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Disease Atlas · 内分泌・代謝 · 先天性疾患

先天性高インスリン血症

Congenital hyperinsulinism

別名
CHI先天性高インスリン性低血糖症PHHI乳児持続性高インスリン血性低血糖症
臓器系
内分泌・代謝小児
科目
Pediatrics
トピック
小児科 2-30:低血糖の症状と治療小児科 2-10:先天代謝異常を疑う状況と初期評価
鑑別疾患
先天代謝異常症
続発疾患
低血糖(非糖尿病性)
治療薬
ジアゾキシドオクトレオチド
症状
意識障害発作
検査値
血糖低血糖免疫反応性インスリンCペプチドアンモニア

🧠 全体像:(CHI)は、新生児・乳児期の持続性低血糖症のうち最も頻度が高い原因である。病態は一貫して「からのがブドウ糖濃度に応じて抑制されない」ことにあり、この結果として低ケトン性・低脂肪酸性の低血糖(・糖新生・のすべてがインスリンによって抑えられるため、代替エネルギー源が使えない)という検査が生まれる。臨床の骨格は3つ——①低血糖時の検体(クリティカルサンプル)でインスリン過剰を証明すること、②反応性の有無でとその後の遺伝学的検査の要否を分けること、③反応しない例ではか、びまん性かを突き止めての是非を決めること。

病態

は正常では血糖に応じて調節されるが、CHIではのが壊れ、低血糖下でもが止まらない。は多岐にわたるが、最多はβ細胞のチャネルを構成するABCC8(SUR1)・KCNJ11(Kir6.2)の異常で、CHIの約40〜45%・約5%を占める1。その他、GLUD1(、を伴う)、GCK()、HADH、HNF4A、UCP2、、SLC16A1の異常や、などののものもある2。約2〜5割はが同定されない1。

💡 が本症の検査である。 インスリンは・を抑制するため、低血糖時にもかかわらず血中・が上昇しない(不適切に低い)というパターンを示す。この点はの検査パターンの中でもと対比される特徴的な所見である。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pancreatic beta cell'>膵β細胞</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ATP-sensitive potassium channel'>KATP</span>チャネル・代謝<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sensing'>センシング</span>機構の異常"] --> B["血糖に応じた<span class='jp-term jp-term-diagram' title='insulin secretion'>インスリン分泌</span>の抑制が働かない"]
    B --> C["低血糖でも<span class='jp-term jp-term-diagram' title='insulin secretion'>インスリン分泌</span>が持続"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lipolysis'>脂肪分解</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ketogenesis'>ケトン産生</span>の抑制<br>→ 低ケトン性・低脂肪酸性低血糖"]
    C --> E["糖新生・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glycogenolysis'>グリコーゲン分解</span>の抑制<br>→ 高いブドウ糖必要量(GIR)でしか血糖を維持できない"]
    D --> F["反復性・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='prolonged hypoglycemia'>遷延性低血糖</span>による中枢神経<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sequela'>後遺症</span>(発達遅滞・てんかん)"]
    E --> F

局所性病変(父由来片アリル変異+母アリル喪失)

⭐ 病変のは体細胞レベルの「二段階ヒット」である。 ABCC8またはKCNJ11の父由来片アリル変異を持つ児で、胎児の一部において領域11p15の母アリルが体細胞性に脱落すると、その細胞集団だけが両アリル機能喪失となり限局した(病変)を来す12。この機序による病変は遺伝子診断と18F-DOPA で術前に診断でき、病変部だけの膵部分切除でなく治癒しうる。これに対し、それ以外の原因によるCHIは基本的に膵全体のβ細胞が侵されるびまん性病変を示す(ただし異常β細胞がに分布する非典型例も報告されている)2。

診断

低血糖時にインスリン過剰を証明する

⚠️ 低血糖時の検体(クリティカルサンプル)を治療開始前に確保することが最重要である。 血糖<50 mg/dLで採取した検体で、次の3基準のうち2つ以上(または1つ+既知の変異の同定)を満たせば高インスリン性低血糖症と確定診断し、1つのみならとする2。

基準
血中インスリン値 >1 μU/mL
グルカゴン0.5〜1 mg筋注(静注)による >30 mg/dL(15〜45分後)
正常血糖を維持するためのブドウ糖静注量(GIR) 生後6か月未満 >7、6か月以降〜小児 3〜7、成人 >3 mg/kg/分

補助的所見として血中<2 mmol/L・血中<1.5 mmol/Lが挙げられるが、この所見のみでとはしない(のみ低値でが高値なら・代謝異常症をまず除外する)2。

⚠️ 「低血糖」の定義そのものが年齢で変わる。 生後48時間以降は血糖>60 mg/dLを維持できない場合、生後48時間未満は血糖<50 mg/dLを低血糖とする2。生理的な移行期には血糖が一過性に下がりやすく、生後72時間以降に安定してくるためである。

高インスリン性低血糖症と診断できたら、次に病歴(・に対する形成・糖尿病治療歴)、血中インスリン—Cペプチド比、抗インスリン抗体、膵画像検査で後天性の原因(、インスリン過多投与、など)を除外し、CHIと診断する2。

flowchart TD
    A["低血糖症状(意識障害・けいれん)"] --> B["治療開始前にクリティカルサンプルを確保<br>(インスリン・Cペプチド・アンモニア・血中ケトン体・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='free fatty acids'>遊離脂肪酸</span>など)"]
    B --> C{"インスリン>1・グルカゴン反応>30・高GIRのうち2つ以上"}
    C -->|"満たす"| D["高インスリン性低血糖症と確定"]
    C -->|"1つのみ"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='suspected diagnosis'>疑診</span>:管理下<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fasting test'>絶食試験</span>を検討"]
    D --> F["病歴・膵画像・抗インスリン抗体で後天性原因を除外"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='congenital hyperinsulinism'>先天性高インスリン血症</span>と診断"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='diazoxide'>ジアゾキシド</span>5〜15 mg/kg/日を5日間トライアル"]

治療

血糖管理目標と初期治療

目標は70 mg/dL超とする(ではの分泌開始閾値も踏まえた安全側の目標であり、これを下回れば必ずを残すという意味ではない)2。初期治療はブドウ糖持続静注で、7 mg/kg/分以上を要する場合は通常が必要になる。状態が安定すれば頻回哺乳・コーンスターチ(生後9〜12か月以降)・用フォーミュラ・持続へ段階的に移行する2。

ファーストライン:ジアゾキシド

ブドウ糖静注から離脱できない場合、禁忌(心不全・肺高血圧など)がなければ内服5〜15 mg/kg/日を5日間トライアルする2。⭐ 効果判定には少なくとも5日間を要する(9.5〜24時間、血中濃度上昇にも時間がかかる)。15 mg/kg/日で無効なら不応性と判断する2。

⚠️ の主な副作用は・浮腫・水分貯留で、頻脈・心不全・動脈管を来しうる。 とくにでは慎重に投与し、利尿薬(よりが推奨される)の併用が望ましい。好中球減少・肺高血圧・低血糖の報告もある2。GeneReviewsは、GLUD1異常の多くとABCC8/KCNJ11の優性型がに良好に反応する一方、劣性型は反応が乏しいとしている1。

セカンドライン:不応例の薬物療法と病因診断

不応例の約90%がチャネル遺伝子(ABCC8・KCNJ11)変異陽性である2。血糖維持のためのセカンドライン治療(皮下注5〜25 μg/kg/日、グルカゴン1〜20 μg/kg/時、0.25〜2.5 mg/kg/日を順次試みる)と並行して、ABCC8/KCNJ11の遺伝子診断と18F-DOPA PETによる病変の同定を進める21。⚠️ ステロイドのセカンドライン投与は推奨されない2。

⚠️ の最も重大な副作用はで、致死的になりうる。 報告例の多くは生後30日未満の使用例だが、乳児期以降でも注意を要する。その他、投与初期の白色便・胆汁うっ滞・低血圧(最も高頻度)・・血小板減少・QT延長も報告されている2。

外科治療

病変が同定できれば膵部分切除でなく治癒しうる。膵頭部病変では胆管・に近接するため切除に注意を要し、部分切除できない場合はRoux-en-Y空腸吻合術が提唱されている2。びまん性病変で内科的治療により血糖を維持できない場合に限り膵(80〜95%切除)が検討されるが、⚠️ 95%以上膵切除した症例では術後11年での発症率が96%に達したとする報告があり、は最終手段である21。

治療の終了

持続性CHIでも年齢とともに低血糖が軽快する傾向があり、内科治療を続けるうちにで治療が不要になることがある。膵切除を経た治療後糖尿病は内科治療のみの場合にも生じうるが、例に比べて頻度は圧倒的に少ない2。

まとめ

  • は新生児・乳児期の持続性低血糖の最多原因で、ABCC8/KCNJ11(チャネル)異常が主因だがGLUD1(を伴う)など多数のがある。低ケトン性・低脂肪酸性低血糖が検査。
  • 病変は父由来のチャネル遺伝子片アリル変異+母アリルの体細胞性喪失で生じ、18F-DOPA で同定できれば膵部分切除で治癒しうる。それ以外はびまん性病変となる。
  • 診断は低血糖時のクリティカルサンプル(インスリン>1 μU/mL、グルカゴン負荷での>30 mg/dL、高いGIR必要量のうち2つ以上)で確定し、後天性原因を除外する。
  • 治療は血糖>70 mg/dLを目標にブドウ糖静注、無効なら5〜15 mg/kg/日を5日間トライアル(15 mg/kg/日無効なら不応性)。不応例の約9割がチャネル遺伝子変異陽性で、等のセカンドライン治療と並行して遺伝子診断・を進める。
  • は病変への部分切除が根治的だが、びまん性病変への膵は術後高率にを来すため最終手段とする。

出典

  1. 1.Nonsyndromic Genetic Hyperinsulinism Overview(GeneReviews(University of Washington, Seattle)(Gillis D)・2024)ABCC8・KCNJ11異常がそれぞれ非症候群性高インスリン血症の約40〜45%・約5%を占め常染色体劣性・優性いずれの遺伝形式もとること、劣性型は重症・早期発症でしばしば膵切除を要し優性型はより遅く発症し薬物療法に反応しやすいこと、GLUD1異常(診断確定した中でジアゾキシド反応例の42%)は常染色体優性で高アンモニア血症を伴い多くがジアゾキシドに良好に反応すること、GCK・HADH・HNF4A・HNF1A・UCP2異常も原因となり反応性は多様であること、原因遺伝子が同定されない例が21〜55%に上ること、局所性病変が父由来のABCC8/KCNJ11劣性変異と刷り込み領域11p15の母アリルの体細胞性ヘテロ接合性喪失の組み合わせで生じびまん性ではなく限局した腺腫様過形成を来すこと、局所病変の術前局在診断に18F-FDOPA PETが推奨されること、局所性病変には的中切除(lesionectomy)が根治的である一方びまん性病変では薬物療法が第一選択で無効な場合に限り80〜95%膵切除が検討されインスリン依存性糖尿病のリスクが高いことを確認した。閲覧 2026-09-06
  2. 2.先天性高インスリン血症診療ガイドライン(日本小児内分泌学会・日本小児外科学会・2016)PDF全文を自分で取得して確認した。先天性高インスリン血症(CHI)が新生児・乳児期の持続性低血糖症で最も多い原因であること、一過性(多くは生後3〜4か月以内に軽快、頻度は約17,000出生に1人)と持続性(頻度は約35,400出生に1人)に大別され持続性は乳児期以降に症状が明らかになることもあること、既知の原因としてKATPチャネル遺伝子異常(SUR1/ABCC8、Kir6.2/KCNJ11。父由来片アリル変異+母アリルの体細胞性喪失で局所性病変となりうる)、GLUD1遺伝子異常(高アンモニア血症を伴う)、HNF4A・GCK・HADH・UCP2・インスリン受容体・SLC16A1遺伝子異常、Beckwith-Wiedemann症候群などの症候群性のものがあること、診断は低血糖時(生後48時間以降は血糖>60 mg/dLを維持できない場合、生後48時間未満は<50 mg/dL)の血中インスリン>1 μU/mL・グルカゴン負荷(0.5〜1 mg筋注/静注)による血糖上昇>30 mg/dL(15〜45分)・年齢別の高いブドウ糖必要量(生後6か月未満>7、6か月以降3〜7、成人>3 mg/kg/分)の3基準のうち2つ以上(または1つ+既知の原因)で確定、1つのみで疑診とすること、血糖管理目標は70 mg/dL超であること、初期治療はブドウ糖持続静注、無効時はジアゾキシド内服5〜15 mg/kg/日を5日間トライアルし15 mg/kg/日で無効なら不応性と判断すること、ジアゾキシドの主な副作用が多毛・浮腫・水分貯留(頻脈・心不全・PDA再開通)で好中球減少・肺高血圧・奇異性低血糖の報告もあること、ジアゾキシド不応例の約90%がKATPチャネル遺伝子変異陽性でありセカンドライン治療(オクトレオチド皮下注5〜25 μg/kg/日、グルカゴン1〜20 μg/kg/時、ニフェジピン0.25〜2.5 mg/kg/日を順次)と並行してABCC8/KCNJ11の遺伝子診断・18F-DOPA PETによる病因診断を行うこと、オクトレオチドの重大な副作用として壊死性腸炎(致死的になりうる、多くは生後30日未満の使用例)があること、父由来片アリル変異による局所性病変は膵部分切除で後遺症なく治癒しうる一方、びまん性病変への95%以上の膵切除では術後11年でのインスリン依存性糖尿病発症率が96%に達したとする報告があることを逐語で確認した。⚠️ 本ガイドラインはversion 1.0(平成28年10月1日発行)であり、改訂版の有無は確認できていない。閲覧 2026-09-06