疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 神経 · 疾患

特発性頭蓋内圧亢進症

Idiopathic intracranial hypertension

別名
IIH偽性脳腫瘍pseudotumor cerebri
臓器系
神経眼科
科目
NeurologyPathology
トピック
神経内科 G1-11:頭蓋内圧亢進と脳ヘルニアの症候病理学 C/104:頭蓋内圧亢進の病理(浮腫・ヘルニア・水頭症)
鑑別疾患
脳静脈洞血栓症
関連疾患
肥満
治療薬
アセタゾラミド
症状
乳頭浮腫頭痛複視
検査値
髄液検査
画像所見
空虚トルコ鞍

🧠 全体像は、病変も水頭症も静脈洞閉塞もないのに頭蓋内圧だけが上がる疾患で、患者像はほぼ「肥満の生殖年齢女性」に偏る。診断はという一次資料に基づく閾値で確定し、治療のゴールは頭痛そのものより視力予後を守ることに置かれる——が進めば不可逆な・失明に至りうるためである。

疫学と位置づけ

IIHは肥満の生殖年齢女性に強く偏って発症する疾患で、この一致は診断そのものの手がかりになるほど際立っている1。かつては「偽性」と呼ばれたが、この語は本来、・特定の薬剤など原因が同定できる続発性の頭蓋内圧亢進も含む症候群名であり、そのうち原因が同定できないものをと呼ぶ2。したがって「偽性=IIH」と単純に同一視せず、続発性の原因(後述の鑑別)を除外して初めてIIHと呼べる。

診断基準

を伴う典型例の診断には、次がすべて要る2

  1. がある
  2. 脳神経異常(多くはによる)を除き神経診察が正常
  3. 頭部MRI/MRVが正常(拡張・後部平坦化・など頭蓋内圧亢進を示唆する所見自体は許容される)
  4. 髄液組成が正常
  5. 適切な手技(・下肢伸展位)で行ったが、成人で250 mmCSF以上、小児は既定280 mmCSF以上(鎮静されておらず、かつ肥満でもない小児に限り250 mmCSF以上)

が無い例でも確定診断できるが、根拠の強さは経路によって違う。 を欠いても、片側性・両側性いずれかのがあり他の基準(正常な神経診察・正常なMRI/MRV・正常な髄液組成・上昇)を満たせば確定診断できる。も無い場合は、MRI所見のうち3つ以上(拡張・後部平坦化・)を満たしても「示唆」にとどまり確定診断はできない2という一徴候だけで診断を確定させないのはこのためである。

症状ノートとの役割分担

頭蓋内圧亢進そのものの定義・Monro-Kellieの機序・は症状ノート側の守備範囲である。本ノートはその一疾患単位として、なぜ肥満の生殖年齢女性に偏るのか、続発性の原因をどう除外するのか、そして視力予後をどう守るのかに絞って扱う。

病態

髄液の産生と吸収のバランス、あるいは静脈還流に関わる機序が想定されているが、単一の確立した機序はなく、肥満に伴う代謝・ホルモン異常(、レニン--アルドステロン系の関与など)を含めたの病態として理解が進みつつある1

flowchart TD
    A["肥満の生殖年齢女性"] --> B["髄液動態・静脈還流に関わる<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='multifactorial (polygenic)'>多因子性</span>の機序(詳細は未確立)"]
    B --> C["頭蓋内圧の持続的な上昇"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='optic nerve sheath'>視神経鞘</span>への圧伝播"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='papilledema'>乳頭浮腫</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='optic neuropathy'>視神経障害</span>"]
    C --> F["硬膜の伸展による頭痛"]
    C --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='abducens nerve'>外転神経</span>の牽引による<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Diplopia'>複視</span>"]

続発性の原因(、テトラサイクリン系抗菌薬・過剰・などの薬剤性、内分泌疾患)を除外して初めて「特発性」と呼べる。特には同じ・頭痛を呈し、MRV評価で除外すべき最重要の鑑別である。

臨床像

  • 頭痛:最も頻度が高いが非特異的。片頭痛様のこともあれば、体位・で増悪する頭蓋内圧亢進らしい性状のこともある。
  • :視力予後を左右する中心所見。無症状のことも、することもある。
  • :進行するとから周辺視野の欠損、末期にはに至る。不可逆になりうるため、症状の強さでなく視野検査で経過を追う
  • による水平。局在を示さないで、頭蓋内圧亢進の非特異的な随伴所見である。
  • ・肩こり、一過性(数秒の)を伴うこともある。

治療

は頭痛の消失ではなく視力の保護である。 この一点が他の慢性頭痛疾患とを分ける。

  1. 体重減少:肥満患者では中心的な治療介入。試験では、減量ダイエットにを併用した群が併用群より大きな体重減少(平均7.5 kg対3.45 kg)と視野改善を示した3
  2. :軽度〜中等度のを伴う例で第一選択の薬物治療。同試験では最大4 g/日まで漸増し、の改善が群を上回った(治療群1.43 dB対群0.71 dB、群間差0.71 dB)3による髄液産生の抑制が機序であり、詳しい薬理はのノートに譲る。
  3. :薬物治療に反応しない、あるいは視力障害が急速に進行する例で検討する。視力障害が前景の症例には、有意なを伴う症例には静脈洞が位置づけられ、頭痛が前景で視力障害を伴わない難治例にはなどのが検討される1。いずれも薬物治療抵抗性・視力急速進行という緊急性の高い状況での選択肢であり、第一選択ではない。

⚠️ 視野検査を定期的に行い、の悪化やの進行を見逃さない。 頭痛の症状だけでは視力予後を追跡できない。

まとめ

  • IIHは肥満の生殖年齢女性に偏って生じる、としての頭蓋内圧亢進症で、(成人250 mmCSF以上、小児は既定280 mmCSF以上・かつ非肥満なら250 mmCSF以上)を含むを満たして確定する。
  • 「偽性」は続発性の原因も含む症候群名で、原因不明のものだけをIIH(特発性)と呼ぶ。を筆頭に続発性の原因を除外して初めて診断できる。
  • は頭痛の消失ではなく視力の保護であり、視野検査で経過を追う。
  • 体重減少とが第一選択で、視野改善のエビデンスがある。難治例では視力障害の程度と静脈洞狭窄の有無に応じて・静脈洞を選ぶ。

出典

  1. 1.Revised diagnostic criteria for the pseudotumor cerebri syndrome in adults and children(Neurology・2013)乳頭浮腫を伴う症例の診断基準として、正常な神経診察(脳神経異常を除く)、正常な神経画像(頭蓋内圧亢進を示唆する所見を除く)、正常な髄液組成、そして適切に行われた腰椎穿刺での開放圧上昇(成人で250 mmCSF以上、小児は既定280 mmCSF以上だが鎮静されておらずかつ肥満でもない小児では250 mmCSF以上)が必要とされることを確認した。乳頭浮腫を欠く場合は片側性・両側性いずれの外転神経麻痺でも要件を満たせること、外転神経麻痺も無くMRI所見4つのうち3つ以上を満たすに留まる場合は診断が「示唆」されるにとどまり確定はできないことも確認した。閲覧 2026-08-12
  2. 2.Effect of Acetazolamide on Visual Function in Patients With Idiopathic Intracranial Hypertension and Mild Visual Loss: The Idiopathic Intracranial Hypertension Treatment Trial(JAMA(NORDIC Idiopathic Intracranial Hypertension Study Group)・2014)軽度視野障害を伴うIIH患者165例を対象とした無作為化二重盲検試験で、減塩・減量食にアセタゾラミド(最大4 g/日まで漸増)を併用した群がプラセボ併用群より自動視野検査の平均偏差(PMD)の改善が大きく(治療群1.43 dB対プラセボ群0.71 dB改善、群間差0.71 dB)、乳頭浮腫の程度や視覚関連QOLも改善したこと、体重減少量も治療群で大きかった(平均7.5 kg対3.45 kg)ことを確認した。閲覧 2026-08-12
  3. 3.Navigating the Enigma: A Comprehensive Review of Idiopathic Intracranial Hypertension(Cureus・2024)IIHが肥満の生殖年齢女性に強く偏って生じる疾患であること、外科的選択肢として視神経鞘開窓術は視力障害が前景の症例に、静脈洞ステント留置は有意な静脈洞狭窄を伴う症例に、それぞれ位置づけられる治療として挙げられていることを確認した。閲覧 2026-08-12