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Disease Atlas · 感染症 · 疾患

ボツリヌス症

Botulism

別名
Floppy baby syndrome
臓器系
感染症神経
科目
Medical Microbiology
トピック
微生物学 2/27:ボツリヌス菌とクロストリジオイデス・ディフィシル
鑑別疾患
ギラン・バレー症候群ランバート・イートン筋無力症候群重症筋無力症
関連疾患
破傷風
治療薬
BabyBIGヘプタバレント抗毒素(BAT)
原因微生物
Clostridium botulinum
症状
筋力低下弛緩性麻痺腹痛複視眼瞼下垂便秘麻痺嚥下障害散瞳
適応薬
ヘプタバレント抗毒素(BAT)ボツリヌス免疫グロブリン(ヒト)

🧠 全体像の「鏡像」である。どちらもを切断する同じ酵素活性を持つが、標的とする神経伝達物質とが逆——は脊髄の抑制性ニューロンを止めてを起こすのに対し、は末梢の興奮性のアセチルコリン放出そのものを止めるため弛緩性・になる。臨床像は成人型(缶詰食品中の)・乳児型(土壌や蜂蜜など環境中の芽胞、腸管内毒素産生)・創傷型の3病型に分かれ、治療は年齢層で製剤が異なる(乳児はのBabyBIG、それ以外はウマ由来の)という点が実地で重要になる。

病原体と発症機序

*Clostridium botulinum*はグラム陽性・で、不適切な缶詰・瓶詰食品(成人型)や、土壌・などの環境中に存在する芽胞(乳児型)を介して伝播する——蜂蜜もその芽胞を含みうる、数少ない特定・回避可能な感染源の一つである1。産生される——85℃・5分以上の加熱で失活するとされる(一方で芽胞自体はで、通常の調理では死滅しない)2

flowchart TD
  A["芽胞由来の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='botulinum toxin'>ボツリヌス毒素</span>(AB型)"] --> B["腸管から吸収され血流へ"]
  B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='peripheral nervous system (PNS)'>末梢神経系</span>に到達<br>(血液脳関門は通過できない)"]
  C --> D["SNARE タンパク質を切断"]
  D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='motor neuron'>運動神経</span>終末からの<br>アセチルコリン放出を阻害"]
  E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='flaccid paralysis'>弛緩性麻痺</span>(可逆性・下行性)"]

臨床像

病型 機序 症状
未加熱の缶詰食品中に既に存在する毒素を摂食する食餌性中毒( 弛緩性・——が先行し下方へ進行。腹痛、によるで死亡しうる
芽胞(土壌・などの環境由来が多く、蜂蜜はそのうち数少ない特定・回避可能な食餌性の感染源)を摂食し腸管内で毒素産生(潜伏期は10〜30日程度)3——乳児は正常フローラが未発達なため発症する。「 、嚥下障害、便秘、哺乳力低下、減弱。に至ることも
創傷内で毒素が産生される(潜伏期は長い) 食餌性中毒と同様の症状

⚠️ 1歳未満の乳児に蜂蜜を与えてはいけない。 蜂蜜にはC. botulinumの芽胞が混入しうる。成人の腸内では正常フローラが芽胞の発芽・定着を抑えるが、1歳未満の乳児はが未成熟なため芽胞が発芽・定着し、腸管内で毒素産生が起こる。ただしの感染源の多くは土壌・など特定困難な環境由来で、蜂蜜はそのうち数少ない特定・回避可能な感染源であるにすぎない3

鑑別診断

を呈する他の神経筋疾患との鑑別が重要になる。

疾患 進行パターン 反射 感覚障害 その他の特徴
下行性(脳神経→体幹→四肢) 低下〜消失 なし 消失などの自律神経症状を伴いやすい
典型的には上行性(四肢遠位→近位) 早期から消失 しばしばあり 先行する感染症歴、髄液の
重症筋無力症 )が先行する点はと似るが、(運動で増悪、休息で軽快)が特徴で下行性の進行パターンを取らない 通常保たれる なし 自律神経症状を伴わない、陽性

診断

検査 内容
毒素・菌の検出 糞便・食品・血清からの菌または毒素の分離。(マウス性試験)が現在も唯一FDA承認された確定診断法で中心的位置を占める(患者血清を用いることが多く、判定に最大96時間を要する)4
(A・B・E・F等)を数時間で判別できる迅速な代替法。CDCなど一部の検査機関でのみ実施可能4

治療

対象 製剤
BabyBIG抗A型・抗B型免疫グロブリン)
1歳以上(成人・食餌性・創傷性) (ウマ由来、血清型A〜G全てをカバー)

⚠️ は乳児には使用しない。 アナフィラキシー・のリスクがあり、のBabyBIGの方が乳児では安全かつ有効。症状発現から24時間以内の投与が望ましく、循環血中の未結合毒素のみを中和するため既存の麻痺そのものは改善しない——重症例ではを含む集中的な支持療法が生命予後を左右する。

まとめ

  • C. botulinumは(AB型、SNARE切断)でアセチルコリン放出を阻害し弛緩性・を起こす——脊髄のを止めてを起こすとはが対照的。
  • 病型は成人型(の摂食、)・乳児型(土壌・など環境由来の芽胞、腸管内毒素産生、)・創傷型の3つ。蜂蜜は乳児型の感染源の一部にすぎず、多くは環境由来で特定されない。
  • 診断はによるが中心だが、によるも一部施設で利用できる。
  • をきたす(上行性、感覚障害あり)や重症筋無力症、自律神経症状なし)との鑑別が重要。
  • 治療は年齢層で製剤が異なり、乳児にはのBabyBIG、1歳以上にはウマ由来のを用いる。は未結合毒素のみを中和するため、既存の麻痺への支持療法(など)が予後を左右する。

出典

  1. 1.Food Safety - Botulism Q&A (citing CDC)(UC Agriculture and Natural Resources (UC Cooperative Extension) / CDC・2015)CDCの見解として、ボツリヌス毒素は85℃・5分以上の加熱で失活するとされる(芽胞はこれよりはるかに耐熱性)閲覧 2026-08-03
  2. 2.Infantile Botulism(StatPearls / NCBI Bookshelf・2025)乳児ボツリヌス症の潜伏期は10〜30日程度で、大半の症例は感染源が特定されず(土壌・粉塵など環境由来が推定される)、蜂蜜の関与は一部(約20%)にとどまる閲覧 2026-08-03
  3. 3.Bad Bug Book, Second Edition: Clostridium botulinum(U.S. Food and Drug Administration・2012)蜂蜜は乳児ボツリヌス症の芽胞感染源のうち、疫学的・実験的に関連が示された唯一の食餌性(特定・回避可能な)供給源であり、他に土壌・埃・水などの環境由来がある。診断の中心はマウス神経毒性試験(mouse neutralization test)閲覧 2026-08-03
  4. 4.Clinical Guidelines for Diagnosis and Treatment of Botulism, 2021(CDC (MMWR Recommendations and Reports)・2021)マウス生物検定法(mouse bioassay)が現在も唯一FDA承認された確定診断法で中心的位置を占め、質量分析法(Endopep-MS)は数時間で毒素型を判別できる迅速な代替法だが実施施設が限られる。血清抗体検査(EIA)は診断法として挙げられていない閲覧 2026-08-03