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Disease Atlas · 神経 · 疾患

脳静脈洞血栓症

Cerebral venous sinus thrombosis

別名
CVSTCVTcerebral venous thrombosis脳静脈血栓症
臓器系
神経血液
科目
NeurologyObstetrics
トピック
神経内科 G1-18:脳静脈循環障害神経内科 G2-25:脳血管障害の分類神経内科 G2-27:若年成人の脳血管障害産科学 04:妊娠高血圧症候群・子癇・HELLP症候群
鑑別疾患
特発性頭蓋内圧亢進症妊娠高血圧腎症・子癇・HELLP症候群脳梗塞
合併症
てんかん
治療薬
エノキサパリンワルファリン
原因薬剤
ダナゾールフィツシラン
症状
頭痛頭蓋内圧亢進痙攣血栓塞栓症
検査値
Dダイマー
下位分類
S状静脈洞血栓症海綿静脈洞血栓症
原因となる疾患
抗リン脂質抗体症候群

🧠 全体像は、動脈ではなく静脈が詰まる脳卒中である——この一点が、画像所見もと正反対にする。梗塞が動脈支配領域に一致せず、しばしば出血性に転化するにもかかわらず、標準治療はというを理解することが診療の核心である。危険因子は妊娠・・経口避妊薬・という「血液が固まりやすくなる状態」に集約され、動脈硬化の危険因子(高血圧・・喫煙)とは重ならない、若年女性に偏った疾患である。

病態:なぜ出血性梗塞になるか

静脈洞が血栓で閉塞すると、その領域を還流する静脈血が排出できず、が上昇して脳浮腫と梗塞を来す。動脈が閉塞すると異なり、梗塞は特定の動脈支配領域に一致しない分布を取る1。うっ滞した毛細血管・が破綻するとに転化し、を合併した状態で発見されることも珍しくない。

flowchart TD
    A["危険因子<br>(妊娠<span class='jp-term jp-term-diagram' title='puerperium (postpartum period)'>産褥</span>・経口避妊薬・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thrombophilia'>血栓性素因</span>・悪性腫瘍・感染・脱水)"] --> B["静脈洞内の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thrombus formation'>血栓形成</span>"]
    B --> C["静脈還流の障害"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='capillary pressure'>毛細血管圧</span>の上昇"]
    D --> E["脳浮腫・頭蓋内圧亢進"]
    D --> F["動脈支配領域に一致しない<span class='jp-term jp-term-diagram' title='venous'>静脈性</span>梗塞"]
    F --> G["毛細血管・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='venule'>細静脈</span>の破綻"]
    G --> H["出血性転化"]
    E --> I["頭痛・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='papilledema'>乳頭浮腫</span>・痙攣・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='focal neurologic sign'>局在神経徴候</span>"]
    F --> I
    H --> I

💡 「動脈支配領域に一致しない」という一点が、画像を見る前からを疑う最大の手がかりになる。 皮質下出血や、複数の動脈支配領域をまたぐ梗塞、両側性の病変を見たら、通常ののパターンから外れていないかをまず確認する。

危険因子

年間は100万人あたり3〜4例とまれだが、妊娠関連脳卒中の約60%を占め、女性が男性の3倍罹患し、患者の70〜80%は妊娠可能年齢の女性である1は全脳卒中の0.5〜3%を占め、若年者・妊娠可能年齢の女性に不釣り合いに多く発症する一方、治療を行ってもなお10〜15%が死亡または要介護状態に至る2

分類 代表例
エストロゲン関連 妊娠・、経口避妊薬、(8倍のリスク上昇)、肥満
、悪性腫瘍、
変異
薬剤性 アンドロゲン作用を持つを低下させるなど化を促す薬剤
その他 感染(中耳炎・)、脱水、

臨床像

症候は多彩で非特異的なため、若年者・妊娠可能年齢の女性のな神経症候ではつねに鑑別に挙げる。

  • 頭痛:最も頻度が高い症候。進行性で、これまでと異なる性状のことが多い。
  • 頭蓋内圧亢進を伴う頭蓋内圧亢進として現れる。
  • 痙攣脳卒中より高頻度に痙攣を伴う。
  • など、動脈支配領域に一致しない分布で出現しうる。
  • 意識障害:広範な血栓症・出血性転化を伴う重症例でみられる。

鑑別

  • :動脈支配領域に一致する欠損症状であればが優位に疑われる。逆に、複数の動脈をまたぐ、あるいは両側性の病変、痙攣を伴う急性局在徴候はを積極的に疑う根拠になる。
  • ・子癇の頭痛・痙攣・視覚症状は子癇との両方で起こりうる。血圧・蛋白尿の有無だけで判断せず、な経過(、血圧が正常域)ではを並行して検索する。
  • の代表で、若年の・習慣流産を来す。な血栓症を若年で繰り返す患者ではを評価する。

診断

臨床像から疑ったら、造影CT(CTV)または(MRV)で静脈洞の血流欠損を確認する。妊娠中・ではを避けてMRVを優先する。造影CTでは、した静脈洞の中心が低吸収を示し、その周囲を側副静脈からの造影増強が取り囲む三角形の陰影としてempty delta signが描出されることがある1

flowchart TD
    A["若年者・妊娠可能年齢女性の進行性頭痛/痙攣/非典型局在徴候"] --> B{"動脈支配領域に一致しない病変か"}
    B -->|"はい"| C["CTVまたはMRVで静脈洞を評価"]
    B -->|"いいえ・典型的な動脈支配"| D["通常の脳卒中精査を優先"]
    C --> E{"静脈洞に血流欠損があるか"}
    E -->|"あり"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cerebral venous sinus thrombosis (CVT)'>脳静脈洞血栓症</span>と確定"]
    E -->|"なし"| G["他の原因を再検討"]
    F --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thrombophilia'>血栓性素因</span>・危険因子のスクリーニング"]

が正常でもは否定できない。 は陰性のことが多く、確定には造影を要する検査(CTVまたはMRV)が必要である。

治療:出血があっても抗凝固が標準治療

⚠️⚠️ を合併していても、は中止せず継続するのが標準治療である。これが本症の治療における最大のである。 は血栓の進展を防ぎ、閉塞した静脈洞のを促し、合併症を減らすために不可欠であり、この意義はの合併の有無にかかわらず変わらない1

  • 急性期は治療量のなど)またはで抗凝固を開始する。
  • 急性期を過ぎたら経口抗凝固薬(ワルファリンなど)へ移行し、危険因子が持続する例では延長投与を検討する。
  • 頭蓋内圧亢進が高度で薬物療法に反応しない例、進行する意識障害を伴う例では、術などの外科的介入を検討する。
  • に反応しない進行例では、血管内血栓除去術・血栓溶解術を選択的に検討する。

💡 「出血があるのに血液を固まりにくくする薬を使う」という直感への抵抗が、この疾患の治療で最も誤解されやすい点である。 出血の主因が静脈のうっ滞そのものであるため、血栓を溶かして静脈還流を再開させることがうっ滞・出血の悪循環を断つ最も合理的な対応になる——出血があるからこそ抗凝固を止める、という判断は誤りである。

合併症

急性期は痙攣を高頻度に伴い、梗塞による皮質の傷害が残ると、慢性期にてんかんとして痙攣発作を繰り返す例がある。急性期の痙攣管理と並行して、退院後も発作の再発がないかを継続的に評価する。

まとめ

  • は静脈が閉塞する脳卒中で、梗塞が動脈支配領域に一致せず出血性に転化しうる点がと最大に異なる。
  • 危険因子は妊娠・、経口避妊薬、に集約され、若年女性に偏って発症する。
  • 頭痛・頭蓋内圧亢進・痙攣・局在徴候を呈し、造影CT・で静脈洞の血流欠損を確認する。
  • 治療は出血の合併があってもを継続するのが標準治療であり、これが本症最大のである。
  • 頭蓋内圧亢進が高度・進行性の例ではを、抗凝固に反応しない例ではを検討する。

出典

  1. 1.Cerebral Venous Sinus Thrombosis(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2025)脳静脈洞血栓症の年間発生率が100万人あたり3〜4例で妊娠関連脳卒中の約60%を占めること、女性が男性の3倍罹患し70〜80%が妊娠可能年齢の女性であること、エストロゲン関連因子(肥満・経口避妊薬使用・妊娠産褥・ホルモン補充療法で8倍のリスク上昇)や後天性・遺伝性血栓性素因が危険因子となること、脳出血を合併していても血栓進展の抑制・再開通・合併症軽減のために抗凝固療法が引き続き必須であること、静脈性梗塞は動脈のような単一の血管支配領域には一致しないこと、造影CTで血栓化した上矢状静脈洞を取り囲む側副静脈からの造影増強が三角形の低吸収域を作るempty delta signを確認した。閲覧 2026-08-11
  2. 2.Diagnosis and Management of Cerebral Venous Thrombosis: A Scientific Statement From the American Heart Association(American Heart Association / Stroke・2024)脳静脈血栓症が全脳卒中の0.5〜3%を占め若年者・妊娠可能年齢の女性に不釣り合いに多く発症すること、集学的治療を行ってもなお10〜15%が死亡または要介護状態に至ることを確認した。閲覧 2026-08-11