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Disease Atlas · 神経 · 疾患

一過性脳虚血発作

Transient ischemic attack

別名
TIA一過性虚血発作
臓器系
神経循環器
科目
NeurologyPathology
トピック
神経内科 G2-26:TIA病理学 C/106:脳血管障害(低酸素・虚血・梗塞)
鑑別疾患
脳梗塞
治療薬
アセチルサリチル酸クロピドグレルアトルバスタチンアピキサバン
症状
一過性黒内障失語片麻痺複視めまい同名半盲
検査値
血糖
画像所見
拡散強調画像高信号
スコア
ABCD2スコア
元疾患
乳頭状線維弾性腫
原因となる疾患
心房細動頭蓋内動脈硬化性病変内頸動脈解離卵円孔開存頸動脈狭窄症頸部動脈解離

🧠 全体像:()は、かつて「24時間以内に症状が消える発作」として時間で定義されていたが、現在は画像上のを伴わないという組織学的な基準で定義される。症状が完全に消えていても、それは「治った」のではなく「梗塞に至らずに済んだ」だけであり、直後のリスクが最も高い救急疾患として扱う。の低さで安心してはならない——症候を拾えない構造的な弱点があるからである。

定義と病型

定義 基準
(旧定義) 症状持続が24時間未満で完全に消退する 24時間という閾値に病態生理的な根拠がなく、でがあっても症状さえ24時間以内に消えれば「」としてしまう
組織学的(現行の定義) 画像上のの有無で判定する1 が直ちに利用できない環境では判定できないことがある

()で急性期のを認めれば、症状がわずか数分で消えていてもであり、とはしない。一方、が直ちに利用できない状況でも、臨床的に疑えば評価・を遅らせない。

とは、時間軸上に並ぶ別の疾患ではなく、同じ虚血機序の連続体のどちらに転ぶかという関係にある。

flowchart TD
    A["血栓・塞栓・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='high-grade stenosis'>高度狭窄</span>による局所血流低下"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ischemic core'>虚血コア</span>に至らない範囲の低灌流"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='collateral circulation'>側副血行</span>・自然な血栓崩壊で早期に血流再開"]
    C --> D["神経機能は可逆的に回復"]
    D --> E["画像上は<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute infarct'>急性梗塞</span>なし=<span class='jp-term jp-term-diagram' title='transient ischemic attack'>TIA</span>"]
    B --> F["血流低下が遷延し<span class='jp-term jp-term-diagram' title='collateral circulation'>側副血行</span>が乏しい"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ischemic core'>虚血コア</span>が形成される"]
    G --> H["画像上に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute infarct'>急性梗塞</span>あり=<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cerebral infarction'>脳梗塞</span>"]

病態生理:4つの機序

機序 代表的背景 特徴
頸動脈・頭蓋内動脈のからの塞栓 同一の反復発作
心房細動、、弁膜症 突然の最大症状での発症、複数
高血圧、糖尿病、による細動脈障害 深部の純粋運動・感覚症候
高度に血圧低下・などの誘因が重なる ()の症候。起立・労作で誘発されやすく、反復・な発作を来しうる

機序では、通常はで保たれているの灌流が、脱水やの効きすぎなどの誘因で一時的に不足する。同じ発作パターンが繰り返される「」は、単一の病変に由来することが多く、緊急のの対象になる。

臨床像

突然発症し、単一に対応する(機能の消失)が典型である。

徐々に広がる陽性視覚・は、反復する律動性運動は焦点てんかん発作、失神前の・発汗はを示唆する。ただし病歴だけで断定せず、画像・血管評価を並行する。

鑑別診断

鑑別の手掛かり
が数分かけて進展し、様式が変化しながら移動する
・() 陽性運動・、意識変容、の混乱
低血糖 発汗、振戦、行動変化。血糖測定で確認する
失神 姿勢・誘因、、短いと速やかな回復
単独の回転性めまいが中心。ただし虚血を安易に除外しない
解剖学的に一貫しない所見がありうるが、脳卒中を除外したうえで診断する

評価とリスク層別化

症状の有無にかかわらず、はすべて緊急扱いとする。

flowchart TD
    A["一過性の局在神経症状を疑う"] --> B["発症時刻・症状・血糖・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='medication history'>薬歴</span>を確認"]
    B --> C["脳卒中専門評価を可能な限り早く実施"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='magnetic resonance imaging'>MRI</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='diffusion-weighted imaging'>拡散強調像</span>を優先し<br>必要なら<span class='jp-term jp-term-diagram' title='computed tomography'>CT</span>で出血を除外"]
    C --> E["頸動脈・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intracranial vessels'>頭蓋内血管</span>を評価"]
    C --> F["心電図・心房細動検索・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cardiogenic'>心原性</span>評価"]
    D --> G{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute infarct'>急性梗塞</span>があるか"}
    G -->|"あり"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cerebral infarction'>脳梗塞</span>として治療"]
    G -->|"なし"| I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='transient ischemic attack'>TIA</span>として原因検索と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='secondary prevention'>二次予防</span>を開始"]

(年齢・血圧・・・糖尿病の5項目)は簡便な短期リスク指標として広く使われてきたが、やなどの症候を採点項目に含まないため、のやを十分に捉えられない構造的な弱点がある2。所見を組み込んだABCD3-Iのような改良版でも、この弱点を完全には解消しない。後90日以内のは最大17.8%に達し、その約半数は発症後2日以内という短期間に生じる2。

⚠️ リスクスコアで紹介のを決めない。 欧州脳卒中機構(ESO)はで予測ツールを単独で用いて高リスク例の同定・・治療判断を行わないことを提案し(介入に反対する弱い推奨、エビデンスの質は非常に低い)、英国は「ABCD2などのスコアリングシステムを、その後のの評価や紹介のの判断に用いない」と明記している(推奨1.1.6)34。代わりに、疑った時点で直ちに紹介し、発症から24時間以内に専門医の評価と検査を受ける(推奨1.1.5、ESOも同趣旨を強く推奨)43。⭐ が今も使われるのは、2剤併用の適応を指すラベルとしてである——用途を混ぜない。

血管・心臓の評価

原因検索は、症状が消えたあとも同じ強度で続ける。

評価対象 主な手段 目的
頭蓋内外血管 、、 ・解離・血管炎の検出
心臓 心電図、、必要時 弁膜症・・の検出
心 入院中の持続モニタリング、退院後は長時間または などのの検出

原因不明では、単回の心電図で心房細動が否定されても、長時間モニタリングで初めて診断されることが少なくない。年齢や梗塞パターンからの可能性が高いと判断すれば、モニタリング期間を安易に打ち切らない。

二次予防

治療は画像で出血を除外し、病因と禁忌を確認したうえで選択する。

⚠️ ABCD2低スコアや症状消失を理由に、評価や治療開始を数日後に先送りしない。は「終わった発作」ではなく「防げるはずのの」である。

まとめ

  • は時間ではなく、を伴わないとして定義する。旧来の24時間基準は用いない。
  • の突然発症が典型で、・てんかん・低血糖・失神・と鑑別する。
  • は症候を拾えない限界があり、低スコアでも緊急評価を省略しない。後90日以内のは最大17.8%、うち約半数は2日以内に生じる。
  • スコアで紹介のを決めない。 ESO・はいずれもABCD2などの予測ツールをに用いないとしており、は直ちに紹介して24時間以内に専門医評価を受ける。スコアが残っているのは2剤併用の適応を指すラベルとしてである。
  • 高リスク非(4以上)には21日間の2剤併用(+、強い推奨)を行い、には抗凝固薬を用いる。低リスクや診断が不確実な例には2剤併用を行わない。
  • の評価、脂質・血圧・糖尿病の包括的なを並行する。

出典

  1. 1.Definition and Evaluation of Transient Ischemic Attack: A Scientific Statement for Healthcare Professionals From the American Heart Association/American Stroke Association(American Heart Association / American Stroke Association・2009)症状持続時間(24時間以内)による旧来の時間依存性の定義を廃し、画像診断の進歩を踏まえて急性梗塞を伴わない一過性の局所脳・脊髄・網膜虚血という組織診断に基づく新定義を提唱したこと閲覧 2026-08-10
  2. 2.Diagnosis, Workup, Risk Reduction of Transient Ischemic Attack in the Emergency Department Setting: A Scientific Statement From the American Heart Association(American Heart Association・2023)ABCD2スコアは運動失調・同名半盲などの後方循環症候を採点項目に含まず高リスク例を取りこぼしうる限界を指摘し、TIA後90日以内の脳卒中リスクは最大17.8%に達しその半数近くが発症後2日以内に生じるとしていること閲覧 2026-08-10
  3. 3.European Stroke Organisation (ESO) guidelines on management of transient ischaemic attack(European Stroke Organisation・2021)TIA疑い例では予測ツールを単独で用いて高リスク例の同定・トリアージ・治療判断を行わないことを提案し(介入に反対する弱い推奨、エビデンスの質は非常に低い)、その理由として感度が限られるため3点以下にも早期の評価と治療を要する高リスク例が相当数含まれうること、予測ツールの使用が内膜剥離術や抗凝固の対象となる患者の評価を不必要に遅らせる懸念を挙げていること、一方で非心原性の高リスクTIA(ABCD2スコア4以上)にはアスピリン+クロピドグレルの短期併用を強く推奨(質は高)していること、TIA例の専門医評価を発症24時間以内に行うことを強く推奨(質は低)していることを全文(PMC8370080)で確認した。閲覧 2026-09-08
  4. 4.Stroke and transient ischaemic attack in over 16s: diagnosis and initial management(National Institute for Health and Care Excellence (NICE), guideline NG128・2022)推奨1.1.6が、TIAが疑われるか確定した人について、その後の脳卒中リスクの評価や紹介の緊急度の判断にABCD2などのスコアリングシステムを用いないこと(原文は「Do not use scoring systems, such as ABCD2, to assess risk of subsequent stroke or to inform urgency of referral for people who have had a suspected or confirmed TIA.」)と定めていること、代わりに推奨1.1.4が禁忌がなければアスピリン300mg日量を直ちに開始すること、推奨1.1.5が発症から24時間以内に専門医の評価と検査を受けられるよう直ちに紹介することを定めていることを本文で確認した。ガイドラインは2019年5月1日公開・2022年4月13日最終更新である。閲覧 2026-09-08
  5. 5.European Stroke Organisation expedited recommendation for the use of short-term dual antiplatelet therapy early after minor stroke and high-risk TIA(European Stroke Organisation・2021)推奨1として、発症24時間以内の非心原性の軽症脳梗塞(NIHSS 3以下)または高リスクTIA(ABCD2スコア4以上)にアスピリン+クロピドグレルの21日間投与を強く推奨(エビデンスの質は高)し以降は単剤の抗血小板薬へ切り替えるとしていること、クロピドグレル300mg単回負荷は推奨文ではなく提案として付されていること、推奨2として非心原性の軽症〜中等症脳梗塞(NIHSS 5以下)または高リスクTIA(ABCD2スコア6以上、もしくは頭蓋内動脈硬化性病変か症状を説明しうる内頸動脈50%以上の狭窄)にアスピリン+チカグレロルの30日間併用を弱く推奨(同じく中)していること、低リスクTIAまたはTIAの診断が不確実な例では専門家11名全員が2剤併用に反対票を投じたことを全文(PMC8370083)で確認した。閲覧 2026-08-10