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Lab values · Published

最大吸気圧・最大呼気圧

Maximal inspiratory and expiratory pressure

別名
MIPMEPPImaxPEmax呼吸筋力検査
臓器系
呼吸器神経
科目
PhysiologyPulmonology
トピック
生理学 3.1:肺気量・死腔・肺胞換気呼吸器内科 04:呼吸機能検査:静的・動的肺気量
関連疾患
ギラン・バレー症候群デュシェンヌ・ベッカー型筋ジストロフィー筋萎縮性側索硬化症重症筋無力症

🧠 全体像は「がある」ことは確定できても、「なぜか」——肺実質性か、胸郭性か、神経筋性か——までは決められない。この三者を切り分ける次の一手が、呼吸筋そのものの力を直接測る検査である。MIP()・MEP()はがまだ正常範囲にとどまっている段階でも呼吸筋力低下を検出できるため、神経筋疾患の呼吸管理ではよりも早期に異常を拾える指標として位置づけられる。

何を測っているか

を介して口腔内圧を測定する。

指標 測定 手技 反映する筋力
MIP( (RV)位 最大努力で吸気し、口腔内に生じる陰圧を測る 横隔膜を含むの筋力1
MEP( 最大努力で呼気し、口腔内に生じる陽圧を測る 腹筋など呼気筋の筋力1も含む)

💡 MEPの臨床的な重みは「咳の力」そのものである点にある。 有効な咳は後の腹圧上昇による呼気流量で生まれるため、MEP低下はそのまま能力の低下を意味する。実際にMEPが60 cmH2O未満だと有効な咳ができないと予測される1。誤嚥・・肺炎のリスクを見積もるとき、MIPよりMEPの値を優先して見る理由はここにある。

基準値と単位

単位はcmH2O。MIPは陰圧、MEPは陽圧として報告される。年齢・性で大きく異なり、参照式によって予測値が変わる。 絶対値のと%予測値のどちらも臨床で使われており、単一の正解はない。

成人18〜65歳の目安として、MIPは男性で-90 cmH2O未満・女性で-70 cmH2O未満、MEPは男性で140 cmH2O超・女性で90 cmH2O超が正常範囲とされ、65歳以上ではこれより緩い基準が用いられる1数値は必ず年齢・性別に対応した参照式と照合し、施設のを確認する。

⚠️ 測定上の注意

この検査で最も見落としてはいけないのは、という性質そのものである。

  • 低値の解釈: MIP/MEPは患者の最大努力を要する検査であり、低値が「真の筋力低下」なのか「努力不足・手技の不良(コーチング不足、の咥え方)」なのかを、検査結果だけからは区別できない2低値が出たら、まず複数回測定して値の再現性を確認するのが最初にすべきステップであり、1回の低値だけで筋力低下と即断しない。
  • からの が弱い患者(のある神経筋疾患、)では、口唇でを密閉できず、真の筋力より低い値が測定される23
  • SNIP(による代替・補完: SNIPはを使わず片側の鼻孔で測定するため、で口唇閉鎖ができない患者でも施行しやすい。ただしSNIPとMIPは相互に置換できる指標ではなく、相補的に用いるべきであり、SNIPが正常であればでの偽の低値によって低下を過大評価している可能性を除外する助けになる2
  • 測定位の遵守: MIPはRV位、MEPはTLC位で測定するという条件を守らないと、肺・胸郭の弾性圧の寄与分だけ値が変わってしまう。

神経筋疾患の呼吸管理

呼吸筋力が緩徐または急速に低下していく神経筋疾患——重症筋無力症——では、MIP/MEPはと並行して経過観察に使う。

疾患 MIP/MEPの使われ方
ALS NIV導入の判断材料の一つ。ある総説が紹介するEFNS基準では、FVC<80%予測値・SNIP<40 cmH2O・有意な夜間低下・PCO2>45 mmHgのいずれかを満たせばNIV開始を検討するとされる3
DMD 非歩行期の全患者で座位FVCとMIP/MEPを少なくとも6か月毎に測定する。(咳介助)はFVC<50%予測値・<270 L/分・MEP<60 cmH2Oのいずれかで適応となり、夜間NIVはFVC<50%予測値またはMIPの絶対値<60 cmH2Oで開始が推奨される4
重症筋無力症 の評価にMIP/MEPのな低下を用いる
GBS 急性期の呼吸不全進行をとらえるため、VCとあわせて頻回に追跡する

抜管の可否判定と横隔膜麻痺の評価

MIP/MEPは可否の判断材料の一つとして測定されるが、単独で成功・失敗を予測できる指標ではない。 物量、酸素化、咳嗽力(MEP・が代理指標になる)など複数の要素と組み合わせて総合的に判断する。

片側性では無症状〜軽度のにとどまることが多いが、両側性では臥位で著明に増悪する呼吸困難を来しうる。MIPの低下(特に臥位での低下が座位より大きい所見)が、を疑う手がかりの一つになる。

位置づけ/次に進むべき検査

測定でが疑われ、原因が肺実質性か肺外性かの切り分けに神経筋性が候補として残るとき、MIP/MEPを測定する。逆に、でTLC低下を伴わずにRVだけが上昇している所見は、神経筋性の呼気筋力低下を疑う手がかりになり、MIP/MEPで裏づける。

さらに評価を進めるなら、そのものを調べる超音波でみる横隔膜の動き・厚みの直接評価、日中のMIP/MEPが保たれていても夜間だけ低換気になる例を拾うための睡眠時のPCO2測定()という順に進む。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='body plethysmography'>体プレチスモグラフィ</span>/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='spirometry'>スパイロメトリー</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='restrictive ventilatory impairment'>拘束性換気障害</span>が疑われる・確定した"] --> B{"肺実質性・胸郭性の<br>所見に乏しいか"}
    B -->|"はい"| C["MIP・MEPを測定"]
    C --> D{"低値か"}
    D -->|"はい"| E["再現性を確認<br>(努力不足・手技不良の除外)"]
    E --> F{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bulbar palsy'>球麻痺</span>など<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='mouthpiece'>マウスピース</span>密閉困難"}
    F -->|"はい"| G["SNIPで補完・代替"]
    F -->|"いいえ"| H["神経筋性の呼吸筋力低下を支持"]
    G --> H
    D -->|"いいえ"| I["神経筋性は否定的<br>肺実質性・胸郭性を再検討"]
    H --> J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='phrenic nerve conduction study'>横隔神経伝導検査</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='diaphragm ultrasonography'>横隔膜超音波</span>・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='nocturnal hypoventilation assessment'>夜間低換気評価</span>へ"]

まとめ

  • MIP・MEPはが「がある」までしか言えないところから一歩進み、肺実質性・胸郭性・神経筋性を切り分ける検査である。
  • MIPはRV位での(横隔膜など)の筋力、MEPはTLC位での呼気筋(腹筋など)の筋力を反映し、MEPは咳の有効性()に直結する。
  • はcmH2O単位で年齢・性により大きく異なり、参照式の確認が必須である。
  • 最大の落とし穴はである。 低値が真の筋力低下か努力不足・手技不良かは区別できず、再現性確認が最初のステップになる。
  • が弱い患者ではからので過小評価されうる。SNIPはその代替・補完になるが、MIPと相互に置換できるものではない。
  • ALS・DMD・重症筋無力症・GBSなどの神経筋疾患で、とあわせてNIV導入やの判断に使われる。可否は単独で予測できず、の評価では臥位での低下が手がかりになる。
  • 次の一手はである。

出典

  1. 1.Pulmonary Function Tests(StatPearls Publishing(NCBI Bookshelf)(Ponce MC, Sankari A, Sharma S)・2023)MIPは横隔膜など吸気筋の、MEPは腹筋など呼気筋の筋力を反映すること、成人18〜65歳の基準値(MIP男性で-90 cmH2O未満・女性で-70 cmH2O未満、65歳以上はより緩い基準、MEP男性で140 cmH2O超・女性で90 cmH2O超)、MEPが60 cmH2O未満だと有効な咳ができないことを予測することを確認した。閲覧 2026-08-04
  2. 2.Optimal method for assessment of respiratory muscle strength in neuromuscular disorders using sniff nasal inspiratory pressure (SNIP)(PLOS ONE(Kaminska M, Noel F, Petrof BJ)・2017)MIPはマウスピースでの口唇閉鎖の維持や最大努力の持続が難しいために偽の低値が生じうること、神経筋疾患ではマウスピースに密着した口唇閉鎖ができないことが多くSNIPが代替になること、SNIPとMIPは相互に置換できず相補的に用いるべきこと、ALSではSNIPが優れた予後指標として報告されていることを確認した。閲覧 2026-08-04
  3. 3.Non-invasive ventilation in amyotrophic lateral sclerosis(Therapeutic Advances in Neurological Disorders(Dorst J, Ludolph AC)・2019)EFNSガイドラインのNIV導入基準(FVC<80%予測値・SNIP<40 cmH2O・有意な夜間酸素飽和度低下・PCO2>45 mmHgのいずれか)、球麻痺で顔面筋力が弱い患者ではマウスピースを用いるMIP/MEPの測定値が不正確になりうること、そのためSNIPが推奨されることを確認した。閲覧 2026-08-04
  4. 4.Diagnosis and management of Duchenne muscular dystrophy, part 2: respiratory, cardiac, bone health, and orthopaedic management(The Lancet Neurology(Birnkrant DJ, Bushby K, Bann CM, et al.)・2018)非歩行期の全患者で座位FVCと最大吸気圧・最大呼気圧を少なくとも6か月毎に測定すべきこと、機械的排痰補助(咳介助)はFVC<50%予測値・最大呼気流量<270 L/分・最大呼気圧<60 cmH2Oのいずれかで適応となること、夜間非侵襲的換気はFVC<50%予測値または最大吸気圧の絶対値<60 cmH2Oで開始が推奨されることを確認した。閲覧 2026-08-04