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Symptoms · Published

眼瞼下垂

Ptosis

別名
眼瞼下垂症blepharoptosis
臓器系
眼科神経
科目
NeurologyMedical MicrobiologyPediatricsENT
トピック
神経内科 03:脳神経の診察(Cranial nerves I〜XII)神経内科 G1-01:瞳孔支配の障害神経内科 G1-11:頭蓋内圧亢進と脳ヘルニアの症候神経内科 G1-33:重症筋無力症微生物学 2/27:ボツリヌス菌とクロストリジオイデス・ディフィシル小児科 3-64:先天代謝異常症耳鼻咽喉科 34:副鼻腔炎の合併症
関連疾患
ボツリヌス症ミトコンドリア病海綿静脈洞血栓症弱視重症筋無力症片頭痛・一次性頭痛症候群

🧠 全体像の診療は3段階で枠組みを組む。まず本当に上眼瞼が下がっているのか(真の)、それとも別の理由で下がって見えるだけか(を見分ける。真のと確認できたら、挙筋系のどこが壊れたかで性・性・機械的の5群に振り分ける。そのうえで急性発症は緊急という原則を最後に重ねる——同じでも、数十年かけて進行した老人性のものと、数時間で出現したものとでは、疑うべき病態も対応の速さもまったく違う。このノートは「まぶたが下がっている」という一つの所見から麻痺へ振り分ける役割に徹し、各症候群の詳細はそれぞれのノートに譲る。

定義と用語の整理

は、上眼瞼縁が下がって角膜上方を覆う状態を指す。な指標はMRD-1(margin reflex distance 1:から上眼瞼縁までの距離)で、正常は4〜5mmである。との差が2mmで軽度、3mmで中等度、4mmで重度に分類される1

患者の訴える「まぶたが重い」「目が開かない」は、必ずしもMRD-1の低下と一致しない。による不快感や視野の上方欠損のを「下垂」と表現する患者もおり、診察でMRD-1を実測して裏付けることが出発点になる。

逆に、MRD-1が正常でも「下がって見える」がある。

病態 何が起きているか 見分け方
容が減り眼球が奥へ沈むことで、相対的に眼瞼縁が下がって見える の有無を確認する。MRD-1自体は正常なことが多い
加齢による上眼瞼皮膚の過剰・弛緩が瞼縁にかぶさる 皮膚を指で持ち上げるとMRD-1は正常に戻る
の不で開瞼できない が強く、方向への収縮を触知する
対側の が相対的に大きく開いて見えるため、患側が下がって見える のMRD-1が異常高値。などで生じる

💡 を除外する最短の方法は、MRD-1を実測して左右差の起点がどちらの眼にあるかを確認することである。 「下がっている眼」ではなく「開きすぎている眼」が原因のことがある。

病態生理

上眼瞼を挙上する系は二重になっている。(骨格筋、支配)がで、その奥にある(平滑筋、交感神経支配)が数mmのを担う。両者が十分に働かないとき、を収縮させを挙げることでに開瞼しようとするため、慢性のではが挙上し前額に皺が寄る、顎を挙げるをとるといった所見が伴う。

この解剖から、の原因は責任部位で5群に整理できる。

flowchart TD
    A["眼瞼が下がる機序"] --> B["①<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neurogenic'>神経原性</span>"]
    A --> C["②<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neuromuscular junction (NMJ)'>神経筋接合部</span>性"]
    A --> D["③<span class='jp-term jp-term-diagram' title='myogenic'>筋原性</span>"]
    A --> E["④<span class='jp-term jp-term-diagram' title='aponeurosis'>腱膜</span>性"]
    A --> F["⑤機械的"]
    B --> B1["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oculomotor nerve (CN III)'>動眼神経</span>麻痺・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Horner syndrome'>Horner症候群</span><br>中枢〜末梢の神経経路の障害"]
    C --> C1["重症筋無力症・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='botulism'>ボツリヌス症</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='fatigability'>易疲労性</span>か<span class='jp-term jp-term-diagram' title='rapidly progressive'>急速進行性</span>かで分かれる"]
    D --> D1["CPEO・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='myotonic dystrophy'>筋強直性ジストロフィー</span><br>挙筋自体の変性・機能不全"]
    E --> E1["加齢・コンタクトレンズ長期装用・術後<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='levator aponeurosis'>挙筋腱膜</span>の菲薄化・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='separation (dehiscence)'>離開</span>"]
    F --> F1["眼瞼腫瘤・浮腫・瘢痕・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='orbital apex syndrome'>眼窩尖端症候群</span><br>外からの物理的な開瞼障害"]
代表疾患 随伴する手がかり
麻痺 前者は高度な下垂++瞳孔異常、後者は軽度の下垂+
重症筋無力症 瞳孔は保たれる。か、下行性の急速進行かで分ける
(CPEO)、 両側性・麻痺を伴うことが多い。瞳孔は保たれる
加齢性、手術後 で最も頻度が高い。挙筋機能自体は保たれ、瞼を開けたときの皺線が高い位置にできる
⑤機械的 眼瞼腫瘤、限局性浮腫、 外傷歴・炎症の先行、腫瘤の触知、を伴えばを疑う

瞳孔が保たれるかどうかは、の中でも麻痺と、性・を分ける手がかりになる。 は骨格筋型のを介さないため、②③群では瞳孔は障害されない。

緊急・見逃してはいけない疾患

危険度が高い順に並べる。

  • ⚠️ を伴う麻痺。 の切迫破裂で唯一得られるのことがあり、に先行しうる。痛みを伴う急性発症であればなおさら、診察を終えたその場で血管画像(CTA・MRA)を手配する。判断の詳細は麻痺に譲る。
  • ⚠️ を伴う 重症筋無力症を疑う所見で、(構音・嚥下障害)や呼吸筋障害へ進行すればクリーゼとして気道管理を要する。瞳孔が保たれる点が麻痺との鑑別点になる。
  • ⚠️ 急性発症の を最優先で疑う。顔面のを伴わないパターンで、に先行しうる神経救急である。判断の詳細はに譲る。
  • ⚠️ の症状(肩〜上肢痛、の筋力低下)。 )による肺癌の浸潤を疑う。整形外科的な疾患として対応しない。
  • ⚠️ 乳児の片眼性 瞳孔が完全にされる高度な下垂は、視覚発達のにおけるを来しうる。生命に関わる緊急性はないが、とともに視機能の獲得機会が失われる点で見逃してはいけない。

鑑別の進め方

flowchart TD
    A["まぶたが下がっている"] --> B{"片側性か両側性か"}
    B -->|"片側性"| C{"瞳孔異常を伴うか"}
    C -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mydriasis'>散瞳</span>"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oculomotor nerve (CN III)'>動眼神経</span>麻痺を疑う<br>緊急血管画像を検討"]
    C -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='miosis'>縮瞳</span>"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Horner syndrome'>Horner症候群</span>を疑う<br>急性発症+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neck pain'>頸部痛</span>なら血管画像"]
    C -->|"瞳孔正常"| F{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='extraocular muscles'>外眼筋</span>運動制限を伴うか"}
    F -->|"あり"| G["眼窩・脳神経病変を検索<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='ophthalmoplegia'>眼筋麻痺</span>の局在評価へ"]
    F -->|"なし"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='aponeurosis'>腱膜</span>性・機械的・先天性を検討"]
    B -->|"両側性"| I{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='diurnal variation'>日内変動</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fatigability'>易疲労性</span>があるか"}
    I -->|"あり"| J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neuromuscular junction (NMJ)'>神経筋接合部</span>性を疑う<br>反復刺激・抗体検査を検討"]
    I -->|"なし"| K{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Onset'>発症様式</span>は急性か緩徐か"}
    K -->|"急性"| L["中毒・感染性の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='flaccid paralysis'>弛緩性麻痺</span>を検討<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='botulism'>ボツリヌス症</span>など"]
    K -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='slowly progressive'>緩徐進行性</span>"| M["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='myogenic'>筋原性</span>を疑う<br>CPEO・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='myotonic dystrophy'>筋強直性ジストロフィー</span>など"]

最初の分岐を片側性・両側性に置くのは、片側性ならまず瞳孔所見だけでがほぼ決まり、両側性ならの有無で性と性を大きく分けられるためである。片側性で瞳孔が正常な場合は、運動制限の有無で神経・眼窩病変と性・機械的・先天性を分ける。

対症療法の考え方

そのものへの介入と、原疾患の治療は区別して考える。可逆的な原因(重症筋無力症の免疫治療、腫瘍の摘出、動脈瘤の閉鎖)があるものは、まず原疾患の治療を優先し、その後も下垂が残存する場合に眼瞼への外科的介入を検討する。

眼瞼への介入自体は原因群で選択が変わる。挙筋機能が保たれる性には、挙筋機能が乏しい・先天性の重度例にはが用いられる。手術を望まない例や、が強く手術のタイミングが定まらない性の下垂には、に取り付けるクラッチで機械的に挙上する非外科的選択肢もある。

⚠️ 小児では、手術時期そのものが予防という独立した論点になる。 のリスクがなければ、挙筋機能を正確に評価できる3〜4歳まで手術を待つことが妥当だが、瞳孔を覆うほどの高度な下垂や両眼性で視覚発達を妨げる場合はが必要になる2。手術の有無にかかわらず、眼瞼高と視覚発達は6〜9か月ごとに再評価する2。成人の性下垂のように「様子を見てから決める」対応が許されない点が、小児のを特別扱いする理由である。

まとめ

  • の診療は「真の下垂か偽性か」→「性・性・機械的のどれか」→「急性発症は緊急か」の3段階で組み立てる。
  • MRD-1(正常4〜5mm)を実測し、との差で軽度・中等度・重度を分類する。・対側の/との比較で除外する。
  • 瞳孔が保たれるかどうかが、麻痺(障害されうる)と性・(保たれる)を分ける実用的な手がかりになる。
  • 最も見逃してはいけないのはを伴う麻痺(の切迫破裂)で、次いで、急性)、、乳児の片眼性下垂によるである。
  • 眼瞼への介入(吊り上げ・クラッチ)は原疾患の治療を終えたあとに検討するのが原則だが、小児では予防のための手術時期そのものが独立した論点になる。

出典

  1. 1.Blepharoptosis (Ptosis): Classification, Evaluation, and Surgical Management(StatPearls Publishing (NCBI Bookshelf)・2026)MRD-1(角膜光反射から上眼瞼縁までの距離)の正常値が4〜5mmであること、健側との差が2mmで軽度・3mmで中等度・4mmで重度に分類されること、病因を神経原性・神経筋接合部性・筋原性・腱膜性・機械的(外傷性を含む)に分類する枠組みを確認した。閲覧 2026-08-02
  2. 2.Congenital Ptosis(StatPearls Publishing (NCBI Bookshelf)・2023)弱視のリスクがなければ挙筋機能を正確に評価できる3〜4歳まで手術を待てること、瞳孔を覆うほどの高度な下垂や両眼性で視覚発達を妨げる場合は早期手術を要すること、術後は眼瞼高と視覚発達を6〜9か月ごとに再評価することを確認した。閲覧 2026-08-02