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Disease Atlas · 内分泌・代謝 · 疾患

肥満症

Obesity

臓器系
内分泌・代謝
科目
Internal MedicinePathophysiologySurgery
トピック
内科学 L-27:肥満症病態生理学 I-5:肥満の有病率・原因・定義病態生理学 I-7:肥満の全身性影響外科学 S-34:代謝・肥満外科手術
合併症
中枢性睡眠時無呼吸・肥満低換気症候群
続発疾患
2型糖尿病高血圧症閉塞性睡眠時無呼吸非アルコール性脂肪肝疾患変形性関節症脂質異常症思春期早発症
関連疾患
気分障害(うつ病・双極性障害)多嚢胞性卵巣症候群男性性腺機能低下症糖尿病特発性頭蓋内圧亢進症
治療薬
リラグルチドブプロピオントピラマートセマグルチドティルゼパチドオルリスタット
症状
腰痛不安体重増加
スコア
EOSS
原因となる疾患
Bardet-Biedl症候群
適応薬
トピラマート

🧠 全体像は、単なる「体重が多い状態」ではなく、視床下部の食欲調節と脂肪組織の内が破綻し、過剰な脂肪蓄積そのものが心血管・代謝・呼吸・運動器・腫瘍・精神の各系統にな負荷をかける慢性・再発性疾患である。減量後は低下という生理的な巻き戻しが起こるため、「痩せて終わり」ではなく、介入・薬物療法・長期治療として組み合わせて維持することが治療の核になる。

概要と定義

肥満は、健康リスクを生むほど過剰な体脂肪が蓄積した慢性状態と定義される。1975年以降、世界のほぼすべての地域でが約3倍に増加しており、・肥満は小児を含め既に人口を上回っている。

は「体重(kg)÷身長²(m²)」で算出し、成人のスクリーニングと集団レベルの評価に広く使われる指標である。ただしBMIは、浮腫、、民族差を反映しないため、個人の評価ではや体組成、代謝指標と組み合わせる。

病態

エネルギー恒常性と視床下部の食欲調節

摂食行動は、消化管・脂肪組織由来のホルモンが視床下部のへ送る満腹・空腹シグナルのバランスで調節される。(GIP・GLP-1)、インスリン、は満腹側、の代表的シグナルである。

flowchart TD
    A["食事摂取"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='satiety signal'>満腹シグナル</span>:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='incretin'>インクレチン</span>・インスリン・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='leptin'>レプチン</span>"]
    C["空腹(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ghrelin'>グレリン</span>↑)"] --> D["視床下部の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='feeding center'>摂食中枢</span>"]
    B --> D
    D --> E["摂食行動・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='energy expenditure'>エネルギー消費</span>を調節"]
    F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chronic'>慢性的</span>な過栄養"] --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='leptin'>レプチン</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='incretin'>インクレチン</span>への中枢感受性低下"]
    G --> H["⚠️ 食欲調節が正常閾値で働かなくなる"]

⚠️ この調節系は本来、短期的な摂取・消費のを前提に設計されている。な高・高状態が続くと中枢の感受性が低下し、正常量の摂取でもが効きにくくなる。これが減量後のリバウンドしやすさの一因でもある。

食欲調節には、の変異)やなど)の遺伝要因のほか、加齢、内分泌疾患(症、など)、抗精神病薬・抗うつ薬・ステロイドなどの薬剤、社会経済的環境(食品環境、量、睡眠)も関与する。

脂肪組織の内分泌機能とインスリン抵抗性

脂肪組織は単なるエネルギーではなく、を安全に隔離する「代謝の受け皿」として働く内分泌臓器である。の貯蔵能を超える、あるいはインスリン抵抗性で貯蔵がうまくいかなくなると、脂肪酸が肝臓・骨格筋・膵臓など本来脂肪を貯めるべきでない臓器へ漏れ出す()。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='subcutaneous fat'>皮下脂肪</span>の貯蔵能を超える/インスリン抵抗性"] --> B["脂肪酸が肝・筋・膵へ漏出(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ectopic fat'>異所性脂肪</span>)"]
    B --> C["ミトコンドリア<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oxidative stress'>酸化ストレス</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ceramide'>セラミド</span>蓄積・炎症"]
    C --> D["各臓器の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='insulin receptor'>インスリン受容体</span>シグナル障害"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='systemic insulin resistance'>全身性インスリン抵抗性</span>"]
    E --> A

💡 このループは自己増幅的である。インスリン抵抗性が進むほど皮下に脂肪を貯められなくなり、がさらに増えて抵抗性が悪化する。この機序が2型糖尿病の発症母地となるが、に至る詳しい経過は同疾患ノートを参照する。

肥大化した分泌を減らしを増やす方向へ性質を変え、全身性のを来す。または「」への感受性が選択的に低下する一方で、視床下部を介した「交感神経刺激」作用は保たれるため、が続きながらの活性化を介して血圧が上昇する(高血圧症につながる代表的な機序の一つ)。

臨床像:全身合併症

肥満は単一臓器の疾患ではなく、・慢性炎症・機械的負荷・ホルモン異常を介して全身に影響する。

系統 主な合併症
心血管・代謝 2型糖尿病高血圧症、心不全、心房細動、
呼吸器 (詳細は同ノート参照)
肝・消化器
運動器 (特に膝・股関節)、、移動能力低下
生殖・内分泌 、不妊、妊娠合併症、
悪性腫瘍 、閉経後乳癌、大腸癌、など複数臓器のリスク上昇
精神・心理社会 うつ病、摂食障害、による受診回避

の呼吸生理・(BMI≥30+覚醒時PaCO₂>45 mmHg)・NIV適応の詳細はのノートにまとめてあるため、ここでは合併症の一つとして触れるにとどめる。

診断

BMIは<18.5、標準域18.5–24.925.0–29.9、肥満≥30 kg/m²と分類し、肥満はさらに3段階に分ける。

分類 BMI (kg/m²)
25.0–29.9 軽度増加
肥満クラスI(1度) 30.0–34.9 中等度
肥満クラスII(2度) 35.0–39.9 重度
肥満クラスIII(3度) ≥40 非常に重度

はBMIが捉えにくいの指標として併用する。欧州系成人では女性≥80 cm・男性≥94 cmをリスク増加、女性≥88 cm・男性≥102 cmをさらに高いリスクの目安とすることが多いが、は民族・地域で異なり、アジア人集団ではより低い値が用いられる。BMIの肥満閾値自体もアジア人集団では≥25 kg/m²からとみなす基準が使われることがあり、採用する基準は明示する。

💡 AACE/ACEの肥満臨床実践ガイドラインは、BMIだけでを決める「BMI中心」モデルから、合併症の有無・重症度で層別化する「合併症中心」モデルへの転換を提唱している。同じBMIでも、代謝合併症を伴う例と伴わない例では治療のが異なる。この転換を臨床で運用するための具体的なであり、身体・精神・機能の状態から0〜4を判定する。

診断時にはBMI・に加え、血圧、HbA1c、脂質、肝機能、睡眠時無呼吸の症状、身体機能、原因薬剤・内分泌疾患の有無を評価する。

治療

治療は生活・行動介入を土台に、必要に応じて薬物療法、さらに高度肥満や代謝疾患合併例では手術へと段階的に強化する。

flowchart TD
    A["肥満の診断:BMI・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='abdominal circumference (AC) / waist circumference (WC)'>腹囲</span>・合併症を評価"] --> B["生活・行動療法(栄養・活動・睡眠・行動支援)"]
    B --> C{"健康改善が不十分か"}
    C -->|"はい"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anti-obesity drug'>抗肥満薬</span>を追加"]
    D --> E{"高度肥満または薬物療法で不十分な代謝疾患合併か"}
    E -->|"はい"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='metabolic and bariatric surgery'>代謝・肥満外科</span>手術を検討"]
    E -->|"いいえ"| G["薬物療法を継続・調整"]
    C -->|"いいえ"| H["維持支援・再発予防"]
    F --> I["生涯の栄養・心理・外科フォロー"]

生活・行動療法

個別化したエネルギー赤字を作り、蛋白質・を確保した食事内容とする。週150分以上のと筋力運動を漸増し、自己記録、睡眠、ストレス管理、食環境の整備を組み合わせる。5〜10%の体重減少でも血糖、血圧、、睡眠時無呼吸が改善し得る。

薬物療法

一般にBMI≥30、または≥27で体重関併症がある場合に、生活療法へ追加する。近年はGLP-1受容体作動薬・GIP/GLP-1受容体作動薬の減量効果が従来薬を大きく上回り、第一選択として使われることが増えている。

薬剤(クラス) 機序・特徴 ・注意点
(GLP-1受容体作動薬) 肥満・に加え、心血管疾患合併例での心抑制(2024年FDA承認)、MASH(線維化合併例、2025年FDA承認)にも
(GIP/GLP-1受容体作動薬) 二重作動によりGLP-1単剤より強い減量効果 肥満・に加え、肥満合併の中等症〜重症への(2024年FDA承認)
(GLP-1受容体作動薬) 1日1回注射。減量幅は上記2剤よりやや小さい
配合 中枢の・食欲調節に作用 うつ病・痙攣性疾患の既往、オピオイド使用者では注意
配合 交感神経刺激+ 妊娠可能な女性では催奇形性に留意し避妊を確認。心血管疾患には慎重投与
阻害で脂肪吸収を抑制 低下、などの消化器症状

⚠️ 薬物療法は短期のダイエットではなく長期治療として位置づける。中止するととともに体重が再増加しやすいため、効果と副作用を定期的に再評価しながら継続の可否を判断する。糖尿病、心血管疾患、胆道・膵疾患の既往、妊娠可能性、精神・薬物使用歴、費用を踏まえて薬剤を選ぶ。

代謝・肥満外科手術

2022年ASMBS/IFSO基準では、従来の「BMI 40以上、または35以上+合併症」という基準から適応が拡大されている。

BMI 現行の適応の考え方
35 kg/m²以上 合併症の有無・重症度を問わず推奨
30.0~34.9 kg/m² 代謝疾患(2型糖尿病など)を合併する場合、または非で十分・持続的な改善が得られない場合に検討
アジア人集団 BMI 25 kg/m²以上を、27.5 kg/m²以上で手術提示の目安とする

⭐ 「保存的治療に十分取り組んだが失敗したこと」をBMI 35以上の全例に必須条件とするのは現行基準ではない。ただし薬物療法を含む治療歴、本人の理解、長期の生涯フォロー可能性は術前評価で必ず確認する。

代表的な術式はで、術式選択は逆流症状、糖尿病の有無、栄養リスク、既往などから多職種で判断する。術式の機序・・弱点の比較、術前評価、周術期・晩期合併症、生涯フォローの詳細は外科学 S-34:手術を参照する。

まとめ

  • は視床下部の食欲調節破綻と脂肪組織の内異常を基盤とする慢性・再発性疾患であり、BMIに・合併症・機能を組み合わせて評価する。
  • によるが、2型糖尿病高血圧症など心血管・代謝合併症の中心的な機序となる。
  • 呼吸器、肝、運動器、生殖、腫瘍、精神と全身に及ぶ合併症を伴い、など個別疾患は各ノートで詳述する。
  • 治療は生活・行動療法を土台に、GLP-1/作動薬を中心とする薬物療法、そして高度肥満・代謝疾患合併例では手術へと長期的に段階を上げる。
  • 手術の現行適応は、BMI 35以上では合併症を問わず、BMI 30〜34.9でも代謝疾患合併があれば検討するという2022年基準に基づく。