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Disease Atlas · 内分泌・代謝 · 先天性疾患

先天代謝異常症

Inborn errors of metabolism

別名
IEMIMD先天代謝異常
臓器系
内分泌・代謝
科目
Pediatrics
トピック
小児科 3-64:先天代謝異常症小児科 2-10:先天代謝異常を疑う状況と初期評価
鑑別疾患
乳幼児突然死症候群
続発疾患
低血糖(非糖尿病性)
関連疾患
ウィルソン病ポルフィリン症急性妊娠脂肪肝先天性甲状腺機能低下症先天性副腎過形成
治療薬
フェノバルビタールマンニトールビタミンB12アセトアミノフェン
症状
意識障害傾眠発作嘔吐脾腫失調
検査値
アニオンギャップアンモニア血算血糖低血糖乳酸乳酸アシドーシスCKビリルビン
下位分類
Lesch-Nyhan症候群フェニルケトン尿症ホモシスチン尿症ミトコンドリア病ライソゾーム病遺伝性フルクトース不耐症古典型ガラクトース血症(GALT欠損症)糖原病副腎白質ジストロフィー

🧠 全体像は1つ1つは極めてまれだが、束ねると新生児・乳児の「原因不明の」の重要な一群になる。臨床像を貫く骨格は「出生時は正常 → 授乳開始・感染・絶食などのストレス → 急激に崩れる」というである。したがって診療の要は、①このを見たら疑うこと、②治療前の検体()を確保すること、③診断確定を待たず経口摂取を止めて高濃度ブドウ糖でを抑えること、の3点に集約される。個々の酵素名を暗記するより、この3ステップと「アンモニア・・ケトン体・乳酸・血糖」の5項目で群を絞る型を身につけるほうが実用的である。

病態

は数百疾患におよぶが、病態生理から3群に整理する Saudubray の分類が臨床的に最も使いやすい。群ごとに「いつ・どう崩れるか」が決まる。

機序 発症の型 代表疾患
代謝ブロックの手前に毒性が蓄積する 無症状期間の後、ストレスで嘔吐傾眠・昏睡)を反復 (OTC欠損症など)、・プロピオン酸血症)、
障害型 ATP産生・利用の障害 絶食・感染で低血糖、心筋症、筋症状 (MCAD欠損症・VLCAD欠損症・CPT2欠損症)、、糖新生異常、
高分子の合成・分解・リモデリングの障害 誘因と進行性。臓器腫大、、発達退行 ・Tay-Sachs病)、(Zellwegerスペクトラム、)、

💡 障害型は「誘因があって急性に崩れる」、は「誘因なく徐々に進む」。この一線を引くだけで、救急外来で緊急対応が要る群と、外来で精査を進める群が分かれる。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='catabolism'>異化</span>ストレス<br>(感染・絶食・手術・過剰タンパク摂取)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intoxication type'>中毒型</span>:アンモニア・有機酸・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='leucine'>ロイシン</span>が蓄積<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='energy production'>エネルギー産生</span>障害型:ATP不足・低<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ketotic hypoglycemia'>ケトン性低血糖</span>"]
    B --> C["脳浮腫・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute encephalopathy'>急性脳症</span>・けいれん・昏睡"]
    B --> D["心筋症・不整脈・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='rhabdomyolysis'>横紋筋融解症</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepatomegaly'>肝腫大</span>"]
    C --> E["嘔吐・経口摂取低下でさらに<span class='jp-term jp-term-diagram' title='catabolism'>異化</span>が亢進する悪循環"]
    E --> B

⚠️ この悪循環こそが本症の本質である。「原因が確定してから治療する」のではなく、を止める治療を先に始めて悪循環を断つのが原則である。

臨床像

日本学会の代謝救急診療ガイドラインが挙げる赤旗は、けいれん意識障害・なんとなく元気がない、感染症や絶食のあとの急激な悪化、特異な・皮膚所見・体臭・尿臭、代謝性アシドーシスに伴う多呼吸、心筋症、脾腫を伴わない、ライ(様)症候群、互いに関連の乏しい多臓器症状、そして血族婚・同胞の類似発作・原因不明の乳幼児突然死といった家族歴である。⭐ 年齢別に整理しておくと拾い上げやすい。

年齢
新生児 原因不明の、反復嘔吐、低血糖、けいれん、、遷延性・抱合型高ビリルビン血症、敗血症様症状
乳幼児 、発達遅滞・退行、絶食や感染で反復する・嘔吐・酸血症、肝脾腫、
年長児・成人 運動不耐、、行動・認知の変化、失調、心筋症、

⚠️ 敗血症様の新生児では、代謝異常を疑っても抗菌薬治療を遅らせない。 逆に、敗血症として治療しても説明のつかない意識障害・アシドーシス・が続くなら代謝異常を疑い直す。両者は同時に走らせる。

診断

一次検査と緊急検体

治療を始める前に、一次検査として血糖、血液ガス()、アンモニア乳酸/ピルビン酸、血中・尿中ケトン体、に加え、血算、肝腎機能、CK、電解質、尿検査を提出する。いずれも1時間以内に結果が揃うことが重要である。異常があれば二次検査としてタンデムマス分析、尿中有機酸分析、血中アミノ酸分析へ進むが、これらは結果に時間がかかるため治療開始前に検体だけ採って凍結保存しておく。これをと呼ぶ。

検体 採取量・保存 提出先の検査
血清 0.5 mLずつ数本に分け −20℃以下で凍結 血中アミノ酸分析、血清タンデムマス分析、ケトン体分画/
尿 3〜10 mLを2〜3本、−20℃以下で凍結 尿中有機酸分析(を含む)
1スポット以上(できれば4スポット)、十分乾燥後に−20℃以下 タンデムマス分析
髄液(採取した場合) 0.5 mLずつ、−20℃以下 乳酸・ピルビン酸

⚠️ アンモニアの採血には固有の落とし穴がある。 毛細管採血・室温放置・遅延測定はいずれもを生む。を最小限にした自由流出の静脈血(または動脈血)を用い、氷冷して20分以内に測定する。

検査パターンから群を絞る

所見の組み合わせ 考える群
正常+血糖正常+BUN低下
低ケトン性低血糖+高CK血症・上昇・心筋症
+アンモニアも正常+ 先天性
(血中乳酸 >6 mmol/L)+多臓器症状 、糖新生障害
+低血糖
発達退行++臓器腫大(誘因なく進行)

💡 低血糖時に血中ケトン体が本来上がるべき量まで上がっていないのがである。定量的には/総ケトン体モル比 >2.5、/3-ヒドロキシ酪酸モル比 >3.0 が目安になる。⭐ またの閾値は年齢で異なり、新生児 >200 µg/dL(120 µmol/L)、乳児期以降 >100 µg/dL(60 µmol/L)を高値とする(日本の施設では µg/dL 表記が一般的で、µmol/L への換算はおよそ 1/1.7)。

flowchart TD
    A["原因不明の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sudden deterioration (acute decompensation)'>急変</span>・意識障害・アシドーシス"] --> B["ABC安定化・低血糖の補正<br>一次検査+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='critical sample'>緊急検体</span>を治療前に確保"]
    B --> C{"アンモニアと血糖のパターン"}
    C -->|"アンモニア高値・AG開大+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ketosis'>ケトーシス</span>"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='organic acidemia'>有機酸血症</span>を想定"]
    C -->|"アンモニア高値・AG正常"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='urea cycle disorder'>尿素サイクル異常症</span>を想定"]
    C -->|"低<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ketotic hypoglycemia'>ケトン性低血糖</span>"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fatty acid oxidation disorder'>脂肪酸酸化異常症</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hyperinsulinemia'>高インスリン血症</span>を想定"]
    C -->|"乳酸高値"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mitochondrial disease'>ミトコンドリア病</span>・糖新生障害を想定"]
    D --> H["群にかかわらず<span class='jp-term jp-term-diagram' title='catabolism'>異化</span>抑制と専門医連絡を先に開始"]
    E --> H
    F --> H
    G --> H

新生児マススクリーニング

日本では全新生児を対象に、生後4〜6日ごろの20疾患を公費でスクリーニングしている。(タンデム型)の導入により、アミノ酸とを同時に測って多数の疾患を1回の採血で拾えるようになった。沿革は昭和52年度に5疾患で開始 → 平成23年度に導入で19疾患 → 平成29年度にCPT2欠損症が加わり20疾患である。

主な
内分泌疾患
アミノ酸代謝異常症 I型、
異常症
異常症 MCAD欠損症、VLCAD欠損症、CPT2欠損症、三頭酵素/TFP欠損症
有機酸代謝異常症 、プロピオン酸血症、イソ吉草酸血症、メチルクロトニルグリシン尿症 など

さらに令和7年度から、こども家庭庁の実証事業として(SMA)とを対象とする拡大が全国の自治体で順次公費化されている。

⚠️ ただしスクリーニングは万能ではない。 ①症候性の児では結果を待たずに治療を始める、②のうちNBSで拾えるのはI型とだけで、最多のOTC欠損症は対象外、③全身性欠乏症などは二次で見逃し例がある、の3点は必ず押さえる。

治療・管理

急性期:異化を止めることが最優先

診断確定を待たずに開始する。

  1. 経口・経腸からの原因基質の摂取を中止する(絶食)。
  2. 十分な量のブドウ糖を静注してへ振り向ける。維持輸液は10%ブドウ糖濃度を目安とし、GIR 8〜10 mg/kg/分、80〜100 kcal/kg/日以上のカロリー確保を目指す。低血糖があれば10〜20%ブドウ糖で補正する。
  3. 高血糖(新生児 >280 mg/dL、以降 >180 mg/dL)を認めたらブドウ糖を減らさず、即効型インスリン 0.01〜0.1 単位/kg/時を併用する。
  4. けいれんには、脳浮腫にはを用い、病型不明の段階では・リボフラビン・・L-Q10などのビタミンカクテルを併用する。並行して代謝専門医・専門施設へ早期に連絡し、必要なら搬送する。

⚠️ タンパクを止めっぱなしにしてはいけない。 24〜48時間を超える完全なタンパク除去はかえって内因性タンパクのを助長し、を悪化させる。48時間以内(できれば24〜36時間以内)に少量の(0.1〜0.5 g/kg/日)を再開する。急性期の指示は「タンパク中止」ではなく「タンパク一時中止+48時間以内に再開」とセットで覚える。同様に「とにかく糖を入れる」も全例には当てはまらず、・シトリン欠損症ではが問題になるため、乳酸やアミノ酸のパターンからこれらが疑われた時点でブドウ糖の過剰投与に注意を切り替える。

⚠️ では絶食そのものが発作の引き金になる。 治療は「絶食させない」ことであり、高濃度ブドウ糖輸液(GIR 5〜10 mg/kg/分)を早期に始める。長鎖型(VLCAD・CPT2・TFPなど)ではや2020年にFDA承認されたが治療になるが、MCAD欠損症でMCTは禁忌である(そのものを酸化できないため)。また、鎮痛にはを用い、酵素活性を下げうるNSAIDsやを低下させるピボキシル基含有抗菌薬は避ける。

高アンモニア血症への対応

アンモニアは強力なであり、予後は最高値と高値で決まる。値に応じて段階的に介入する(日本学会「等診療ガイドライン2025」の章・未診断例の目安1)。

血中アンモニア 対応
≤170 µg/dL(100 µmol/L)〔新生児 ≤250 µg/dL(150 µmol/L)〕 タンパク摂取中止、ブドウ糖負荷輸液、3時間ごとに再検
〜425 µg/dL(250 µmol/L) 上記+L-を開始し、血液浄化療法の準備も並行して進める。L-・ビタミンB12を併用
〜850 µg/dL(500 µmol/L) 上記の薬物治療を継続しつつ、速やかに血液浄化療法の導入へ進める
〜1700 µg/dL(1000 µmol/L) 速やかにを施行
>1700 µg/dL(1000 µmol/L) の継続かかを家族と検討

⚠️ 日本のでは、発症時の血中アンモニア最高値が600 µg/dL(360 µmol/L)以上になると治療の進歩後も精神不良の症例が多いという関連が繰り返し報告されており、いったんこの値を超えたら300 µg/dL(180 µmol/L)未満へ速やかに低下させることを目標とする1

血液浄化療法の適応は、①アンモニア >850 µg/dL(500 µmol/L)、②値によらず意識障害が強い、③2〜3時間の薬物治療でアンモニアが 50 µg/dL(30 µmol/L)以上低下しない、のいずれか。は無効、は除去効率が劣るため、または持続を選び、施行できない施設からは速やかに搬送する。英国BIMDG系のプロトコルでは、200 µmol/L以上で30分以内の静注治療開始、400 µmol/L以上の薬物抵抗例で6時間以内の開始という、より早い閾値が採られている。

薬剤 位置づけ 投与量の目安
L- 尿素サイクルを回すために不足するオルニチンを供給。⚠️ 血症(ARG1欠損症)では禁忌 100〜250 mg/kg/日 静注(急性期はより高用量)
L-シトルリン OTC欠損症・CPS1欠損症でより有効。⚠️ ASS欠損症・ASL欠損症では使用しない 100〜250 mg/kg/日 経口
グリシンと抱合し窒素を尿中へ排泄させる 100〜250 mg/kg/日。⚠️ 250 mg/kg/日超で肝障害が増える。安息香酸で代用してはならない
グルタミンと抱合し窒素を排泄させる 200〜300 mg/kg/日 経口・経管
NAGSを補う。NAGS欠損症のみ保険適用(他のでは相談のうえ使用) 100〜250 mg/kg/日
L- の抱合排泄との補充 20〜50 mg/kg/日(急性期はより高用量)。⚠️ 心筋症・不整脈・酸化異常症が疑われる場合は専門医と協議

慢性期の管理

  • :制限すべき基質は疾患ごとに異なる(PKUは、CBS欠損、MSUDはは総タンパク)。⚠️ 一律の「低タンパク・」ではなく診断に応じて専門チームが処方する。制限が過剰だと発育障害・皮膚炎・脱毛を招く。
  • 計画とモニタリング:発熱・嘔吐・下痢のたびにが亢進するため、緊急時の糖質補給法と受診基準を文書で家族に渡し、旅行時には紹介状を携行させる。では血中アンモニア ≤140 µg/dL(80 µmol/L)・血漿グルタミン ≤1000 µmol/L、PKUでは血中を生涯 ≤360 µmol/L に保つ(知能予後と母体PKU症候群の予防に必要)2
  • 薬物・特殊治療:PKUではBH4反応例に、成人の難治例に、2025年承認の3が選択肢に加わった。ではでは血液浄化から離脱できない例・を繰り返す例にが検討される。成人期には発達障害・うつ・妊娠出産・飲酒という新たな課題が生じるため、成人診療科への計画的な移行が必要である。

まとめ

  • は「」「障害型」「」の3群で捉える。前2者は誘因があって急性に崩れ、後者は誘因なく進行する。「一度は元気だった児が、授乳・絶食・感染を契機に反復して崩れる」時に疑い、敗血症の治療と並行して評価する。
  • 一次検査は血糖・血液ガス・アンモニア・乳酸・ケトン体・。二次検査用の治療開始前に採って凍結保存する。アンモニアは自由流出の静脈血を氷冷して20分以内に測定する(毛細管採血・室温放置は)。
  • 急性期は診断確定を待たず、経口摂取を止めて高濃度ブドウ糖(GIR 8〜10 mg/kg/分)でを抑える。ただしタンパク完全除去は48時間以内にとどめ、少量のを再開する。は値に応じて薬物治療から血液浄化療法へ段階的に上げる(は不適切)。
  • では絶食が禁忌。長鎖型にはMCTやを用いるが、MCAD欠損症にMCTは禁忌である。
  • 日本のは20疾患を対象とし、令和7年度からSMA・SCIDの拡大スクリーニングが進む。ただしOTC欠損症のように対象外の疾患もあり、症候性の児では結果を待たない。

出典

  1. 1.新生児マススクリーニング対象疾患等診療ガイドライン2025(尿素サイクル異常症)(日本先天代謝異常学会・2025)血中アンモニア425〜850 µg/dL(250〜500 µmol/L)では血液浄化療法の準備を薬物治療と並行して始め、850 µg/dL(500 µmol/L)以上では速やかに導入へ進めること、600 µg/dL(360 µmol/L)以上が神経学的予後不良と関連する既知の閾値であることを確認した。閲覧 2026-08-02
  2. 2.Phenylalanine hydroxylase deficiency diagnosis and management: A 2023 evidence-based clinical guideline of the American College of Medical Genetics and Genomics (ACMG)(American College of Medical Genetics and Genomics・2023)PKUでは血中フェニルアラニンを生涯にわたり360 µmol/L以下に維持することが推奨され、知能予後の改善と関連することを確認した。閲覧 2026-08-02
  3. 3.SEPHIENCE (sepiapterin) oral powder — FDA label(FDA・2025)2025年7月28日、BH4反応性PKUの成人・小児患者(生後1か月以上)に対しセピアプテリンがフェニルアラニン制限食との併用でFDA承認されたことを確認した。閲覧 2026-08-02