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Disease Atlas · 神経 · 先天性疾患

ドパミンβ水酸化酵素欠損症

Dopamine beta-hydroxylase deficiency

別名
DBH欠損症congenital dopamine beta-hydroxylase deficiencydopamine beta-hydroxylase deficiency
臓器系
神経循環器内分泌・代謝
科目
Medical Biochemistry
トピック
生化学 11/1:神経インパルス伝達の分子基盤;アセチルコリンの合成・受容体・アセチルコリンエステラーゼ;シナプス小胞エキソサイトーシスのタンパク質;アドレナリン・ノルアドレナリンの合成と代謝;神経細胞の輸送体
鑑別疾患
純粋自律神経不全症
治療薬
ドロキシドパフルドロコルチゾンミドドリン
症状
起立性低血圧眼瞼下垂
検査値
血漿ノルエピネフリンマグネシウム

🧠 全体像:(DBH)欠損症は、ドパミンからノルアドレナリン(さらにアドレナリン)への変換だけがピンポイントで欠落する、の先天性疾患である。上流のチロシン→ドパミンの合成は正常に進むため、⭐ 「がノルアドレナリンの代わりにドパミンを放出する」という、いわば“偽の神経伝達物質”状態になる。結果として起立時に交感神経性の血管収縮が働かず、80mmHg未満まで下がりうる重度のを来す。診断は測定一発でほぼ決まる——ノルアドレナリン・アドレナリンが未満、ドパミンが5〜10倍に上昇という組み合わせは他のの原因では説明できない。治療はが病態そのものを補正する数少ない例である。

病態生理

カテコールアミン合成経路はチロシン→L-DOPA→ドパミン→ノルアドレナリン→アドレナリンと段階的に進む。DBHはの内でドパミンをノルアドレナリンへ変換する酵素で、は9q34.2に位置するDBH、遺伝形式はである1。

flowchart TD
    A["チロシン"] --> B["L-DOPA(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tyrosine hydroxylase'>チロシン水酸化酵素</span>)"]
    B --> C["ドパミン(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='aromatic L-amino acid decarboxylase'>芳香族アミノ酸脱炭酸酵素</span>)"]
    C --> D{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dopamine beta-hydroxylase'>ドパミンβ水酸化酵素</span>(DBH)<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='synaptic vesicle'>シナプス小胞</span>内・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ascorbic acid (vitamin C)'>アスコルビン酸</span>補因子"}
    D -->|"正常"| E["ノルアドレナリン→アドレナリン"]
    D -->|"DBH欠損症では反応が起こらない"| F["ドパミンがそのまま放出される<br>(偽の神経伝達物質)"]
    F --> G["交感神経性の血管収縮が働かない"]
    G --> H["重度の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='orthostatic hypotension (postural hypotension)'>起立性低血圧</span><br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='reflex tachycardia'>反射性頻脈</span>は保たれる)"]
    C -.->|"⭐ <span class='jp-term jp-term-diagram' title='droxidopa'>ドロキシドパ</span>はAADCで<br>直接ノルアドレナリンに変換される"| E

⭐ 交感神経のそのものは保たれている。 障害されているのは伝達物質の中身(ノルアドレナリンの代わりにドパミンが放出される)であっての走行や副交感神経ではないため、起立時のは保たれる——これは自律神経の自体が広く障害されるなどとの鑑別点になる1。

💡 が唯一「病態を迂回する」薬である理由はここにある。 は(AADC、DBHより1段階手前の酵素)によって直接ノルアドレナリンへ変換されるため、欠損しているDBHの段階そのものを飛び越えてノルアドレナリンを供給できる1。

臨床像

⭐ 発症は出生時からと考えられるが、診断は小児期後期まで認識されないことが多い1。20家族25例の症例集積では、発症時期の情報がある24例のうち症状発現は大多数(18例)が幼児期(1〜4歳)、4例が就学期(4〜12歳)、残り2例が成人期早期であった2。

所見 頻度
全例(100%)。立位血圧は平均収縮期72mmHg(範囲44〜115)、臥位からの低下幅は平均収縮期58mmHg・拡張期38mmHg2
72%(18/25例)。幼少期から気づかれる12
鼻閉 高頻度(別コホートで10/10例)1
睡眠障害 報告例の過半数(5/7例)1
(逆行性・遷延性) 男性の高頻度(4/4例、別コホートでは3/5例に)12
小児期の低血糖 4/25例2
女性の 2例(別に妊孕性の問題を報告した患者が計3例)2

⚠️ は非特異的な症状で見過ごされやすい。 嘔吐・脱水・低血圧・低体温・低血糖という、敗血症や代謝疾患とも紛らわしい像を呈しうる1。

診断

⭐ 測定が診断の核心である。 次の組み合わせは他のの原因では説明できない1。

  • ノルアドレナリン・アドレナリン:未満またはそれに近い(ノルアドレナリンは25 pg/mL〈0.15 nmol/L〉未満が目安)
  • ドパミン:5〜10倍に上昇(しばしば100 pg/mL〈0.65 nmol/L〉超)

25例の集積でも、ノルアドレナリンは24/25例で「極度に低値」または「高度に低値」、エピネフリンは18/25例で「極度に低値」、ドパミンは12例で「極度に高値」・7例で「高度に高値」であった2。

確定診断はDBH遺伝子のの同定による。の検出率は100%とされる1。16家族19例でが報告された集積では10種類のが同定され、最も頻度が高いのはc.339+2T>C(IVS1+2T>C)で19例中7例がであった2。

治療

⭐ が第一選択で、他のより明確に有効性が高い。 経口100〜600mgを1日2〜3回(目安として総量最大1,200mg/日、報告では400〜1,800mg/日の幅)で投与し、を正常域まで回復させてを軽減する1。25例の長期でも全例で良好かつ持続的な治療反応が得られている2。米国添付文書も、DBH欠損症を原発性(パーキンソン病・・)・非と並ぶ独立した適応区分として掲げている3。

⚠️ (0.1〜0.3mg/日)や(2.5〜10mgを1日3回)も使われるが、ほどには反応しない1。⭐ が特別なのは対症療法ではなく病態そのもの(欠損酵素の迂回)に働きかけるためである。

💡 治療してもすべてが正常化するわけではない。 長期では、そのものは治療下でも残存し、軽度のも7例に残った。腎機能()は10例中3例のみ改善、貧血は10例中4例で改善したが全員に何らかの異常が残存し、低値も有意に改善(P=0.019、無治療時平均0.60mmol/L対正常0.86mmol/L)したが正常化しなかった2。⚠️ は「の症状」を改善する薬であって、DBH欠損に伴う全身の異常を根治する薬ではない。

鑑別

⚠️ など他のと症状(・失神傾向)が重なるが、成り立ちが違う。 は自律神経のそのものが広範に変性する後天性疾患でも障害されうるのに対し、DBH欠損症は単一酵素の欠損による生化学的な選択的障害で、出生時から存在しは保たれ、の特徴的なパターン(ノルアドレナリン欠如+ドパミン過剰)で一発で見分けがつく1。

まとめ

  • DBH欠損症はの先天性疾患で、はDBH(9q34.2)。ドパミン→ノルアドレナリン変換だけがピンポイントで欠落し、ドパミンが偽の神経伝達物質として放出される。
  • 臨床像は全例に重度の(は保たれる)、加えて(72%)・鼻閉・睡眠障害・。出生時から存在するが診断は小児期後期まで遅れやすく、は嘔吐・低血糖など非特異的症状で紛らわしい。
  • 診断は測定が核心——ノルアドレナリン・アドレナリンが未満、ドパミンが5〜10倍上昇。確定はDBH遺伝子の同定で、c.339+2T>Cが最多。
  • ⭐ 治療はが第一選択。 AADC経路でDBHの段階を迂回して直接ノルアドレナリンを補充し、・より明確に有効。ただし腎機能・貧血・は治療下でも部分的にしか改善しない。
  • 世界での報告例は数十例にとどまる稀少疾患である。

出典

  1. 1.Dopamine Beta-Hydroxylase Deficiency(GeneReviews (University of Washington, Seattle)・2024)原因遺伝子がDBH(9q34.2)で常染色体劣性遺伝であること、交感神経ノルアドレナリン作動性機能の欠如により起立時収縮期血圧80mmHg未満まで低下する重度の神経原性起立性低血圧を来す一方、起立時の反射性頻脈は保たれること、眼瞼下垂が12/14例、鼻閉が10/10例、睡眠障害が5/7例、逆行性または遷延性の射精障害が男性4/4例にみられること、DBH欠損症は出生時から存在すると考えられるが診断は通常小児期後期まで認識されないこと、新生児期には嘔吐・脱水・低血圧・低体温・低血糖を来しうること、診断的な生化学所見が血漿ノルエピネフリン・エピネフリンの著減または検出限界未満(ノルエピネフリンで25 pg/mL未満)と血漿ドパミンの5〜10倍上昇(しばしば100 pg/mL超)であること、確定診断はDBH遺伝子の両アレル性病的バリアント同定によりシークエンス解析の検出率が100%であること、治療はドロキシドパ経口100〜600mgを1日2〜3回(総量最大1,200mg/日相当)で血漿ノルエピネフリンを正常域まで回復させ起立性低血圧を軽減すること、フルドロコルチゾン0.1〜0.3mg/日やミドドリン2.5〜10mgを1日3回も使われるがドロキシドパほど反応しないこと、文献報告例は西欧系の25例にとどまる稀少疾患であることを確認した(2024年9月26日最終更新)。閲覧 2026-09-07
  2. 2.Clinical presentation and long-term follow-up of dopamine beta hydroxylase deficiency(Journal of Inherited Metabolic Disease・2021)PMC8246878の全文を取得して確認した。20家族25例(女性15例、オランダ10例+文献報告15例)の世界的な症例集積で、診断時年齢中央値が24歳(範囲13〜73歳)であり発症時期の情報がある24例のうち症状発現は大多数(18例)が幼児期(1〜4歳)・4例が就学期(4〜12歳)・2例が成人期早期であったこと、全例(100%)が重度の起立性低血圧を呈し立位血圧が平均収縮期72mmHg(範囲44〜115)・臥位からの平均低下幅が収縮期58mmHg・拡張期38mmHgであったこと、眼瞼下垂18/25例(72%)、小児期の低血糖4/25例、男性の勃起障害3/5例、女性の原発性不妊2例(妊孕性の問題を報告した患者は計3例、endometriosisの記載は原著に無い)がみられたこと、血漿ノルエピネフリンが24例中20例で極度に低値・4例で高度に低値、エピネフリンが18例で極度に低値・2例で高度に低値、ドパミンが12例で極度に高値・7例で高度に高値であったこと、遺伝子診断は16家族19例で報告され10種類の病的バリアントが同定され最も頻度が高いのがc.339+2T>C(IVS1+2T>C)で19例中7例がホモ接合体であったこと、L-DOPS(ドロキシドパ)400〜1,800mg/日を1日2〜3回に分けて投与し全例で良好かつ持続的な治療反応が得られた一方、起立性低血圧そのものは残存し軽度の眼瞼下垂も治療下で7例に残存したこと、腎機能(eGFR)は10例中3例のみ改善・貧血は10例中4例で改善したが全員に残存・低マグネシウム血症は有意に改善した(P=0.019、無治療時平均0.60mmol/L対正常0.86mmol/L)が正常化しなかったことを確認した。閲覧 2026-09-07
  3. 3.NORTHERA (droxidopa) capsules — Highlights of Prescribing Information(U.S. Food and Drug Administration(DailyMed、製造販売元 Lundbeck Pharmaceuticals LLC)・2019)添付文書(改訂2019年7月)の適応がドパミンβ水酸化酵素欠損症を、原発性自律神経不全(パーキンソン病・多系統萎縮症・純粋自律神経不全症)・非糖尿病性自律神経障害と並ぶ独立した原因区分として掲げていることを確認した(既存 id を再利用。droxidopa.mdの出典と同一文書)。閲覧 2026-09-07