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Disease Atlas · 神経 · 病態

てんかん性脳症

Epileptic encephalopathy

別名
発達性てんかん性脳症DEE
臓器系
神経小児
科目
Neurology
トピック
神経内科 G2-29:てんかん発作とてんかん(鑑別診断・分類・原因)
上位概念
てんかん
続発疾患
全般的発達遅滞
治療薬
ビタミンB6ビガバトリンルフィナミド大麻(カンナビジオール)
症状
発作痙攣ミオクローヌス
スコア
ILAE分類

🧠 全体像:てんかん性脳症は単一の疾患ではなく、「てんかん性の活動そのものが、基礎疾患から予想される以上の認知・行動の障害を引き起こしている」という状態を指す概念である。発作の頻度だけでなく、の頻回なそのものが発達を妨げるという発想が核心で、ILAEの現行用語ではてんかん性脳症(developmental and epileptic encephalopathy:DEE)」として、発達の遅れを①基礎疾患そのものに由来する部分(脳症)と②てんかん性活動に由来する部分(てんかん性脳症)とに分けて捉える1。この区別が実務上重要なのは、②の部分はてんかん活動を制御すれば改善しうるという治療可能性を含意するからであり、だからこそ年齢別の代表的症候群を覚えるだけでなく、治療可能な原因(ビタミンB6依存性てんかん、GLUT1欠損症など)を見逃さないことが診療の核心になる。

概念の整理:発達性脳症と、てんかん性脳症

flowchart TD
    A["乳児・小児期発症の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='refractory epilepsy'>難治性てんかん</span>+発達の遅れ"] --> B["発達の遅れの内訳を分解する"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='developmental'>発達性</span>脳症の部分<br>基礎疾患(遺伝子変異・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='structural aberration'>構造異常</span>・代謝異常)に直接由来"]
    B --> D["てんかん性脳症の部分<br>頻回の発作・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='interictal'>発作間欠期</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='epileptic discharge'>てんかん性放電</span>そのものに由来"]
    D --> E["てんかん活動を制御できれば<br>この部分は改善しうる"]
    C --> F["基礎疾患自体は<br>発作を止めても改善しない"]

「てんかん性脳症」という語の要点は、発作の重症度だけを見ないことにある。 臨床的に明らかな発作が少なくても、上の頻回なが持続していれば、それ自体が発達を妨げうる。逆に言えば、発作型・発作頻度だけを指標に治療の成否を判断すると、発達への効果を見落とす。

💡 なぜ用語が「てんかん性脳症」から「てんかん性脳症」へ拡張されたか。 多くの重症(例:SCN1A変異)は、遺伝子変異そのものが神経発達に直接影響するため、てんかん活動を完全に抑制しても発達の遅れがすべて解消するわけではない。発達の遅れをすべて「発作のせい」に帰属させないために、基礎疾患由来の部分とてんかん活動由来の部分を分けて考える現行の枠組みが導入された1。用語・分類は改訂が続く領域であり、記述の際は版を一次資料で確認する。

代表的な症候群(発症年齢順)

てんかん性脳症は単一の症候群ではなく、発症年齢とパターンで特徴づけられる複数の症候群の総称として使われることが多い。

症候群 典型的な発症年齢 発作型・の特徴 備考
早期乳児てんかん性脳症(EIDEE) 生後3か月未満 けいれん、爆発抑制パターン ⭐ 現行のILAE用語では、従来別個に扱われていた大田原症候群(早期乳児てんかん性脳症)とは、両者の重なりが大きいためEIDEEという一つの症候群にまとめられている2
(IESS) 生後1〜24か月(ピーク4〜7か月) 痙攣性スパズム(点頭発作)、ヒプスアリスミア(無秩序な高振幅・棘波) ⭐ 現行のILAE用語ではIESSがより広い概念で、点頭発作・ヒプスアリスミア・発達停滞/退行の3徴を満たす古典像()はその中に含まれる、という関係にある3。病因は構造的・遺伝的・代謝的・不明と多様で、早期治療が発達予後に直結する
生後1年以内 発熱・入浴で誘発される遷延性けいれんで発症し、後に・非定型など多彩な発作型 SCN1A変異が大半。遮断薬は禁忌
Lennox-Gastaut症候群 幼児期(1〜8歳、ピーク3〜5歳) ・非定型の混在、(1.5〜2.5 Hz) IESSからの移行例が多い。難治性で複数の発作型が持続する
睡眠時spike-wave活性化を伴う/てんかん性脳症(DEE-SWAS/EE-SWAS) 学童期前後 中にspike-wave活動が著明に増加 ⭐ 現行のILAE用語では、従来の「睡眠時持続性を示すてんかん性脳症」を含む概念としてDEE-SWAS/EE-SWASが用いられる4。認知・言語・行動・運動の退行が前景に立ち、発作自体は目立たないこともある
Landau-Kleffner症候群 3〜7歳 後側頭部優位の、後天性の言語理解障害(聴覚性が主徴 言語の退行と聴覚性を主徴とするEE-SWASの特定の亜型と位置づけられる4

⚠️ 点頭発作・ヒプスアリスミア・発達停滞/退行の3徴(の古典像)を見たら治療を急ぐ。 発作型・パターンの認識そのものが治療開始のトリガーになる点で、他の多くのと異なる。

⚠️ 治療可能な原因を見逃さない

てんかん性脳症・てんかん性脳症の原因検索では、症候群診断を急ぐ前に治療可能な代謝性・ビタミン反応性の原因を除外する。これを見逃すと、本来防げたはずの発達障害を蓄積させてしまう5

  • ビタミンB6依存性てんかん: ALDH7A1欠損症(依存性てんかんの大半を占める)、P欠損症、PLPBP欠損症などが原因で、の焦点性/として発症することが多い6。⭐ 通常のに抵抗するでは、原因不明例を含めビタミンB6またはピリドキサール5′-リン酸)の投与を試みることがにより推奨されている6
  • GLUT1欠損症候群: グルコースの血液脳関門通過を担うGLUT1(SLC2A1)の機能異常によるで、けいれんに加え発達遅滞・後天性・複雑運動異常を来す。(グルコースの代わりにケトン体をエネルギー源とする)が確立した治療で、難治例でも反応が速いことが多い5
  • その他の代謝性疾患: のスクリーニングで捉えられるも、早期の・補充療法で発達への影響を最小化できることがある。

原因不明のDEEを遺伝学的に再評価すると、できない割合で治療可能な原因が見つかる。 ノルウェーの集団コホートでは、原因不明のDEE患者をで再評価した結果45%でが同定され、その約1割(SLC2A1COQ4SLC6A8変異)は治療可能な代謝性疾患であった1

診断・評価の考え方

flowchart TD
    A["乳児・小児期発症の難治性発作+発達停滞/退行"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='electroencephalography, EEG'>脳波</span>(睡眠時<span class='jp-term jp-term-diagram' title='electroencephalography, EEG'>脳波</span>を含む)で症候群パターンを確認"]
    B --> C["爆発抑制・ヒプスアリスミア・遅<span class='jp-term jp-term-diagram' title='spike-and-wave complex'>棘徐波複合</span>・睡眠時spike-wave活性化など"]
    A --> D["治療可能な原因を並行して検索"]
    D --> E["ビタミンB6/PLP<span class='jp-term jp-term-diagram' title='therapeutic'>治療的</span>投与を試みる(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neonatal period'>新生児期</span>・原因不明例)"]
    D --> F["血糖・髄液糖(GLUT1欠損症のスクリーニング)"]
    D --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inborn error of metabolism'>先天代謝異常</span>スクリーニング"]
    C --> H["遺伝学的検査(パネル/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='exome'>エクソーム</span>)で症候群を確定"]
    E --> I["治療可能な原因が見つかれば<br>症候群精査と並行して是正"]

臨床像(発症年齢、発作型、発達の停滞または退行)と所見(爆発抑制、ヒプスアリスミア、遅、睡眠時spike-wave活性化など)を組み合わせて症候群を絞り込みつつ、治療可能な原因の除外を並行させる。の枠組みでは、発作型・てんかん型・という段階を経て、DEEという特別なカテゴリーに達する。

治療の考え方

治療は症候群に応じて個別化されるが、共通する原則は治療可能な原因への介入を最優先し、次に症候群特異的な治療を行うことである。

⚠️ 症候群診断を急ぐあまり、治療可能な原因の検索を後回しにしない。 ビタミンB6依存性てんかんやGLUT1欠損症候群は、通常のだけでは効果が乏しく、特異的な治療(ビタミン投与・)に置き換えて初めて発作と発達の両方に有効な介入になる。

まとめ

  • てんかん性脳症は、てんかん性の活動そのものが基礎疾患から予想される以上の認知・行動障害を引き起こしているという概念で、ILAE用語では「てんかん性脳症(DEE)」として脳症の部分とてんかん性脳症の部分を区別する。
  • 代表的な症候群は発症年齢順に、EIDEE(大田原症候群と早期脳症を統合した現行用語)、IESS(を含む)、、Lennox-Gastaut症候群、DEE-SWAS/EE-SWAS(睡眠時持続性を示すてんかん性脳症の現行用語)、その特定の亜型であるLandau-Kleffner症候群がある。用語は2022年のILAE改訂に沿ったものだが、一次資料(Specchio 2022・Zuberi 2022)は非オープンアクセスで直接確認できなかったため、ILAE教育サイトepilepsydiagnosis.orgおよびEpilepsy Actionで代替確認した。
  • ビタミンB6依存性てんかん、GLUT1欠損症候群など治療可能な原因を見逃さないことが最重要で、原因不明のDEEを遺伝学的に再評価すると相当数で治療可能な原因が見つかる。
  • 診断はの症候群パターンの同定と、治療可能な原因の並行検索で進め、治療は原因への介入を優先しつつ症候群特異的な薬剤を選択する。

出典

  1. 1.Monogenic developmental and epileptic encephalopathies of infancy and childhood, a population cohort from Norway(Frontiers in Pediatrics・2022)DEEでは「てんかん性活動が、基礎病理だけで生じるはずの水準を超えて認知・行動障害に寄与する」という定義を確認したこと、原因不明のDEE患者33名(55例の疑い例のうち)を遺伝学的に再評価した結果45%(15/33)で原因となる遺伝子変異が同定されたこと、そのうち3例(9%)はSLC2A1・COQ4・SLC6A8という治療可能な代謝性疾患であったことを確認した(Introduction/Resultsの節)閲覧 2026-08-11
  2. 2.Metabolic Causes of Epileptic Encephalopathy(Epilepsy Research and Treatment・2013)ピリドキシン依存性てんかんが出生後早期から抗てんかん薬に抵抗する反復発作で発症しピリドキシン投与に反応して脳波・臨床像とも速やかに改善すること、GLUT1欠損症候群がグルコースの血液脳関門通過障害による代謝性脳症でありケトン食療法がGLUT1欠損症に対する主要な代謝適応として確立していて難治例でも反応が速いこと、これらの代謝性の原因は治療可能性の程度が様々でものによっては見逃せば回避可能な重篤な転帰につながることを確認した閲覧 2026-08-11
  3. 3.Epilepsy Phenotypes of Vitamin B6-Dependent Diseases: An Updated Systematic Review(Children (Basel)・2023)ビタミンB6依存性てんかんの主因がALDH7A1欠損症(69.4%)・PNPO欠損症(13.2%)・PLPBP欠損症(9.2%)であり典型的には新生児期の焦点性/全般性発作またはてんかん重積として発症すること、ピリドキシン静注100mgまたは経口30mg/kg/日、あるいはピリドキサール5'-リン酸(PLP)経口50〜85mg/kg/日への反応で診断的に確認されること、専門家は病因不明を含むすべての新生児発作で抗てんかん薬への反応が部分的・一過性・乏しい場合にピリドキシンまたはPLPの治療的投与を試みることを推奨していることを確認した閲覧 2026-08-11
  4. 4.Infantile Epileptic Spasms Syndrome (IESS)(epilepsydiagnosis.org(International League Against Epilepsy)・2024)現行のILAE用語では乳児てんかん性スパズム症候群(IESS、生後1〜24か月に発症するスパズムで特徴づけられる)がより広い上位概念であり、点頭発作・ヒプスアリスミア・発達の停滞/退行という3徴を満たす例(West症候群)をその中に含む、という関係にあることを確認した(Lancet Neurology等の一次資料であるSpecchio 2022はEurope PMCでオープンアクセス指定がなくWebFetchで取得できなかったため、ILAE公式の教育サイトepilepsydiagnosis.orgで代替確認した)閲覧 2026-08-11
  5. 5.Developmental and/or Epileptic Encephalopathy With Spike-Wave Activation in Sleep (DEE-SWAS, EE-SWAS)(epilepsydiagnosis.org(International League Against Epilepsy)・2024)現行のILAE用語では「睡眠時spike-wave活性化を伴う発達性/てんかん性脳症(DEE-SWAS、EE-SWAS)」が、従来の「睡眠時持続性棘徐波を示すてんかん性脳症」「異型良性部分てんかん(pseudo-Lennox症候群)」を包含する上位概念であること、Landau-Kleffner症候群は「言語の退行と後天性聴覚性失認を主徴とするEE-SWASの特定の亜型」と明記されていること(このページ自体はESESという語を明示的に廃止語とは述べていない)を確認した閲覧 2026-08-11
  6. 6.Early infantile developmental and epileptic encephalopathy (EIDEE)(Epilepsy Action(英国のてんかん患者支援団体)・2023)早期乳児発達性てんかん性脳症(EIDEE、生後3か月未満で発症)が、従来は大田原症候群(早期乳児てんかん性脳症)と早期ミオクロニー脳症という2つの症候群に分けられていたが、両者の重なりが大きいため現在はEIDEEとして一つにまとめられていることを確認した(2023年7月公開、2025年11月改訂)閲覧 2026-08-11