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Disease Atlas · 耳鼻咽喉科 · 疾患

S状静脈洞血栓症

Sigmoid sinus thrombosis

別名
Lateral sinus thrombosis外側静脈洞血栓症
臓器系
耳鼻咽喉科神経
科目
ENTAnatomy
トピック
耳鼻咽喉科 13:急性・慢性化膿性中耳炎の合併症耳鼻咽喉科 15:乳突削開術と根治的乳突削開術解剖学 7.3:頭部:頭蓋腔と髄膜
上位概念
脳静脈洞血栓症
合併症
敗血症
治療薬
バンコマイシンセフトリアキソン
原因微生物
Streptococcus pneumoniaeStaphylococcus aureusStreptococcus pyogenes (GAS)
症状
発熱頭痛乳頭浮腫圧痛
検査値
血算
元疾患
ベゾルド膿瘍
原因となる疾患
急性乳様突起炎

🧠 全体像血栓症は、急性の炎症がを介しての壁へ及び、静脈洞内に血栓を形成する耳性の代表である。は薄い骨壁一枚で接しているという解剖が、この進展を裏づける幹になる。同じの一亜型でありながら、原因が妊娠・ではなく感染である点で臨床像・が大きく異なる。

病態

溝と隣接し、両者を隔てるのは薄い骨壁一枚である。急性によるがこの骨壁を侵食すると、感染が壁周囲の小静脈に及んでを起こし、静脈洞内へ血栓が進展する1

flowchart TD
    A["急性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mastoiditis'>乳様突起炎</span> / <span class='jp-term jp-term-diagram' title='cholesteatoma'>真珠腫</span>による<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bone erosion'>骨破壊</span>"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mastoid air cells'>乳突蜂巣</span>と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sigmoid sinus'>S状静脈洞</span>を隔てる薄い骨壁の侵食"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sigmoid sinus'>S状静脈洞</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='epidural'>硬膜外</span>壁周囲の小静脈に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thrombophlebitis'>血栓性静脈炎</span>"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sigmoid sinus'>S状静脈洞</span>内への血栓進展"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='impaired venous return'>静脈還流障害</span>・頭蓋内圧亢進"]
    D --> F["血栓の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='septic embolism'>感染性塞栓</span>化"]
    F --> G["敗血症・遠隔膿瘍"]

臨床像

  • 持続する発熱頭痛に加え、——抗菌薬普及以前の典型像とされる、日内で大きく変動し平熱に戻らない——が特異的な症候とされる1
  • Griesinger徴候(乳突部後方の圧痛・浮腫)は、乳突の血栓を反映する所見で、本症に特徴的とされる1
  • 頭蓋内圧亢進を反映してを伴うことがある。

⚠️ の経過中に、の腫脹だけでは説明できない持続する発熱・頭痛、あるいはパターンをみたら、への進展を疑う。

💡 抗菌薬普及後は「典型像」に頼りすぎない。 は抗菌薬が存在しなかった時代の記載が典型とされ、抗菌薬が広く使われる現代ではこのが明瞭に現れないことも多い1だけで本症を除外せず、の治療経過中に説明のつかない発熱・頭痛が続く場合は画像評価に進む。

鑑別

静脈洞の還流障害による頭蓋内圧亢進は、・頭痛という点で(いわゆる耳性水頭症)とも像が重なる。中耳炎・の既往がある患者で・頭痛をみたら、まず血栓症を積極的に除外したうえで、他の頭蓋内圧亢進の原因を検討する順序が安全である。

診断

造影CTで、したの周囲を硬膜の造影増強が取り囲むempty delta徴候が確認できる1。MR静脈撮影(MRV)は静脈洞内の信号消失・血流欠如をより高感度に描出でき、CTで疑わしい所見にとどまる場合や治療効果判定に有用である1。血液検査では血算で炎症所見()を確認する。

治療

抗菌薬との組み合わせが治療の基本である。原因菌は急性に準じ、Streptococcus pneumoniaeStaphylococcus aureusStreptococcus pyogenes (GAS)が代表的である。経験的抗菌薬はバンコマイシンセフトリアキソンなどこれらのをカバーする薬剤を軸とする。手術はに、必要に応じての切開・血栓除去・局所を組み合わせる1

⚠️ の適応は議論があり一律ではない。 血栓の進展抑制を期待してを推奨する意見がある一方、大多数の著者は術後に血栓がなお進展する場合を除いて抗凝固薬の役割を認めていないとする報告もあり、現時点でもなお議論の的である12ではが標準治療となるのに対し、感染由来である本症では一律に抗凝固を行うべきとはされていない点が対照的である。

合併症

血栓がとして遊離すると、敗血症や遠隔臓器へのを来しうる。頭蓋内圧亢進が高度な場合はが進行し、視機能へ影響しうる。

まとめ

  • 血栓症は、を隔てる薄い骨壁を介しての炎症が波及し、静脈洞内に血栓を形成する耳性である。
  • 持続する発熱・頭痛に加え、とGriesinger徴候(乳突部の圧痛・浮腫)が特徴的な臨床像である。
  • 診断は造影CTのempty delta sign、より高感度な評価にはMR静脈撮影を用いる。
  • 治療は抗菌薬と(±静脈洞切開・血栓除去)の組み合わせで、の適応は議論があり一律ではない。

出典

  1. 1.Lateral Sinus Thrombosis in Otology: A Review(Mediterranean Journal of Hematology and Infectious Diseases・2010)側静脈洞血栓症(S状静脈洞血栓症)は感染がS状静脈洞硬膜外壁周囲の小静脈に血栓性静脈炎を起こし、真珠腫などによる静脈洞上の骨破壊を経て進展すること(Pathophysiology節)、強い頭痛・耳痛・弛張熱(picket-fence fever)・乳頭浮腫が特異的な症候とされること(Clinical features節)、乳突部の腫脹・圧痛(Griesinger徴候)が本症に特徴的であること(Associated complications節)、造影CTで洞周囲硬膜増強を示す古典的な"delta徴候"が確認できること(Radiology節)、MR静脈撮影は静脈洞内の信号消失・血流欠如を示しより高感度な診断法とされること(Radiology節)、乳突削開術に側静脈洞切開・血栓除去・局所パッキングを組み合わせるのが標準治療とされること(Management節)、抗凝固薬について大多数の著者は本症の管理に抗凝固薬の役割を認めておらず術後に血栓が進展しない限り推奨しないという立場を確認した(Management節)。閲覧 2026-08-11
  2. 2.The Anticoagulant Therapy for Otogenic Sigmoid Sinus Thrombophlebitis: A Case Report and Literature Review(Ear, Nose & Throat Journal・2022)耳性S状静脈洞血栓性静脈炎における抗凝固療法の役割は現時点でなお議論があり(controversial)、その潜在的有益性を理由に抗凝固療法を推奨する著者がいる一方、推奨しない著者もいると両論を確認したこと(Discussion節)を確認した。閲覧 2026-08-11