脳神経内科学

脳神経内科学 · G1-11

頭蓋内圧亢進と脳ヘルニアの症候

G1-11: Increased intracranial pressure and cerebral herniation

前提:病態
頭蓋内圧亢進の病理(浮腫・ヘルニア・水頭症)
前提:正常
中枢神経・神経解剖:脳室と脳脊髄液
疾患
特発性頭蓋内圧亢進症
症状
外転神経麻痺眼瞼下垂散瞳頭蓋内圧亢進瞳孔不同乳頭浮腫脳神経麻痺脳浮腫
検査値
静的自動視野検査

🧠 全体像:頭蓋は硬い箱であり、脳・髄液・血液の総量が増えると代償が尽きた時点で圧がする。急速な意識低下、瞳孔変化、、呼吸循環異常はのである。

Monro-Kellieの原則

頭蓋内の脳、髄液、血液の容積はほぼ一定である。初期にはの移動や静脈血排出で補償するが、限界を超えると頭蓋内圧が急に上昇する。原因は血腫・腫瘍・膿瘍、水頭症、/性/間質性脳浮腫である。

xychart-beta
    title "頭蓋内の圧―容積関係(模式図)"
    x-axis "頭蓋内容積の増加(相対単位)" 0 --> 80
    y-axis "頭蓋内圧(相対値)" 0 --> 100
    line "ICP" [10, 10, 11, 12, 14, 20, 35, 60, 100]

初期は移動と静脈血排出によって容積増加を吸収できるため、曲線は平坦である。代償が尽きると、同じ容積増加でもICPがする。上図はこの性を示す相対値の模式図であり、病変容積からICPを推定したり、治療開始閾値を決めたりするではない。

所見 意義
頭痛、嘔吐、意識低下 非特異的だが進行性なら警戒
多くは亜急性〜慢性の圧亢進を示唆
VI神経麻痺による 圧亢進の非局在徴候となりうる
Cushing反応 高血圧・徐脈・不規則呼吸。の遅発危険所見

圧亢進の機序、評価、診断

仰臥位成人の生理的ICPは資料上15 mmHg以下、20 mmHg以上は病的圧亢進の目安として示される。⚠️ この治療閾値は資料により20 mmHgと22 mmHgに分かれる。 重症459例の解析では、生存・良好な転帰の両方を最もよく判別するICP閾値は22 mmHgで(女性・55歳超では良好な転帰についての閾値がより低い18 mmHg)、版によって数値が異なるのはこうした再検討の結果である1。また、ICPモニタリングに基づく治療そのものが画像・に基づく治療より転帰を改善するとは限らない。ボリビア・エクアドルの324例のでは、ICPを20 mmHg以下に保つモニタリング群と画像・に基づく群とで、機能・認知を含む複合予後にも6か月死亡率(39%対41%)にも有意差が無かった2。ただし実臨床では単一の数値だけでなく、原因、意識・瞳孔の、/、を合わせて判断する。は100 gの脳組織あたり毎分に供給される血液量、は脳への実効である。によりが概ね50〜150 mmHgの範囲でCBFは保たれるが、重症脳損傷では破綻し得る。

検査 確認する内容 位置づけ
/ 、、出血、脳浮腫、、原因病変 急性悪化ではまず緊急画像。ただし不安定な患者の搬送安全を優先
慢性/亜急性ICP亢進を支持するが、急性重症例で陰性でも除外できない
ICPモニタ 脳室内カテーテル、内カテーテル とくに重症で、圧推移のと治療反応評価に用いる

頭痛、、混乱・・、けいれん、(または〔CN VI〕麻痺)、を組み合わせて評価する。(不規則呼吸、を伴う高血圧、徐脈)はを示す危険な遅発所見である。

ヘルニア症候群

型 主要な解剖・徴候
が下へ偏位。圧迫で下肢優位の対側麻痺を来しうる
中心性下降 〜中脳が下方へ移動し、意識低下、瞳孔/眼球運動変化、が進行
鉤 CN III圧迫による同側・、意識悪化。圧迫で
下降 で延髄を圧迫し、呼吸・循環停止の危険
追加の型 解剖学的移動
病変で小脳がへ上方移動 中脳圧迫、意識低下、水頭症を来し得る
中心性下降の進展 から中脳、橋へと下方偏位 小瞳孔から中等度固定瞳孔、、除皮質/、呼吸パターン異常へ進行し得る
の 圧迫 を来し得る。対側圧迫では例外的に同側()もある
flowchart TD
    A["急速な意識悪化・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anisocoria'>瞳孔不同</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='abnormal posturing'>異常肢位</span>"] --> B["ABCを確保し、緊急<span class='jp-term jp-term-diagram' title='head CT'>頭部CT</span>/脳外科連絡"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='head-of-bed elevation'>頭部挙上</span>・鎮痛鎮静・酸素化/換気を最適化"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hyperosmolality'>高浸透圧</span>療法または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cerebrospinal fluid'>CSF</span>ドレナージを適応で実施"]
    D --> E["血腫除去・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='decompressive craniectomy'>減圧開頭</span>など原因治療"]

治療上の注意

頭部30度挙上、鎮痛・鎮静、発熱・けいれんの是正、適切な循環/酸素化が基礎となる。

💡 とのどちらが優れるかは、まだが出ていない。 急性患者287例を含む6件の無作為化試験(大半がとの比較)のでは、死亡率・機能予後のいずれについてもがより優れるという明確な違いは示されず、エビデンスの質は全体に非常に低いと評価された3。は病因と重症度により選択する。

⚠️ は「いつ行うか」でが逆転する。 びまん性で第一段階治療に抵抗する頭蓋内圧亢進に対し、早期・予防的に両側前頭側頭頭頂を行った無作為化試験(155例)では、ICP上昇時間と滞在日数は減ったが、6か月時点の転帰はかえって悪化した(不良転帰の2.21)4。対照的に、内科的治療に抵抗する頭蓋内圧亢進(>25 mmHg)に対する救済的なを検証した無作為化試験(408例)では、6か月死亡率は手術群で低かった(26.9%対48.9%)が、・介助を要する重度障害の割合は手術群で高く、良好回復の割合は両群で同程度だった5。「早期・予防的」か「内科的治療が尽きた後の救済的」かで手術の効果が異なるため、一律に推奨・否定できない。

副腎皮質ステロイドは腫瘍性のには有用だが6、のICP低下目的には用いない。⚠️ これは「効かない」ではなく「有害」という報告である。 患者10,008例の無作為化試験(CRASH試験)では、投与群で受傷2週間以内のがプラセボ群より有意に多く(21.1%対17.9%、1.18)、この差は重症度や投与までの時間では説明できなかった7。予防的・長期のは脳虚血を招くため避け、での短時間の橋渡しとしてのみ考慮する。113例を通常換気・・+THAMに割り付けた無作為化試験では、運動スコア4〜5の患者に限り群で3・6か月時点の良好な転帰が有意に少なく、予防的なは有害とされた8。

まとめ

  • ICPは固定閾値だけでなく臨床経過、画像、と合わせて扱う。
  • 新規と急速な意識悪化はを疑う緊急所見である。

出典

  1. 1.Critical thresholds for cerebrovascular reactivity after traumatic brain injury(Neurocritical Care・2012)重症頭部外傷データベース459例の解析で、生存と良好な転帰の両方を最もよく判別するICP閾値は22 mmHgであったこと。良好な転帰についての閾値は、女性や55歳超の患者ではより低い18 mmHgだったこと閲覧 2026-08-27
  2. 2.A trial of intracranial-pressure monitoring in traumatic brain injury(New England Journal of Medicine・2012)ボリビア・エクアドルの集中治療室で重症頭部外傷患者324例を、頭蓋内圧を20 mmHg以下に保つモニタリングに基づく治療群と、画像・臨床所見に基づく治療群に無作為化した結果、機能・認知状態を含む複合予後、6か月死亡率(39%対41%)のいずれにも有意差が無かったこと閲覧 2026-08-27
  3. 3.Hypertonic saline versus other intracranial pressure-lowering agents for people with acute traumatic brain injury(Cochrane Database of Systematic Reviews・2020)急性外傷性脳損傷患者287例を含む6件の無作為化比較試験(大半がマンニトールとの比較)のレビューで、死亡率・機能予後のいずれについても高張食塩水がマンニトールに優るという明確な違いは示されず、エビデンスの質はGRADEで全体的に非常に低いと評価されたこと閲覧 2026-08-27
  4. 4.Decompressive craniectomy in diffuse traumatic brain injury(New England Journal of Medicine・2011)第一段階治療に抵抗する頭蓋内圧亢進を伴う重症びまん性外傷性脳損傷の成人155例を、早期の両側前頭側頭頭頂減圧開頭術群と標準治療群に無作為化した結果、開頭群はICP上昇時間・ICU滞在日数を減らしたが、6か月時点のExtended Glasgow Outcome Scaleはかえって悪化し(不良転帰のオッズ比2.21、95%CI 1.14〜4.26)、死亡率自体は両群でほぼ同じ(19%対18%)だったこと閲覧 2026-08-27
  5. 5.Trial of Decompressive Craniectomy for Traumatic Intracranial Hypertension(New England Journal of Medicine・2016)内科的治療に抵抗する頭蓋内圧亢進(>25 mmHg)を伴う外傷性脳損傷患者408例を減圧開頭術群と内科的治療継続群に無作為化した結果、6か月時点の死亡率は手術群26.9%対内科群48.9%と手術群で低かったが、植物状態(8.5%対2.1%)・介助を要する重度障害(21.9%対14.4%)の割合は手術群で高く、良好回復の割合は両群でほぼ同程度(4.0%対6.9%)だったこと閲覧 2026-08-27
  6. 6.Corticosteroid use in neuro-oncology: an update(Neuro-Oncology Practice・2015)ステロイドは腫瘍関連の脳浮腫治療に広く用いられ、頭痛の消失など速やかな症状緩和と関連する一方、心血管・筋・精神障害などの副作用を伴うこと閲覧 2026-08-27
  7. 7.Effect of intravenous corticosteroids on death within 14 days in 10008 adults with clinically significant head injury (MRC CRASH trial): randomised placebo-controlled trial(The Lancet・2004)GCS14以下の頭部外傷患者10,008例を対象にした無作為化プラセボ対照試験で、48時間のメチルプレドニゾロン投与群は受傷2週間以内の全死亡がプラセボ群より有意に多く(21.1%対17.9%、相対リスク1.18、95%CI 1.09〜1.27)、この死亡増加は受傷重症度や投与までの時間では説明できなかったこと閲覧 2026-08-27
  8. 8.Adverse effects of prolonged hyperventilation in patients with severe head injury: a randomized clinical trial(Journal of Neurosurgery・1991)重症頭部外傷患者113例を通常換気群・過換気群・過換気+THAM群に無作為化した試験で、運動スコア4〜5の患者に限り、受傷後3・6か月時点の良好な転帰の割合が過換気群で有意に低かったこと(12か月時点では有意差は消失)。予防的な過換気は有害と結論されたこと閲覧 2026-08-27