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Disease Atlas · 耳鼻咽喉科 · 症候群

グラデニーゴ症候群

Gradenigo syndrome

臓器系
耳鼻咽喉科感染症神経
科目
Otorhinolaryngology
トピック
耳鼻咽喉科 13:急性・慢性化膿性中耳炎の合併症
鑑別疾患
上咽頭癌
続発疾患
海綿静脈洞血栓症細菌性髄膜炎脳膿瘍
治療薬
バンコマイシンセフトリアキソンシプロフロキサシン
原因微生物
Streptococcus pneumoniaePseudomonas aeruginosaStaphylococcus aureusEscherichia coli
症状
外転神経麻痺顔面痛耳痛複視
原因となる疾患
急性中耳炎・慢性中耳炎(滲出性中耳炎を含む)

🧠 全体像:は、中耳炎の炎症がへ波及し、そこを通る内のと隣接するを巻き込むことで生じる症候群である。を伴う中耳炎・三叉神経第1・第2枝領域の顔面痛・という三徴で覚える。抗菌薬が普及した現代ではまれな病態になったが、⚠️ 放置すれば・・という致死的なへ進展しうるため、「まれだが見逃してはならない」の典型例である。

位置づけ

中耳炎の炎症が、したのへ波及して起こるを基盤とし、その炎症が隣接する神経を巻き込んで生じる症候群がである。1904年にGradenigoが報告した3徴が名称の由来で、抗菌薬普及前は中耳炎の代表的なの一つであったが、現在はそのもののが0.04〜0.15%にとどまるほどまれになっている1。小児に多く発症年齢の中央値は約12歳とされ、明らかな性差は報告されていない1。糖尿病、高用量ステロイド使用、免疫抑制状態、やの既往は成人例でのリスクを高める2。

病態

()とは、いずれも硬膜一枚を隔ててと接しているため、の炎症がそのまま両神経の炎症性の機能障害を引き起こす2。はとりわけという線維性の管の中を走行しており、周囲の炎症の影響を受けやすい3。

flowchart TD
    A["中耳炎"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pneumatization'>含気化</span>した<span class='jp-term jp-term-diagram' title='petrous apex'>錐体尖</span>への炎症波及"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='petrositis'>錐体尖炎</span>"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='trigeminal ganglion'>三叉神経節</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Meckel cave'>Meckel腔</span>)の炎症"]
    C --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Dorello canal'>Dorello管</span>内の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='abducens nerve'>外転神経</span>の炎症"]
    D --> F["三叉神経第1・第2枝領域の顔面痛"]
    E --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='abducens nerve palsy'>外転神経麻痺</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='diplopia'>複視</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='esotropia'>内斜視</span>)"]
    C --> H["持続する<span class='jp-term jp-term-diagram' title='otorrhea'>耳漏</span>・中耳炎"]
    F --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Gradenigo syndrome'>グラデニーゴ症候群</span>の3徴"]
    G --> I
    H --> I
    I --> J["未治療なら<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cavernous sinus thrombosis'>海綿静脈洞血栓症</span>・髄膜炎・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='brain abscess'>脳膿瘍</span>へ進展しうる"]

原因菌は・・大腸菌・緑膿菌など中耳炎の起因菌と重なる1。

臨床像

⭐ 3徴(同側のを伴う中耳炎・三叉神経第1・第2枝領域の顔面痛・)がそろえば診断は難しくないが、Gradenigo自身の原著57例でも3徴すべてがそろったのは半数未満で、2徴のみのも多い2。・、顔面痛、を伴うの組合せをみたら本症候群をする。

診断

診断の基本は臨床像から疑い、画像での病変を確認することである。はの検出に鋭敏でが低く第一選択の画像検査であり、は軟部組織の評価や急性・慢性の鑑別に有用である2。

⚠️ 単独のは局在診断能が低いでもあるため、・顔面痛を伴わないだけで本症候群と即断しない(詳しくはを参照)。

治療

flowchart TD
    A["3徴・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='suspected diagnosis'>疑診</span>例"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='computed tomography'>CT</span>/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='magnetic resonance imaging'>MRI</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='petrous apex disease'>錐体尖病変</span>を確認"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='culture specimen'>培養検体</span>採取後に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='broad-spectrum intravenous antibiotics'>広域静注抗菌薬</span>を開始"]
    C --> D{"数週の抗菌薬治療で改善するか"}
    D -->|"はい"| E["静注から経口への切り替えを検討し<br>数週間の治療を<span class='jp-term jp-term-diagram' title='completion (of a treatment course)'>完遂</span>"]
    D -->|"いいえ/膿瘍・骨髄炎あり"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='myringotomy'>鼓膜切開</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tympanostomy tube'>鼓膜換気チューブ</span>、<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='mastoidectomy'>乳突削開術</span>、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='petrous apicectomy'>錐体尖削開術</span>などの<span class='jp-term jp-term-diagram' title='surgical drainage'>外科的排膿</span>"]
    E --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='venous sinus thrombosis'>静脈洞血栓症</span>を合併していれば<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='Anticoagulation therapy'>抗凝固療法</span>の適応を個別に検討"]
    F --> G

⭐ 第一選択はを待たない経験的なで、バンコマイシンにのセフトリアキソンを組み合わせる、または緑膿菌を考慮してなどのフルオロキノロンを用いる1。静注・経口を合わせて数週間の治療を要することが多い14。

膿瘍形成や骨髄炎への進行など抗菌薬単独で改善しない例では、・、、などのを追加する1。脳神経周囲の炎症を軽減し回復を促す目的でステロイドを併用することがある1。

⚠️ を合併した例へのの是非には議論があるため、個別に専門科と相談して判断する1。

合併症

未治療のまま進行すると、、、などのに至り、死亡率は2〜2.6%と報告されている1。

⚠️ 現在はまれな疾患だからこそ、・顔面痛・という組合せを見たが本症候群を思い浮かべられるかどうかが、診断の遅れによる合併症を防ぐ鍵になる2。

鑑別

疾患 区別の要点
の へので同様に・顔面痛を来しうるが、中耳炎の先行やを欠き、で他の脳神経(III・IV)も巻き込みやすい
単独の ・顔面痛を伴わず、糖尿病・高血圧を背景に自然軽快する(詳しくはを参照)

まとめ

  • は、中耳炎の炎症がへ波及し、内のとを巻き込むことで、を伴う中耳炎・三叉神経第1・第2枝領域の顔面痛・の3徴を来す症候群である。
  • 抗菌薬普及後の現代ではまれだが、3徴すべてがそろう例は半数未満で、を見逃さない注意が要る。
  • 診断は(に鋭敏)と(軟部組織評価)を組み合わせ、治療はを中心に、膿瘍・骨髄炎があればを追加する。
  • 未治療なら・・という致死的なへ進展しうる(死亡率2〜2.6%)。
  • のや単独の麻痺との鑑別では、中耳炎の先行・の有無、進行速度、随伴する脳神経の組合せが手がかりになる。

出典

  1. 1.Insights into Gradenigo syndrome: Case presentation and review(Radiology Case Reports・2024)グラデニーゴ症候群が化膿性中耳炎のまれな合併症であり、化膿性中耳炎自体の頭蓋内合併症は0.04〜0.15%にとどまること、小児に多く発症年齢の中央値は約12歳で明らかな性差はないとされること、死亡率が2〜2.6%であること、起因菌がレンサ球菌属・ブドウ球菌属・大腸菌・緑膿菌であること、経験的治療にバンコマイシン+セフトリアキソンや第2/3世代セファロスポリン・フルオロキノロンを用い静注・経口を合わせて数週間を要しうること、膿瘍形成・骨髄炎など重症例では鼓膜切開・鼓膜換気チューブ・乳突削開術・錐体尖削開術などの外科的介入を要すること、静脈洞血栓症合併例への抗凝固療法の是非には議論があること、ステロイドが脳神経周囲の炎症軽減・回復促進に用いられることがあること、合併症として髄膜炎・硬膜静脈洞血栓症・迷路瘻孔・頭蓋内膿瘍・顔面神経麻痺などがあることを確認した。閲覧 2026-08-20
  2. 2.A Case of Gradenigo's Syndrome in an Elderly Patient(Cureus・2024)抗菌薬普及後の現代では錐体尖炎の合併症であるグラデニーゴ症候群に臨床でまれにしか遭遇しないこと、Gradenigo自身の原著57例では三徴すべてがそろった例は半数未満で2徴のみの例も多かったこと、診断画像はCTが骨病変の検出に感度が高く偽陽性率が低いため第一選択で、MRIは軟部組織評価・急性/慢性の鑑別に有用であること、糖尿病・高用量ステロイド使用・免疫抑制・真珠腫や慢性骨髄炎の既往がリスク因子であること、未治療なら致死的となりうることを確認した。閲覧 2026-08-20
  3. 3.Abducens Nerve Palsy(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)外転神経麻痺の病因を走行部位(核・線維、くも膜下腔、錐体尖、海綿静脈洞、眼窩、微小血管性)で群分けする枠組みの中で、錐体尖病変によるものがグラデニーゴ症候群に対応することを確認した。閲覧 2026-08-20
  4. 4.Conservative management of Gradenigo syndrome in a child(International Journal of Pediatric Otorhinolaryngology・2001)グラデニーゴ症候群が中耳炎・三叉神経第1・第2枝領域の顔面痛・外転神経麻痺の3徴からなり、保存的(抗菌薬中心の)治療で軽快しうることを確認した。閲覧 2026-08-20