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Disease Atlas · 神経 · 疾患

脳静脈洞血栓症

Cerebral venous sinus thrombosis

別名
CVSTCVTcerebral venous thrombosis脳静脈血栓症
臓器系
神経血液
科目
NeurologyObstetrics and Gynecology (Obstetrics)
トピック
神経内科 G1-18:脳静脈循環障害神経内科 G2-25:脳血管障害の分類神経内科 G2-27:若年成人の脳血管障害産科学 04:妊娠高血圧症候群・子癇・HELLP症候群
鑑別疾患
特発性頭蓋内圧亢進症妊娠高血圧腎症・子癇・HELLP症候群脳梗塞
合併症
てんかん
治療薬
ヘパリンエノキサパリンワルファリン
原因薬剤
ダナゾールフィツシラン
症状
頭痛頭蓋内圧亢進痙攣血栓塞栓症乳頭浮腫複視意識障害
検査値
Dダイマー血小板数フィブリノゲン
画像所見
empty delta徴候
下位分類
S状静脈洞血栓症海綿静脈洞血栓症
原因となる疾患
抗リン脂質抗体症候群

🧠 全体像:は、動脈ではなく静脈が詰まる脳卒中である——この一点が、画像所見ももと正反対にする。梗塞がに一致せず、しばしば出血性に転化するにもかかわらず、標準治療はというを理解することが診療の核心である。危険因子は妊娠・・経口避妊薬・という「血液が固まりやすくなる状態」に集約され、動脈硬化の危険因子(高血圧・・喫煙)とは重ならない、若年女性に偏った疾患である。

病態:なぜ出血性梗塞になるか

⭐ 機序は2つあり、それぞれ別の症候群を作る。

①静脈圧の上昇(の障害):静脈洞が血栓で閉塞すると、その領域を還流する静脈血が排出できず、静脈圧・が上昇してが低下する。生じた虚血はを招き、続いて血液脳関門が破綻してと貯留が加わる1。動脈が閉塞すると異なり、は特定のに一致しない分布を取る1。うっ滞した毛細血管・が破綻するとに転化し、を合併した状態で発見されることも珍しくない。

②髄液吸収の障害(頭蓋内圧亢進):髄液は脳室からを経てで静脈洞へ吸収される。静脈洞が閉塞するとこの吸収が妨げられて頭蓋内圧が上がり、それがさらに細胞性・と内出血を促す1。⭐ 病変が無くても「頭痛+」だけで発症しうるのはこの経路のためで、と同じ臨床像になる——⚠️ その診断名を付ける前に静脈洞を画像で見る理由がここにある。

💡 好発部位にも理由がある。 もっとも侵されやすいのはで、次いでである。は長く径が細いこと、左は右に比べて低形成のことが多くが低いことが、それぞれに傾く理由とされる1。⚠️ 低形成で血流の遅い左は、画像上の血流欠損と紛らわしくなりうる——「左が細い」だけで血栓と決めない。

flowchart TD
    A["危険因子<br>(妊娠<span class='jp-term jp-term-diagram' title='puerperium (postpartum period)'>産褥</span>・経口避妊薬・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thrombophilia'>血栓性素因</span>・悪性腫瘍・感染・脱水)"] --> B["静脈洞内の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thrombus formation'>血栓形成</span>"]
    B --> C["静脈還流の障害"]
    B --> C2["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='arachnoid granulations'>くも膜顆粒</span>での<br>髄液吸収の障害"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='capillary pressure'>毛細血管圧</span>の上昇"]
    C2 --> E["脳浮腫・頭蓋内圧亢進"]
    D --> E
    D --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='arterial territory'>動脈支配領域</span>に一致しない<span class='jp-term jp-term-diagram' title='venous infarction'>静脈性梗塞</span>"]
    F --> G["毛細血管・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='venule'>細静脈</span>の破綻"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hemorrhagic transformation'>出血性転化</span>"]
    E --> I["頭痛・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='papilledema'>乳頭浮腫</span>・痙攣・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='focal neurologic sign'>局在神経徴候</span>"]
    F --> I
    H --> I

💡 「に一致しない」という一点が、画像を見る前からを疑う最大の手がかりになる。 皮質下出血や、複数のをまたぐ梗塞、両側性の病変を見たら、通常ののパターンから外れていないかをまず確認する。

危険因子

年間は100万人あたり3〜4例とまれだが、の約60%を占め、女性が男性の3倍罹患し、患者の70〜80%はの女性である1。周産期・に限れば分娩10万件あたり約12例で、同時期の脳卒中の頻度をわずかに下回るにすぎない1。⭐ 危険因子は85%超で1つ以上が同定され、50%超では複数が重なる1——1つ見つけたところで探索を止めない。は全脳卒中の0.5〜3%を占め、最も脆弱な集団は若年者・の女性・のある患者である一方、を行ってもなお10〜15%が死亡または要介護状態に至る2。

分類 代表例
エストロゲン関連 妊娠・、経口避妊薬、(8倍のリスク上昇)、肥満
後天性 、悪性腫瘍、(変異)、自己免疫疾患
、、
薬剤性・ワクチン アンドロゲン作用を持つ、を低下させるなど化を促す薬剤。ワクチン後のワクチン起因性免疫性血栓性(VITT)(後述)
その他 感染(ある研究では全CVST入院の7.6%で同定された)、感染(中耳炎・)、脱水、、・静脈洞や頸静脈への直接損傷

⭐ 遺伝性・後天性のは国際共同研究ISCVTで34%に認められた1。💡 中耳炎・から波及する場合は、隣接する・に血栓ができる()——解剖学的な隣接がそのまま部位を決める。

臨床像

症候は多彩で非特異的なため、若年者・の女性のな神経症候ではつねに鑑別に挙げる。

  • 頭痛:最も頻度が高い症候で、約90%に現れる2。進行性で、これまでと異なる性状のことが多い。
  • 頭蓋内圧亢進:を伴う頭蓋内圧亢進として現れる。視覚症状(一過性の・)が13〜27%、が6〜14%、その他のが6〜11%に生じる2。
  • 痙攣:脳卒中より高頻度に痙攣を伴い、発症時に20〜40%でみられる2。
  • :、など、に一致しない分布で20〜50%に出現しうる2。
  • 意識障害:広範な血栓症・を伴う重症例でみられ、脳症・昏睡は20%までと報告される2。

⚠️ 経過の速さも脳卒中と違う。 症状は他の脳卒中より緩徐に進むことが多く、大半は発症から48時間より後に受診する。一方で少数はや(5%未満)、急性発症の(5〜40%)という急性の形を取る2。💡 「急に始まらなかったから脳卒中ではない」も「急に始まったからだ」も、どちらもこの疾患では成り立たない。

鑑別

  • :に一致する欠損症状であればが優位に疑われる。逆に、複数の動脈をまたぐ、あるいは両側性の病変、痙攣を伴う急性局在徴候はを積極的に疑う根拠になる。
  • ・子癇:・の頭痛・痙攣・視覚症状は子癇との両方で起こりうる。血圧・蛋白尿の有無だけで判断せず、な経過(、血圧が正常域)ではを並行して検索する。
  • :の代表で、若年の・・を来す。な血栓症を若年で繰り返す患者ではを評価する。

診断

⭐ CTVとMRVは同格ではない。 2024年のAHA科学的声明は、/(MRV)を診断確定のための非侵襲的検査として推奨し、/(CTV)は資源の限られた施設、またはが低い場合の妥当な代替と位置づけている2。差が出るのは細い静脈で、CTVはに比べ皮質静脈血栓の感度が低い。皮質静脈血栓の診断には、造影法と(GRE)・強調画像()が推奨される撮像法である2。

💡 ただし造影MRVとCTVの感度・特異度は同等とされており2、CTVが劣るのはあくまで皮質静脈の描出である。⭐ とはいえ造影MRVには、CTVには無い利点が1つある——血流の遅い状態と低形成のをより良く区別できることである2。上で述べた「左が細い」問題に直接効く性質で、感度・特異度が同等でも選ぶ理由になる。妊娠中・授乳中や高度腎不全でを使えない場合には、造影剤を使わないTOF法のが使える2——とを避けたいときにMRVを選べる根拠がここにある。⭐ 血流が遅い状況では3D TOFより2D TOFのほうが感度が高い2。

造影CTでは、した静脈洞の中心が低吸収を示し、その周囲をからの造影増強が取り囲む三角形の陰影としてempty delta徴候が描出されることがある1。

flowchart TD
    A["若年者・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='reproductive age / childbearing age'>妊娠可能年齢</span>女性の進行性頭痛/痙攣/非典型局在徴候"] --> B{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='arterial territory'>動脈支配領域</span>に一致しない病変か"}
    B -->|"はい"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='magnetic resonance imaging'>MRI</span>/MRVで静脈洞を評価<br>(CTVは代替。皮質静脈血栓は<br>造影法とGRE・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='susceptibility-weighted imaging'>SWI</span>で見る)"]
    B -->|"いいえ・典型的な動脈支配"| D["通常の脳卒中精査を優先"]
    C --> E{"静脈洞に血流欠損があるか"}
    E -->|"あり"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cerebral venous sinus thrombosis (CVT)'>脳静脈洞血栓症</span>と確定"]
    E -->|"なし"| G["他の原因を再検討"]
    F --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thrombophilia'>血栓性素因</span>・危険因子のスクリーニング"]

⭐ が正常でもは否定できない。 は陰性のことが多く、確定には静脈系そのものを描出する検査(MRV、次点でCTV)が要る。

治療:出血があっても抗凝固が標準治療

⚠️⚠️ を合併していても、は中止せず継続するのが標準治療である。これが本症の治療における最大のである。 は血栓の進展を防ぎ、閉塞した静脈洞のを促し、合併症を減らすために不可欠であり、この意義はの合併の有無にかかわらず変わらない1。

  • 急性期は治療量の(など)またはで抗凝固を開始する。⚠️ この「まずヘパリン」に明確な例外が1つある——VITT(後述)である。
  • 急性期を過ぎたら(ワルファリン)へ移行する。投与期間は、一過性の誘因によるものなら3〜12か月、があるかを繰り返している例では無期限が従来からの標準である2。
  • 頭蓋内圧亢進が高度で薬物療法に反応しない例、進行する意識障害を伴う例では、などの外科的介入を検討する。急性の重症例で病変を伴いヘルニアが切迫しているときは、救命を目的とした治療として提示すべきものとされる(は存在しない)2。

💡 「出血があるのに血液を固まりにくくする薬を使う」という直感への抵抗が、この疾患の治療で最も誤解されやすい点である。 出血の主因が静脈のうっ滞そのものであるため、血栓を溶かして静脈還流を再開させることがうっ滞・出血の悪循環を断つ最も合理的な対応になる——出血があるからこそ抗凝固を止める、という判断は誤りである。

経口薬をワルファリンからDOACへ替えられるか

⭐ 2024年のAHA科学的声明は、()を「の安全で有効な代替選択肢と思われる」として新規の項目に挙げた(根拠はのと前向き研究)2。声明は推奨クラスを付けない文書であり、第一選択が入れ替わったわけではない——標準は今も非経口ヘパリンからへの移行である。

研究 デザインと対象 結果
RE- CVT 。120例を5〜15日のののち150 mg 1日2回とワルファリン(目標 2.0〜3.0)へ1:1し6か月投与。悪性腫瘍・中枢神経感染・外傷・妊娠は除外 再発は両群とも0。大出血は群1例(1.7%、消化管出血)、ワルファリン群2例(3.3%、いずれも)
SECRET 第II相の無作為化試験。53例を20 mg 1日1回と標準治療(ワルファリンまたは)へ1:1し6か月以上投与。導入のを必須とせず、妊娠・は除外 早期にを開始することによる安全性の懸念は認めなかった。6か月時点で群に再発1例(3.8%)、症候性1例(3.8%)、臨床的に問題となる非大出血2例(7.7%)、対照群は再発・出血とも0
ACTION-CVT 後ろ向きの国際研究。日常診療でとのいずれかを処方された845例(の内訳は67%・18%・14%)。悪性腫瘍・・妊娠は除外 再発に有意差なし(調整0.94、95%信頼区間0.15〜1.73)。大出血は調整0.35(95%信頼区間0.15〜0.82)と群で少なく、主にの減少による

率はRE- CVTとACTION-CVTのいずれも群間差が無かった2。無作為化試験3件と観察研究16件をまとめた系統的レビューでも、再発・大出血・完全(42.9%対42.3%、相対危険0.98、95%信頼区間0.87〜1.11)はいずれも同程度だった2。⚠️ どの試験もを確かめてから当てはめる——妊娠は3試験すべてで、悪性腫瘍はRE- CVTとACTION-CVTで、はSECRETとACTION-CVTで除外されている2。の成績をそのまま持ち込める集団ではない。

💡 声明が「現時点で妥当」としているのは、導入のを一定期間行ったうえでかへ移行することであり、5〜15日という期間がそれより短い期間より安全か有効かは分かっていない2。

⚠️ を選べない・選ぶべきでない場面が明確にある。

  • 妊娠中はもワルファリンも禁忌で、だけが推奨される。授乳中はが禁忌である2。 ⚠️ ただし「禁忌」という上の区分はのクラス全体では成り立たず、薬剤ごとに違う。 の欧州SmPCは4.3項(禁忌)に「妊娠および授乳」を挙げる3が、の欧州SmPCの4.3項に妊娠・授乳は無く、4.6項が「予防的な措置として妊娠中の使用を避けることが望ましい」、授乳は中止の可否を有益性で判断するとしている4。実務上のは変わらない——妊娠中はを用い、授乳中もは避ける(の4.6項も乳汁移行が否定できないとして授乳の中止か投与の中止かを選ばせており、「使ってよい」とは書いていない)。禁忌欄を根拠に語るときにクラスでまとめない、というだけである。
  • では、はワルファリンより血栓塞栓症の再発が多いと報告されている2。本症の危険因子として頻度の高い病態なので、を選ぶ前にの評価結果を確認する。
  • 開始の時期(導入ヘパリンを挟むか)、急性期の用量が最初に必要かどうか、どの患者が適した対象かは、なお議論が続いている2。

⚠️ VITT——「まずヘパリン」が反転する場面

2021年、ChAdOx1 nCoV-19(アストラゼネカ)とAd26.COV2.S(ヤンセン)という型のSARS-CoV-2ワクチンの接種後に、血小板減少を伴うが欧州と米国から報告された。ワクチン起因性免疫性血栓性(VITT=vaccine-induced immune thrombotic thrombocytopenia)である2。

  • 時期と対象:症状は接種の5〜24日後に始まり、報告例の年齢は18〜77歳で女性が多かった。初発症状として最も多いのは頭痛で、全例が血小板減少を呈した2。米国血液学会の定義では、接種4〜42日後に、①部位(・内臓静脈)の血栓、②血小板減少、③PF4に対する抗体()陽性、④の(の4倍超)がそろうものを指す。⚠️ 早期にはが正常のこともあり、正常値では否定できない5。
  • 機序:由来のが細胞の(PF4)と結合し、自己抗体の産生を引き起こすと考えられている——⭐ が無いのに自己免疫性のと同じ形をとる、というのがこの病態の核心である2。
  • 頻度と予後:VITTによるはまれだが、初期のでは死亡率39〜61%と予後不良だった2。
  • mRNAワクチンとの関係:170万件超の有害事象を扱った薬剤監視研究では、mRNAワクチン後のの報告リスクはむしろ不均衡に低く(BNT162b2・mRNA-1273で1〜5/10,000に対しChAdOx1では13/10,000)、mRNAワクチン後のVITTを示す証拠は無いとされる2。

⚠️ 治療は通常のCVTと逆を向く。

通常の VITTを疑うとき
ヘパリン(・未分画)で開始 ヘパリン製剤を避ける(を含め、VITTが否定されるまで)5
— (IVIG)1 g/kgを2日間、および副腎皮質ステロイド2
— 非ヘパリン抗凝固薬(、など)またはを用い、が完全に回復してから経口抗凝固薬へ移行する2
出血があっても抗凝固を続ける は推奨されない2。フィブリノゲンは1.5 g/L超に保つ5

⚠️ PF4抗体の検査はより先に行う。 はと試験に干渉して偽陰性を生じうるため、投与前に検体を採る。ただしVITTの疑いが強ければの結果を待たずにと非ヘパリン抗凝固を開始し、早期に血液内科へ相談する。血栓が確認された例では最低3か月のを続ける5。

💡 ヘパリンを避ける根拠は直接の比較試験ではなく、自己免疫性との類似である——2024年のAHA科学的声明自身が「エビデンスは乏しいものの(despite the lack of evidence)」と断ったうえでこの方針を紹介している2。⚠️ 「ヘパリンは危険」と一般化して、VITT以外のでヘパリンを控えてはならない。

血管内治療は救済的な位置づけである

⚠️ (機械的・洞内血栓溶解など)を「抗凝固の次の一手」として一般化しない。 TO-ACTでは重症のでは標準的なに対する臨床的な利益を示さず、より規模の大きな研究とではむしろ死亡率が高く利益の証拠がないと報告されている2。2024年の声明は、を血栓の進展がある、内科的治療にもかかわらずに増悪する、あるいはが禁忌である患者に限って用いる「」として位置づけている2。💡 3つ目の「抗凝固が禁忌」を落とすと、抗凝固を使えない患者の逃げ道が消える。

合併症

急性期は痙攣を高頻度に伴い、による皮質の傷害が残ると、慢性期にてんかんとしてを繰り返す例がある。急性期の痙攣管理と並行して、退院後も発作の再発がないかを継続的に評価する。

  • てんかん:の10%超に生じうる。危険因子は発症時の痙攣、の低下または、初回画像での出血性病変またはの関与、である2。⭐ この5つが、退院後にとくに注意して追う患者を選ぶ基準になる。
  • 再発:後のの再発は年1〜4%、そのものの再発は年1%未満〜2%と報告される2。⚠️ 再発リスクが高い集団はだけではない——重度の(悪性腫瘍を含む)、の既往、誘因が同定できなかった発症、そして(報告により一貫しないが)男性が挙げられている2。💡 抗凝固を「一過性の誘因なら3〜12か月、があれば無期限」と分ける根拠がこの数字である。
  • :1,218例のでは新規発生が中央値8か月(5〜23か月)の追跡で2.4%だった。⚠️ ただしこの研究には画像評価の時期・プロトコルの標準化が無く、発症6か月後に系統的に撮像した前向き研究ではは1例も見つかっていない2。頻度は確定していない。
  • ⚠️ 「機能的に自立=もとの生活に戻れた」ではない。 全体としては80〜90%が機能的自立(modified Rankin Scale 0〜2)に達するが、・気分・疲労・頭痛といった残存症状の頻度が高く、これが以前の活動水準への復帰を妨げると複数の研究が報告している2。中国からの(発症前に就労・就学していた303例)では、6か月時点で87%が機能的自立に達していたのに42%は復職・復学できていなかった2。⭐ 機能的自立の指標だけを見ていると取りこぼす転帰である。

まとめ

  • は静脈が閉塞する脳卒中で、梗塞がに一致せず出血性に転化しうる点がと最大に異なる。
  • 危険因子は妊娠・、経口避妊薬、に集約され、若年女性に偏って発症する。
  • 頭痛・頭蓋内圧亢進・痙攣・局在徴候を呈し、静脈系の画像で血流欠損を確認する。確定に推奨されるのは/MRVで、/CTVは資源の限られた施設またはが低い場合の代替である。皮質静脈血栓は・強調画像で見る。
  • 治療は出血の合併があってもを継続するのが標準治療であり、これが本症最大のである。急性期は非経口ヘパリン、その後はへ移行し、一過性の誘因なら3〜12か月、・再発例では無期限とする。
  • はの代替選択肢として2024年のAHA科学的声明に新たに載ったが、第一選択が入れ替わったわけではない。妊娠中は禁忌(のみ)、授乳中も禁忌、では再発が多い。
  • 頭蓋内圧亢進が高度・進行性で病変とヘルニア切迫がある例では救命的なを検討する。は救済的な位置づけで、血栓の進展・内科的治療下での増悪・抗凝固の禁忌のいずれかに限る。
  • ⚠️ 型ワクチン後のVITTでは「まずヘパリン」が反転する。 ヘパリン製剤を避け、 1 g/kgを2日間とステロイド、非ヘパリン抗凝固薬またはを用い、は行わない。それ以外のへ一般化しない。
  • 静脈洞の閉塞は髄液吸収も妨げるため、病変が無くても頭蓋内圧亢進だけで発症しうる。と診断する前に静脈洞を見る。
  • 慢性期には10%超にてんかんが生じ、の再発は年1〜4%。6か月時点で機能的に自立していても4割は復職・復学できていない。

出典

  1. 1.Cerebral Venous Sinus Thrombosis(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2025)脳静脈洞血栓症の年間発生率が100万人あたり3〜4例で妊娠関連脳卒中の約60%を占めること、女性が男性の3倍罹患し70〜80%が妊娠可能年齢の女性であること、エストロゲン関連因子(肥満・経口避妊薬使用・妊娠産褥・ホルモン補充療法で8倍のリスク上昇)や後天性・遺伝性血栓性素因が危険因子となること、脳出血を合併していても血栓進展の抑制・再開通・合併症軽減のために抗凝固療法が引き続き必須であること、静脈性梗塞は動脈のような単一の血管支配領域には一致しないこと、造影CTで血栓化した上矢状静脈洞を取り囲む側副静脈からの造影増強が三角形の低吸収域を作るempty delta signを確認した。2026-09-05にライブページ(Last Update 2025-05-04)を再取得し、さらに次を確認した——Epidemiology節が周産期・産褥期の頻度を分娩10万件あたり約12例とし同時期の動脈性脳卒中の頻度をわずかに下回るとすること、Etiology節が危険因子を85%超の患者で1つ以上、50%超で複数同定できるとし、ISCVTが遺伝性・後天性の血栓性素因を34%に報告したこと、ある研究がCOVID-19を全CVST入院の7.6%で同定したこと、後天性血栓性素因にJAK2変異・骨髄増殖性疾患・自己免疫疾患を、遺伝性にプロトロンビンG20210A多型を挙げること、腰椎穿刺後や静脈洞・頸静脈への直接損傷(カテーテル留置など)も危険因子であること、中耳炎・乳様突起炎などの局所感染が隣接するS状静脈洞・横静脈洞の血栓症を来しうること、Pathophysiology節が機序を2つに分け、第1に静脈・毛細血管圧の上昇による脳灌流低下から細胞性浮腫・血液脳関門の破綻・血管原性浮腫と間質液貯留に至る経路、第2に静脈洞閉塞によるくも膜顆粒での髄液吸収の障害から頭蓋内圧亢進に至りそれがさらに両浮腫と脳実質内出血を促す経路を述べること、最も侵されやすいのが上矢状静脈洞で次いで横静脈洞であり、上矢状静脈洞は長く径が細いこと・左横静脈洞は右に比べ低形成のことが多く血流速度が低いことがそれぞれ血栓形成の素因になるとすることを確認した。閲覧 2026-09-05
  2. 2.Diagnosis and Management of Cerebral Venous Thrombosis: A Scientific Statement From the American Heart Association(American Heart Association / Stroke・2024)脳静脈血栓症が全脳卒中の0.5〜3%を占め、最も脆弱な集団が若年者・妊娠可能年齢の女性・血栓性素因のある患者であること(この2点は誌上版の抄録で確認した)、集学的治療を行ってもなお10〜15%が死亡または要介護状態に至ることを確認した。⭐ 2026-09-07に誌上版(Stroke. 2024;55:e77–e90)の全文PDFを Internet Archive の2025-03-28スナップショット(web.archive.org 経由の ahajournals.org の doi/pdf)から取得できたため、以下は誌上版の記載に置き換えてある(ahajournals.org への直接アクセスは今回も403。それまでの版は UCL Discovery が公開する著者最終稿だった)。誌上版の Key Points for Clinical Practice は「MRI/MRV is the recommended noninvasive study of the cerebral venous system to confirm the diagnosis. CT/CTV is a reasonable alternative in centers with limited resources or if the pretest probability is low.」で、⚠️ 著者最終稿に無い「or if the pretest probability is low」が加わる。皮質静脈血栓の診断には造影法とGRE・SWIを推奨する(本文は「Contrast-enhanced techniques and gradient-recalled echo or susceptibility-weighted imaging are recommended for diagnosing cortical vein thrombosis」)こと、CTVについては「Compared with MRI, CTV has a lower sensitivity for cortical vein thrombosis」、造影MRVについては「Contrast-enhanced MRV has a sensitivity and specificity comparable to that of CTV but allows better characterization between the low-flow state and hypoplastic sinus (flow gaps)」であり、⚠️ 後半の but 以下も著者最終稿には無い。あわせて次を確認した——ガドリニウムを使えない妊娠中・授乳中・高度腎不全ではTOF法のMRVが有用とすること、標準治療が非経口ヘパリンからビタミンK拮抗薬への移行で、一過性の誘因では3〜12か月、血栓性素因や静脈血栓塞栓症の再発があれば無期限とすること、直接経口抗凝固薬について「DOACs appear to be a safe and effective alternative option to VKAs according to open-label retrospective and prospective randomized studies. (New)」を掲げること(⚠️ 著者最終稿の同項には randomized が無く、誌上版では前向き無作為化研究が根拠に含まれる)、その根拠がRE-SPECT CVT(120例、5〜15日の非経口抗凝固の後にダビガトラン150 mg 1日2回とワルファリンへ1:1割付し6か月、悪性腫瘍・中枢神経感染・外傷・妊娠を除外。再発静脈血栓塞栓症は両群0、大出血はダビガトラン群1例1.7%・ワルファリン群2例3.3%)、SECRET(第II相、53例をリバロキサバン20 mg 1日1回と標準治療へ1:1割付し6か月以上、導入の非経口抗凝固は必須でなく、妊娠・抗リン脂質抗体症候群を除外。早期開始による安全性の懸念なし。6か月時点でリバロキサバン群に再発CVT 1例3.8%・症候性脳内出血1例3.8%・臨床的に問題となる非大出血2例7.7%、対照群は0)、ACTION-CVT(845例の後ろ向き国際研究、悪性腫瘍・抗リン脂質抗体症候群・妊娠を除外。再発静脈血栓塞栓症は調整ハザード比0.94、95%信頼区間0.15〜1.73で有意差なし、大出血は調整ハザード比0.35、95%信頼区間0.15〜0.82でDOAC群が少ない)であること、RE-SPECT CVTとACTION-CVTのいずれも再開通率に群間差が無かったこと、無作為化試験3件と観察研究16件の系統的レビューで再発静脈血栓塞栓症・大出血・完全再開通(42.9%対42.3%、相対危険0.98、95%信頼区間0.87〜1.11)がいずれも同程度だったこと、現時点で妥当なのは導入の非経口抗凝固を一定期間行った後にDOACまたはVKAへ移行することで5〜15日がそれより短い期間より安全か有効かは不明であること、開始時期・導入ヘパリンの要否・急性期の静脈血栓塞栓症用量の要否・適した対象がなお議論中であること、妊娠中はDOACもワルファリンも禁忌で低分子量ヘパリンのみが推奨され授乳中はDOACが禁忌であること、抗リン脂質抗体症候群ではDOACがワルファリンより血栓塞栓症の再発が多いと報告されていること、血管内治療についてTO-ACT試験で重症例に臨床的な利益が無く、より大きな研究とメタ解析では死亡率が高く利益の証拠が無いこと、そのため血栓の進展・内科的治療にもかかわらずの神経学的増悪・抗凝固療法の禁忌のいずれかがある患者に限って用いられること、減圧開頭術は脳実質病変を伴う急性重症例でヘルニア切迫があるときに救命的治療として提示すべきもので無作為化比較試験は存在しないこと。次は2026-09-07に誌上版で逐語を再確認した(初出の確認は2026-09-05の著者最終稿)——Clinical Presentation節が頭痛を約90%、視覚症状(一過性の霧視・視力低下)を13〜27%、複視を6〜14%、その他の脳神経障害を6〜11%、発症時の痙攣を20〜40%、局在神経徴候を20〜50%、脳症・昏睡を最大20%とし、症状は他の脳卒中より緩徐で大半は発症48時間より後に受診する一方、少数は雷鳴頭痛・くも膜下出血(5%未満)や急性発症の局在神経徴候(5〜40%)を呈するとすること、低流速では3D TOFより2D TOFのほうが感度が高いとすること、てんかんがCVTの10%超に生じうること、その危険因子が発症時の痙攣・意識レベルの低下または局在神経徴候・初回画像での出血性病変または上矢状静脈洞の関与・開頭減圧術であること、CVT後の静脈血栓塞栓症の再発が年1〜4%、CVTそのものの再発が原文「rates of CVT recurrence generally reported as <1% to 2% per year」=年1%未満から2%であり(⚠️ 「年1〜2%未満」ではない)、再発リスクが高いのが重度の血栓性素因(悪性腫瘍を含む)・静脈血栓塞栓症の既往・誘因を同定できなかった発症・報告により一貫しないが男性であること、1,218例の後ろ向き研究で新規の硬膜動静脈瘻が中央値8か月(四分位範囲5〜23か月)の追跡で2.4%に生じたが、この研究には撮像時期・プロトコルの標準化が無く、発症6か月後に系統的に撮像した前向き研究では硬膜動静脈瘻が1例も見つかっていないこと、全体では80〜90%がmodified Rankin Scale 0〜2の機能的自立に達するが認知機能・気分・疲労・頭痛の残存症状が多く以前の活動水準への復帰を妨げると複数の研究が報告していること、中国からの後ろ向き研究(発症前に就労・就学していた303例)で6か月時点の87%が機能的自立に達していたのに42%が復職・復学できていなかったこと、VITTの節が2021年のChAdOx1 nCoV-19(AstraZeneca)とAd26.COV2.S(Janssen)というアデノウイルスベクターワクチン接種後の血小板減少を伴う脳静脈血栓症の報告を記述し、年齢18〜77歳・多くは女性・症状は接種5〜24日後に始まり・頭痛が最も多い初発症状で・全例が血小板減少を呈したとすること、アデノウイルス由来DNAが細胞のPF4と結合し自己抗体産生を誘発すると考えられていること、VITTによるCVTはまれだが初期コホートでの死亡率が39〜61%であったこと、170万件超の有害事象を扱った薬剤監視研究でmRNAワクチン後のCVT報告リスクが不均衡に低く(BNT162b2・mRNA-1273で1〜5/10,000、ChAdOx1で13/10,000)mRNAワクチン後のVITTの証拠は無いとすること、VITTを疑う場合にPF4抗体検査が推奨されるとしたうえで「Despite the lack of evidence, given the similarity to autoimmune heparin-induced thrombocytopenia, avoidance of heparin products, intravenous immunoglobulin 1 g/kg body weight daily for 2 days, and administration of steroids have been advised. Platelet transfusions are not recommended.」と述べること、非ヘパリン抗凝固薬(アルガトロバン、フォンダパリヌクスなど)またはDOACが用いられ血小板数が完全に回復した時点で経口抗凝固薬へ移行するとすること。閲覧 2026-09-07
  3. 3.Xarelto 10mg film-coated tablets — Summary of Product Characteristics (SmPC)(electronic medicines compendium(英MHRA登録のSmPC)・2024)emc掲載の最終更新は2024年11月27日。10 mg錠の4.1項の適応が、待機的な股関節または膝関節全置換術を受ける成人の静脈血栓塞栓症予防と、DVT/PEの治療および再発予防の2つであること、4.2項がこの術後予防を10 mg 1日1回・止血が得られていることを条件に術後6〜10時間で開始すると定めていることを確認した。⚠️ 対象は待機的な人工関節全置換術であって、大腿骨近位部骨折の手術ではない。EMAのEPAR製品情報でも10 mg錠の適応は同じ2つである。。あわせて4.3項(禁忌)の末尾に「妊娠および授乳(4.6項参照)」が挙がっていることを確認した閲覧 2026-09-08
  4. 4.Eliquis 2.5 mg film-coated tablets — Summary of Product Characteristics (SmPC)(electronic medicines compendium(英MHRA登録のSmPC)・2026)emc掲載の最終更新は2026年8月17日。2.5 mg錠の4.1項が、待機的な股関節または膝関節全置換術を受けた成人の静脈血栓塞栓症予防・非弁膜症性心房細動の脳卒中および全身性塞栓症の予防・深部静脈血栓症および肺塞栓症の治療と再発予防の3つを適応として挙げること、4.2項がこの術後予防を2.5 mg 1日2回で術後12〜24時間に開始し、股関節全置換術では32〜38日間継続すると定めていることを確認した。EMAのEPAR製品情報でも2.5 mg錠にこの術後予防の適応が置かれていることを併せて確認した。2.5 mg錠・5 mg錠のいずれのSmPCにも小児の適応は無い(EPARには小児用の別剤形が収載されている)。。あわせて4.3項(禁忌)が5項目で妊娠・授乳を含まず、4.6項が妊娠について「予防的な措置として使用を避けることが望ましい」、授乳については乳汁移行が否定できないため授乳の中止か投与の中止かを有益性を考慮して判断するとしていることを確認した閲覧 2026-09-08
  5. 5.Coronavirus (COVID-19) Vaccine-Induced Immune Thrombotic Thrombocytopenia (VITT)(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2022)Last Update 2022-10-03の版で、米国血液学会がVITTをAd26.COV2.SまたはChAdOx1 nCoV-19の接種4〜42日後に生じる臨床症候群と定義し、脳静脈洞血栓症・内臓静脈血栓症など非典型部位の血栓、軽度から重度の血小板減少(ただし早期には血小板数が正常でも除外できない)、ELISAで検出されるPF4に対する抗体の陽性、正常上限の4倍超のDダイマー高値をその要素として挙げていることを確認した。Treatment/Management節が、英国血液学会(BSH)・GTH・ASHの治療指針に基づき、免疫グロブリン大量静注(理想体重1 kgあたり1 g)を2日間緊急に投与すること、IVIGはELISAや血小板活性化試験に干渉して偽陰性を生じうるため投与前にHIT/VITTの検査を行うこと、ヘパリン起因性血小板減少症との類似からヘパリンの使用は有害でありうるため非ヘパリン抗凝固薬(アルガトロバンやビバリルジンなどの直接トロンビン阻害薬、ヘパリンでブリッジしない直接第Xa因子阻害薬、ダナパロイド、フォンダパリヌクス)を考慮すること、血液内科への早期コンサルトを行いVITTの疑いが強ければPF4-ELISAの結果を待たずにIVIGと非ヘパリン抗凝固を開始すること、血小板輸血は避け臨床的に適応がありかつ血液内科の助言がある場合にのみ考慮すること、フィブリノゲンを1.5 g/L超に維持すること、ヘパリンフラッシュを含むすべてのヘパリン製剤をVITTが否定されるまで避けること、BSHとASHがいずれも血栓が確認された患者に最低3か月の全身抗凝固の継続を推奨していることを確認した。閲覧 2026-09-05