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Disease Atlas · 神経 · 症候群

免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群

Immune effector cell-associated neurotoxicity syndrome (ICANS)

別名
ICANSCRES
臓器系
神経免疫・膠原病腫瘍
科目
Pharmacology
トピック
薬理学 B36:抗がん薬VI(高分子シグナル伝達阻害薬・免疫賦活抗がん薬)
鑑別疾患
サイトカイン放出症候群
治療薬
デキサメタゾンメチルプレドニゾロンレベチラセタム
原因薬剤
チサゲンレクルユーセル(CAR-T)イデカブタゲン ビクルユーセルシルタカブタゲン オートルユーセルブリナツモマブテクリスタマブ
症状
振戦失語書字障害錯乱けいれん脳浮腫

🧠 全体像:は、や(BiTE)のように大量のT細胞を活性化させる免疫療法で起こる中枢神経系の毒性である。(CRS)と同じ「サイトカインの嵐」を土台に持つが、主座が全身の血管系ではなく脳という一点で、評価法も治療薬もCRSとは別物になる。診療の核心は2つ——①の乱れや言い間違い()という一見地味な所見が、実は最も早く現れる鋭敏なであること、②CRSの治療薬であるがにはむしろ逆効果になりうるため、の治療はステロイドに専念する、という非対称性である。

病態

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='CAR T-cell therapy'>CAR-T細胞療法</span>・BiTE治療による<br>大量のT細胞活性化"] --> B["IL-6中心のサイトカイン放出"]
    B --> C["血液脳関門の透過性亢進"]
    C --> D["活性化T細胞・サイトカインの中枢神経系への移行"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='endothelial injury'>内皮傷害</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neuroglia'>グリア細胞</span>の活性化"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='immune effector cell-associated neurotoxicity syndrome (ICANS)'>ICANS</span>:脳症・けいれん・脳浮腫"]
    B --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cytokine release syndrome (CRS)'>サイトカイン放出症候群</span>(CRS)"]
    G -.->|"多くは先行し重なる<br>CRS消退後の発症もあり得る"| F

CD19標的(など)、BCMA標的(、)、(、など)——これらがを攻撃する過程で放出されるIL-6などのサイトカインが血液脳関門の透過性を高め、活性化T細胞やサイトカインそのものが中枢神経系へ移行することで、との活性化を介した脳症を来すと考えられている。多くはCRSに続いて、あるいはCRSと重なって発症するが、CRSが消退した後に発症する例や、CRSをほとんど伴わずに単独で起こる例もある1。約10%はCAR-T細胞輸注から3週間以上経過してから発症する遅発例である1。

臨床像

⭐ 最初期のは、けいれんや意識障害のような派手な所見ではなく、会話の躊躇との劣化である。 単語が出てこない()・言い淀む・簡単な文章を書かせると誤字や乱れが目立つ、といった軽微な変化が最も鋭敏に現れ、進行すると表出性・受容性の両方を含む、、傾眠、振戦、けいれんへと進む1。💡 を評価に組み込む理由はここにあり、後述のもを独立した項目として持つ。

重症例では焦点性の(など)が出現し、最重症では脳浮腫・という致死的な転帰に至りうる21。

診断:ICEスコアとASTCTグレード分類

重症度は(関連脳症スコア)を中心に、・けいれん・運動所見・頭蓋内圧亢進/脳浮腫の4領域を合わせた5領域で評価する2。

の項目 内容 配点
年・月・都市・病院を答えられるか 4点
呼称 3つの物品の名称を答えられるか 3点
指示に従う 簡単な指示に応じられるか 1点
決まった文章を書けるか 1点
注意 100から10ずつできるか 1点

⭐ 合計10点満点で、点数がそのままグレードに対応する。

グレード けいれん 運動所見 頭蓋内圧亢進/脳浮腫
1 7〜9 自然に覚醒 なし なし なし
2 3〜6 呼びかけで覚醒 なし なし なし
3 0〜2 触覚刺激でのみ覚醒 速やかに消退する臨床/ なし 画像上の浮腫
4 0(覚醒せずICEを施行できない) 覚醒不能・/昏睡 5分超の生命を脅かす発作、反復発作 などの深い 、/、、、のいずれか

⭐ 全体のグレードは5領域のうち最も重いもので決まる。 が軽度でも、けいれんや脳浮腫の所見が重ければそちらに引き上げられる2。ICEが10点なら障害なしである。⚠️ ただし引き上げの対象になるのは「他の原因に帰属できない」所見に限る——鎮静薬による低下をのグレードに数えない、というのが原文の但し書きである2。

⚠️ グレード判定に「入れないもの」が明示されている。 ここを取り違えると、実際より重いグレードを付けて不要な高用量ステロイドへ進む方向に誤る2。

所見 扱い
振戦・ v5.0で評価してよいが、のグレード判定には影響しない
浮腫を伴う場合も含め神経毒性の所見とはみなさず、のグレード判定から除外する( v5.0で評価する)

💡 0は、同じ0点でもで分かれる。 覚醒しているがならグレード3、覚醒しないならグレード4である2。

💡 グレード5も定義されている。 慣例として、他の要因が主因でないによる死亡をグレード5とする2。

12歳未満にICEは使えない

⚠️ ICEは十分な認知能力を要するため、小児では12歳以上に限られる。12歳未満にはCornell Assessment of Pediatric Delirium(CAPD)を用い、CAPD 9点以上をせん妄の示唆=グレード3 とみなす2。CAPDは21歳までが検証されているため、12歳を超えていても発達遅滞がある患者には使ってよい。・運動症状・けいれん・頭蓋内圧亢進という他の領域は成人と同じである2。

治療

⚠️ の治療の主体はステロイドであり、CRSの中心的治療薬であるは無効か、むしろ悪化させうる。 は血液脳関門を越えにくいため中枢のIL-6シグナルを直接抑えられない一方、末梢のをすることで血中の遊離IL-6濃度をかえって上昇させ、それが受動的に中枢へ移行する量を増やしうるという機序が想定されている。そのためCRSを伴わないにを単独で用いることは避ける3。

⚠️ グレード1を「軽いから少量のステロイド」と扱わない。 収載された指針はいずれも、CRSを伴わないグレード1 に対して支持療法のみを推奨している(例外として、NCCNはリソカブタゲン マラルユーセルまたはの投与後72時間以内に発症した場合に限り10 mgを12〜24時間ごとに2回投与するとしている)3。

グレード(CRSを伴わない場合) ステロイド
1 支持療法のみ(上記のNCCNの例外を除く)3
2 10 mg静注を1回投与して再評価し、改善がなければ6〜12時間ごとに反復3
3 グレード2と同じ薬物療法にでの管理を加える。EBMT/JACIE指針はを20 mgへ増量3
4 1,000 mgを1日1〜2回・3日間。改善がなければ1日2〜3回への増量またはを考慮3
  • いずれのグレードでも、ステロイドはグレード1へ改善するまで継続してからする3。EBMT/EHAの手引きも、グレード2以上には急速を伴う(6時間ごとに10〜20 mg静注)、グレード4には少なくとも1 g/日のを3日間としている1。
  • CRSを併発している場合は、CRSに対する投与自体は妨げないが、の神経症状そのものへの効果は期待せず、神経症状への対応はステロイドで別に行う3。
  • ⚠️ けいれんにはを用いるが、予防的なの一律投与は推奨されていない。 実際に発作が起きた場合の治療薬という位置づけである1。
  • 脳浮腫を伴う最重症例はを要し、頭蓋内圧管理を含めた支持療法を行う。
  • 💡 の場合の次の一手は、まだ確立していない。 ・・・は、難治性CRSの3次治療の候補として提案されている段階であり、に対する有効性・安全性を示す質の高い比較試験はない3。「効くと決まっている薬がある」とは考えないこと。

まとめ

  • は・BiTE治療で起こる中枢神経系の毒性で、CRSに遅れて、あるいはCRSが消退した後にも発症しうる。
  • ⭐ 最も早く鋭敏に現れるは会話の躊躇との劣化(・)で、派手な意識障害より先行する。
  • 重症度は(4点・呼称3点・指示に従う1点・1点・注意1点の10点満点)を中心に、・けいれん・運動所見・脳浮腫の5領域のうち他の原因に帰属できない最も重いものでグレード1〜4を決める(による死亡がグレード5)。振戦・とはグレード判定から除外する。
  • 12歳未満の小児にICEは使えず、Cornell Assessment of Pediatric Delirium(CAPD)9点以上をグレード3とみなす。
  • ⚠️ 治療の主体はステロイドであり、は単独には無効・悪化させうるため用いない。 グレード1は支持療法のみ、グレード2〜3は、グレード4は高用量で、グレード1へ改善するまで続けてからする。
  • けいれんにはを用いるが予防投与は推奨されず、最重症は脳浮腫・による致死的経過をたどりうる。

出典

  1. 1.Management of Immune Effector Cell-Associated Neurotoxicity Syndrome (ICANS)(The EBMT/EHA CAR-T Cell Handbook (Springer) / NCBI Bookshelf・2022)ICANSの早期・鋭敏な徴候は会話の躊躇と書字の劣化であり、進行すると表出性・受容性の両方を含む失語に至ること、ICANSはCRSと同時または直後に生じることが多いが約10%はCAR-T細胞輸注から3週間以上経て発症すること、グレード2以上には急速漸減を伴うデキサメタゾン(グレード2〜3で6時間ごとに10〜20 mg静注)、グレード4にはメチルプレドニゾロン少なくとも1 g/日を3日間投与すること、予防的抗てんかん薬は推奨しないが実際の発作にはレベチラセタムを用いること、てんかん重積と致死的脳浮腫が最も重篤な転帰であることを確認した。閲覧 2026-08-11
  2. 2.ASBMT Consensus Grading for Cytokine Release Syndrome and Neurological Toxicity Associated with Immune Effector Cells(American Society for Transplantation and Cellular Therapy (ASTCT) / Biology of Blood and Marrow Transplantation・2019)PMCの著者最終稿の全文(Table 5・Table 6とその脚注)で次を確認した。ICEスコアは見当識4点・呼称3点・指示に従う1点・書字1点・注意1点の合計10点満点で構成され、10点は障害なし、7〜9でグレード1、3〜6でグレード2、0〜2でグレード3、覚醒不能でICEを施行できないスコア0がグレード4に対応すること。ICANS全体のグレードはICEスコア・意識レベル・けいれん・運動所見・頭蓋内圧亢進/脳浮腫の5領域のうち最も重い事象で決定し、かつ「他の原因に帰属できない」ものに限ること。グレード4の脳浮腫は画像上のびまん性脳浮腫・除脳/除皮質肢位・外転神経麻痺・乳頭浮腫・Cushing三徴のいずれかで定義されること。免疫エフェクター細胞療法に伴う振戦・ミオクローヌスはCTCAE v5.0で評価してよいがICANSのグレード判定には影響しないこと、頭蓋内出血は浮腫の有無にかかわらず神経毒性の所見とはみなさずICANSのグレード判定から除外すること。グレード5はICANSによる死亡と定義されること。ICEは12歳以上の小児にしか使えず、12歳未満にはCornell Assessment of Pediatric Delirium(CAPD)を用い、CAPD 9点以上はせん妄を示唆しグレード3 ICANSとみなすこと。なおPMCに置かれているのは著者最終稿で、表題も「ASBMT…Neurological Toxicity」と誌上版(ASTCT…Neurologic Toxicity)とは異なる。閲覧 2026-08-11
  3. 3.Anticytokine Therapy and Corticosteroids for Cytokine Release Syndrome and for Neurotoxicity Following T-Cell Engager or CAR T-Cell Therapy(Canadian Agency for Drugs and Technologies in Health (CADTH) Rapid Review・2024)全文で次を確認した。ステロイドがICANS管理の主柱であること。CRSを伴わないグレード1のICANSは、収載された4つの指針すべてが支持療法のみを推奨すること(NCCNのみ、リソカブタゲン マラルユーセルまたはイデカブタゲン ビクルユーセル投与後72時間以内に発症した場合にデキサメタゾン10 mgを12〜24時間ごとに2回とする)。グレード2はデキサメタゾン10 mg静注を1回投与して再評価し、改善がなければ6〜12時間ごとに反復すること。グレード3はグレード2と同じ薬物療法に集中治療を加え、EBMT/JACIE指針はデキサメタゾンを20 mgへ増量すること。グレード4はメチルプレドニゾロン1,000 mgを1日1〜2回・3日間投与し、改善しなければ1日2〜3回への増量または代替療法を考慮し、グレード1へ改善するまで継続してから漸減すること。抗IL-6療法であるトシリズマブはICANSを悪化させうるためCRSを併発している場合にのみ用いること(SITC指針はトシリズマブを推奨に含めていない)。難治性CRSの3次治療としてシルツキシマブ・アナキンラ・エタネルセプト・インフリキシマブが提案されていること。閲覧 2026-08-11