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Symptoms · Published

外転神経麻痺

Abducens nerve palsy

別名
第VI脳神経麻痺外直筋麻痺abducens nerve palsy
臓器系
神経眼科
科目
NeurologyAnatomy
トピック
神経内科 G2-02:眼球運動・注視の障害神経内科 03:脳神経の診察(Cranial nerves I〜XII)神経内科 G1-11:頭蓋内圧亢進と脳ヘルニアの症候神経内科 G2-05:橋障害の症候群解剖学 7.4:頭部:眼窩と眼
関連疾患
脊索腫

🧠 全体像頭蓋内走行がに次いで長く、で固定されている——この解剖上の2点だけで臨床像の性格が決まる1。長い行程のどこで障害されても同じ水平が生じるうえ、頭蓋内圧が上がるだけで斜台に沿って伸展されるため、単独の麻痺からは病変部位をほとんど絞り込めない——局在診断能が低いとして知られる所以である。責任神経を決める一般的な枠組みはに、全体の局在戦略はに譲り、このノートは第VI脳神経に絞って掘り下げる。

定義と用語の整理

は水平で、患側を見たとき遠方視で増悪する。では作用がの脱力を部分的に覆い隠すため、遠見時のほうが偏位に気づきやすい。代償として顔を患側へ回旋し、患眼が外転せずに済む向きを選ぶ——の代償が頭部の傾斜であるのに対し、の代償は顔の回旋である点で見分ける。

の脱力によりの作用が相対的に優位となり、一次眼位でをきたす。急性発症のを伴う例では、まずこの神経を疑う2

病態生理

第VI脳神経はから起始し、を長く上行してを通過し、内を走ってから眼窩に入りに達する。この行程の長さそのものが2つの弱点を生む。

⭐ ひとつは牽引に対する脆弱性である。頭蓋内圧亢進が神経を伸展させると、病変の位置とに麻痺が出るになる3。もうひとつは通過する部位ごとに随伴する構造が変わることで、随伴所見を数えれば逆に局在を絞り込める。

部位 随伴所見 代表的な原因
脳幹(核・線維内) 同側)、これに病変側へのが加わる( 橋の・出血、脱髄
、他のを伴いうる 髄膜炎、頭蓋内圧亢進による牽引
持続する+顔面痛()。本症と合わせた三徴が
III・IV・と併存、眼窩後部痛 血栓症、の直達浸潤
微小血管性 単独。疼痛を伴うことがある 糖尿病高血圧

⚠️ 見逃してはいけないもの

危険度の高い順に並べる。

  • ⚠️ 頭蓋内圧亢進を背景疾患として見落とさない。 単独のは局在診断能が最も低いであり、頭痛・を伴えば水頭症など頭蓋内圧亢進の検索を進める。
  • ⚠️ を伴う麻痺はとして緊急対応する。 は橋病変を示すであり、脳卒中診療の経路に乗せる。
  • ⚠️ 多発を伴う麻痺はを疑う。 眼窩後部痛とIII・IV・の併存障害があれば血栓症・動脈瘤に加えの頭蓋底直達浸潤を鑑別に挙げる。持続する・顔面痛を伴えばを疑う。
  • ⚠️ 50歳以上の新規発症ではを除外する。 頭痛・を伴えば結果を待たず高用量ステロイドを開始する()。
  • ⚠️ +失調+意識変容はとして補充を待たない。 検査結果を待たずを投与する()。
  • ⚠️ 重症筋無力症は神経そのものの麻痺でないのに麻痺として来院する。 瞳孔は保たれ、を誘発すると悪化する点で区別する(重症筋無力症)。

鑑別の進め方

flowchart TD
    A["水平<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Diplopia'>複視</span>・患側視で増悪"] --> B{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='diurnal variation'>日内変動</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fatigability'>易疲労性</span>があるか"}
    B -->|"あり"| C["重症筋無力症を疑う<br>瞳孔は保たれる"]
    B -->|"なし"| D{"他の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cranial neuropathy'>脳神経障害</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='contralateral hemiparesis'>対側片麻痺</span>を伴うか"}
    D -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='contralateral hemiparesis'>対側片麻痺</span>"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='brainstem lesion'>脳幹病変</span>を疑う<br>緊急画像評価"]
    D -->|"III・IV・V1の併存"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cavernous sinus'>海綿静脈洞</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='petrous apex disease'>錐体尖病変</span>を疑う<br>緊急画像評価"]
    D -->|"なし(孤立性)"| G{"頭痛・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='papilledema'>うっ血乳頭</span>を伴うか"}
    G -->|"あり"| H["頭蓋内圧亢進の<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='false localizing sign'>偽性局在徴候</span>として評価"]
    G -->|"なし"| I{"中高年・血管危険因子のみか"}
    I -->|"はい"| J["微小血管性として経過観察"]
    I -->|"いいえ"| K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='MRI/MRA'>画像検査</span>"]
    J --> L{"3〜4か月で明らかな<br>改善がないか"}
    L -->|"改善しない"| K

対応の考え方

原因治療が中心で、麻痺そのものを抑える薬物治療はない。

  • 急性期はまたはを軽減し、原因検索と並行して生活の支障を減らす。
  • 微小血管性の麻痺は血糖・血圧の管理を続けながら経過観察する。通常3〜6か月で自然軽快するが、3〜4か月で明らかな改善がなければMRIに進む3
  • 症状固定後、の変化が止まってからなどのを検討する。手術適応や段階の考え方はに譲る。

まとめ

  • 第VI脳神経は頭蓋内走行がに次いで長く、で固定されているため頭蓋内圧亢進で伸展される。単独の麻痺は局在診断能が低いになりうる。
  • は患側視・遠見で増悪する水平で、代償として顔を患側へ回旋する(の頭部傾斜とは軸が異なる)。
  • 走行部位ごとに随伴所見が変わる。脳幹()、)、(III・IV・V1の併存、の直達浸潤を含む)で局在を絞り込む。
  • 頭蓋内圧亢進、は危険度の高い順に必ず除外し、重症筋無力症は神経麻痺の擬態として瞳孔所見とで区別する。
  • 微小血管性の孤立性麻痺は自然軽快しうるが、3〜4か月で明らかな改善がなければ画像検査に進む。

出典

  1. 1.Abducens Nerve Palsy(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)外転神経が頭蓋内圧亢進による伸展で偽性局在徴候を来すこと、病因を核・線維(脳幹)、くも膜下腔、錐体尖(Gradenigo症候群)、海綿静脈洞、眼窩、微小血管性という走行部位で群分けできること、微小血管性の麻痺は通常3〜6か月で自然軽快し3〜4か月で明らかな改善がなければ画像検査を行うべきこと、重症筋無力症は複視が変動性で易疲労性を伴う点で区別することを確認した。閲覧 2026-08-03
  2. 2.Neuroanatomy, Cranial Nerve 6 (Abducens)(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)外転神経の頭蓋内走行は脳神経のなかで2番目に長く(最長は滑車神経)、Dorello管で固定されているために頭蓋内圧が上がると斜台に沿って伸展されること、そのため外転神経麻痺が頭蓋内圧亢進の早期徴候かつ古典的な偽性局在徴候になることを確認した。閲覧 2026-08-03
  3. 3.Abducens Nerve Palsy(American Academy of Ophthalmology (EyeWiki)・2026)外直筋の機能不全による内斜視が患側視・遠見でより大きくなる非共同性の偏位であること、頭蓋内圧の上昇(低下)に伴って非局在性に生じうること、小児の後天性麻痺では脳幹膠腫を含む腫瘍性病変が主要な原因の一つで良性の再発性麻痺もあることを確認した。閲覧 2026-08-03