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Disease Atlas · 神経 · 症候群

閉じ込め症候群

Locked-in syndrome

別名
locked-in症候群LIS
臓器系
神経
科目
NeurologyPathology
トピック
神経内科 G2-05:橋障害の症候群神経内科 G1-07:意識障害の分類と鑑別診断神経内科 G1-15:椎骨脳底動脈系循環障害の臨床症候群病理学 C/110:髄鞘疾患(脱髄性疾患)
鑑別疾患
ギラン・バレー症候群ボツリヌス症重症筋無力症無反応覚醒症候群
症状
四肢麻痺構音障害嚥下障害共同注視麻痺
元疾患
浸透圧性脱髄症候群
原因となる疾患
外傷性脳損傷脳梗塞

🧠 全体像:は「運動の出口だけが断たれた、意識のある人」である。橋の腹側には皮質脊髄路・が束になって通り、その背側には意識を作るが乗っている。⭐ 腹側だけが両側性に壊れると、との麻痺(・嚥下障害)が完成するのに意識・認知・記憶は完全に残る1。⚠️ だからこの症候群の本体は病態ではなく鑑別である——昏睡・(旧・)・と取り違えると、意識のある患者が「反応がない人」として扱われ続ける。実際、診断がつくまでの平均は発症から2か月である1。残るのは垂直方向の眼球運動とで、そこが唯一の出口になる。

解剖——なぜ「意識だけ残る」のか

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='basilar artery'>脳底動脈</span>の閉塞など<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='ventral pons'>橋腹側</span>の両側性病変"] --> B["皮質脊髄路の遮断"]
    A --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='corticobulbar tract'>皮質延髄路</span>の遮断<br>(CN V・VII・IX・X・XI・XII)"]
    A --> D["CN VI・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='horizontal gaze'>水平注視</span>中枢の障害"]
    A --> E["脊髄視床路の遮断"]
    B --> F["四肢・体幹の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='plegia'>完全麻痺</span>"]
    C --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mutism'>無言</span>・嚥下障害"]
    D --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='horizontal eye movement'>水平眼球運動</span>の消失"]
    I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dorsal pons'>橋背側</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='reticular activating system'>網様体賦活系</span>は保たれる"] --> J["意識・覚醒は保たれる"]
    K["中脳の垂直<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gaze'>注視</span>系は保たれる"] --> L["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vertical eye movement'>垂直眼球運動</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='blink(ing)'>瞬目</span>は残る"]
    E --> M["全身の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sensory loss'>感覚低下</span>"]

⭐ が残る理由は場所である。 は橋(・)で作られ、垂直は中脳で作られる。の病変は水平方向だけを奪い、中脳の垂直系を残す1。「上を見て」「2回まばたきして」が通じるのはこのためである。

水平方向のと、の遮断による——の極型——がここから生じる。とは保たれ、(・陽性)を伴う1。

分類——Bauerの3型

型 運動 眼球運動 意識
完全な ⭐ のとのみ(これがの特徴) 保たれる
不完全型 +わずかな 共同上方視以外の眼球運動も残る 保たれる
完全型 完全な ⚠️ も失われる 保たれる(などで確認)

12

⚠️ 3型すべてで意識は保たれる。 完全型では合図を出す手段が一つも残らないので、行動所見だけでは昏睡と区別できない。・・機能画像といった行動に依らない評価が要る12。

原因

⭐ 圧倒的に血管性である。 フランスの患者会の調査では86.4%が脳卒中を原因として挙げた1。

群 具体例
血管性(最多) による梗塞、()
外傷 鈍的・穿の外傷によるの損傷()
腫瘤 星細胞腫・肉腫・転移
感染 、髄膜炎(まれ)
脱髄 ⚠️ ()、

1

⚠️ を速く補正したあとに現れるは、原因が治療そのものにある点で他と性質が違う。ではの経過をとり、電解質が正常化していったん軽快したあと3〜5日で顕在化する。「良くなったはずの患者が数日後に動かなくなる」という形で来る。

発症年齢の平均は30〜50歳で、脳卒中の典型例より若い1。

鑑別——このノートの中心

⚠️ 「動かない・話さない」を意識障害と読まない。 分ける鍵は眼球運動・・呼吸・の4点である。

意識・気づき 眼球運動 分ける手がかり
保たれる ⭐ 垂直運動とは保たれ、は麻痺 保たれる 命令に応じた再現性のある・
(旧・) なし はあるが・命令追従なし 多くは保たれる とはあるが、気づきの徴候がない
保たれる 保たれる(麻痺ではない) 保たれる が「減少している」だけで麻痺していない。は緩慢
昏睡 なし 眼・なし 可変 がない
なし なし 消失 自発呼吸なし
保たれる 保たれる 保たれる 精神科的な既往、・・
損傷 保たれる 保たれる 保たれる ⭐ 顔面の運動が残る(脳幹より下の病変だから)

1

💡 損傷との線引きが実務では効く。 でもとは起こるが、顔面と眼球の運動は完全に残る。逆に顔まで動かないなら病変は脳幹である。

⚠️ 神経筋の疾患も同じ姿を作る。 重症の・・重症筋無力症クリーゼでは眼球運動まで落ちるため、合図すら出せない。これらは()・と()・(重症筋無力症)で分かれる。の終末期にも、眼球運動を含めて出力が尽きた完全型と同じ状態が生じうる。⚠️ 薬物歴も必ず取る——の残存は可逆的な「」を作る1。

検査は原因の特定に向ける。・と/、(のを含む)、血清ナトリウム・リン・・血糖・血算、・、、赤外線眼球運動センサー1。

治療と経過

急性期は気道確保と循環の安定化のうえで、原因ごとの治療に直行する——なら脳卒中診療の経路()、腫瘤なら摘出、感染なら抗菌薬、ならナトリウムの緩徐な補正と呼吸管理、ならまたは1。

亜急性期以降は・・が中心になる1。

予後は原因で大きく分かれる。⚠️ 以下は1986年の139例のレビュー(大半が文献収集)の値で、急性期の死亡を含む。急性期を越えて慢性期に入った例の長期生存は別で、本ノートが後段で引く慢性期コホートは発症から中央値8年(範囲1〜28年)の患者を対象にしている。全体の死亡率60%、⚠️ 血管性67%(105例中70例)に対し非血管性41%(34例中14例)であった。運動の回復も非血管性で良く、34例中18例に回復があり12例が6か月以内に完全回復した一方、血管性は105例中29例にとどまり、4か月を超えて生存した16例中13例が中等度〜完全な機能回復を示したものの完全回復は2例だけだった1。回復例でも嚥下が完全に改善したのは42%、正常な呼吸に困難が残ったのが50%である1。

意思疎通と、慢性期の生活の質

⭐ 意思疎通の確立が治療の一部である。 は病変によって様々に影響され、受傷直後に注意・記憶・認知的耐久力の障害が最も強いが、読解・口頭理解・視覚認知・空間・左右弁別・短期記憶・は回復すると観察研究で示唆されている2。急性期の評価だけで認知を判定しない。

⚠️ 「最先端のほど良い」わけではない。 はやEyeLinkボードといったと比べて反応が遅く不正確で、使いやすさも劣り、必要な認知的負荷も大きく、速度・負荷・使いやすさのいずれでも優越しなかったとする報告がある2。まずによる、次にという順で、患者ごとに合うものを探す。

⭐ 慢性期の患者自身の評価は、周囲の想像と食い違う。 フランスの患者会に属する慢性期65例(全例が脳幹の血管障害、発症から中央値8年)の調査で、47名が幸福(自己評価の中央値+3)、18名が不幸(同−4)と回答した。不幸と関連したのは不安・地域内での移動の不満・余暇活動の不満・機能の回復への不満であり、⚠️ にある期間が長いほど幸福と相関した3。

一方で58%が心停止時の蘇生を希望せず、7%がを希望している3。⚠️ だから著者らは、発症間もない時期に死を望む患者へ「幸福で有意義な生活を取り戻す可能性が高い」ことを伝え、終末期の意思決定を避けるのではなく、状態が安定するまでの猶予期間を置くことを提案している3。急性期の意思表示だけで決めない、というのがこの研究の実務的な含意である。

まとめ

  • ⭐ はの両側性病変で運動の出口だけが断たれた状態であり、意識・認知・記憶は保たれる。背側のが助かるためである。
  • ⭐ とが残るのは、が橋・垂直が中脳で作られるから。「上を見て」「2回まばたき」が唯一の出口になる。
  • Bauerの3型(・不完全型・完全型)はいずれも意識が保たれる。⚠️ 完全型はも失われるため、行動所見だけでは昏睡と区別できない。
  • 原因は血管性()が86.4%、次いで外傷。⚠️ でも起こり、これはの急速補正という医原性の入口である。
  • ⚠️ 鑑別が主題。 (気づきなし)・(麻痺ではない)・昏睡(なし)・(消失)・損傷(顔面が動く)・重症の//(眼球運動まで落ちる)と分ける。
  • 診断までの平均は発症2か月(2002年の報告による)。⚠️ 「反応がない=意識がない」と扱わず、意識がある前提で声をかけ続ける。
  • 予後は原因で分かれ、死亡率は血管性67%・非血管性41%。回復例でも嚥下の完全改善は42%、呼吸困難の残存が50%。
  • ⭐ 慢性期患者の自己評価は多数が幸福で、が長いほど幸福と相関する。⚠️ 急性期の「死にたい」を最終意思として扱わず、猶予期間を置く。

出典

  1. 1.Locked-in Syndrome(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)本文全文をNCBI Bookshelfで確認した(最終更新2023年7月24日、Das JM・Anosike K・Asuncion RMD)。閉じ込め症候群が脳幹(多くは橋腹側)の障害による四肢麻痺と球麻痺であり認知・垂直眼球運動・瞬目・聴覚が古典的に保たれること、フランスのLIS患者会(ALIS)が44名から得た調査では86.4%が原因として脳卒中を挙げたこと、外傷が血管性に次ぐ第2の原因であり腫瘤・感染(橋膿瘍・髄膜炎)・脱髄(中心橋髄鞘崩壊症・多発性硬化症・ギラン・バレー症候群・筋萎縮性側索硬化症)が続くこと、発症年齢の平均が30〜50歳であること、Bauer(1979)が古典型・不完全型・完全無動型の3型に分けたこと、背側に位置する網様体賦活系が保たれるため意識が保たれる一方で皮質脊髄路・皮質延髄路・脊髄視床路とCN III・IV・VIの核が障害されること、水平眼球運動が障害され垂直眼球運動と瞬目が保たれること、瞳孔反射と前庭蝸牛反射が保たれ上位運動ニューロン徴候(腱反射亢進・Babinski徴候陽性)を伴うこと、León-Carriónら(2002)の報告で診断までの平均が発症2か月後であったこと、評価がCT/MRIとCT/MR血管撮影・髄液検査・電解質(Na・P・Mg)・血糖・血算・電気生理検査(EMG/NCS、脳波、赤外線眼球運動センサー)であること、鑑別が遷延性植物状態・無動性無言・昏睡・脳死・緊張病・頸髄損傷でありカルニチン様物質やクラーレなどの薬物歴も除外すること、無動性無言では運動反応が減少するが麻痺ではなく脳幹反射と眼球運動が保たれ発話が緩慢であること、治療が気道確保と原因治療(血栓溶解療法・腫瘤摘出・抗菌薬・緩徐なナトリウム補正・IVIG/血漿交換など)および亜急性期以降の理学・呼吸・言語療法であること、Patterson & Grabois の139例のレビューで全体の死亡率が60%、血管性が67%(105例中70例)・非血管性が41%(34例中14例)であったこと、非血管性34例中18例に運動の回復がありそのうち12例が6か月以内に完全回復した一方で血管性105例中29例にとどまり4か月を超えて生存した16例中13例が中等度〜完全な機能回復を示したが完全回復は2例のみであったこと、回復例のうち嚥下が完全に改善したのは42%、正常な呼吸に困難が残ったのが50%であったことを確認した。⚠️ 本書は「5年および10年の死亡率が84%と31%」と記載するが、10年死亡率が5年死亡率を下回ることは論理的にありえず(引用元のDoble 2003・Shavelle 2008は生存率を報告している)、本ノートではこの2値を採用していない閲覧 2026-09-02
  2. 2.Update on How to Approach a Patient with Locked-In Syndrome and Their Communication Ability(Brain Sciences・2024)Europe PMCで全文を確認した。閉じ込め症候群の3亜型がいずれも意識を保つこと、孤立した共同性垂直眼球運動が古典型に特徴的であること、不完全型が共同上方視以外の随意運動または眼球運動を伴うもの、完全型(total LIS)が垂直眼球運動の消失を含む完全な無動であること、病変が橋腹側または中脳腹側尾側で大脳は概ね保たれること、覚醒と気づきは保たれるが認知機能は病変により様々に影響され、受傷直後に注意・記憶・認知的耐久力の障害が最も強く出ること、観察研究では読解・口頭理解・視覚認知・空間見当識・左右弁別・短期記憶・知的機能が回復すると示唆されていること、脳-コンピュータインターフェース(BCI)が視線追跡カメラやEyeLinkボードなど他の補助代替コミュニケーション手段と比べて反応が遅く不正確で使いやすさが劣り、必要な認知的負荷も大きく、速度・負荷・使いやすさのいずれでも優越しなかったとするElliotらの報告を紹介していること、標準化された臨床評価法が現状では限られていることを確認した。なお有病率として引用する2013年オランダの介護施設調査の1万人あたり0.7人、2021年ノルウェーの登録で人口550万人中51人が6週間を超える完全/不完全型であったという値は、いずれも本総説の測定値ではなく引用値である閲覧 2026-09-02
  3. 3.A survey on self-assessed well-being in a cohort of chronic locked-in syndrome patients: happy majority, miserable minority(BMJ Open・2011)Europe PMCで全文を確認した。フランスの閉じ込め症候群患者会に所属する168名へ質問票を送り91名(54%)が回答、生活の質のデータ欠損26名を除く65名を解析したこと、65名全員が脳幹の血管障害による慢性期(発症から1年超、中央値8年、範囲1〜28年)であり64%が自宅で生活していたこと、Anamnestic Comparative Self-Assessment(発症前の人生で最良の時期を+5、これまでで最悪の時期を−5とする自己評価尺度)で47名が幸福(中央値+3)、18名が不幸(中央値−4)と回答したこと、不幸と関連した変数が不安・地域内での移動の不満・余暇活動の不満・発話機能の回復に対する不満であったこと、閉じ込め状態にある期間が長いほど幸福と相関したこと、58%が心停止時の蘇生を希望せず7%が安楽死の希望を表明したこと、著者らが発症間もない時期に死を望む患者に対しては幸福で有意義な生活を取り戻す可能性が高いことを伝えるべきであり、終末期の意思決定は避けるべきではないが状態が安定するまでの猶予期間を置くことを提案したことを確認した閲覧 2026-09-02