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Disease Atlas · 感染症 · 疾患

ジフテリア

Diphtheria

臓器系
感染症呼吸器
科目
Medical Microbiology
トピック
微生物学 2/32:ジフテリア菌、ジフテロイド、プロピオニバクテリウム属
鑑別疾患
クループ・急性喉頭蓋炎・細菌性気管炎急性壊死性潰瘍性歯肉炎
関連疾患
破傷風百日咳
治療薬
ペニシリンGエリスロマイシン
原因微生物
Corynebacterium diphtheriae
症状
咽頭痛眼筋麻痺吸気性喘鳴球麻痺倦怠感出血弛緩性麻痺発熱浮腫複視麻痺嚥下障害頸部リンパ節腫脹
適応薬
エリスロマイシン

🧠 全体像:ジフテリアは「菌自体は咽頭局所にとどまるのに、毒素だけが全身を回る」という二重構造の疾患である。*Corynebacterium diphtheriae*は咽頭・皮膚から出ることはないが、そこで産生されるが血流に乗って心臓・末梢神経へ到達し、局所のと全身性の(心筋炎・神経麻痺)という2つの異なる病像を作る。ワクチン接種率の低下した地域では現在も輸入例・が報告されており、「過去の病気」ではない。

病原体と発症機序

C. diphtheriaeは(・を持つ)で、ヒトのみに感染し、患者や者からの飛沫感染で伝播する。菌は咽頭・皮膚粘膜表面で増殖するが、へは侵入しない。

病原性の本体は()である。Bサブユニットが細胞膜受容体に結合し、Aサブユニットが細胞内に取り込まれてeEF2(真核生物翻訳)をする。これによりリボソームでの蛋白合成が停止し、細胞は壊死する。この局所の壊死組織・線維素・炎症細胞が咽頭粘膜表面に厚く灰色のを形成する。

flowchart TD
  A["飛沫感染でC. diphtheriaeが咽頭・皮膚に定着<br>(菌自体は局所にとどまる)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='diphtheria toxin'>ジフテリア毒素</span>産生(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='AB-type exotoxin'>AB型外毒素</span>)"]
  B --> C["局所:eEF2の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ADP-ribosylation'>ADP-リボシル化</span>→蛋白合成停止"]
  C --> D["咽頭<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mucosal necrosis'>粘膜壊死</span>→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pseudomembrane formation'>偽膜形成</span>"]
  D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pseudomembrane'>偽膜</span>が咽頭・喉頭・気管へ進展"]
  E --> F["気道閉塞(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pseudomembrane'>偽膜</span>剥離による窒息リスク)"]
  B --> G["毒素が血流で拡散(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='toxemia'>毒血症</span>)"]
  G --> H["心毒性:心筋炎・不整脈・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='heart block'>心ブロック</span>"]
  G --> I["神経毒性:脱髄<br>第3週に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='palatal palsy'>軟口蓋麻痺</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nasal speech (rhinolalia)'>鼻声</span>・嚥下障害)<br>第5週以降に眼筋・四肢・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='diaphragmatic paralysis'>横隔膜麻痺</span>"]

臨床像

潜伏期は2〜5日。・・倦怠感で発症し、灰白色のが扁桃・咽頭を覆う。は無理に剥がすと出血し、進行すると咽頭〜喉頭〜気管へ拡大して気道閉塞を来す。重症例では部から前頸部にかけての著明な軟部組織浮腫にリンパ節腫脹が加わり、外観上首が太く見える「牛の」徴候を呈する1。の推定はおおむね5〜10%である1。

⚠️ は無理に剥離しない。 出血に加え、剥離面から毒素の吸収が促進されうる。気道閉塞の徴候(、)があれば直ちに気道確保を検討する。

毒素が血流で全身に拡散すると、心筋炎(不整脈、、心不全)と神経毒性が出現しうる。心筋炎は発症後1〜2週間で顕在化することが多いが、は経過の早期にも数週間後にも起こりうるとしている1。神経麻痺は「上から下へ」時間差で降りてくる——(・嚥下障害)は第3週に最も多く、・、四肢の、そしては第5週以降に起こりうる1。皮膚に感染すると「」として難治性潰瘍を形成するが、全身毒性は呼吸器型より軽度なことが多い。

⚠️ 急性期を乗り切っても、の監視期間が残る。 局所のや気道閉塞が落ち着いた後、第5週以降にが現れうるため、と呼吸状態の観察を数週間続ける1。

診断

臨床的にを疑ったら、を待たずに治療を開始する。確定診断は・での培養と、毒素産生の確認(など)による。

検査 内容
咽頭・培養 (黒色コロニー)、(が強く出る)
(Babes-Ernst顆粒)を青紫色に染色し「」様の菌体を確認
を含むと菌株を同一培地に置き、毒素とので毒素産生を確認
毒素遺伝子(tox遺伝子)の検出。迅速だが毒素産生の有無と発現量は別に評価が必要

治療

臨床診断のみで確定診断を待たず、と抗菌薬を直ちに開始する。

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pharyngeal pseudomembrane'>咽頭偽膜</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bull-neck appearance'>牛の首徴候</span>などから<br>臨床的にジフテリアを疑う"] --> B["検体採取後、確定診断を待たず治療開始"]
  B --> C["ジフテリア<span class='jp-term jp-term-diagram' title='antitoxin'>抗毒素</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='direct antiglobulin test'>DAT</span>)投与<br>(毒素中和・受動免疫)"]
  B --> D["抗菌薬:ペニシリンまたは<span class='jp-term jp-term-diagram' title='erythromycin'>エリスロマイシン</span>を14日間"]
  C --> E["気道閉塞なら気道確保・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='artificial ventilation'>人工換気</span>"]
  D --> E
  E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='electrocardiographic monitoring'>心電図モニタリング</span>・神経症状の経過観察"]
  • ():毒素の中和が治療の中心で、臨床診断がついた時点でを待たずに投与する(毒素は一度細胞に結合すると中和できないため、早期投与が予後を左右する)。
  • 抗菌薬:ペニシリンまたはを14日間投与し、菌の排除と毒素産生の停止、周囲への感染拡大防止を図る2。が推奨するのはこの2剤のみで、は適応としない3。抗菌薬治療は感染部位・症状の有無・毒素産生性を問わず適用される2。⚠️ 世界の複数地域でペニシリン耐性が高率に報告されており、薬剤選択にあたって考慮する3。
  • ではは通常必要とせず、抗菌薬のみで足りる(を併用するのは呼吸器ジフテリア)3。
  • 気道閉塞の徴候があれば早期に気道確保・を行う。
  • 心筋炎・神経症状の出現に備え、とを継続する。
  • には7日または10日間、もしくはGの単回筋注による予防投与を行う2。

⚠️ は原則由来のため、投与前にアナフィラキシー・のリスク評価(等)が必要。

予防

を不活化したによるが基本で、破傷風と百日咳抗原との混合ワクチンとして接種される。混合の組み合わせと抗原量は年齢で変わり、米国では次のように勧告されている4。

対象 製剤 回数・間隔
7歳未満 2か月・4か月・6か月・15〜18か月・4〜6歳の5回
11〜12歳 1回
成人 Tdまたは 10年ごとの追加接種(を1回受けたあとはどちらでもよい)

TdとTdapは年長児・成人用にを減量した製剤である(小文字のdがそれを示す)5。百日咳成分を含まない小児用のDTは米国では入手できなくなっており、7歳未満はに一本化されている4。

⚠️ 製剤の名前との組み合わせは国ごとに違うので、「DTPワクチン」という一括りの呼び方では答えが決まらない。 上の表は米国の勧告である。日本のでは、乳児期にジフテリア・破傷風・百日せきをポリオとHib感染症まで含めた5種混合ワクチン(または四種混合DPT-IPV)として接種し、11歳からの追加接種はDTワクチン(ジフテリアと破傷風のみ)で百日せき成分を含まない6。同じ年齢でも米国はで百日せきを追い、日本はDTで追わないという違いがあるため、接種歴を聴くときはどの国のどの製剤かまで確かめる。

追加接種が必要なのは、自然感染や過去の接種歴があってもは保証されないためである。

まとめ

  • ジフテリアはC. diphtheriaeが産生する()による疾患で、菌自体は咽頭・皮膚局所にとどまるが、毒素がeEF2をして蛋白合成を止め、局所のと全身性の(心筋炎・神経麻痺)を引き起こす。
  • 臨床的に・を疑ったら、培養やの結果を待たずに+抗菌薬(ペニシリンまたは14日間2、アミノグリコシドは適応外)を開始する。「牛の首」は重症例の部〜前頸部の軟部組織浮腫+リンパ節腫脹による外観である1。
  • 気道閉塞、心筋炎(不整脈・)、神経毒性(第3週の → 第5週以降の眼筋・四肢・横隔膜の麻痺)の出現を継続的に監視する1。はおおむね5〜10%。
  • 予防はによるで、百日咳・破傷風との混合ワクチンとして接種される。製剤は年齢で変わり、米国では7歳未満がの5回接種、11〜12歳にを1回、成人は10年ごとにTdまたはである4。

出典

  1. 1.Chapter 7: Diphtheria — Epidemiology and Prevention of Vaccine-Preventable Diseases (Pink Book)(CDC・2024)「牛の首」が重症例における顎下部および前頸部の著明な浮腫にリンパ節腫脹を伴った外観であること(原文「Patients with severe disease may develop marked edema of the submandibular areas and the anterior neck along with lymphadenopathy, giving a characteristic 'bull neck' appearance.」)、神経麻痺の時期が「軟口蓋麻痺は第3週に最も多く、眼筋・四肢・横隔膜の麻痺は第5週以降に起こりうる」であること(原文「Paralysis of the soft palate is most frequent during the third week of illness. Paralysis of eye muscles, limbs, and the diaphragm can occur after the fifth week.」)、心筋炎が経過の早期にも数週間後にも起こりうること(原文「Myocarditis may present as abnormal cardiac rhythms and can occur early in the course of the illness or weeks later.」)、致命率の推定がおおむね5〜10%であること(原文「The estimated overall case fatality ratio for diphtheria is 5% to 10%.」)を確認した。最終更新は2024年4月23日。⚠️ cdc.gov は素の curl が403を返すため WebFetch 経由で取得した(上記の引用は逐語で返っている)閲覧 2026-09-08
  2. 2.Chapter 1: Diphtheria — Manual for the Surveillance of Vaccine-Preventable Diseases(Centers for Disease Control and Prevention・2025)感染部位・症状の有無・毒素産生性にかかわらず C. diphtheriae 感染者が抗菌薬治療を受けるべきであること、治療期間が「エリスロマイシンまたはペニシリンを14日間」であること(原文「A treatment course with erythromycin or penicillin is administered over 14 days.」)、濃厚接触者への予防投与がエリスロマイシン7日または10日間もしくはベンザチンペニシリンG単回筋注であることを確認した。最終更新は2025年1月8日閲覧 2026-09-08
  3. 3.Clinical Guidance for Diphtheria(CDC・2026)呼吸器・皮膚ジフテリアの抗菌薬治療について「Only erythromycin or penicillin is recommended.」とし、この2剤以外を推奨しないこと、世界の複数地域でペニシリン耐性が高率に報告されており薬剤選択時に考慮すべきこと(原文「High rates of penicillin resistance have been reported in multiple regions worldwide and should be considered when selecting treatment.」)、皮膚ジフテリアでは抗毒素が通常必要でないこと(原文は皮膚ジフテリアの項で「Antitoxin isn't typically needed.」)を確認した。最終更新は2026年7月31日。⚠️ cdc.gov は素の curl が403を返すため WebFetch 経由で取得した閲覧 2026-09-08
  4. 4.Diphtheria Vaccine Recommendations(Centers for Disease Control and Prevention・2026)最終確認2026年7月31日版で、米国の勧告が7歳未満にDTaPを2か月・4か月・6か月・15〜18か月・4〜6歳の5回接種、11〜12歳にTdapを1回、成人は10年ごとの追加接種(Tdapを1回受けたあとはTdまたはTdap)であること、DT(百日咳成分を含まない小児用製剤)は米国では入手できなくなっていることを確認した。⚠️ cdc.gov は素の curl が403を返すため WebFetch 経由で取得した閲覧 2026-09-27
  5. 5.Use of Tetanus Toxoid, Reduced Diphtheria Toxoid, and Acellular Pertussis Vaccines: Updated Recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices — United States, 2019(Advisory Committee on Immunization Practices (ACIP) / CDC, MMWR・2020)表題そのものが Tdap を「破傷風トキソイド・減量したジフテリアトキソイド・無細胞型百日咳ワクチン」と定義しており、TdとTdapの小文字のdが減量したジフテリアトキソイドを指すことを確認した閲覧 2026-09-27
  6. 6.予防接種・ワクチン(定期接種の対象疾病)(厚生労働省・2026)定期接種の一覧で、ジフテリア・破傷風・百日せきを含む混合ワクチンとして生後2か月からの5種混合ワクチン(ジフテリア・破傷風・百日せき・ポリオ・Hib感染症)と四種混合(DPT-IPV)が挙げられ、11歳からはDTワクチン(ジフテリアと破傷風のみ)であって百日せき成分を含まないことを確認した閲覧 2026-09-27