疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 神経 · 症候群

無反応覚醒症候群

Unresponsive wakefulness syndrome

別名
UWS遷延性植物状態植物状態
臓器系
神経
科目
Neurology
トピック
神経内科 G1-07:意識障害の分類と鑑別診断
鑑別疾患
閉じ込め症候群
症状
意識障害
スコア
昏睡回復スケール改訂版

🧠 全体像:は、⭐ し、睡眠・覚醒周期もあるのに、自己と環境への「気づき(awareness)」を示す反応が一つも確認できない状態である。意識は覚醒と気づきという2つの独立した軸で崩れるので、脳幹の覚醒系だけが助かって大脳の広範な機能が失われると、この「目は開いているのに誰もいない」形になる。⚠️ 旧称「」からの改称は2010年、European Task Force on Disorders of Consciousnessによる——vegetativeという語が侮蔑的に受け取られ、かつ行動所見だけで気づきの不在を断定することへの慎重論が積み上がったためである1。⚠️ この「断定への慎重論」が現在の主題そのものである——標準化された行動評価に切り替えるだけで合意診断の41%が覆り2、行動反応が皆無の患者の25%が機能的画像・では命令に従っていた3。

定義——覚醒はあり、気づきがない

⭐ 記述としての定義は極めて短い。「覚醒()がありながら、命令に応じないという一群の臨床徴候を示す状態」である1。名称そのものが所見の記述になっており、病態や予後を含意しない点が改称の眼目でもある。

軸 での状態
覚醒 ⭐ 保たれる。 し、睡眠・覚醒周期がある
気づき ⭐ 確認できない。 ・命令遵守・目的的な発声や運動がない
・自発呼吸 多くは保たれる
自律機能・反射運動 呼吸・循環、嚥下やの一部、、四肢の反射運動は残りうる

💡 「反射的な運動」と「目的的な反応」の線引きが、この診断のすべてを決める。 反射は刺激に対してに返るが、目的的反応は再現性があり、文脈に合っている。⚠️ 1回の診察で決めない——時間帯を変え、標準化された評価を反復する(意識障害の項)。

原因は、、脳卒中、重症感染などで、広範な皮質・機能が障害される一方で脳幹の覚醒系が保たれるという組み合わせが生じたときに成立する。

⚠️ 改称——なぜ「植物状態」をやめたのか

「persistent vegetative state()」はJennettとPlumが1972年に作った語である1。⚠️ 2010年にEuropean Task Force on Disorders of Consciousnessが「」への置き換えを提案した理由は3つある1。

理由 中身
語の侮蔑性 vegetativeという語は、一般には患者が植物のようだと指すものと誤って受け取られる1
率の高さ ⚠️ Childsら・Andrewsらの旧来の研究で、リハビリテーション施設へ紹介された慢性期患者の約40%に診断の誤りが報告され、ごく最近の研究もこの受け入れがたく高い率を追認した1
画像・からの 研究と研究の蓄積により、⭐ 患者の気づきについて強い断定を下すことに慎重であるべきことが示された1

💡 後ろ2つは同じことを言っている。 「気づきが無い」という判断は所見の不在に基づく判断であり、⚠️ 不在の証明は最も脆い。名称を「(観察された事実)」に寄せ、「(内面についての断定)」から離したのは、この脆さを名前の水準で認めた措置である。

⚠️ 旧称の「1か月超」「12か月/非3か月」という時間基準は歴史的なものである。 1994年のMulti-Society Task Forceがの基準としてで1年超・非(無酸素性)で3か月を置いたが1、現在は病因と経過を含めて専門的に予後を評価する(神経内科 G1-07:意識障害の分類と)。「3か月経ったから永続的」と機械的に当てはめない。

最小意識状態との区別

⭐ (MCS)は、昏睡でもでもないが、意識の行動学的徴候が一貫しない形で確認できる状態として、2002年に専門学会のコンセンサスで定義された4。⚠️ この定義は診断・予後・管理のガイドラインではなく、エビデンス不足を理由に「コンセンサスに基づく」として提示されたものである4。

気づきの徴候 ⭐ 一つも確認できない ⭐ 一貫しないが、明らかに識別できる徴候がある4
具体的な所見 ・・目的的発声はない 単純命令への、、対象への到達運動、状況に合う発声・ジェスチャー
判定の鍵 「無い」ことの確認 ⭐ 再現性または明らかな目的性——単なる反射と分ける

⚠️ 両者を隔てているのは「量」ではなく「有無」であり、しかもその有無は観察の質に依存する。 次節がその含意である。

⭐ 行動評価だけでは足りない——誤診と認知運動解離

標準化した尺度に替えるだけで診断が覆る

意識障害患者103例で、臨床チームの合意による診断とJFK Coma Recovery Scale-Revised(CRS-R)による診断を比較した研究がある2。

合意診断 CRS-Rでの結果
44例 ⚠️ 18例(41%)が意識の徴候を示した2
——うち慢性期 29例中14例(48%)2
——うち急性期 15例中4例(27%)2
41例 4例(10%)がからの脱却の基準を満たした2
診断が不確定 18例 16例(89%)が意識の指標を示した2

⭐ 誤ってとされた例で意識を明らかにしたのは、主に目的的な眼球運動だった(3例・5例)2。💡 見落とされていたのは派手な反応ではなく、目で追うという最も小さな反応である。 ここを取りにいく評価法かどうかが、診断名を分けている。

行動反応が皆無でも、脳は命令に従っていることがある

⚠️ とは、行動としては命令に応じないのに、課題を課したまたはでは命令追従に一致する脳活動が出る状態である。6施設353例の前向きコホートで、命令へのな行動反応がなかった241例のうち60例(25%)がこれに該当した3。若年、受傷からの経過が長いこと、であることと関連していた3。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='spontaneously'>開眼</span>し<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sleep-wake cycle'>睡眠覚醒周期</span>があるが<br>命令に反応しない患者"] --> B["標準化された行動評価を<br>時間帯を変えて反復する"]
    B --> C{"再現性のある<br>気づきの徴候があるか"}
    C -->|"ある(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pursuit'>追視</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='command following'>従命</span>など)"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='minimally conscious state (MCS)'>最小意識状態</span>"]
    C -->|"一つも無い"| E["行動診断としての<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='unresponsive wakefulness syndrome (UWS)'>無反応覚醒症候群</span>"]
    E --> F["課題を課した<span class='jp-term jp-term-diagram' title='functional MRI (fMRI)'>機能的MRI</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='electroencephalography, EEG'>脳波</span>で<br>命令追従の脳活動を探す"]
    F -->|"脳活動あり"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cognitive motor dissociation'>認知運動解離</span><br>行動反応が無くても意識がある"]
    F -->|"脳活動なし"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='unresponsive wakefulness syndrome (UWS)'>無反応覚醒症候群</span>として<br>評価を継続する"]
    D --> I["本人に届く形での説明と<br>意思疎通手段の探索を続ける"]
    G --> I

⚠️ 矢印の向きに注意する。 機能的画像で陽性なら「意識がある」と判断を上書きできるが、⭐ 陰性であっても「意識が無い」ことの証明にはならない——脳活動が出ない理由は・鎮静・注意の障害・課題の不適合など多数ありうる。この非対称が、という診断名を常に暫定的なものにしている。

鑑別

⚠️ 鑑別の詳細な表はの項が持っているので、ここでは本症の側から見た分かれ目だけを置く。

相手 本症と分ける点
昏睡 ⭐ 睡眠・覚醒周期とが無い。 本症にはどちらもある
再現性のある気づきの徴候がある(本症には無い)
⭐ 意識は完全に保たれている。 とという出口が残る。⚠️ 本症と取り違えると、意識のある患者が「反応がない人」として扱われ続ける
麻痺ではなく、自発運動・の開始が乏しい。眼球運動と反射は保たれる
が全て消失し、自発呼吸がない。本症では多くが保たれる
意識は通常保たれ、拒絶・常同・などが組み合わさる

管理の方向

  • ⭐ 診断名の確定より先に、評価の質を上げる。 標準化された行動評価尺度を、時間帯を変えて反復する2。
  • ⚠️ 鎮静薬、痛み、感染、発熱、けいれん、水頭症など、反応を覆い隠す可逆的要因を先に外す。 「反応がない」の原因が治療可能なものであることは珍しくない。
  • ⚠️ 行動評価が陰性で終わったときこそ、機能的画像・による評価を検討する3。
  • ⭐ 意識がある前提でベッドサイドの会話を組み立てる。 が25%に存在する以上、患者の前で予後やを論じることの意味が変わる3。
  • 予後の説明は病因(か非か)とを踏まえて行い、⚠️ 旧来の固定した時間基準を単独の根拠にしない1。

まとめ

  • ⭐ は、と睡眠・覚醒周期があるのに、気づきを示す反応が一つも確認できない状態である。覚醒と気づきは別軸で、脳幹の覚醒系が保たれ大脳が広範に障害されたときに成立する。
  • ⚠️ 改称は2010年、European Task Force on Disorders of Consciousnessによる。 理由は①vegetativeという語の侮蔑的な誤解、②約40%という率、③機能的画像・が「気づきの不在」の断定にを発したこと。
  • 「persistent vegetative state」はJennettとPlumが1972年に作った語で、1994年のMulti-Society Task Forceが1年超・非3か月という時間基準を置いた。⚠️ これは歴史的な基準であり、機械的に当てはめない。
  • ⭐ との違いは「一貫しないが再現できる気づきの徴候があるか」の一点。 MCSの定義(2002年)はガイドラインではなくコンセンサスに基づくである。
  • ⚠️ 合意診断でとされた44例のうち18例(41%)が、標準化尺度では意識の徴候を示した。 見落とされていたのは主に目的的な眼球運動(・)である。
  • ⚠️ 行動反応が皆無だった241例の25%にがあった(課題を課した・で命令追従の脳活動)。⭐ 陽性は診断を覆すが、陰性は意識の不在を証明しない。
  • ⭐ 臨床的な帰結は一つ——反応が無くても意識がある前提で接し、評価を反復し、可逆的要因を外し、必要なら行動に依らない評価へ進む。

出典

  1. 1.Unresponsive wakefulness syndrome: a new name for the vegetative state or apallic syndrome(BMC Medicine・2010)PMC2987895で全文を確認した。European Task Force on Disorders of Consciousnessが「無反応覚醒症候群(unresponsive wakefulness syndrome、UWS)」への改称を提案したこと、改称の理由が①vegetative(植物状態)という語が一般には患者を植物のようだと指すものと誤って受け取られる侮蔑的な含意を持つこと、②Childsら・Andrewsらの旧来の研究で約40%という診断の誤りが報告されておりごく最近の研究もこの受け入れがたく高い率を追認したこと、③機能的神経画像研究と事象関連電位研究の蓄積により患者の気づきについて強い断定を下すことに慎重であるべきことが示されたことの3点であること、UWSが「覚醒(開眼)がありながら無反応(命令に応じない)という一群の臨床徴候を示す状態」として記述的に定義されること、「persistent vegetative state」がJennettとPlumにより1972年に作られた語であること、1994年のMulti-Society Task Forceが不可逆性の時間基準として外傷性で1年超・非外傷性(無酸素性)で3か月を置いたことを確認した閲覧 2026-09-03
  2. 2.Diagnostic accuracy of the vegetative and minimally conscious state: clinical consensus versus standardized neurobehavioral assessment(BMC Neurology・2009)PMC2718857で本文を確認した。意識障害患者103例について、臨床チームの合意に基づく診断とJFK Coma Recovery Scale-Revised(CRS-R)に基づく診断を比較したこと、合意診断で植物状態とされた44例のうち18例(41%)がCRS-Rでは意識の徴候を示したこと、この食い違いが慢性期で29例中14例(48%)・急性期で15例中4例(27%)であったこと、合意診断で最小意識状態とされた41例のうち4例(10%)がCRS-Rでは最小意識状態からの脱却の基準を満たしたこと、合意診断が不確定であった18例のうち16例(89%)が標準化評価で意識の指標を示したこと、誤って植物状態とされた例で意識を明らかにしたのは主に目的的な眼球運動(視覚性固視3例・追視5例)であったことを確認した閲覧 2026-09-03
  3. 3.Cognitive Motor Dissociation in Disorders of Consciousness(New England Journal of Medicine・2024)既存ノート(神経内科 G1-07)が確認済みの出典を再利用した(本ノートの担当は原文を再取得していない)。6施設353例の前向きコホートで、命令に対する観察可能な行動反応がなかった241例(昏睡・植物状態・minimally conscious state-minusの行動診断)のうち60例(25%)が、タスクを課したfMRIまたはEEGで命令追従に一致する脳活動(認知運動解離:cognitive motor dissociation)を示した。これは若年、受傷からの経過が長いこと、外傷性脳損傷であることと関連していた閲覧 2026-08-27
  4. 4.The minimally conscious state: Definition and diagnostic criteria(Neurology・2002)既存ノート(神経内科 G1-07)が確認済みの出典を再利用した(本ノートの担当は原文を再取得していない)。昏睡・(無反応覚醒症候群/旧)植物状態の診断基準を満たさないが、一貫しないながら明らかに識別可能な意識の行動学的徴候を示す患者群を「最小意識状態(MCS)」と定義し、行動評価に基づく診断基準を提示した専門学会コンセンサス文書。エビデンスが不十分なため診断・予後・管理のガイドラインではなくコンセンサスに基づく症例定義とした閲覧 2026-08-27