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Disease Atlas · 耳鼻咽喉科 · 疾患

急性乳様突起炎

Acute mastoiditis

別名
Mastoiditis乳突炎急性乳突炎
臓器系
耳鼻咽喉科感染症
科目
ENT
トピック
耳鼻咽喉科 13:急性・慢性化膿性中耳炎の合併症耳鼻咽喉科 15:乳突削開術と根治的乳突削開術
鑑別疾患
外耳炎
合併症
ベゾルド膿瘍
続発疾患
細菌性髄膜炎脳膿瘍内耳炎S状静脈洞血栓症
治療薬
バンコマイシンセフトリアキソン
原因微生物
Streptococcus pneumoniaeStreptococcus pyogenes / GASStaphylococcus aureusHaemophilus influenzae
症状
発熱耳痛顔面神経麻痺頭痛
原因となる疾患
急性中耳炎・慢性中耳炎(滲出性中耳炎を含む)

🧠 全体像:急性は、の炎症が中耳の奥にあるへ波及し、骨中隔を溶かしながら膿が融合していく状態(急性)である。中耳炎そのものより一段深く骨を壊す病態であり、は内耳・・硬膜・と薄い骨壁一枚で隣り合っているため、放置すればへ連続的に進展しうる。診断の核心は「の発赤・腫脹+耳介の」という中耳炎だけでは説明できない所見を見抜くことで、治療はを軸に、48時間で反応しなければへ進むという時間の区切りを持つ。

病態

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute otitis media, AOM'>急性中耳炎</span>(中耳の急性感染)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Eustachian tube dysfunction'>耳管機能不全</span>により排膿が不十分"]
    B --> C["感染が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mastoid antrum / mastoid air cells'>乳突洞・乳突蜂巣</span>へ波及"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='air cells'>蜂巣</span>内の骨中隔(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='trabeculae'>骨梁</span>)の炎症性破壊"]
    D --> E["小<span class='jp-term jp-term-diagram' title='air cells'>蜂巣</span>が融合し膿を満たす<br>=急性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='coalescent mastoiditis'>融合性乳様突起炎</span>"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='periosteum'>骨膜</span>下へ<span class='jp-term jp-term-diagram' title='perforation (penetration)'>穿破</span>:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='postauricular'>耳後部</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='subperiosteal abscess'>骨膜下膿瘍</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='Bezold abscess'>ベゾルド膿瘍</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sternocleidomastoid / SCM'>胸鎖乳突筋</span>下)"]
    E --> G["内側:迷路骨包へ進展→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='labyrinthitis'>内耳炎</span>"]
    E --> H["前方:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='facial canal'>顔面神経管</span>へ進展→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='facial nerve palsy'>顔面神経麻痺</span>"]
    E --> I["上方:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tegmen tympani'>鼓室天蓋</span>を越えて硬膜へ→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='epidural'>硬膜外</span>/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Subdural empyema'>硬膜下膿瘍</span>・髄膜炎"]
    E --> J["後方:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sigmoid sinus'>S状静脈洞</span>壁へ→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='venous sinus thrombosis'>静脈洞血栓症</span>"]

で、中耳()・を介して連続している。ではの粘膜にも炎症が及ぶのが通常だが、などで排膿・換気が不十分なまま炎症が持続すると、を隔てる薄い骨中隔が炎症性に破壊され、複数の小が融合したとなる。これが急性であり、単なる「の炎症」から「を伴う骨髄炎」への質的な転換点である1。原因菌は肺炎球菌が最多で、黄色ブドウ球菌も原因となる。

⭐ 抗菌薬普及前はの約20%が急性へ進展していたが、と抗菌薬治療が普及した現代では、から急性への進展率は0.002%まで低下している1。頻度は激減したが、いったん発症すれば性の重篤な感染症であることに変わりはない。

臨床像

  • 小児(特に2歳未満に多い)では不機嫌、活気低下、発熱、耳を触る仕草が前景に立ち、成人では強い発熱頭痛が典型的である。
  • 診察の核心所見はの発赤・腫脹・圧痛・と、それに伴う耳介のである。単純なには見られない所見で、これがあればを積極的に疑う。
  • では鼓膜の膨隆・発赤や外耳道後の下垂・膨隆がみられることがある。

⚠️ の発赤・腫脹に加え、、回転性めまい、強い頭痛、意識変容のいずれかを伴えば、進展・を疑い緊急評価する。

診断

臨床診断が基本だが、合併症を疑う場合や外科的介入を計画する場合は造影CTで・膿瘍を評価する。CTでは内の軟部陰影・骨中隔の不明瞭化・乳突皮質の破壊・の有無を確認する。頭蓋内進展が疑われる場合は造影MRIおよびMR静脈撮影を追加し、髄膜炎・を検索する。

は耳介周囲の発赤・腫脹を来す点でと紛らわしいが、耳介のを伴わず、の圧痛・牽引痛が主体である点で鑑別できる。

治療

  1. の既往がない合併症のない例では、肺炎球菌を中心にカバーするバンコマイシン単剤が第一選択である。の既往があれば緑膿菌などのグラム陰性桿菌も想定し、を持つ薬剤を追加する。外来管理が可能な軽症例では1日1回のセフトリアキソン静注で治療された報告もある1
  2. 鼓膜切開・ 中耳の排膿・減圧と培養検体採取を兼ねる。を伴う小児例では、これに後耳介からの穿刺排膿を組み合わせた保存的治療が+抗菌薬と同等の転帰を得たとする報告がある2
  3. 抗菌薬・鼓膜切開に反応しない場合、性ののドレナージが必要な場合、を伴う場合の根治的処置である。⭐ 開始から48時間で臨床的改善がなければ、の適応と判断する1

⚠️ 抗菌薬単独治療は8.5%の症例で合併症を来すとされ、48時間という時間の区切りを設けずに漫然と抗菌薬のみで経過を見てはならない1

合併症

は隣接構造との位置関係で合併症が決まる。は症例の6〜23%に生じるとされ、内訳は/、髄膜炎()、)、血栓症などである1では、迷路骨包への進展による・眼窩後部痛・)を来しうる。へは(膿が下へし頸部腫脹を来す)として進展することがある。

⚠️ これらはいずれも独立した重篤な疾患であり、の診療では「治療しているのすぐ隣に、内耳・顔面神経・硬膜・静脈洞がある」という解剖学的近接を常に念頭に置く。

まとめ

  • 急性の炎症がへ波及し、骨中隔が破壊されて膿が融合した状態(急性)である。
  • 診断の鍵はの発赤・腫脹・圧痛と耳介ので、単純な中耳炎・とはこの所見で区別する。
  • 治療は(第一選択バンコマイシン)を軸に、48時間で反応しなければへ進む。
  • (髄膜炎・)が6〜23%に生じるほか、など外への進展を来しうる。

出典

  1. 1.Mastoiditis(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)抗菌薬未使用時代は急性中耳炎の約20%が急性乳様突起炎へ進展したが、ワクチン普及後・抗菌薬使用下の現代では小児急性中耳炎から急性融合性乳様突起炎への進展は0.002%にとどまること。慢性中耳炎の既往がない合併症のない例の第一選択静注抗菌薬はバンコマイシン単剤であり、48時間で改善しなければ乳突削開術の適応となること。抗菌薬単独治療の合併症発生率は8.5%、頭蓋内合併症は6〜23%の症例に生じること閲覧 2026-08-10
  2. 2.Acute Mastoiditis in Children(Acta Bio Medica: Atenei Parmensis・2020)骨膜下膿瘍を伴う小児例で、鼓膜切開・鼓膜換気チューブ留置に後耳介からの穿刺排膿と抗菌薬を組み合わせた保存的治療が、乳突削開術+抗菌薬と同等の転帰を得たとする報告があること閲覧 2026-08-10