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Disease Atlas · 神経 · 先天性疾患

異染性白質ジストロフィー

Metachromatic leukodystrophy

別名
MLDアリールスルファターゼA欠損症
臓器系
神経小児精神内分泌・代謝
科目
PathologyPediatrics
トピック
病理学 C/110:髄鞘疾患(脱髄性疾患)小児科 2-10:先天代謝異常を疑う状況と初期評価
上位概念
ライソゾーム病
鑑別疾患
Krabbe病副腎白質ジストロフィー
症状
歩行不安定筋力低下神経障害性疼痛

🧠 全体像は、酵素(ARSA)の欠損という単一の生化学的異常から出発する遺伝病である。ARSAが働かないとに蓄積し、中枢神経の髄鞘()だけでなく末梢神経の髄鞘()も脱髄する——この「中枢+末梢」という組み合わせが、MS・NMOSD・MOGADのような中枢限局性のとの最大の違いであり、MRIでのと末梢の低下を両方確認することが診断の鍵になる。発症年齢で3病型に分かれ、最多かつ最重症の晩期乳児型ではですら間に合わないという厳しい現実がある一方、早期発症型には遺伝子治療(アチダルサジーン オートテムセル)が承認され、症候発現前・ごく早期にどれだけ介入を早められるかが予後を左右する疾患へと変わりつつある。

病態:なぜ「異染性」と呼ばれるか

MLDはのうち、内の分解酵素が欠損して基質が蓄積する「」に分類される。ARSAは、髄鞘の主要なの一つ)を分解する役割を担う。ARSAが欠損すると・ニューロンの内に蓄積し、髄鞘の維持ができなくなって脱髄が進む。

flowchart TD
    A["ARSA遺伝子変異(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='autosomal recessive'>常染色体潜性</span>)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='arylsulfatase A'>アリールスルファターゼA</span>(ARSA)活性の欠損"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sulfatide'>スルファチド</span>が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lysosome'>ライソゾーム</span>に蓄積"]
    C --> D["中枢神経:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oligodendrocyte'>オリゴデンドロサイト</span>の障害"]
    C --> E["末梢神経:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Schwann cell'>Schwann細胞</span>の障害"]
    D --> F["中枢の脱髄(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='white matter lesion'>白質病変</span>)"]
    E --> G["末梢神経の脱髄<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nerve conduction velocity'>神経伝導速度</span>の低下)"]

💡 」の由来。 蓄積したは正の電荷を帯びた特定の色素と強く反応する性質を持つ。を酸性化クレシルバイオレット(Hirsch-Peiffer染色、など類縁の塩基性色素も同様に用いられる)で染めると、本来の染色色とは異なる黄褐色の(メタクロマジー)を示す。この「本来染まるはずの色と違う色に染まる」性質が疾患名の由来である1

中枢だけでなく末梢神経も脱髄する、という組み合わせを覚える。 はいずれも中枢神経に限局するだが、MLDはという全身性の代謝異常が背景にあるため、中枢のに末梢の低下が伴う。この組み合わせを見たらMLDを含むを積極的に疑う。

病型:発症年齢で3型

病型 発症年齢 臨床像 経過
晩期乳児型 30か月未満 脱力、、転びやすさ、尖足歩行、から始まる 最多(全体の50〜60%)かつ最重症。発症から5年以内に死亡する例が多い1
若年型 30か月〜16歳 まず学業成績の低下・行動異常が出現し、続いてが進行 晩期乳児型より緩徐だが、経過は年単位
成人型 16歳以降 ・仕事上の問題で発症し、アルコール/・金銭管理不良・情動不安定・を呈する ⚠️ ・うつ病・認知症とされやすい1。進行は数十年単位ともっとも緩徐

⚠️ 成人発症の精神症状+の神経症状(、末梢神経障害)の組み合わせを見たら、原発性の精神疾患だけで片付けずMLDを含む代謝性疾患を鑑別に入れる。 を満たすように見えても、や末梢異常があれば代謝性疾患の検索に進む1

診断

  • 白血球ARSA活性: 正常の10%未満で診断的1
  • ⚠️ ARSA偽欠損に注意する。 活性が正常の5〜20%程度にとどまる「偽欠損」多型は、発症しないにもかかわらず生化学的検査だけでは真の酵素欠損と区別しにくい1。臨床像・尿中・遺伝学的検査を組み合わせて解釈する。
  • 尿中 全病型で異常高値を示す1
  • 頭部MRI: 脳室周囲白質を中心とする対称性のに加え、放射状の縞模様や斑点状の所見(虎斑様/ヒョウ皮様パターン)を認めることがあり、特に若年型で捉えやすい。
  • の低下(脱髄性パターン)を認めることが、中枢限局性のとの鑑別点になる。

治療

⚠️ は、無症候期であっても晩期乳児型では効果がない。 晩期乳児型はの進行が、・単球/マクロファージの中枢神経への移行速度を上回るため、無症候の時期に移植しても進行を止められず推奨されない1。一方、若年型・成人型の無症候期または早期症候期では、の安定化と長期のなし生存に結びつくことが示されている1。同じ「早期に」という言葉でも、病型によって移植が意味を持つかどうかがまったく異なる点が実務上の要点である。

遺伝子治療(アチダルサジーン オートテムセル)が承認されている。 患者自身の造血幹細胞(CD34陽性細胞)にでARSA遺伝子を導入し体内へ戻すことで、血液脳関門を越えて中枢神経へ移行した細胞が機能的なARSAを産生するという機序である。EUでは2020年12月にLibmeldyとして、晩期乳児型・早期若年型で無症候の患者、および早期若年型で歩行が自立しが始まる前の軽度症候患者を適応として承認された2。米国では2024年3月にLenmeldyとして、6歳以下で無症候の晩期乳児型、および6歳以下で無症候または軽度症候の早期若年型を適応にFDA承認された3

⚠️ いずれの治療(・遺伝子治療)も、既に進行した症候性の晩期乳児型には適応がない。 はいずれも「無症候期」または「発症ごく早期」に限られており、症候が進んでからの介入は選択肢にならない。これが、MLDが疑われた時点で診断を急ぐべき理由である。

鑑別:副腎白質ジストロフィーとの違い

MLDはと並ぶ代表的なだが、蓄積する物質・・遺伝形式・侵される神経系がそれぞれ異なる。

項目 MLD ALD
遺伝形式 ARSA X連鎖性(ABCD1
蓄積する・物質 内の で処理しきれない(VLCFA)
末梢神経 を高頻度に伴い、低下が診断の手がかりになる AMN型でも末梢神経障害より(中枢性)が前景に立つ
副腎皮質 侵されない しばしばを合併する

⚠️ の要否が鑑別の実務的な手がかりになる。 +神経症状で受診した患者で体重減少・色素沈着・低血圧など副腎不全を疑う所見があればALDを、末梢の低下があればMLDをより強く疑う。両者とも尿・血漿の生化学検査(尿中 vs 血漿VLCFA)とで最終的に鑑別する。

まとめ

  • MLDはARSA欠損によるで、の蓄積により中枢神経()と末梢神経()の両方が脱髄する遺伝病である。
  • 」の名は、蓄積したが塩基性色素で通常と異なる色調(黄褐色)に染まる性質に由来する。
  • 病型は発症年齢で晩期乳児型(最多・最重症)、若年型、成人型(精神症状で発症しされやすい)に分かれる。
  • 診断は白血球ARSA活性低下と尿中高値で行うが、偽欠損(活性は低いが発症しない多型)に注意する。頭部MRIの虎斑様/ヒョウ皮様パターンと末梢の低下も手がかりになる。
  • は晩期乳児型では無症候期でも無効だが、若年型・成人型の無症候〜早期症候期では有効である。遺伝子治療(アチダルサジーン オートテムセル)が早期発症型の無症候〜軽度症候例を適応にEU・米国で承認されている。

出典

  1. 1.Arylsulfatase A Deficiency(GeneReviews(NCBI Bookshelf)・2023)病型が発症年齢で晩期乳児型(30か月未満発症、脱力・低緊張・つまずきやすさ・尖足歩行・構音障害で発症)・若年型(30か月〜16歳発症、まず学業成績低下・行動異常が出て歩行障害が続く)・成人型(認知機能低下や仕事上の問題で発症し、アルコール/薬物乱用・金銭管理不良・情動不安定・不適切な感情表出・精神病様症状から統合失調症やうつ病・認知症と誤診されやすい)の3型に分かれること、晩期乳児型が全体の50〜60%を占め最多かつ進行が最も速く発症から5年以内に死亡する例が多いこと、白血球アリールスルファターゼA(ARSA)活性が正常の10%未満で診断されること、活性が正常の5〜20%の「偽欠損(pseudodeficiency)」は生化学的検査だけでは真の欠損と鑑別が難しいこと、全病型で尿中スルファチド排泄が異常高値になること、凍結切片を酸性化クレシルバイオレット(Hirsch-Peiffer染色)で染めるとスルファチドの蓄積物が黄褐色の異染性(メタクロマジー)を示し疾患名の由来になっていること、常染色体潜性遺伝で同胞の発症確率が25%であること、同種造血幹細胞移植は無症候期であっても晩期乳児型では病勢の進行が生着・中枢移行の速度を上回るため無効とされ推奨されないのに対し若年型・成人型の無症候期または早期症候期では病勢安定化と長期の疾患負荷なし生存に結びつくこと、全体の有病率が集団により1:40,000〜1:170,000と報告されていることを確認した閲覧 2026-08-11
  2. 2.Libmeldy (atidarsagene autotemcel) - European Public Assessment Report(European Medicines Agency(EMA)・2020)2020年12月17日にEUで承認されたこと、適応が晩期乳児型・早期若年型で無症候の患者、および早期若年型で歩行が自立し認知機能低下が始まる前の軽度症候の患者であること、自己造血幹細胞(CD34陽性細胞)にレンチウイルスベクターでARSA遺伝子を導入し体内へ戻すことで、正常なARSAを産生する白血球を全身に供給しスルファチド分解を助けるという機序であることを確認した閲覧 2026-08-11
  3. 3.FDA Approves Lenmeldy for Metachromatic Leukodystrophy(American Society of Gene & Cell Therapy(ASGCT)・2024)2024年3月18日にFDAがLenmeldy(アチダルサジーン オートテムセル)を、米国で早期発症型MLDに対する唯一の治療として承認したこと、適応が6歳以下で無症候の晩期乳児型、および6歳以下で軽度症候または無症候の早期若年型の患者であること、ARSA遺伝子を患者自身の幹細胞ゲノムへ導入し体内へ戻すと血液脳関門を越えて中枢神経へ移行・生着し機能的な酵素を発現するという機序であることを確認した閲覧 2026-08-11