国際的に流通する(OCV)は主に不活化(死菌)ワクチン(Dukoral、Shanchol、Euvichol等)で、IgA産生を誘導する。2回接種の防御効果は12か月時点で55〜69%、48か月時点で44〜47%までし、1回接種は6か月時点で約70%から30か月時点で約42%とより早く減衰する。5歳未満の小児は5歳以上より効果が明らかに低い(2回接種の31% vs 62%)ため、ワクチンだけに頼らず良好なと併用する3

まとめ

  • は細胞内に侵入せず、だけでを持続活性化しcAMPを上昇させる「侵襲なし・毒素だけ」の病原体である。
  • 炎症・細胞死を伴わないため便に血液・膿は混じらず、「米のとぎ汁様」の大量が特徴。
  • 治療の第一選択はで、が阻害しないNa⁺-グルコースを利用することで死亡率を1%未満に下げられる。
  • 抗菌薬は重症脱水・高頻度・輸液不応、または妊娠・重症急性・HIV感染・60歳超といった危険因子がある例に限るで、ドキシサイクリン単回投与が年齢・妊娠を問わず第一選択、耐性が判明・疑われる場合はアジスロマイシンまたはを用いる。
  • 診断はでの黄色とO1/O139に対する血清学的検査が中心。

出典

  1. 1.Interim Technical Note: Use of Antibiotics for the Treatment and Control of Cholera (Revised October 2022)(Global Task Force on Cholera Control (GTFCC)・2022)抗菌薬投与の対象は重症脱水入院例、高頻度水様便(観察開始4時間で平均1回/時間以上の排便)、初期4時間の輸液に反応しない例、または脱水の程度によらず妊娠・重症急性栄養障害・HIV感染などの併存疾患や60歳超の危険因子がある例に限られること、現地株が感受性であればドキシサイクリン単回投与(成人・妊婦を含め300 mg、12歳未満は2〜4 mg/kg)が年齢・妊娠の有無を問わず第一選択で、ドキシサイクリン耐性が判明・疑われる場合の代替はアジスロマイシン(成人1 g、小児20 mg/kg・上限1 g)またはシプロフロキサシン(同量)であること、生後6か月〜5歳の小児は下痢の重症度・原因を問わず亜鉛(硫酸亜鉛20 mg/日を10日間)を併用することを確認した閲覧 2026-08-03
  2. 2.Protection from killed whole-cell cholera vaccines: a systematic review and meta-analysis(The Lancet Global Health / GTFCC OCV Working Group・2025)2回接種の経口コレラワクチンの防御効果は12か月時点で効力55%・実地有効性69%、48か月時点で効力44%・有効性47%まで漸減すること、1回接種では6か月時点で有効性約70%、30か月時点で約42%とより早く減衰すること、5歳未満の小児の2回接種効力(31%)は5歳以上(62%)より明らかに低いことを確認した閲覧 2026-08-03
  3. 3.Cholera (Vibrio cholerae Infection)(StatPearls / NCBI Bookshelf・2024)コレラの典型像は無痛性・非発熱性の水様下痢(米のとぎ汁様)であり、抗菌薬(ドキシサイクリンが第一選択)は初期輸液で循環が安定し嘔吐が治まった後に投与する補助療法であることを確認した閲覧 2026-08-03