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Disease Atlas · 神経 · 先天性疾患

副腎白質ジストロフィー

Adrenoleukodystrophy

別名
ALDX-ALD
臓器系
神経内分泌・代謝
科目
PathologyPediatrics
トピック
病理学 C/110:髄鞘疾患(脱髄性疾患)小児科 2-10:先天代謝異常を疑う状況と初期評価
上位概念
先天代謝異常症
鑑別疾患
異染性白質ジストロフィー多発性硬化症
続発疾患
原発性副腎不全
治療薬
ヒドロコルチゾンフルドロコルチゾン
症状
発作痙性麻痺歩行不安定視力低下難聴筋力低下体重減少倦怠感
検査値
コルチゾール

🧠 全体像は、X染色体上のABCD1遺伝子変異で体ALDPが欠損し、が障害されて全身の組織にVLCFAが蓄積する、というただ一つの生化学的異常から出発する。同じ変異を持っていても、蓄積したVLCFAがどの組織を強く傷めるかで表現型は劇的に分かれる——中枢神経白質を傷めれば小児大脳型やAMN()に、副腎皮質を傷めれば単独型になり、しばしば両者が重なる。診療の核心は、①血漿VLCFAとABCD1で確定し、②頭部造影MRIで脱髄の広がりと活動性を評価し、③早期・活動性の大脳型には進行を止める唯一確立した手段であるを検討し、④副腎不全を見逃さずステロイド補充につなげる、という一連の流れである。

概要

(ALD、X-ALD)はABCD1遺伝子変異によるX連鎖性ので、遺伝性の中で最も頻度が高く、出生男児のおよそ1万5000〜2万人に1人が罹患するとされる。の分類でいえば、誘因なく進行する)の代表例である。中枢神経白質・副腎皮質・精巣という一見な組織が標的になるのは、すべて「VLCFAを処理しきれない」という単一の代謝異常に由来するためである。日本では指定難病に指定されている。

X連鎖性のため罹患男性は全員発症しうる一方、女性は多くの場合にとどまる。母方保因者からは息子・娘とも50%の確率で変異が伝わり、罹患男性の娘は全員が保因者となる。

病態・分子遺伝学

ABCD1膜上のATP結合カセット(ABC)輸送体ALDPをコードする。ALDPは、VLCFA(炭素数24以上の脂肪酸、代表はC26:0)をCoAエステルの形で内へ運び込み、に受け渡す役割を担う。ABCD1変異でALDPが欠損するとこの輸送ができず、VLCFAは酸化されないまま血漿・組織に蓄積する。

flowchart TD
    A["ABCD1遺伝子変異(X連鎖)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='peroxisome'>ペルオキシソーム</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='membrane transport'>膜輸送</span>体ALDPの欠損"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='VLCFA'>極長鎖脂肪酸</span>の<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='peroxisome'>ペルオキシソーム</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='beta-oxidation'>β酸化</span>障害"]
    C --> D["VLCFAが血漿・組織に蓄積"]
    D --> E["中枢神経白質の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oligodendrocyte'>オリゴデンドロサイト</span>障害"]
    D --> F["副腎皮質細胞の障害"]
    D --> G["精巣<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Leydig cell'>Leydig細胞</span>の障害"]
    E --> H["脱髄(小児大脳型・AMN)"]
    F --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='primary adrenal insufficiency'>原発性副腎不全</span>"]

💡 蓄積したVLCFAは細胞膜・ミトコンドリア膜の脂質組成を変化させ、を介してを増幅すると考えられている。大脳型でみられる強い炎症性脱髄がなぜ誘発されるか、同じ変異でも脳型に進展する例とAMNにとどまる例に分かれる理由は、修飾遺伝子や環境因子の関与が推定されるが完全には解明されていない。

表現型のスペクトラム

同一のABCD1変異を持つ家系内でも表現型は大きく異なり、単一のから重症度を予測することはできない。

病型 好発 特徴
小児大脳型 男児、3〜10歳 後頭・優位の脱髄がを越えて進展し、行動・学業成績の変化から数年以内に急速な荒廃に至る
成人男性、20〜40歳代 、末梢神経障害、膀胱直腸障害。経過中に一部が大脳型病変を合併する
単独型 小児〜成人男性 神経症状を欠き副腎不全のみが前景に立つ。後年に神経症状が顕在化することがある
女性 中年以降の女性 により一定の割合でAMN様の緩徐なを呈するが、副腎不全は稀

日本のではさらに細分し8病型とするが、学習上は上表の4群で足りる。

臨床像

⚠️ はどの病型でも省略しない。 AMNや小児大脳型でも副腎不全が先行・並存することがあり、逆に単独型と思われた例が後年に神経症状を呈することもある。

診断

flowchart TD
    A["神経症状・副腎不全様症状<br>または家族歴からALDを疑う"] --> B["血漿VLCFA<br>(C26:0、C24:0/C22:0比、C26:0/C22:0比)を測定"]
    B --> C{"VLCFA上昇か"}
    C -->|"上昇あり"| D["ABCD1<span class='jp-term jp-term-diagram' title='genetic testing'>遺伝子検査</span>で確定"]
    C -->|"正常範囲(女性で起こりうる)"| D
    D --> E["頭部造影MRIでLoesスコアを用い脱髄の範囲・活動性を評価"]
    E --> F["ACTH・コルチゾールで副腎機能を評価"]
    F --> G["表現型・重症度に応じ<span class='jp-term jp-term-diagram' title='treatment strategy'>治療方針</span>を決定"]

血漿VLCFAはC26:0の絶対値上昇に加え、C24:0/C22:0比・C26:0/C22:0比の上昇が診断的価値を持つ。⭐ 女性はVLCFAが正常範囲にとどまることがあるため、疑いが強ければ正常値でもABCD1に進む。

頭部造影MRIでは、両側対称性で後頭・優位、を越える)を認め、活動性の高い病変の辺縁にはを反映するが生じる。重症度スケールであるLoesスコア(0〜34点)とあわせ移植の適応判断に用いる。

⚠️ (ACTH・コルチゾール)は診断時に必ず併せる。 神経病型の診断だけで満足すると、未治療の副腎不全が見逃されのリスクにさらされる。

治療

状況 主な方針
早期・活動性の小児大脳型(Loesスコア低値、造影増強病変あり) を検討。適合ドナーが得られない例では遺伝子治療()が選択肢
進行した大脳型(Loesスコア高値・(NFS)不良) 移植の進行抑制効果は乏しく対症療法が中心
副腎不全を伴う例(病型を問わず) による生涯にわたるステロイド補充
AMN 対症療法(・膀胱直腸障害への対応)が中心。大脳型病変の合併を定期MRIで監視する

は、早期の小児大脳型に対して確立された進行抑制手段である。 既に生じた脱髄・神経障害は回復させないため、Loesスコアが低く造影増強を伴うがある早期段階でこそ効果が見込め、進行した病変(Loesスコア高値・NFS不良)では移植のリスクに見合わない。

⚠️ 遺伝子治療()はのリスクが問題となり、FDAが添付文書のを強化した。 適応は適合ドナーが得られない例に限られ、長期の血液学的モニタリングを要する。

⚠️ の混合油)は血漿VLCFAを下げるが、発症を予防する効果は確立していない。 無症候男児の単群でMRI異常の低下が報告されたが、対照群を伴う比較試験の裏付けはなくの見解も分かれ、既存の脱髄を改善する効果も乏しい。投与の有無にかかわらずMRIによる定期的な経過観察が必須である。

のC26:0-を一次指標とする)を導入する国・地域が増えており、米国の多くの州やオランダ、台湾などで実施され、日本を含む複数国でパイロット運用が進む。症候発現前に診断できれば、MRIの定期フォローでを早期に捉え、移植のタイミングを逃さずに済む。

鑑別

疾患 ALDとの違い
自己免疫性で特異抗体・を示し、を越える対称性の脱髄や副腎不全は伴わない
欠損による遺伝で、末梢の低下を伴いやすい
欠損による遺伝で、乳児期早期からのが典型
(自己免疫性など) 神経症状を伴わない他原因の副腎不全との鑑別にはVLCFA測定が有用

⚠️ AMNはという非特異的な臨床像のため、成人発症のされやすい。 VLCFA測定は安価・迅速なので、原因不明のではX連鎖性を意識し測定の閾値を低く保つ。

まとめ

  • ALDはABCD1遺伝子変異による体ALDPの欠損で、が障害され組織に蓄積するX連鎖性疾患である。
  • 同一変異でも表現型は幅広く、小児大脳型(急速進行)、AMN()、単独型に大別され、女性も中年以降にAMN様症状を呈しうる。
  • 診断は血漿VLCFA(C26:0、C24:0/C22:0比、C26:0/C22:0比)上昇とABCD1で確定し、頭部造影MRI(Loesスコア)と副(ACTH・コルチゾール)を必ず併せる。
  • 早期・活動性の小児大脳型にはが唯一確立した進行抑制手段で、ドナーが得られない例では遺伝子治療も選択肢になるがリスクの監視が必須である。
  • 副腎不全にはステロイド補充を行い、に発症予防効果は確立していない。の導入が世界的に広がっている。