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Disease Atlas · 呼吸器 · 病態

横隔膜機能不全

Diaphragm dysfunction

別名
横隔膜麻痺横隔膜機能障害横隔膜筋力低下
臓器系
呼吸器神経
科目
Macroscopic Anatomy and Embryology (Macroscopic Anatomy)Internal Medicine
トピック
解剖学 2.2:胸部:筋と筋膜(胸壁)内科学 L-19:呼吸困難の鑑別診断
鑑別疾患
先天性横隔膜弛緩症
症状
呼吸困難起坐呼吸労作時呼吸困難
検査値
経横隔膜圧最大吸気圧・最大呼気圧鼻腔吸気圧横隔神経伝導検査スパイロメトリー
画像所見
横隔膜超音波無気肺
元疾患
筋萎縮性側索硬化症神経痛性筋萎縮症

🧠 全体像:横隔膜は神経支配・筋そのものの収縮機能・胸壁との力学的連結という3つの要素で働いており、そのどこが壊れても機能不全になる1。⭐ 臨床でまず決めるのは重症度ではなく片側か両側か——片側は多くが無症状で経過観察、両側は仰臥位で呼吸ができなくなりの適応を測る話になる。この一点で、必要な検査も治療も別の道へ分かれる。

片側か両側か——最初に分ける軸

片側性 両側性
症状 無症状のことが多い。高度なら、時・咳嗽時の呼吸困難、胸痛、2 仰臥位と労作時の高度の呼吸困難。が高頻度2
予測値の約75%。仰臥位でさらに10〜20%低下。・は概ね保たれる2 予測値の約50%。仰臥位で30〜50%低下。も低下しうる2
予測値の60%程度2 予測値の30%未満2
を捉えられる ⚠️ 用いるべきでない2
治療 無症状なら経過観察。症状が続けば術 原因治療+。適応があればペーシング

⚠️ 両側性にを使わない。 両側とも動かないので左右差が出ず、な呼吸パターンで見かけ上の動きが生まれて偽陰性になる2。「が正常だったから横隔膜は大丈夫」というの出し方が最も危ない。

原因

片側性は「が一本やられた」出来事として考える2。

  • 心臓手術——でのは報告により1〜60%と大きく幅がある
  • 頸部手術、肺・心・
  • 外傷、
  • ()
  • 悪性腫瘍・リンパ節・甲状腺腫による圧迫
  • 特発性

両側性は全身性の病気の一部として現れる2。

💡 は「神経も筋も正常なのに機能不全」の代表例である。長さ-で不利な位置に押し下げられているだけで、これが全体像で述べた「胸壁との力学的連結」の破綻に当たる。

ICUでの横隔膜筋力低下

重症患者では横隔膜筋力低下の頻度が高い。入室前から存在して人工呼吸導入の契機になることもあれば、滞在中に新たに生じることも多く、危険因子としては敗血症と人工呼吸が中心的な役割を果たす3。これらを総称して critical illness-associated diaphragm weakness と呼ぶ3。

⚠️ この筋力低下は死亡率の上昇・・人工呼吸期間の延長と一貫して関連する3。から離脱できない患者の「原因不明」の中に、横隔膜そのものの問題が隠れている。関連筋力低下を疑う場面と重なる。

診断——非侵襲的な検査から段階的に

flowchart TD
    A["仰臥位で悪化する呼吸困難<br>/原因不明の人工呼吸<span class='jp-term jp-term-diagram' title='difficult weaning'>離脱困難</span>"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chest radiograph'>胸部単純X線</span><br>感度90%・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='positive predictive value'>陽性的中率</span>33%"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='spirometry'>スパイロメトリー</span><br>臥位・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sitting position'>坐位</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vital capacity'>肺活量</span>の差を見る"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='diaphragm ultrasonography'>横隔膜超音波</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='thickening fraction'>厚化率</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='excursion (distance of movement)'>移動距離</span>"]
    D --> E{"神経か筋かを分ける必要"}
    E -->|"あり"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='phrenic nerve conduction study'>横隔神経伝導検査</span><br>/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='needle electromyography'>針筋電図</span>"]
    E -->|"定量が必要"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='phrenic nerve'>横隔神経</span>刺激による<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='single twitch'>単収縮</span>時<span class='jp-term jp-term-diagram' title='transdiaphragmatic pressure'>経横隔膜圧</span>"]
    G --> H["15 cmH2O未満で<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='diaphragmatic dysfunction'>横隔膜機能不全</span>"]

は感度90%だがは33%にとどまる2。⚠️ 「横隔膜が挙上している」だけでは診断にならない——3回に2回は外れる。

のは、呼気終末の厚み0.15 cm、20%、が女性3.7 cm・男性4.7 cmである2。

⭐ 圧の検査は「何を測っているか」で階層が違う。

検査 測っているもの 判定
・ 全体の合力 −80 cmH2Oより陰圧側(絶対値80 cmH2O超)であれば臨床的に意味のある筋力低下は概ね除外できる2
() 横隔膜単独。ただし努力依存 単一のに向かない
時(刺激) 横隔膜単独・努力非依存 15 cmH2O未満で機能不全2
時の口腔・ 同上(食道/胃バルーンが不要) 11 cmH2O未満で機能不全2

💡 MIP・が正常なら、それだけで話が終わる。 除外に強い検査を先に置き、異常だったときにだけ横隔膜単独の評価へ降りる——これが検査の順番の理屈である。とは「神経か筋か」を分ける役で、圧の検査とは目的が違う。

治療

では患側横隔膜の挙上が手掛かりになり、下葉のを伴うことがある。

片側性で無症状なら治療を要しない2。症状が続くときは12か月以上の経過観察を経てからを検討する。術後6か月でが約20%改善し、呼吸困難スコアが2単位低下、が約30点改善したと報告されている2。

⚠️ なぜ12か月待つのか——術後や外傷後の障害はしうるからである2。早く手術しても回復した横隔膜を縫い縮めるだけになる。

両側性では原因治療(shrinking lung症候群、甲状腺機能低下症、は治療で改善しうる)を行いつつ、の適応を測る2。

の適応(いずれか) 値
日中の 45 mmHg超
あり
予測値の60%未満
予測値の50%未満
20 mL/kg未満

は、機能が保たれた両側性の人工呼吸依存例、とくにので有効性が高い2。⚠️ を対象とした試験は、治療群の生存が低下したため早期中止された2。「呼吸筋が弱いなら刺激すればよい」は成り立たない。

こうした患者は経験のある施設で治療すべきとされる1。

まとめ

  • は、神経支配・筋の収縮機能・胸壁との力学的連結のいずれの破綻でも起こる。
  • ⭐ 最初に決めるのは片側か両側か。片側はが予測の約75%で多くが無症状、両側は約50%で仰臥位にさらに30〜50%落ちる。
  • ⚠️ 両側性にを使わない(代償で偽陰性になる)。胸部X線のは33%で、挙上所見だけでは診断にならない。
  • 片側の代表は心臓手術後と、両側は神経筋疾患・・甲状腺機能低下症・・人工呼吸。
  • では敗血症と人工呼吸を危険因子とする横隔膜筋力低下が高頻度で、と死亡率上昇に一貫して関連する。
  • 圧の検査は階層で使う。MIP・(−80 cmH2Oより陰圧側なら概ね除外)は全体の評価に、時(15 cmH2O未満)は横隔膜単独の定量に。
  • 片側で症状が続けば12か月以上の観察後に術。両側は原因治療と。ペーシングはので有効だが、ALSでは生存低下により試験が中止された。

出典

  1. 1.Diaphragmatic dysfunction(Pulmonology(Ricoy J, Rodríguez-Núñez N, Álvarez-Dobaño JM, et al.)・2019)横隔膜が主要な呼吸筋でありその収縮が換気に不可欠であるため、横隔膜の神経支配・筋の収縮機能・胸壁との力学的連結のいずれを妨げる病態も横隔膜機能不全を起こしうること、横隔膜機能不全が呼吸困難・運動耐容能低下・睡眠障害・過眠と関連し生存に影響しうること、診断が静的・動的な画像検査(とくに超音波)と呼吸機能検査・横隔神経刺激検査に基づくこと、治療が症状と原因により決まり、片側性の無症状例では経過観察、症状のある両側麻痺では横隔膜縫縮術・横隔膜ペースメーカー留置・侵襲的/非侵襲的人工換気が選択肢となること、こうした患者は経験のある施設で治療すべきとされることを確認した。抄録のみを閲覧しており全文は未取得閲覧 2026-09-05
  2. 2.Diaphragm Dysfunction: Diagnostic Approaches and Management Strategies(Journal of Clinical Medicine (Dubé BP, Dres M)・2016)片側性は無症状のことが多く高度になると起坐呼吸・前屈時や咳嗽時の呼吸困難・胸痛・労作時呼吸困難を来し、両側性では仰臥位と労作時の高度の呼吸困難と睡眠呼吸障害が高頻度であること、片側性の原因が心臓手術(冠動脈バイパス術での発生率は報告により1〜60%)・頸部手術・肺/心/肝移植・外傷・頸椎症・Parsonage-Turner症候群・悪性腫瘍やリンパ節・甲状腺腫による圧迫・特発性であること、両側性の原因が神経筋疾患(筋萎縮性側索硬化症・ギラン・バレー症候群・筋ジストロフィー)・SLEのshrinking lung症候群や皮膚筋炎・甲状腺機能低下症・低栄養・COPDの過膨張による力学的不利・人工呼吸(24時間以内に横隔膜の筋線維萎縮を起こす)であること、片側性では肺活量が予測値の約75%で仰臥位によりさらに10〜20%低下し機能的残気量と全肺気量は概ね保たれること、両側性では肺活量が予測値の約50%で仰臥位により30〜50%低下し全肺気量も低下しうること、胸部単純X線の感度が90%だが陽性的中率は33%と低いこと、透視下sniffテストは努力依存性で基準法との比較がほとんどなく両側性には用いるべきでないこと、超音波の正常下限が呼気終末厚0.15 cm・厚化率20%・移動距離が女性3.7 cm/男性4.7 cmであること、単収縮時経横隔膜圧15 cmH2O未満・単収縮時の口腔/気管内圧11 cmH2O未満が機能不全を示すこと、最大吸気圧が−80 cmH2Oを下回っていれば臨床的に意味のある筋力低下は概ね除外され片側麻痺では予測値の60%程度・両側麻痺では予測値の30%未満に低下すること、片側性で症状が続く場合は12か月以上の経過観察のうえ横隔膜縫縮術を検討し努力性肺活量が6か月で約20%改善・呼吸困難スコアが2単位低下・QOLが約30点改善すると報告されていること、非侵襲的陽圧換気の適応が日中の高炭酸ガス血症(PaCO2 45 mmHg超)・夜間低換気・最大吸気圧が予測値の60%未満・努力性肺活量が予測値の50%未満・肺活量20 mL/kg未満であること、横隔膜ペーシングが横隔神経機能の保たれた両側性の人工呼吸依存例(とくに高位脊髄損傷)で有効な一方、筋萎縮性側索硬化症を対象とした試験は治療群の生存低下により早期中止されたことを確認した閲覧 2026-09-05
  3. 3.Critical illness-associated diaphragm weakness(Intensive Care Medicine(Dres M, Goligher EC, Heunks LMA, Brochard LJ)・2017)重症患者では横隔膜筋力低下の頻度が高く、ICU入室前から存在して人工呼吸導入の契機となることもあれば、ICU滞在中に生じることも多いこと、危険因子として敗血症と人工呼吸が中心的な役割を果たすこと、これらを総称して critical illness-associated diaphragm weakness と呼ぶこと、この筋力低下がICU死亡率の上昇・離脱困難・人工呼吸期間の延長という不良な転帰と一貫して関連すること、ベッドサイドでの呼吸筋評価が検出を改善し予防的・治療的戦略を可能にすると期待されること、吸気筋トレーニングと薬物的介入が呼吸筋機能を改善しうるものの臨床転帰についてのデータは限られることを確認した。抄録のみを閲覧しており全文は未取得閲覧 2026-09-05