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Disease Atlas · 神経 · 先天性疾患

GLUT1欠損症候群

Glucose transporter type 1 deficiency syndrome

別名
GLUT1DSDe Vivo病
臓器系
神経内分泌・代謝小児
科目
Medical Biochemistry
トピック
生化学 4/2:糖質の消化と吸収;細胞へのグルコース取り込み;グルコース輸送体生化学 11/3:代謝と神経系の機能との関係
上位概念
先天代謝異常症
鑑別疾患
ビタミンB6依存性てんかん
続発疾患
てんかん小頭症ジストニア
症状
発作小脳性運動失調ジスキネジア
検査値
髄液検査血糖乳酸

🧠 全体像:欠損症候群は、血液脳関門でグルコースを脳へ運ぶ輸送体(SLC2A1)の機能低下によって、脳だけがなエネルギー不足に陥る病態である。血糖は正常なのに脳内はという食い違いが本質で、だからこそ血液検査をいくら並べても診断に届かず、髄液の糖を測って初めて姿を現す。⭐ そしてという代替燃料を与える治療が確立している——を重ねても届かない一方で、燃料を替えれば発作が止まる。⚠️ 治療開始が早いほど知的・社会適応の転帰が良いため1、の発作に・の・発作性の運動異常が重なったら、を先延ばしにしない。

病態

flowchart TD
    A["SLC2A1のバリアントで<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glucose transporter 1'>GLUT1</span>が機能低下"] --> B["血液脳関門を越えるグルコース輸送が不足"]
    B --> C["血糖は正常なのに<br>脳内のグルコースだけが<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chronic'>慢性的</span>に不足"]
    C --> D["脳のエネルギー需要が高まる場面で症状が出る<br>絶食・運動・発熱・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='emotional stress'>情動ストレス</span>・疲労"]
    C --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='drug-resistant'>薬剤抵抗性</span>の発作"]
    C --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='developmental delay'>発達の遅れ</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='head circumference growth'>頭囲発育</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='deceleration'>減速</span>"]
    C --> G["発作性の運動異常<br>失調・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dystonia'>ジストニア</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chorea'>舞踏運動</span>"]
    D --> H["ケトン体を代替燃料として供給すれば<br>不足を迂回できる"]

💡 は血液脳関門の内皮細胞でグルコース取り込みを担い、ニューロンはこれと別のGLUT3でに受け取る。 上流の関所が細るとニューロン側の工夫では補いきれない、という位置関係がこの疾患の本体である。一方で脳は長期絶食やでケトン体をエネルギー源にできるため、輸送体を直せなくても燃料を替えれば迂回できる——これがの理屈になる。

臨床像

本症候群はの一つで、SLC2A1は、90%がである1。表現型は大きく2つに分かれる。

型 主な像
(乳児期発症) 乳児期の発作性の眼球・、の多彩な発作、の(後天性の)、発達遅滞1
(運動異常が前景) 年長児期から成人期の複雑な、、失調、。のは正常なこともある1

⭐ 発作性の症状は約75%にみられ、絶食・運動・・発熱・疲労が誘因になる2。空腹や運動で悪化し、食後に軽快するという日内の波は、他のには無い強い手がかりである。

診断

⭐ 髄液の糖が診断の鍵である。

指標 値
(重症型) 40 mg/dL(2.2 mmol/L)未満(報告範囲19〜59 mg/dL)12
() 41〜52 mg/dL。決して正常にはならない2
(重症型) 0.4未満1(報告範囲0.19〜0.59)2
低め正常または低値(1.3 mmol/L未満)1
血糖 正常1

⚠️ 採取の手順を守らないと比が歪む。 は4〜6時間絶食した吸収後の状態で行い、血糖は穿刺の直前に採血する——穿刺そのもののストレスによる高血糖が比を見かけ上正常に近づけてしまうからである2。

💡 が低いことが、との切り分けに効く。 一般にの低下は細菌性・結核性・で問題になるが、そこでは細胞数と蛋白が動く。細胞数も蛋白も正常のまま糖だけが低く、乳酸まで低いという組合せは、消費でも産生障害でもなく「輸送が細い」ことを示している。

遺伝学的にはSLC2A1ので81〜89%が、欠失・重複解析でさらに11〜14%が確定する2。

治療

ケトン食療法

治療の中心はであり、ケトン体という代替燃料を脳へ供給するというである1。

  • 2歳未満では古典的な3:1のが第一選択。青年期・成人期ではが現実的なことが多い2。
  • ⚠️ には有益性の根拠が無く、推奨されない2。
  • 目標は血中2〜5 mmol/L(3〜5 mmol/Lとする資料もある)で、⚠️ での管理は不十分、または静脈血で測る21。
  • ⚠️ に対する2年程度の期間限定の治療とは位置づけが違い、青年期・成人期まで継続する2。
  • 50 mg/kg/日の補充が推奨される1。

⚠️ 避けるべき薬剤

現時点で欠損症候群の管理に推奨できるは無く、むしろとの有害な相互作用が懸念されている2。

薬剤 避ける理由
・ がアシドーシスを悪化させうる2
・・ 併用時にの危険を高める2
・・バルプロ酸 機能の非特異的阻害薬として働く2
などの 避けるべき物質として挙げられている1

💡 バルプロ酸には、との併用でに似た病態を来す危険が高まるという別の懸念も重なる1。

代替燃料を狙ったは第3相試験で主要・とも達成できなかった2。に代わる選択肢としては期待できない。

鑑別:治療可能な原因を並べて考える

のてんかんにが重なったとき、本症候群とは「では届かないが、特異的な介入で発作も発達も変わりうる」という同じ位置に立つ。切り分けの軸は次の3つで足りる。

軸 欠損症候群
発症 乳児期以降。では年長児期〜成人期 大半が
決め手 ・の低下(が要る) またはの投与への反応
治療 (食事の切り替え) ビタミンB6の継続投与(±)

⚠️ 順番を間違えない。 は診断が付く前に投与を試みられるので先に走らせ、で髄液の糖・乳酸を採る機会があれば同じ検体で欠損症候群のスクリーニングも済ませる。どちらも「疑ったときに検査が1つ増えるだけ」で、外したときの損失だけが大きい。

予後

⭐ 治療が早いほど長期の臨床転帰が良く、乳児期早期の開始が最良である1。早期にを始めた例ほど知的能力と社会適応能力が良好であり、発作は年長児期・青年期・成人期にかけて減少・消失する傾向がある2。長期のでは・腎結石・心血管リスクの監視を要する2。

まとめ

  • 欠損症候群はSLC2A1のバリアントによるの機能低下で、血液脳関門を越えるグルコース輸送が不足し脳だけがエネルギー不足になる病態。で90%がde novo。
  • は乳児期の発作性の眼球・、発作、の、発達遅滞。は・失調・が前景に立つ。約75%が発作性の症状を示し、絶食・運動・発熱で誘発される。
  • ⭐ 診断は。重症型で40 mg/dL未満、0.4未満、も低値、血糖は正常。は4〜6時間絶食後に行い、血糖は穿刺直前に採る。
  • 治療は。2歳未満は古典的3:1、青年期以降は。は推奨されない。血中で管理し、青年期・成人期まで継続する。
  • 推奨できるは無い。・・・・・バルプロ酸は避ける。は第3相で失敗した。
  • 早期治療ほど知的・社会適応の転帰が良い。見逃せば取り戻せない発達を失う。

出典

  1. 1.Glucose Transporter Type 1 Deficiency Syndrome(GeneReviews(University of Washington, Seattle)・2025)臨床像の節で古典型(乳児期発症)が発作性の眼球・頭部運動、多剤抵抗性の多彩な発作、頭囲発育の減速、発達遅滞を呈すること・遅発型が年長児期から成人期にかけて複雑な発作性運動異常・痙縮・失調・ジストニアを示し発作間欠期の神経学的診察が正常なこともあること、診断の節で重症型の髄液糖が40 mg/dL未満(範囲19〜59 mg/dL)・軽症型が41〜52 mg/dLで血糖は正常であること・重症型の髄液/血糖比が0.4未満であること・髄液乳酸が1.3 mmol/L(11.7 mg/dL)未満と低め正常または低値であること、遺伝の節で原因遺伝子がSLC2A1(1p34.2)で常染色体顕性遺伝・90%がde novoバリアントであること、治療の節でケトン食療法が標的治療であり血中β-ヒドロキシ酪酸3〜5 mmol/Lを目標とすること・L-カルニチン50 mg/kg/日の補充が推奨されること・避けるべき薬剤(バルプロ酸、フェノバルビタール、アセタゾラミド、トピラマート、ゾニサミド、カフェインなどのメチルキサンチン)、予後の節で治療が早いほど長期の臨床転帰が良く乳児期早期の開始が最良であることを確認した閲覧 2026-08-20
  2. 2.Glut1 Deficiency Syndrome (Glut1DS): State of the art in 2020 and recommendations of the international Glut1DS study group(Epilepsia Open(国際Glut1DS研究グループ23名の合意文書。Klepper J, ほか)・2020)診断の節で髄液糖の古典的閾値が2.2 mmol/L(40 mg/dL)未満・軽症型では2.2〜2.9 mmol/L(41〜52 mg/dL)で決して正常にはならないこと、髄液/血糖比が0.19〜0.59の範囲であったこと、腰椎穿刺は4〜6時間絶食後の吸収後状態で行い血糖は穿刺直前に採血して穿刺のストレスによる高血糖を避けること、髄液乳酸が常に低め正常または低値であること、SLC2A1の塩基配列解析で81〜89%・欠失重複解析でさらに11〜14%が確定すること、発作性の症状が約75%にみられ絶食・運動・情動ストレス・発熱・疲労が誘因になること、治療の節で2歳未満は古典的3:1ケトン食が第一選択・青年期以降は修正Atkins食が現実的で低グリセミック指数食には有益性の根拠が無いこと、血中β-ヒドロキシ酪酸2〜5 mmol/Lを目標とし尿中ケトンでは不十分であること、薬剤抵抗性てんかんに対する2年間の治療とは異なり青年期・成人期まで継続すること、炭酸脱水酵素阻害作用をもつ薬がアシドーシスを悪化させうること・トピラマート/アセタゾラミド/ゾニサミドがケトン食併用時に尿路結石の危険を高めること・バルビツール酸/ジアゼパム/バルプロ酸がGLUT1機能の非特異的阻害薬であること・現時点でGLUT1DSの管理に推奨できる抗てんかん薬は無いこと、トリヘプタノインの第3相試験が主要・副次評価項目を達成できなかったこと、予後の節で早期の食事療法開始が知的・社会適応能力の良好さと相関し発作は年長児期以降に減少・消失する傾向があることを確認した閲覧 2026-08-20