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Disease Atlas · 感染症 · 疾患

細菌性髄膜炎

Bacterial meningitis

臓器系
感染症神経
科目
NeurologyPathologyMedical Microbiology
トピック
神経内科 G1-22:髄膜炎と脳炎病理学 C/109:中枢神経系感染症(髄膜炎・脳炎)微生物学 5/12:髄膜炎・脳炎を起こす主要な細菌微生物学 2/7:髄膜炎菌・非病原性ナイセリア属
鑑別疾患
ウイルス性脳炎クリプトコッカス症ライム病自己免疫性脳炎髄膜癌腫症単純ヘルペスウイルス感染症熱性けいれん片頭痛・一次性頭痛症候群無菌性髄膜炎
続発疾患
播種性血管内凝固Waterhouse-Friderichsen症候群感音難聴内耳炎
関連疾患
敗血症
治療薬
セフトリアキソンセフォタキシムバンコマイシンアンピシリンゲンタマイシンメロペネムデキサメタゾンリファンピシンシプロフロキサシンクロラムフェニコール
原因微生物
Neisseria meningitidisStreptococcus pneumoniaeListeria monocytogenesHaemophilus influenzaeEscherichia coliStreptococcus agalactiae / GBSPseudomonas aeruginosa
症状
悪心項部硬直点状出血頭痛発作発熱嘔吐疼痛羞明
検査値
髄液検査
元疾患
ベゾルド膿瘍海綿静脈洞血栓症新生児敗血症髄液漏脳膿瘍脾摘後重症感染症
原因となる疾患
急性中耳炎・慢性中耳炎(滲出性中耳炎を含む)急性乳様突起炎

🧠 全体像は、に定着した菌が血流を介して(まれに近接や医原性に直接)へ達し、そこで生じる炎症カスケード自体が頭蓋内圧亢進・脳浮腫・脳虚血という二次的な脳傷害を引き起こす救急疾患である。診断確定を待たず、血液培養採取後ただちに経験的抗菌薬(±)を開始することが転帰を左右し、CT・の順序判断がこの「治療を遅らせない」原則の下に位置づけられる。

病態

大多数はで発症する。・上気道に定着した菌がを越えて菌血症を起こし、血液脳関門を通過してに達する。、副鼻腔炎・中耳炎・からの近接感染、髄膜脊髄瘤などの手技に伴う医原性の直接播種も経路となる。

に達した菌体成分(など)は自然免疫を強く活性化し、TNF-α・IL-1・IL-6などのを大量に放出させる。この炎症反応そのものが血液脳関門の透過性を高め、を同時に生じさせて頭蓋内圧を上げ、を低下させる。による・脳表血管を取り囲み、血管炎やを介して脳虚血を追加する。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nasopharynx'>鼻咽頭</span>への菌定着"] --> B["血流への侵入(菌血症)"]
    N["副鼻腔炎・中耳炎・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='traumatic brain injury, TBI'>頭部外傷</span>・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='lumbar puncture'>腰椎穿刺</span>などの医原性経路"] --> D
    B --> C["血液脳関門の通過"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='subarachnoid space'>くも膜下腔</span>への進入"]
    D --> E["菌体成分(LPS・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lipoteichoic acid'>リポテイコ酸</span>・莢膜)が<br>自然免疫を活性化"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inflammatory cytokine'>炎症性サイトカイン</span>放出<br>(TNF-α、IL-1、IL-6)"]
    F --> G["血液脳関門透過性亢進→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Vasogenic Edema'>血管原性浮腫</span>"]
    F --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neutrophil infiltration'>好中球浸潤</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='purulent exudate'>膿性滲出物</span>→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Cytotoxic Edema'>細胞傷害性浮腫</span>"]
    G --> I["頭蓋内圧亢進"]
    H --> I
    H --> J["血管炎・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='venous sinus thrombosis'>静脈洞血栓症</span>→脳虚血"]
    I --> K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cerebral perfusion'>脳灌流</span>低下・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='brain herniation'>脳ヘルニア</span>のリスク"]
    J --> K

💡 症状の多くは「菌そのもの」より「宿主の炎症反応」が引き起こす。抗菌薬で菌を殺しても、細胞壁成分の急激な放出が一時的に炎症を悪化させうるため、としてのが意味を持つ。

臨床像

発熱・・意識変容だが、三徴が揃うのは一部にとどまり、頭痛・を伴うことが多い。乳児では発熱、など非特異的な所見が中心となる。高齢者・免疫不全者では発熱やが目立たず、意識変容のみで発症することがある。

診察方法 陽性所見
仰臥位で的に頸部をする 抵抗・疼痛でが制限される
股関節・を90度屈曲し、その状態から膝を伸展する 疼痛・抵抗により完全な伸展ができない
仰臥位で頸部を的にする 股関節・が反射的に屈曲する

⚠️ 、点状出血・紫斑(を示唆)、新規けいれん、の急速な低下は重症化・であり、蘇生と抗菌薬投与を最優先する。

年齢・宿主群別の主な起因菌

年齢・宿主群 主な起因菌
新生児(生後1か月未満) B群溶血性Streptococcus agalactiae)、Escherichia coliなどのグラム陰性桿菌、Listeria monocytogenes
乳児・小児(1か月〜) Streptococcus pneumoniaeNeisseria meningitidis、ワクチン未接種児ではHaemophilus influenzaeb型
若年成人 Neisseria meningitidis、Streptococcus pneumoniae
50歳以上・高齢者 Streptococcus pneumoniae、Neisseria meningitidis、Listeria monocytogenes、グラム陰性桿菌
妊婦・(悪性腫瘍、移植後、ステロイド長期使用、HIV進行例など) Listeria monocytogenes、グラム陰性桿菌、Streptococcus pneumoniae
後・術後・関連 黄色ブドウ球菌、などのブドウ球菌属、緑膿菌を含むグラム陰性桿菌

⭐ Listeria monocytogenesはセファロスポリンに本質的に耐性であるため、新生児・50歳以上・妊婦・という4つのハイリスク群ではにアンピシリンを必ず追加する。

診断

⚠️ 診断確定のための検査(CT、)を理由に経験的抗菌薬の開始を遅らせてはならない。血液培養を採取したら、CT・LPの結果を待たずに抗菌薬(適応があればも)を直ちに開始する。

flowchart TD
    A["髄膜炎を疑う所見<br>(発熱・頭痛・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nuchal rigidity (neck stiffness)'>項部硬直</span>・意識変容など)"] --> B["ただちに血液培養2セットを採取"]
    B --> C{"CT前LPを要する所見はあるか<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='focal neurologic sign'>局在神経徴候</span>・新規けいれん・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='papilledema'>乳頭浮腫</span>・中等度以上の意識障害・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='severe immunosuppression'>重度免疫不全</span>など)"}
    C -- "あり" --> D["CT・LPの結果を待たず<br>経験的抗菌薬+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dexamethasone'>デキサメタゾン</span>を直ちに開始"]
    D --> E["頭部CTを施行"]
    E --> F["禁忌がなければ<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lumbar puncture'>腰椎穿刺</span>を追加"]
    C -- "なし" --> G["ただちに<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lumbar puncture'>腰椎穿刺</span>を施行"]
    G --> H["髄液採取後、経験的抗菌薬+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dexamethasone'>デキサメタゾン</span>を開始<br>(採取に時間を要する場合はLP前に開始)"]
    F --> I["髄液グラム染色・細胞数・蛋白・糖・<br>培養・迅速抗原/PCR"]
    H --> I
    I --> J["結果に応じて抗菌薬を<span class='jp-term jp-term-diagram' title='narrow-spectrum'>狭域</span>化・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='dexamethasone'>デキサメタゾン</span>継続の可否を判断"]

髄液所見の比較

項目 細菌性 ウイルス性 真菌性・結核性
外観 清澄〜軽度 清澄〜
上昇 正常〜軽度上昇 上昇
細胞数 著増(数百〜数万/μL)、 数十〜数百/μL、リンパ球優位(発症初期はのこともある) 数十〜数百/μL、リンパ球優位
蛋白 著増 正常〜軽度上昇 著増
糖(CSF/血漿比) 著減(<0.4が目安) 正常 低下
病原体検査 グラム染色、培養、迅速抗原、PCR ウイルスPCR(HSV、等) 、抗原検査、・培養・PCR

治療

経験的抗菌薬

年齢・状況 経験的抗菌薬
新生児(生後1か月未満) アンピシリン+、またはアンピシリン+
生後1か月〜50歳未満(免疫正常) バンコマイシン+(セフトリアキソンまたは
50歳以上、、妊婦、 バンコマイシン++アンピシリン(Listeria monocytogenesカバーのため)
後・術後・関連 バンコマイシン+を持つβラクタム(または

バンコマイシンは、ペニシリン・セファロスポリン低感受性の肺炎球菌が地域で一定頻度に存在することを前提に、原因菌・感受性が判明するまで全例に併用する。培養・感受性結果が判明したら、不要な広域薬を中止して化する。

⚠️ Neisseria meningitidisはセフトリアキソンが血液脳関門を通過して有効であり、確定後は単剤へ化できる。一方でListeria monocytogenesにはセファロスポリンが無効であり、アンピシリン(±)への切り替え・継続が必須となる。

アジュバント治療(デキサメタゾン)

  • 最初の抗菌薬投与の直前または同時に開始する。抗菌薬投与後に開始しても抗炎症効果が薄れるため、タイミングを逃さないことが重要である。
  • 成人の肺炎球菌性髄膜炎で難聴・を減らすエビデンスが最も強く、Haemophilus influenzae b型による小児髄膜炎でも難聴予防効果が支持されている。
  • 髄液・血液培養の結果、原因菌が肺炎球菌・H. influenzae以外と判明した場合、またはそのものが否定された場合はを中止する。
  • 通常4日間継続する。過度の陰性転帰を避けるため、開始判断はと患者背景(妊婦、性ショックなど)を踏まえて行う。

合併症

合併症 内容
感音難聴 最も頻度が高い。特に肺炎球菌性で多く、内耳への炎症波及による。退院前後の聴力評価が推奨される
水頭症 の炎症・線維化によるでの髄液(交)、またはによる
脳浮腫・頭蓋内圧亢進・ の進行による。低下、などに注意する
けいれん・てんかん 皮質への炎症波及、、低灌流性障害などによる
、局在神経症状の原因となる
障害・の残存 特に治療開始の遅れ、低下と相関する
SIADH・ 中枢神経感染に伴う
の劇症化( の過剰産生と・血小板減少を介してを引き起こし、急速に死に至りうる。点状出血・紫斑の出現はとして重視する

髄膜炎菌の濃厚接触者への化学予防

Neisseria meningitidisは感染し、寮・軍隊・家庭内などで集団発生しやすい。発症者の症状出現前24時間以内に、物への直接曝露があった(同居家族、保育・学校での近接接触、気道確保などの医療処置に無防備で関わった医療者など)には、発症後できるだけ早くを行う。

  • リファンピシンまたは(成人)が第一選択となる
  • 妊婦にはセフトリアキソン筋注を用いる
  • Haemophilus influenzae b型による髄膜炎でも、未ワクチン接種の小児を含む家庭内にはリファンピシンによるを検討する

予防・ワクチン接種

  • 髄膜炎菌:4価、血清型A・C・W・Y用)に加え、血清型B用のが別に存在する。両者を1回でまとめてカバーする5価ワクチン()も承認されており、思春期・青年期のルーチン接種や、などのハイリスク群での接種に用いられる。
  • 肺炎球菌:乳幼児へのに加え、50歳以上の未接種成人には(PCV15・PCV20・PCV21のいずれか)を1回接種する。PCV15を用いた場合は1年以上あけてPPSV23を追加する。
  • b型(Hib):乳児期からのにより、かつて小児髄膜炎の主要な原因であったHibによる髄膜炎は先進国で激減した。

まとめ

  • は多くがで成立し、炎症カスケードそのものが血液脳関門透過性亢進・脳浮腫・頭蓋内圧亢進を介して二次的な脳傷害を引き起こす。
  • (発熱・・意識変容)は全例で揃うわけではなく、は補助的所見として用いる。
  • 起因菌は年齢・宿主背景で異なり、新生児はGBS/大腸菌/Listeria、若年成人は髄膜炎菌/肺炎球菌、50歳以上・妊婦・ではListeriaの追加カバーが必須になる。
  • 血液培養採取後、CT・の結果を待たずに経験的抗菌薬(バンコマイシン+±アンピシリン)とを直ちに開始することが転帰を左右する。
  • は最初の抗菌薬と同時または直前に開始し、原因菌が肺炎球菌/H. influenzae以外と判明すれば中止する。
  • 難聴・水頭症・・けいれんなどの合併症を念頭に置き、髄膜炎菌のにはを、地域全体には接種(/、PCV、Hib)によるを提供する。