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Disease Atlas · 内分泌・代謝 · 疾患

脂質異常症

Dyslipidemia

別名
Hyperlipidemia高脂血症
臓器系
内分泌・代謝
科目
Internal MedicinePathophysiology
トピック
内科学 L-26:脂質異常症病態生理学 I-12:脂質異常症の分類;原発性高リポタンパク血症病態生理学 I-13:続発性高リポタンパク血症に関連する症候群
続発疾患
アテローム性動脈硬化症急性冠症候群
関連疾患
糖尿病
治療薬
アトルバスタチンロスバスタチンエゼチミブエボロクマブアリロクマブインクリシランフェノフィブラートコレセベラムシンバスタチンゲムフィブロジルニコチン酸
原因薬剤
アナストロゾールダルナビルヒドロクロロチアジドロピナビルリトナビルシロリムス
症状
発疹性黄色腫腹痛
検査値
血糖脂質検査
スコア
Fredrickson分類
原因となる疾患
2型糖尿病肥満症慢性腎臓病
適応薬
コレスチラミンニコチン酸(ナイアシン)

🧠 全体像は、LDLコレステロール(LDL-C)・トリグリセリド(TG)・)などの血中脂質・リポ蛋白の異常の総称であり、単一の病気ではなく多様な原因が収束する「所見」である。原因は大きく、遺伝子異常そのものが原因の一次性(原発性)と、他疾患・薬剤・の結果として生じる二次性(続発性)に分かれ、両者はが根本的に異なる(二次性はまず原疾患を治す)。臨床的な最大の意味はの危険因子としてのLDL-C高値であり、著明なTG高値は独立してのリスクとなる。治療は「LDL-Cをいくつまで下げるか」を個々のASCVDリスクから決め、スタチンを土台に非スタチン薬を階層的に追加する。

概要

病態

リポ蛋白代謝の3つの経路

血中脂質は水に溶けないため、・TG)を表面(・リン脂質・アポリポ蛋白)が包むリポ蛋白として運ばれる。

リポ蛋白 主な脂質 主なアポリポ蛋白 由来・役割
TG ApoB-48, A/C/E 腸管由来。を末梢へ運ぶ(外因性経路)
VLDL TG ApoB-100, C, E 肝臓由来。内因性TGを末梢へ運ぶ
/LDL ApoB-100, E, C VLDLの産物
LDL ApoB-100 血中コレステロールの主要運搬体。肝・のLDL受容体(LDLR)が取込む
HDL /リン脂質 ApoA, C, E 末梢の余剰コレステロールを肝へ回収する的)

💡 「外因性()」「内因性(VLDL→→LDL)」「」という3つの流れのうち、どの経路が滞るかの表現型が決まる。LDL受容体経路の障害()はLDL単独の著増を、経路の障害はTG()単独の著増を、両者が絡む病態は混合型を来す。

一次性(原発性)と二次性(続発性)の対比

を評価する際は、まず二次性原因を除外・是正することが原則である。二次性の多くは原因疾患の治療で改善するため、原発性と誤認して不要な生涯薬物療法を開始しないことが重要。

観点 一次性(原発性) 二次性(続発性)
原因 (LDLR、APOB、PCSK9、LPL、APOC2、APOE等の変異)または(複数の感受性遺伝子+環境) 糖尿病、症、、閉塞性肝疾患・胆汁うっ滞、、肥満、妊娠、薬剤(、一部の等)
家族歴・身体所見 若年発症のASCVD、、45歳未満のなどを伴うことが多い 原疾患に応じた所見(浮腫→ネフローゼ、皮膚乾燥・徐脈→症など)
治療の軸 生涯にわたる(スタチン中心)± 原疾患の治療・原因薬剤の中止で脂質が正常化することが多い(例:症への補充、糖尿病の血糖是正)

主な一次性症候群(Fredrickson表現型との対応)

は増加するリポ蛋白のパターンによるI〜V型の歴史的な表現型分類であり、現在の診療では・LDL-C・TG・家族歴と臨床リスクを直接評価して治療を決める。それでも各症候群の特徴を整理する枠組みとしては有用である。

症候群 Fredrickson型 機序 主な臨床像
(高 I LPLまたはApoC-II、GPIHBP1等の機能不全でが分解されない。LDL-Cは正常でASCVDリスクは増加しない 著明高TG、反復性、腹痛、、肝脾腫。空腹時血漿を冷蔵すると状の層()が浮く「」で示唆される
(FH) IIa LDL受容体(LDLR)、まれにApoB・PCSK9のでLDL受容体経路が障害されLDL-Cが著増。マクロファージへの取込みを介しASCVDを来す (最多のAD疾患、人口の約1/250〜300)は成人期からの著明高LDL-C・冠動脈疾患。(まれ)は小児期からの重度高LDL-C・・冠動脈疾患
IIb 肝でのApoB-100含有リポ蛋白(VLDL・LDL)過剰産生。で単一遺伝子には還元されない LDL-CとTGがともに上昇し、ASCVDを来し得る。同一家系内でも表現型が個人ごとに異なり得る
(III型 III (apoE2/E2)を基盤に、肥満・糖尿病などの環境因子が加わってが障害される (掌線)、結節性・ASCVD。TGとコレステロールがともに著増
IV 肝でのVLDL過剰産生 中等度〜著明高TG、を伴いやすく、では

💡 FHはスタチンが効きにくい(LDL受容体がそもそも機能しないため、スタチンによる「コレステロール合成阻害→LDL受容体発現増加」という機序が働かない)。低比重リポ蛋白や、LDL受容体非依存的にLDL-Cを下げる薬剤(等)が必要になることが多い。FHはLDL受容体が半分残っているためスタチンが有効である。

主な二次性原因と機序

原因疾患 主な脂質変化 機序の要点
糖尿病(特に2型・インスリン抵抗性) TG↑、↓、small dense LDL↑ インスリン抵抗性でが亢進し肝への流入が増加、ApoBの分解障害でVLDL産生が増え、CETPを介した交換での高いsmall dense LDLとApoA-I喪失によるHDL低下を来す。1型糖尿病はインスリン補充で正常化しやすいが、2型はインスリン抵抗性そのものが核心で血糖是正だけでは正常化しにくい
↑、LDL-C↑、TG↑ 甲状腺ホルモン低下でLDL受容体発現が減りLDLが低下、LDL産生も相対的に増加。補充で改善する
↑、LDL-C↑(TGも増加しうる) 尿中アルブミン喪失によるを代償して肝が蛋白・リポ蛋白合成を増加、LPL・活性低下でも低下
(非ネフローゼ) TG↑、↓、質的異常(増加) 環境でLPL活性が低下し、リポ蛋白代謝全般が障害される
閉塞性肝疾患・胆汁うっ滞 ↑(異常なリポ蛋白Xの出現) 胆汁排泄障害でコレステロールが逆流し血中に蓄積
TG↑(大量で著明) 肝でのTG合成亢進。少量飲酒は↑・LDL-C↓とU字カーブの保護的効果を示すが、大量では・膵炎リスクとともにTGが著増する
薬剤性 薬剤ごとに様々(でTG↑・↓、でTG↑、でLDL-C・TG↑) 薬剤の作用機序に応じて多様。原因薬剤の中止・変更を検討する

臨床像

  • 多くは無症候で、健診の脂質パネルまたはASCVDイベント(狭心症・心筋梗塞・)を機に発見される。
  • 著明高LDL-C(特にFH)に伴う所見・手指伸筋腱)、、45歳未満での
  • 著明高TG(概ね≥500 mg/dL、特に≥1,000 mg/dL)に伴う所見(体幹・四肢の)、、肝脾腫、反復性の腹痛・
  • に特徴的(手掌の皺に沿った黄色調沈着)。

⚠️ TGが(目安として≥1,000 mg/dL)の患者が急な腹痛を訴えた場合は、まずを疑って評価する。LDL-C高値による症状は通常急性で出現しないため、急性の腹部症状の原因としては優先度が異なる。

診断

脂質プロファイルの評価

  • 基本パネル:、LDL-C、、TG、。VLDL・LDL・を含むすべてのリポ蛋白を反映し、TGが高いときほどLDL-Cより有用)。
  • LDL-Cは(LDL-C=−TG/5)で計算されるが、TGが概ね400 mg/dLを超えると不正確になる。高TG例や境界域のリスク判定では、直接測定LDL-CまたはApoB(LDL粒子数を直接反映し、small dense LDLが多い病態でより正確)を検討する。
  • :遺伝的に規定され・薬物療法の影響をほとんど受けないため、成人では生涯に少なくとも1回測定し、境界域リスクの再分類やFHの重症度評価に用いる。(目安≥50 mg/dLまたは≥125 nmol/L)はASCVDの独立した危険因子である。
  • 二次性原因のスクリーニング:血糖・HbA1c、TSH、腎機能・尿蛋白、肝機能、飲酒歴、薬剤歴を確認する。

家族性高コレステロール血症の診断:オランダ脂質クリニックネットワーク基準

若年発症のASCVD、著明高LDL-C(未治療で概ね≥190 mg/dL)、ASCVDの家族歴があればFHを疑い、代表的な臨床としてを用いる。家族歴・既往歴・身体所見・LDL-C値・結果に応じて加点し合計点で判定する。

項目 点数
ASCVDまたは既知のLDL-C高値の家族歴 1点
または、小児(18歳未満)のにLDL-C高値 2点
本人に冠動脈疾患の既往 2点
本人に脳血管・の既往 1点
6点
(45歳未満) 4点
LDL-C ≥330 mg/dL(未治療) 8点
LDL-C 250–329 mg/dL 5点
LDL-C 190–249 mg/dL 3点
LDL-C 155–189 mg/dL 1点
LDLR・APOB・PCSK9の病的変異を確認 8点

合計点で 確実(definite、>8点)・(probable、6–8点)・可能性あり(possible、3–5点)・い(<3点 の4段階に分類する。⭐ で病的変異が確認されれば、他の項目のスコアによらず確実なFHと診断できる。

治療

LDL-C低下治療:ASCVDリスク層別化が起点

治療強度はLDL-C単独値ではなく、確立したASCVDの既往、糖尿病、、FH、高値などを含めた総合的なASCVDリスクから決める。詳細なとLDL-C目標値(<55 mg/dL、高リスク<70 mg/dL<100 mg/dL、低リスク<116 mg/dL)、反復ASCVDイベント例のさらなる目標(<40 mg/dL)はの診断・治療の項を参照。ここではとしての薬物治療の階層と各の位置づけに焦点を当てる。

flowchart TD
    A["二次性原因(糖尿病・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypothyroidism'>甲状腺機能低下</span>症・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nephrotic syndrome'>ネフローゼ症候群</span>・CKD・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='excessive drinking'>過剰飲酒</span>・薬剤)を検索し是正"] --> B{"脂質パターンは?"}
    B -->|"LDL-C優位"| C["ASCVD<span class='jp-term jp-term-diagram' title='risk stratification'>リスク層別化</span>に基づき<span class='jp-term jp-term-diagram' title='maximum tolerated dose, MTD'>最大耐用量</span>スタチンを開始"]
    C --> D{"目標LDL-C達成?"}
    D -->|"未達成"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ezetimib'>エゼチミブ</span>追加→なお未達なら<span class='jp-term jp-term-diagram' title='PCSK9 inhibitor'>PCSK9阻害薬</span>/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inclisiran'>インクリシラン</span>→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bempedoic acid'>ベンペド酸</span><br>(詳細な階層は<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Atherosclerosis / AS'>アテローム性動脈硬化症</span>を参照)"]
    D -->|"達成"| F["同用量を継続し定期的に脂質・安全性を再評価"]
    B -->|"TG優位"| G{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='markedly elevated'>著明高値</span>(目安TG≥500 mg/dL、膵炎リスク)?"}
    G -->|"はい"| H["超<span class='jp-term jp-term-diagram' title='low-fat meal'>低脂肪食</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='alcohol abstinence'>禁酒</span>・血糖是正を優先し、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fibrate'>フィブラート</span>または高用量オメガ3で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute pancreatitis'>急性膵炎</span>を予防"]
    G -->|"いいえ(中等度高値)"| I["スタチンを軸に生活介入。ASCVD高リスクで残存TG高値なら<span class='jp-term jp-term-diagram' title='icosapent ethyl'>イコサペント酸エチル</span>の追加を検討"]
    B -->|"混合型(LDL-C・TGとも高値、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='familial combined hyperlipidemia'>家族性複合型高脂血症</span>等)"| J["LDL-C低下を優先しつつスタチン±<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fibrate'>フィブラート</span>/オメガ3で個別に調整"]

薬剤クラスの比較

代表薬 主な作用機序 主なLDL-C低下率の目安 位置づけ・注意点
スタチン 阻害→コレステロール合成↓→LDL受容体発現↑ 高強度で約50%以上 第一選択。ASCVD確立例では原則リスク評価を経ず高強度で開始。⚠️ 妊娠中・避妊なしの妊娠可能年齢では禁忌
小腸NPC1L1阻害による阻害 スタチンへの追加でさらに約15–25% スタチンでも未達のとき、または不耐性のときの併用第一候補
(モノクローナル抗体) 抗PCSK9抗体でPCSK9によるLDL受容体分解を阻害→LDL受容体のリサイクル増加 追加で約50–60% 併用でも未達、または重症FHで検討。皮下注射(2〜4週毎)
PCSK9合成阻害薬(siRNA) PCSK9 mRNAを標的とするsiRNAで肝でのPCSK9合成自体を抑制 約50% 半年に1回の皮下注射で面の利点。が困難な患者やPCSK9抗体への不良例で選択肢になる
(bempedoic acid、本コーパスに薬剤ノート未収載) 肝特異的にコレステロール合成経路を阻害(のため筋組織で活性化されず筋症状が少ない) 単剤で約15–25% スタチン不耐性例の代替・。心抑制のエビデンスが蓄積し一次・双方の適応に拡大
PPAR-α活性化によるLPL発現増加→TG TG低下が主眼(30–50%) 著明・膵炎予防が主目的。「HDLを上げる薬」として一律にLDL-C管理へ追加しない
腸管で胆汁酸を吸着し排泄→肝でのコレステロールから胆汁酸への転換促進→LDL受容体発現↑ 単剤で約15–20% 妊娠中でも使用しうる非全身吸収性の選択肢。高TG例では相対的に禁忌(TGをさらに上昇させうる)
EPA製剤 (icosapent ethyl、本コーパスに薬剤ノート未収載) 高用量によるTG低下・抗炎症作用 TG低下が主眼 スタチン治療下でもTGが中等度高値のASCVD高リスク例に追加し心抑制を狙う(適格例に限定)

⚠️ は本コーパスのdrugs/に個別が未整備のため、上表では一般名のみを記載し内部リンクは付けていない。

高トリグリセリド血症への対応

  • 中等度高値ではまず二次性原因(飲酒、不良、薬剤)を是正し、生活介入とスタチンを軸にする。
  • (目安≥500 mg/dL、特に≥1,000 mg/dL)ではの予防を最優先し、超・血糖是正に加えや高用量オメガ3製剤を用いる。
  • スタチン治療中でもTGが中等度高値のままのASCVD高リスク例には、適格例での追加を検討する。

生活介入

  • 飽和脂肪酸・を減らし、・魚由来のを増やす
  • 減量、週150分程度の、禁煙、がTG高値の原因ならまず)。
  • 薬物療法開始後も生活介入を継続し、4〜12週後に脂質値と治療の・安全性を再評価する。

まとめ

  • はLDL-C・TG・などの異常の総称であり、遺伝子異常が主体の一次性と他疾患・薬剤に伴う二次性を鑑別することが評価の出発点で、二次性は原因是正で改善しうる。
  • 一次性の代表はLDL受容体経路が障害される(IIa型)、TGが著増する(I型)や(IV型)、を基盤とする(III型)で、は表現型整理の枠組みとして有用。
  • 二次性の最多原因は糖尿病とで、症・・薬剤性も重要。
  • FHは>8点確実、6–8点3–5点可能性あり)で臨床診断し、LDL受容体が残存するはスタチンが有効だが、はスタチン抵抗性でLDL受容体非依存的な治療が必要になりやすい。
  • 治療の中心はASCVDに基づくLDL-C低下療法で、スタチンを土台に/を階層的に追加する(具体的な目標値・薬剤選択の階層はを参照)。著明ではASCVD予防より先にの予防を優先する。