疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 神経 · 疾患

重症筋無力症

Myasthenia gravis

別名
MG
臓器系
神経免疫・膠原病
科目
Neurology
トピック
神経内科 G1-33:重症筋無力症
鑑別疾患
ICU関連筋力低下Miller Fisher症候群ギラン・バレー症候群コリン作動性クリーゼボツリヌス症ミトコンドリア病ランバート・イートン筋無力症候群筋萎縮性側索硬化症先天性筋無力症症候群閉じ込め症候群
続発疾患
新生児一過性重症筋無力症
治療薬
ピリドスチグミンプレドニゾロンアザチオプリンミコフェノール酸モフェチルリツキシマブエクリズマブエフガルチギモドイネビリズマブ
症状
咳眼筋麻痺眼瞼下垂球麻痺筋力低下倦怠感呼吸困難複視嚥下障害流涎多発性関節拘縮
検査値
最大吸気圧・最大呼気圧鼻腔吸気圧反復神経刺激試験
原因となる疾患
胸腺腫
適応薬
アンベノニウムイネビリズマブエクリズマブエフガルチギモドシクロスポリンジスチグミンピリドスチグミンラブリズマブ免疫グロブリン静注療法
禁忌薬
アジスロマイシンアミカシンアルプラゾラムエスゾピクロンオキサゼパムオキシブチニンオフロキサシンカナマイシンクラリスロマイシンクロナゼパムクロバザムクロルジアゼポキシドゲンタマイシンコリスチンジアゼパムシタフロキサシンジフェノキシレートシプロフロキサシンストレプトマイシンゾピクロンソリフェナシンデラフロキサシントブラマイシントリヘキシフェニジルニトラゼパムネチルマイシンノルフロキサシンブチルスコポラミンプロシクリジンボツリヌス毒素ポリミキシンBマグネシウム(Mg++)ミバキュリウムメダゼパムモキシフロキサシンレボフロキサシンロキシスロマイシンロラゼパム

🧠 全体像:重症筋無力症(MG)は、の受容体に対する自己抗体がのを奪う疾患で、「使うほど弱くなり、休むと戻る」の筋力低下が病態の核心である。感覚障害・を伴わない点、そして眼筋→→→呼吸筋という進展パターンを押さえ、呼吸不全・嚥下障害を来すを早期に見抜くことが臨床対応の要となる。・と並ぶ「急性〜亜急性の」の代表的鑑別疾患の一つ。

病態と病型

のに対する自己抗体が受容体の数・機能を低下させ、の(本来はを持って伝達が成立する仕組み)を狭める。反復刺激や活動の持続により伝達がさらに損なわれ、の筋力低下として現れる。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neuromuscular junction (NMJ)'>神経筋接合部</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='postsynaptic membrane'>シナプス後膜</span>への自己抗体"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anti-acetylcholine receptor antibody'>抗AChR抗体</span>(最多)"]
    A --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anti-MuSK antibody'>抗MuSK抗体</span>"]
    A --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anti-LRP4 antibody'>抗LRP4抗体</span>"]
    B --> E["AChR数の減少・機能障害"]
    C --> E
    D --> E
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neuromuscular transmission'>神経筋伝達</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='safety margin'>安全域</span>低下"]
    F --> G["反復運動・持続使用で顕在化する<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fatigability'>易疲労性</span>筋力低下"]
病型 主な特徴
・に限局する。瞳孔()は保たれる
全身型 に加え、顔面・・構音・嚥下・頸部・四肢近位・呼吸筋へ進展する
陽性 最多の血清型。・を伴うことがある
陽性 ・顔面・頸部・呼吸筋優位になりやすく、への反応が乏しいことがある

💡 ・がいずれも陰性の「」の一部はなどで説明されるが、既知の抗体がすべて陰性でも臨床像・でMGと診断される例がある。

臨床像

  • 眼: 左右差のある、する(瞳孔は正常に保たれる——動眼神経麻痺との鑑別点)。
  • 球・顔面: 、、を続けるうちに増悪する力低下、嚥下障害、の低下()。
  • 四肢・体幹: 近位筋優位の筋力低下、頸部伸筋の脱力による。感覚障害は生じない(純粋な運動障害)。
  • 呼吸: 、弱い咳、仰臥位での症状悪化、会話が続かず途切れることはのである。

⭐ (使うほど弱くなる)と、そして感覚障害・を伴わないという2点が、末梢神経障害やとの鑑別の軸になる。

⚠️ 母体が重症筋無力症の場合、(IgG)が胎盤を通過して児にを起こしうる。 母体の重症度・では予測できず、母体が無症状でも起こる。詳細は当該ノートへ。

診断

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fluctuating'>変動性</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fatigability'>易疲労性</span>の眼筋/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bulbar muscles'>球筋</span>/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='proximal muscle weakness'>近位筋力低下</span>"] --> B["呼吸・嚥下・咳嗽を直ちに評価"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anti-acetylcholine receptor antibody'>抗AChR抗体</span>を測定、陰性なら<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anti-MuSK antibody'>抗MuSK抗体</span>などを追加"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='repetitive nerve stimulation test'>反復刺激試験</span>または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='single-fiber electromyography'>単線維筋電図</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neuromuscular transmission'>神経筋伝達</span>障害を確認"]
    D --> E["胸部CT/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='magnetic resonance imaging'>MRI</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thymoma'>胸腺腫</span>を検索"]
    E --> F["病型・抗体・重症度に応じて<span class='jp-term jp-term-diagram' title='treatment strategy'>治療方針</span>を決定"]
  • 抗体検査(を第一に、陰性なら・)と(でのの、での増大)を組み合わせる。
  • (眼瞼への冷却でが一時的に改善する)はの補助所見として有用。
  • は、徐脈などの安全性の懸念と薬剤入手性の問題から、現在は診断の標準検査として通常用いない。
  • 全例で胸部CT/によるの画像検索を行い、など併存しうる自己免疫疾患も評価する。同じくと関連するは、後膜ではなくのKチャネルを標的とする点でMGと区別される。

治療

目的 治療
症候改善(対症療法) ()。では(、下痢、腹痛、徐脈、筋力低下の増悪)を来しうる
免疫治療(維持) などの、、などの。難治例では抗体型・地域の承認状況に応じ、リツキシマブ(特に陽性例)、(等)、()阻害薬(等)などの生物学的製剤を選択する
迅速効果(・クリーゼ・術前) または。効果発現が速く、急速増悪時の治療として用いる
合併例では原則適応。非性の全身型・陽性例でも、発症年齢・を考慮して検討する。陽性のみを理由には行わない(胸腺病理との関連が乏しいため)

カルシニューリン阻害薬(日本の適応)

⚠️ は日本でに承認されているが、効能又は効果そのものに条件が書き込まれている。 電子添文の記載は「(後の治療において、ステロイド剤の投与が効果不十分、又は副作用により困難な場合)」であり、条件を落として「MGに適応がある」と平坦に読まない1。

  • 用法・用量(日本):1日量5 mg/kgを1日2回に分けてし、効果がみられた場合は徐々に減量、は3 mg/kgを標準とする1。
  • 単独投与の位置づけ:電子添文はに限って「本剤を単独で投与した際の有効性については使用経験がなく明らかでない」と注意しており、ステロイドの補助として位置づけられている1。
  • 監視:を含む非移植の適応では、1ヵ月に1回を目安とする血中濃度測定が求められる。重大な副作用の欄には、〈〉に限って「クリーゼ(頻度不明)」が立てられている1。

💡 上の表の「免疫治療(維持)」で挙げた・と同じくステロイド節減の位置にある薬だが、承認の範囲は国ごとに異なる。ここに書いたのは日本の電子添文の記載であって、他国の承認状況を述べたものではない。

⚠️ では、の数値だけに依存せず、・・分泌物・嚥下機能を反復評価し、悪化の徴候を早期に捉える。 気道を確保したうえでまたはを行い、感染・誤嚥・薬剤などの誘因を並行して治療する。製剤、、抗菌薬などを障害しうる薬剤は、必要性を慎重に判断したうえで使用する。

⚠️ 周術期:・などのは、MGでは禁忌ではなく慎重投与である。 のが既に狭いため感受性が著しく亢進しており、通常量では遮断が深く長くなる。少量から開始し、()下で反応をみて用量をする2。逆に脱分極性のは受容体数の減少により抵抗性を示し、通常より多い量を要することがある。日本の添付文書は例外的に、MG患者のうちに対する過敏症の既往がある患者のみを・の禁忌としている(確実な拮抗手段が使えないため)。

まとめ

  • MGはへの自己抗体による、・する筋力低下で、感覚障害・を伴わない。
  • 抗体検査・・胸腺画像を組み合わせて診断し、は標準検査としない。
  • 対症療法()、免疫治療(ステロイド・・、難治例は生物学的製剤)、迅速効果を狙う免疫グロブリン/、を病型・重症度に応じて組み合わせる。
  • ・を伴うは早期に集中管理し、増悪しうる薬剤の使用を慎重に判断する。

出典

  1. 1.ネオーラル内用液10%/ネオーラル10mgカプセル/ネオーラル25mgカプセル/ネオーラル50mgカプセル 電子添文(医薬品医療機器総合機構(ノバルティスファーマ)・2026)電子添文の全文(冒頭の作成又は改訂年月が2026年5月改訂・第4版)を自分で取得して逐語確認した。4. 効能又は効果の当該項が「全身型重症筋無力症(胸腺摘出後の治療において、ステロイド剤の投与が効果不十分、又は副作用により困難な場合)」であり、括弧内の条件が効能そのものに書き込まれていること。5. 効能又は効果に関連する注意の 5.3 が〈全身型重症筋無力症〉に限って「本剤を単独で投与した際の有効性については使用経験がなく明らかでない。」と述べること。6. 用法及び用量の〈全身型重症筋無力症〉が「通常、シクロスポリンとして1日量5mg/kgを1日2回に分けて経口投与する。効果がみられた場合は徐々に減量し、維持量は3mg/kgを標準とする。なお、症状により適宜増減する。」であること。7.1.2 が全身型重症筋無力症を含む非移植適応について1ヵ月に1回を目安とする血中濃度測定を求めること。重大な副作用 11.1.13 に〈全身型重症筋無力症〉限定の「クリーゼ(頻度不明)」が立てられていること。禁忌が4項目で、タクロリムス(外用剤を除く)・ピタバスタチン・ロスバスタチン・ボセンタン・アリスキレン・ペマフィブラートの併用、肝腎障害患者でのコルヒチン服用、生ワクチン接種が含まれること。以上は日本の電子添文の記載であり、他国の承認範囲は確認していない閲覧 2026-09-14
  2. 2.Esmeron 10 mg/ml solution for injection - Summary of Product Characteristics (SmPC)(electronic Medicines Compendium(英国、参考として引用。英国はEU離脱国)・2026)重症筋無力症・Eaton-Lambert症候群は非脱分極性筋弛緩薬の禁忌ではなく警告・注意事項の対象であり、「少量でも効果が著明となりうるため反応をみて用量を滴定する」とされていること閲覧 2026-08-03