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Disease Atlas · 神経 · 先天性疾患

毛細血管拡張性運動失調症

Ataxia-telangiectasia

別名
A-TLouis-Bar症候群
臓器系
神経免疫・膠原病腫瘍小児
科目
PathologyInternal Medicine
トピック
病理学 B/09:BRCA1・BRCA2・ATM遺伝子(腫瘍抑制遺伝子)病理学 B/13:遺伝性腫瘍症候群(遺伝性がん症候群)内科学 S-51:免疫不全症
鑑別疾患
Friedreich失調症ビタミンE欠乏性運動失調症
合併症
白血病リンパ腫
関連疾患
神経皮膚症候群乳癌
治療薬
静注免疫グロブリン
症状
小脳性運動失調毛細血管拡張
検査値
AFP

🧠 全体像:(A-T)は、単一の遺伝子(ATM)の機能喪失が、一見に見える複数の症候をすべて説明するという構造で理解すると全体が繋がる疾患である。ATMはを感知しを制御する遺伝子で、その両アレル欠損は、①小脳のが変性することによる、②損傷応答の破綻がリンパ球の成熟過程を阻害することによる免疫不全、③修復されないが蓄積することによる発癌(白血病・リンパ腫)、④損傷応答そのものが働かないことによるという、4つの一見別々の臨床像を1本の機序から説明する。臨床上もっとも重い注意点は、こののために、診断のための検査そのものが患者を傷つけうるというであり、を用いる検査は可能な限り避ける。

💡 皮膚・のと中枢神経系の変性を併せ持つことから、症・などと並ぶ(母斑症)の一つにも数えられる。

病態:1つの遺伝子から4つの表現型へ

ATM(ataxia-telangiectasia mutated)はを感知するで、活性化するとp53・CHK2をはじめとする下流因子をリン酸化し、細胞周期を停止させて修復()を進める。ATMの両アレルにを持つと、この一連の損傷応答が全身の細胞で機能しなくなる1。

flowchart TD
    A["ATM遺伝子の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='biallelic pathogenic variant'>両アレル病的バリアント</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='autosomal recessive'>常染色体潜性</span>)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='deoxyribonucleic acid'>DNA</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='double-strand break'>二本鎖切断</span>の感知・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='checkpoint'>チェックポイント</span>制御が破綻"]
    B --> C["小脳<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Purkinje cell'>Purkinje細胞</span>の変性"]
    B --> D["リンパ球の成熟過程が障害"]
    B --> E["修復されない<span class='jp-term jp-term-diagram' title='double-strand break'>二本鎖切断</span>の蓄積"]
    B --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='deoxyribonucleic acid'>DNA</span>損傷応答が働かず<br>放射線への防御機構も破綻"]
    C --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cerebellar ataxia'>小脳性運動失調</span>"]
    D --> H["免疫不全(IgA/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='IgG subclass deficiency'>IgGサブクラス欠損</span>、易感染性)"]
    E --> I["白血病・リンパ腫のリスク増加"]
    F --> J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ionizing radiation'>電離放射線</span>への感受性が著しく高い"]

💡 4つの症候を丸暗記しない。 「の感知と制御」というATM本来の機能を軸に置けば、・免疫不全・発癌・は、同じ機序の破綻が異なる臓器・細胞系統に現れた結果として一本に繋がる。⭐ 臨床で最も重い肺疾患は、この4つのどれか1つに対応するのではなく、免疫不全(反復する気道感染)と神経障害(嚥下障害による誤嚥)が合流した場所に生じる。 4つの機序図の「下流」に置いて理解する。

臨床像

GeneReviewsは本症を、経過の重い古典的A-Tと、経過が明らかに軽いvariant A-Tに分けて記述している。以下は断りがないかぎり古典的A-Tの記述である1。

  • 神経症状: 座位・歩行を獲得した後に発症するのが典型で、進行性のが初発症状になることが多い。失調だけで止まらず、多くは・・・振戦といったを伴い、8歳頃からは末梢神経障害(進行性の、の減弱・消失、遠位筋の筋力低下と萎縮)が現れる。10歳代から20歳代にかけてを呈することもある1。
  • : ・皮膚に生じるが、発症時にはまだ目立たず、多くは6歳頃までに明らかになる1。が先行しが後から追いつく、という時間差を知らないと初期に見逃す。
  • 免疫不全: 、、(多くは・)というパターンを取り、副鼻腔・気道感染を反復しやすい。古典的A-Tの約10%は、IgA・IgGが低くIgMが正常〜高値というhyper IgM表現型を取る1。
  • 呼吸器(肺)疾患: ・免疫不全・誤嚥(嚥下障害による)・・神経障害が重なって生じ、古典的A-Tのの一つに数えられる。15歳未満の小児で気道感染の細菌性として挙がるのは・肺炎球菌・黄色ブドウ球菌である1。
  • 悪性腫瘍: B細胞性・・白血病を発症しやすい1。

⚠️ 予後を決めるのは失調ではなく、悪性腫瘍・肺疾患・感染である。 GeneReviewsは古典的A-Tでが著しく短縮する理由をこの3つに帰している1。免疫不全があるにもかかわらず細菌・ウイルス・日和見病原体による重症感染は多くなく、頻度が高いのは軽症の副鼻腔・気道感染で、それが肺疾患を増悪させる——という積み重なり方をする1。

💡 variant A-Tは「軽い古典的A-T」ではなく、前面に出る症候が違う。 を欠くこともあり、代わりに(・性振戦)と軸索性の感覚運動性が目立つ。は概ね正常で、気道感染の増加も肺疾患も主要な特徴ではない。ただし悪性腫瘍のリスクは上昇したままで、とくに閉経前女性の乳癌とが問題になる1。免疫不全が無いことを理由に腫瘍を緩めてはならない。

検査

⚠️ 診断のための検査()を避ける。 ATMの機能喪失そのものが放射線への防御機構の破綻を意味するため、A-Tの患者はX線・への感受性が著しく高い。診断・経過観察の目的でも、のようなを用いる検査は代替手段(など)を優先し、必要性を慎重に吟味する1。

治療

A-Tには無く、対症療法と合併症管理が中心になる。()は、重度のIgG欠損例やhyper IgM表現型で適応となるほか、・軽度の異常・追加接種後も抗体反応が乏しい例でも考慮される1。反復・重症感染例やIgG欠損・抗体欠損の例では、予防的抗菌薬投与を早期から検討する。ワクチンはであれば安全に接種でき、およびは全例に推奨される1。

⚠️ 重度の免疫不全がある例では風疹ワクチンを避ける。 ワクチン由来のに関連すると考えられている皮膚肉芽腫のリスクを上げうるためで、GeneReviewsは「避けるべきもの」の欄に・放射線治療と並べてこれを挙げている1。

⭐ の「価数」は、引いた資料の版と、その国の現行スケジュールの両方を確かめる。 GeneReviewsは2025年12月4日改訂版でも13価結合型(PCV13)と23価(PPSV23)を挙げているが、の価数は各国でその後動いている。日本の小児のでは2024年10月以降、原則として沈降20価肺炎球菌(PCV20)を用い、沈降15価(PCV15)も使用できる2。米国も、基礎疾患をもつ19〜49歳でPCV未接種の成人に対する選択肢としてPCV15・PCV20・PCV21を挙げ、PCV15を用いた場合はPPSV23を追加するとしている3。A-Tに固有の推奨は「なら安全で、とは全例に打つ」という点であり、どの製剤を使うかは接種する国のその時点のスケジュールに従う。

⭐ 悪性腫瘍のもを避ける。 上述の回避の原則と対になり、(25歳から毎年)、腹部超音波(成人期は毎年)といった非放射線検査を用いて継続的に評価する1。

遺伝カウンセリングでは、両親がともにであれば同胞の発症確率は25%(となる確率は50%)であることを説明する。家系内で原因となるATMバリアントが同定されていれば、・も可能である1。

ヘテロ接合体(保因者)の乳癌リスク

⚠️ A-T患者自身だけでなく、(保因者)にも臨床的意味がある。 ATMを1コピーだけ持つは無症候だが、乳癌のリスクが上昇する。疫学研究では保因者の乳癌リスクは2〜5倍に上昇すると推定され4、のでもバリアントが1.98(95% CI 1.22〜3.19)で乳癌リスクを上げることが示されている4。GeneReviewsも50歳未満の女性で乳癌リスクが上昇することを確認している1。

💡 これはBRCA1・BRCA2()と同じ「遺伝子の片アレル喪失が乳癌リスクを上げる」という構造の一例であり、ATMが乳癌のとして扱われる根拠になる。A-T患者の家族歴を聴取する際は、患者本人の症候だけでなく、の乳癌歴・遺伝カウンセリングの必要性にも目を向ける。

⭐ のは、A-T患者本人のそれとは別に定められている。 GeneReviewsは、ATM の c.7271T>G バリアントをもつ女性の乳癌リスクをBRCA1・BRCA2保持者と同程度とし、25歳からの強化した乳房検診を挙げる。それ以外の ATM の女性には40歳からの毎年のを挙げ、は家族歴・年齢・乳腺濃度などを踏まえて考慮するとしている1。

⚠️ A-T患者本人のを、保因者にそのまま当てはめない。 GeneReviewsは、女性では通常線量の放射線治療は禁忌ではないと明記している1。上の「40歳から毎年」という推奨が成り立つのも同じ理由である。またでは男女とも消化管の悪性腫瘍と心血管疾患のリスクも上昇するが、それらに対する強化検診は現時点では推奨されていない1。

鑑別

進行性のを呈する疾患との鑑別が必要で、GeneReviewsのにはのが並ぶ1。

疾患 発症年齢 A-Tには見られない所見
FXN 10〜15歳 ・感覚障害、、心筋症、血清正常
TTPA 5〜15歳 血漿ビタミンE低値、、、血清正常
APTX を伴う失調症1型 2〜10歳 、血清上昇、血清は概ね正常
SETX を伴う失調症2型 3〜30歳
PIK3R5 を伴う失調症3型 12〜18歳 (表に記載なし)
PNKP を伴う失調症4型 10歳未満 、コレステロール上昇

⭐ 血清が正常なら、A-Tの可能性は大きく下がる。 表の6疾患のうち・・を伴う失調症1型では、A-Tとの違いとして血清が正常であることが明記されている1。⚠️ は鑑別点にならない。 疾患名に入っている4疾患だけの所見ではなく、古典的A-T自身にも、・測定過小・侵入・/調節の異常・の異常として現れるからである1。実際には・免疫グロブリン・の3つで当たりを付ける。

は・・を伴う点、や易感染性を伴わない点でA-Tと区別されるが、いずれも小児〜若年で進行性のを呈するため、免疫グロブリン低値・上昇・の有無を確認して鑑別する。

まとめ

  • A-TはATM遺伝子(の感知と制御)のによる病で、・・免疫不全・・がすべて同じ機序の破綻から生じる。
  • が先行し、・末梢神経障害が加わる。は6歳頃までに遅れて明らかになる。免疫不全(IgA/)による易感染性と、白血病・リンパ腫の発症リスク増加を伴う。
  • を縮めるのは失調そのものではなく、悪性腫瘍・肺疾患・感染である。肺疾患は・免疫不全・誤嚥・・神経障害が重なって生じる。
  • 血清上昇(古典的A-Tで全例に見られる)が有用なだが、2歳未満では誰でも高値のため診断マーカーにならない。
  • が高いため、診断目的であっても検査()は可能な限り避ける。例では風疹ワクチンも避ける。は安全で、肺炎球菌・は全例に接種する(製剤の価数は接種する国の現行スケジュールに従う)。
  • (保因者)は無症候だが乳癌リスクが2〜5倍に上昇し、BRCA1/BRCA2と同じとしての位置づけを持つ。ただし保因者では通常線量の放射線治療は禁忌ではなく、乳癌も患者本人とは別(原則40歳からの、c.7271T>Gでは25歳からの強化検診)に定められている。
  • 鑑別には・・を伴う失調症などのを挙げるが、免疫不全・上昇・の有無がA-Tを支持する所見になる。

出典

  1. 1.Ataxia-Telangiectasia(GeneReviews(NCBI Bookshelf)・2025)NCBIのライブページ(2025年12月4日改訂版)の全文を取得して、A-Tが*ATM*遺伝子の両アレル病的バリアントによる常染色体潜性遺伝病であること、古典的A-Tとvariant A-Tに分けて記述されていること、典型例では座位・歩行を獲得した後に小脳性運動失調が初発症状として現れ、その後に錐体外路症状(ジストニア・舞踏アテトーゼ・ミオクローヌス・振戦)と8歳頃からの感覚運動性末梢神経障害が加わり、10歳代から20歳代にパーキンソニズムを呈しうること、古典的A-Tの中核症状に反復感染・免疫不全・誤嚥・間質性肺疾患・神経障害から生じる肺疾患が含まれ、平均余命の短縮が悪性腫瘍・肺疾患・感染に帰されること、重症感染はむしろ少なく軽症の副鼻腔・気道感染が頻回であること、15歳未満の気道感染の細菌性起炎菌としてインフルエンザ菌・肺炎球菌・黄色ブドウ球菌が挙がること、免疫不全のパターンとして選択的IgA欠損・低ガンマグロブリン血症・IgGサブクラス欠損(多くはIgG2・IgG4)が見られ約10%がhyper IgM表現型を取ること、毛細血管拡張は多くの場合6歳頃までに明らかになり発症時には目立たないこと、B細胞非Hodgkinリンパ腫・Hodgkinリンパ腫・白血病を発症しやすいこと、電離放射線(X線・ガンマ線)と放射線治療が禁忌とされること、重度免疫不全例では風疹ワクチンを避けるべきとされること、不活化ワクチンは安全でインフルエンザ・13価結合型肺炎球菌・23価莢膜多糖体肺炎球菌ワクチンを全例に接種するとされること、古典的A-T全例で血清AFPが10 ng/mLを超えて上昇し200〜1,000 ng/mLの範囲を取るが出生時は誰でも高値で2歳頃に正常化するため幼児では診断マーカーとして信頼できないこと、サーベイランス表で成人期の腹部超音波が毎年・女性の乳房MRIが25歳から毎年とされること、ヘテロ接合体の女性(50歳未満)は乳癌リスクが上昇し、c.7271T>Gでは*BRCA1*・*BRCA2*と同程度のリスクとして25歳からの強化検診、それ以外の病的バリアントでは40歳からの毎年のマンモグラフィが挙げられ、通常線量の放射線治療はヘテロ接合体女性では禁忌でないこと、ヘテロ接合体では消化管悪性腫瘍と心血管疾患のリスクも上昇するが強化検診は推奨されていないこと、鑑別診断表(Table 3)にFriedreich失調症・ビタミンE欠乏性運動失調症・眼球運動失行を伴う失調症1〜4型が挙げられていることを確認した閲覧 2026-09-05
  2. 2.子どもの肺炎球菌ワクチン(厚生労働省・2026)「定期接種に使用するワクチン」の節に「2024年10月以降、原則として、沈降20価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV20)を使用します。沈降15価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV15)も使用可能です」と記載されていること、定期接種の対象が生後2か月からの小児であることを、ページ本文を取得して確認した(Q&Aは2026年3月10日版)閲覧 2026-09-05
  3. 3.Recommended Vaccines for Adults (Pneumococcal)(Centers for Disease Control and Prevention・2026)基礎疾患をもつ19〜49歳でPCV未接種の成人に対する肺炎球菌ワクチンの選択肢としてPCV15・PCV20・PCV21が挙げられ、PCV15を用いた場合はPPSV23を追加するとされていること(ページ更新日2026年2月25日)。curlは403のためWebFetch経由で閲覧した閲覧 2026-09-05
  4. 4.The association between ATM variants and risk of breast cancer: a systematic review and meta-analysis(BMC Cancer・2021)A-T家系のヘテロ接合体(保因者)に関する疫学研究では*ATM*変異の保因者で乳癌リスクが2〜5倍に上昇すると推定されていること、症例対照研究の統合解析ではヘテロ接合体バリアントが乳癌リスクをオッズ比1.98(95%CI 1.22〜3.19)で上昇させたことを確認した閲覧 2026-08-11