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Disease Atlas · 神経 · 疾患

海綿静脈洞血栓症

Cavernous sinus thrombosis

別名
CST海綿静脈洞血栓性静脈炎
臓器系
神経感染症
科目
AnatomyENT
トピック
解剖学 7.2:頭部:頭皮と顔面解剖学 9.7:中枢神経・神経解剖:血液供給耳鼻咽喉科 34:副鼻腔炎の合併症耳鼻咽喉科 27:外鼻の外傷、炎症性疾患、腫瘍
上位概念
脳静脈洞血栓症
合併症
細菌性髄膜炎脳膿瘍敗血症
治療薬
バンコマイシンセフトリアキソンメロペネムヘパリン
原因微生物
Staphylococcus aureus
症状
眼球突出眼瞼浮腫眼筋麻痺複視眼瞼下垂しびれ頭痛発熱
原因となる疾患
眼窩蜂窩織炎

🧠 全体像は、顔面の「危険三角」——鼻根部から両側口角を結ぶ三角内——の感染が、弁を欠く・眼静脈を逆行して頭蓋内のへ波及する化膿性である。核心は2つある。①を通る脳神経はIII・IV・V1・V2・VIで、V3()は通らないため、額から・上眼瞼・上口唇にかけての感覚障害やはあっても下顎領域の感覚は保たれるという局在診断上の手掛かりになる。②左右のは下垂体の前後を通る(海綿間静脈洞)で直接つながっているため、片側で始まった炎症が短時間で対側へ波及し両側性のを来す——これは他の病変ではまず起こらない、に特徴的な進展様式である。

病態:なぜ顔面の感染が頭蓋内に達するか

は内眼角付近から眼角静脈として始まり、鼻根部から下縁へ下行する。この静脈系には弁がないため、通常は下方(系)へ向かう血流が、圧が加わると容易に逆流する。危険三角内(鼻・上口唇周囲)のなどを圧出・切開して圧を上げると、感染性の血栓が眼角静脈→上眼静脈を経てへ逆行しうる。副鼻腔炎(特に炎・炎)からの直接波及も主要な経路である。

flowchart TD
    A["危険三角(鼻根部〜両側口角)の感染<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='comedone'>面皰</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='folliculitis'>毛包炎</span>・副鼻腔炎など"] --> B["弁を欠く<span class='jp-term jp-term-diagram' title='facial vein'>顔面静脈</span>・眼角静脈を逆行"]
    B --> C["上眼静脈を経て<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cavernous sinus'>海綿静脈洞</span>へ流入"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cavernous sinus'>海綿静脈洞</span>内の化膿性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thrombophlebitis'>血栓性静脈炎</span>"]
    D --> E["海綿間静脈洞を介して対側へ波及"]
    D --> F["III・IV・V1・V2・VI脳神経の圧迫・炎症"]
    E --> G["両側性の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='exophthalmos'>眼球突出</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ophthalmoplegia'>眼筋麻痺</span>"]
    F --> G
    D --> H["下垂体・視神経周囲への波及"]

の内部を(CN VI)が走り、(IV)・(V1)・(V2)が走行する。(V3)はを構成せず、を通って別経路をとるため、では下顎領域の知覚は障害されにくい12。この「V3だけ免れる」という非対称性が、腫瘍や動脈瘤による他の症候群と鑑別する手掛かりにもなる。

起因菌は黄色ブドウ球菌が全体の約3分の2を占め最多である耐性を含む)1。副鼻腔炎由来では肺炎球菌・も関与する。

臨床像

診断

臨床像(危険三角・副鼻腔炎の+眼窩症状+発熱)から疑ったら、造影CT静脈撮影(CTV)または造影MR静脈撮影(MRV)を行う。これらは高感度である一方、や通常のMRVでは血栓が描出されず診断できないことがある1。血液培養、可能なら由来の培養も採取し、は頭蓋内圧亢進・局在徴候を除外したうえで髄膜炎の評価に検討する。

flowchart TD
    A["危険三角の感染・副鼻腔炎+発熱・眼窩症状"] --> B{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='exophthalmos'>眼球突出</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ophthalmoplegia'>眼筋麻痺</span>があるか"}
    B -->|"あり"| C["造影CTVまたは造影MRVで<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cavernous sinus'>海綿静脈洞</span>を評価"]
    B -->|"両側性へ進展"| C
    C --> D{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cavernous sinus'>海綿静脈洞</span>に血流欠損があるか"}
    D -->|"あり"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cavernous sinus thrombosis'>海綿静脈洞血栓症</span>と確定"]
    D -->|"なし"| F["単純な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='orbital cellulitis'>眼窩蜂窩織炎</span>など他の原因を再検討"]
    E --> G["血液培養・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='primary tumor'>原発巣</span>の培養を確保"]
    G --> H["広域<span class='jp-term jp-term-diagram' title='IV antibiotics'>静注抗菌薬</span>+抗凝固の是非を検討"]

治療

  1. 抗菌薬:黄色ブドウ球菌(MRSA含む)と副鼻腔炎起因菌をカバーする広域バンコマイシンセフトリアキソンまたはなど)を血液脳関門透過性を意識した高用量で開始する。投与期間は3〜4週間、または臨床的改善が得られてから少なくとも2週間が目安とされる1
  2. 検討では未分画ヘパリンによる抗凝固で死亡率が40%から14%へ低下したとする報告があるが、前向きによる支持はなく、エビデンスの強さは限定的である1。出血性合併症のリスクと血栓進展・対側波及を防ぐ利益を個別に判断する。
  3. 副鼻腔炎・眼窩膿瘍などのがあれば、・眼科と連携してドレナージを検討する。
  4. ⚠️ ステロイドは急性期にルーチンで用いない。 実質病変(・出血)を伴わないの急性期にステロイドを投与しても有用性は確認されておらず、むしろ有害とする報告がある2

合併症

は硬膜内にあり、周囲の髄膜・・下垂体・視神経と近接しているため、敗血症、下垂体機能不全、による永続的な・失明へ進展しうる。両側性に完成すると、複数の眼球が同時に障害され、重度の・瞳孔異常を残すことがある。

まとめ

  • は、弁を欠く・眼静脈を介して顔面の危険三角の感染が逆行し、に化膿性を来す病態である。
  • を通る脳神経はIII・IV・V1・V2・VIで、V3()は通らないため下顎の感覚は保たれる。
  • 左右ので結ばれており、片側発症から対側への急速な波及が診断上の重要な手掛かりになる。
  • 起因菌は黄色ブドウ球菌が最多。診断は造影CTVまたは造影MRVで、・通常のMRVでは見逃しうる。
  • 治療は血液脳関門を意識した広域を3〜4週間(改善後2週間以上)継続し、は死亡率低下の報告があるが前向き試験の支持を欠く。ステロイドはルーチンで用いない。

出典

  1. 1.Cavernous Sinus Thrombosis(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2025)海綿静脈洞にはIII・IV・VI脳神経とV1・V2が通り下顎神経(V3)は含まれないこと、黄色ブドウ球菌が全体の約3分の2を占める最多の起因菌であること、左右の海綿静脈洞は下垂体前後を通る交通枝(海綿間静脈洞)で連絡しており血栓・感染が対側へ波及しうること、造影CT静脈撮影(CTV)または造影MR静脈撮影(MRV)が高感度で単純CTや通常の非造影MRVでは診断できないことがあること、非経口抗菌薬は3〜4週間または臨床的改善後少なくとも2週間の長期投与が推奨されること、後方視的検討では未分画ヘパリンによる抗凝固で死亡率が40%から14%へ低下したとする報告があるが前向き試験による支持はないこと閲覧 2026-08-11
  2. 2.Cavernous Sinus Syndromes(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)海綿静脈洞内をCN V1・V2が通過すると記載され下顎神経(V3)が海綿静脈洞の構成要素として挙げられていないこと、脳静脈血栓症の急性期のステロイドは実質病変を伴わない患者でむしろ有害であり有用性が確認されていないこと閲覧 2026-08-11