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Disease Atlas · 神経 · 疾患

遺伝性痙性対麻痺

Hereditary spastic paraplegia

別名
HSP家族性痙性対麻痺SPAST-HSP
臓器系
神経
科目
Neurology
トピック
神経内科 G1-04:中枢性不全麻痺症候群の局在診断
鑑別疾患
HTLV-1関連脊髄症亜急性連合性脊髄変性症圧迫性脊髄症脳性麻痺
治療薬
バクロフェンチザニジンボツリヌス毒素
症状
痙性麻痺歩行不安定尿意切迫感知覚異常小脳性運動失調

🧠 全体像:は、単一の疾患ではなく皮質脊髄路が長さに依存して変性していくという共通の終着点を持つ、遺伝的に多様なである。は80以上知られるが、⭐ 臨床像を整理する軸はたった2つ——「純粋型か複合型か」と「遺伝形式は何か」——に集約できる1。最多の原因であるSPG4(SPAST遺伝子)を軸に、この整理の使い方を押さえる。

分類——純粋型と複合型

型 特徴
純粋型 下肢優位の進行性・筋力低下のみ。構音・・嚥下は障害されない1
複合型 純粋型の所見に加え、・失調・てんかん・末梢神経障害などを伴う1

💡 「だけ」か「+他の神経症候」かを見極めることが最初のである。 SPG4はほとんどが典型的な純粋型で、稀に複合型の報告があるにとどまる。一方、SPG11やSPG15は代表的な複合型で、しばしば薄い・欠損したを伴う1。

遺伝形式とサブタイプ

⭐ 「常染色体優性なら大多数がSPG4」というのが最も頻度の高い覚え方である。

遺伝形式 全体に占める割合 代表的なと頻度
常染色体優性 純粋型HSPの75〜80% SPG4(SPAST)が優性例の約40%、SPG3A(ATL1)が優性例の75%超、SPG30(KIF1A)・SPG31(REEP1)が各約5%、SPG6(NIPA1)が約1%1
HSP全体の25〜30% SPG5(CYP7B1)が劣性例の7.3%、SPG7が約5%、SPG11が3〜5%(薄い・欠損例の75%を占める)1
X連鎖 まれ AP-4関連HSPなど、小児発症の複合型が代表

HSP全体のは10万人あたり1.8人と推定され、SPG4は民族差はあるが全症例の15〜40%を占める最多の原因である2。

SPG4(SPAST)を軸にした病態

SPAST遺伝子は微小管切断タンパクであるスパスチンをコードする。平均発症年齢は29±17歳と幅広く、乳児期から老年期まで発症しうる2。⚠️ 年齢依存的ながあり、最大80〜90%に達するため、家族内に未発症のがいても否定材料にならない2。

💡 「微小管を切る酵素の機能低下」だけでは説明しきれない。 スパスチンの微小管切断活性の部分的低下という古典的な説明だけでは、なぜ発達期の軸索より成人の軸索の方がダメージを受けやすいのかを十分に説明できない2。近年は、疎水性のN末端ドメインを持つM1が成人脊髄に選択的に発現し、への干渉など複数の機序で毒性を及ぼす可能性が注目されており、この選択的発現が皮質脊髄路という特に長い軸索に障害が集中する理由を説明しうると考えられている2。

⭐ 「長い軸索ほどやられる」というが、HSPという全体を貫く発想である。 皮質脊髄路は人体で最も長い軸索の1つであり、遠位(脊髄終末側)ほど障害が強く出るため、臨床像は下肢優位のという形で現れる。

flowchart TD
    A["進行性の下肢<span class='jp-term jp-term-diagram' title='spastic paraplegia'>痙性対麻痺</span>"] --> B{"構音・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mastication'>咀嚼</span>・嚥下障害や<br>他の神経症候を伴うか"}
    B -->|"伴わない"| C["純粋型HSPを考える"]
    B -->|"伴う(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cognitive impairment'>認知障害</span>・失調・末梢神経障害等)"| D["複合型HSPを考える"]
    C --> E["家族歴を三世代分聴取"]
    D --> E
    E --> F["脊髄<span class='jp-term jp-term-diagram' title='magnetic resonance imaging'>MRI</span>で圧迫性・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Inflammatory Lesions'>炎症性病変</span>を除外"]
    F --> G["マルチ<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gene panel'>遺伝子パネル</span>または網羅的<span class='jp-term jp-term-diagram' title='genome sequencing'>ゲノム解析</span>"]
    G --> H["対症療法:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='physiotherapy'>理学療法</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='antispastic agent'>抗痙縮薬</span>・補助具"]

診断と鑑別

⭐ HSPはではなく、遺伝学的検査で確定する疾患である。 三世代の家族歴聴取、マルチまたは網羅的(/ゲノム)、によるの評価を組み合わせる1。

鑑別 分ける点
関連 家族歴を欠く、より高齢での発症、血液・髄液の抗抗体陽性、膀胱直腸障害が早期から目立つ
明瞭な、局所の疼痛、での構造的圧迫病変。最初に画像で除外する
後索症状(振動覚・低下)が前景、、ビタミンB12低値。治療可能なので必ず除外する
周産期リスク因子、非進行性の経過。純粋型HSPはで、小児期に(型)とされることがある

⚠️ 小児期発症のHSPはと混同されやすい。 は非進行性、HSPはという経過の違いが鍵になるが、幼少期は進行が目立たず判別が難しいことがある。家族歴や、成長後も症状が緩徐に進行する点が手がかりになる。

治療——対症療法が中心

⚠️ そのものを予防・回復させる治療法は無い1。管理は多職種による対症療法が中心となる。

⭐ を「取り除く」のではなく「機能を保つ範囲に調整する」。 過度にを取ると、がむしろ支持機能として働いていた下肢の立位・歩行が損なわれることがあるため、機能評価をしながら薬剤・用量を調整する。

まとめ

出典

  1. 1.Hereditary Spastic Paraplegia Overview(GeneReviews(NCBI Bookshelf)・2025)2025年6月改訂版。遺伝性痙性対麻痺(HSP)は純粋型(下肢優位の進行性痙縮・筋力低下のみで構音・咀嚼・嚥下は障害されない)と複合型(認知機能障害・失調・てんかん・末梢神経障害などを追加で伴う)に大別されること、常染色体優性の純粋型HSPの75〜80%を占め、その中でSPAST遺伝子(SPG4)が常染色体優性HSPの約40%、ATL1遺伝子(SPG3A)が早発型常染色体優性HSPの75%超を占めること、SPG30(KIF1A)・SPG31(REEP1)が各約5%、SPG6(NIPA1)が約1%であること、常染色体劣性HSPはHSP全体の25〜30%を占めCYP7B1(SPG5)が常染色体劣性HSPの7.3%、SPG7が約5%、SPG11が3〜5%(薄い・欠損した脳梁を伴う症例の75%を占める)であること、発症年齢は乳児期から70歳代まで遺伝子型により様々であること、診断には三世代の家族歴聴取、マルチ遺伝子パネルまたは網羅的ゲノム解析、MRIによる構造異常の評価を組み合わせること、治療は神経変性そのものを予防・回復させる治療法が無く理学療法・抗痙縮薬(バクロフェン・チザニジン・ボツリヌス毒素)・補助具による対症療法が中心であることを確認した閲覧 2026-09-06
  2. 2.Hereditary spastic paraplegia SPG4: what is known and not known about the disease(Brain(Solowska JM, Baas PW)・2015)HSP全体の有病率は10万人あたり1.8人と推定されること、SPG4(SPAST遺伝子変異)は民族によって全HSP症例の15〜40%を占めること、SPG4の平均発症年齢は29±17歳で乳児期から老年期まで及ぶこと、SPAST遺伝子の年齢依存的な浸透率は最大80〜90%に達すること、SPAST遺伝子産物である微小管切断タンパク・スパスチンの機能低下だけでは臨床像を十分に説明できず、疎水性N末端ドメインを持つM1アイソフォームが成人脊髄に選択的に発現し軸索輸送への干渉など複数の機序で毒性を及ぼしうる可能性が示唆されていること、この選択的発現が皮質脊髄路という特に長い軸索に対する障害の選択性を説明しうると考えられていることを、本文(総説)で確認した閲覧 2026-09-06