小児科学

小児科学 · 2-30

低血糖の症状と治療

Symptoms and Treatment of Hypoglycemia

前提:正常
グルカゴン分泌と低血糖からの保護機構血糖調節:グリコーゲン動員
疾患
CACT欠損症CPT1A欠損症CPT2欠損症原発性カルニチン欠損症先天性高インスリン血症先天性脂肪酸酸化異常症糖原病
検査値
アシルカルニチン分析血中カルニチン分画βヒドロキシ酪酸

🧠 低血糖は脳障害を防ぐため直ちに治療する。同時に、原因検索に重要な「クリティカルサンプル」1を可能なら治療前に採取するが、採血のためブドウ糖投与を遅らせない。糖尿病児では一般に70 mg/dL(3.9 mmol/L)未満を警戒値とする。2

定義の考え方

低血糖の閾値は、年齢、糖尿病治療の有無、症状、採血法で異なる。糖尿病のない年長児で原因評価する際は、症状、低い、その是正による症状改善から成るを参考にする。31新生児の最初の48時間は移行期であり、別の運用閾値を用いる。💡 運用閾値の位置づけ。 生後48時間以内はが抑制される血糖閾値がおおむね55〜65 mg/dL(3.0〜3.6 mmol/L)と、48時間以降・年長児の目安(約70〜85 mg/dL)より低いとする報告があり、「正常」と「異常」を分ける単一の血糖値は確立していない。145

症状

自律神経症状
発汗、振戦、、空腹、蒼白、不安、悪心 頭痛、めまい、、行動変化、、、傾眠
乳幼児では不機嫌、 痙攣、、昏睡

反復低血糖では自律神経症状が乏しくなり、突然神経症状を呈することがある。2

緊急治療

flowchart TD
    A["低血糖を確認/強く疑う"] --> B{"安全に嚥下できるか"}
    B -->|"できる"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fast-acting'>速効性</span>糖質を<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oral'>経口投与</span>"]
    C --> D["約15分後に再測定し、必要なら反復"]
    D --> E["回復後に持続性糖質と原因対策"]
    B -->|"できない・痙攣・意識障害"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intravenous glucose'>静注ブドウ糖</span>、またはアクセス困難ならグルカゴン"]
    F --> G["頻回血糖測定、必要なら<span class='jp-term jp-term-diagram' title='repeated/continuous dosing'>持続投与</span>"]
    G --> E
  • 意識があり安全に嚥下できる糖尿病児では、糖質約10〜15 gを投与し、約15分後に再測定する。年少児では体格と個別計画に合わせる。
  • 意識障害・痙攣・では経口摂取させない。施設プロトコルに従いを投与し、再発時はする。
  • 静脈/がない場合は年齢・体重に応じたグルカゴン筋注・皮下注または承認された経鼻製剤を用いる。、肝不全、アルコール関連では反応が乏しいことがある。
  • 1歳未満に蜂蜜を与えてはならない。
  • 💡 新生児の低血糖ゲル。 経口摂取できるリスク新生児では、40%ブドウ糖ゲルの塗布がと比べ母子分離の頻度を減らし完全母乳率を高めるが、治療そのものの要否を減らすかどうかの根拠は不確実である。6

原因検索

原因群 例・手掛かり
薬物 インスリン、、誤投与
摂取不足・ 長時間絶食、胃腸炎、年少児
重症疾患 敗血症、肝不全、腎不全、低体温
内分泌 副腎不全、欠乏、7
代謝疾患 、、など

原因不明、持続性、再発性、重症低血糖では、治療前に可能なら血糖、インスリン、Cペプチド、、、コルチゾール、、乳酸、アンモニア、電解質などを採取し、・有機酸も保存する。ただし治療を遅らせない。1

予防

  • 糖尿病児ではインスリン、食事、運動、体調不良時の計画を家族・学校と共有する。
  • グルカゴンを使える状態で携帯し、介助者が投与法を練習する。
  • 原因不明の低血糖、特には内分泌・代謝専門医へ相談する。7

まとめ

  • 低血糖は症状が非特異的でも疑った時点で血糖を測る。
  • 嚥下可能なら経口糖質、重症ならまたはグルカゴンを用いる。
  • 採血より治療を優先するが、可能ならクリティカルサンプルを確保する。
  • 回復後も再発監視と原因治療が必要である。

出典

  1. 1.Recommendations from the Pediatric Endocrine Society for Evaluation and Management of Persistent Hypoglycemia in Neonates, Infants, and Children(Pediatric Endocrine Society(The Journal of Pediatrics)・2015)症状を訴えられる小児ではウィップル三徴(低血糖に一致する症状、その時の低い血漿グルコース、糖投与による症状消失)が確認された場合に評価すること、訴えられない乳児・年少児では血漿グルコースが神経糖欠乏反応の閾値である60 mg/dL(3.3 mmol/L)未満と確認された場合に評価すること、新生児は生後48〜72時間まで生理的な移行期低血糖(インスリン分泌が抑制される血糖閾値がおおむね55〜65 mg/dL[3.0〜3.6 mmol/L]とする報告があり、48時間以降は年長児・成人に近い70〜85 mg/dL付近まで上昇する)にあるため持続性低血糖症の評価はこの時期を過ぎてから行うべきとすること、原因検索の「クリティカルサンプル」は発作時・治療前に血漿グルコース、重炭酸、β-ヒドロキシ酪酸、乳酸を測定し疑う病態に応じてインスリン・遊離脂肪酸・Cペプチド(高インスリン血症疑い)や総・遊離カルニチン・アシルカルニチンプロファイル(脂肪酸酸化異常疑い)を追加すること、高インスリン血症では血漿β-ヒドロキシ酪酸が1.5 mmol/L未満かつ遊離脂肪酸が1.0〜1.5 mmol/L未満という不適切に低いケトン体・遊離脂肪酸を呈しグルカゴン負荷への過大な血糖上昇(30 mg/dL超)を伴うことを確認した。閲覧 2026-08-27
  2. 2.6. Glycemic Goals, Hypoglycemia, and Hyperglycemic Crises: Standards of Care in Diabetes—2026(American Diabetes Association・2026)低血糖3段階分類のレベル1(血糖70 mg/dL[3.9 mmol/L]未満かつ54 mg/dL[3.0 mmol/L]以上)は非糖尿病者でもアドレナリン反応が生じる閾値であり症状の有無を問わず臨床的に重要であるとしたこと、反復する低血糖により自律神経症状(アドレナリン反応)が乏しくなる無自覚性低血糖を来しうること、無自覚性低血糖は少なくとも年1回スクリーニングすべきとしたことを確認した。閲覧 2026-08-27
  3. 3.Evaluation and Management of Adult Hypoglycemic Disorders: An Endocrine Society Clinical Practice Guideline(Endocrine Society / The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism・2009)低血糖症の評価・治療は、低血糖に合致する症状・徴候、その時点での低い血漿グルコース、血糖上昇による症状消失から成るウィップル三徴が記録された患者に限って行うべきとしたこと、糖尿病のない患者ではまず薬剤・重症疾患・ホルモン欠乏・非膵島細胞腫瘍という手掛かりを追うべきとしたことを確認した。閲覧 2026-08-27
  4. 4.Controversies Regarding Definition of Neonatal Hypoglycemia: Suggested Operational Thresholds(Pediatrics(American Academy of Pediatrics)・2000)新生児低血糖の「臨床的に重要な」定義は新生児科領域で最も混乱し議論の的になっている問題の一つであり、正常と異常を分ける単一の血糖値は確立していないため、治療介入を検討すべき「運用閾値」という考え方を提案する立場を取ったことを確認した。閲覧 2026-08-27
  5. 5.Postnatal Glucose Homeostasis in Late-Preterm and Term Infants(American Academy of Pediatrics(Committee on Fetus and Newborn)・2011)現時点のエビデンスは正常と異常を判別できる、あるいは急性・慢性の不可逆的神経障害を来しうる単一の血糖濃度を支持していないとしたうえで、在胎34週以降の後期早産児・正期産児でリスクのある新生児を早期に同定し予防的措置を講じる実務的な対応と、時刻別の運用アルゴリズムを提示したことを確認した。閲覧 2026-08-27
  6. 6.Oral dextrose gel for the treatment of hypoglycaemia in newborn infants(Cochrane Database of Systematic Reviews・2022)後期早産児・正期産児312例を対象にした2件のRCTの統合で、40%ブドウ糖ゲルの頬粘膜投与はプラセボゲルと比べ低血糖治療のための母子分離の頻度を減らし(リスク比0.54、95%信頼区間0.31〜0.93、中等度の確実性、1件237例)、退院後の完全母乳率を高めた(リスク比1.10、95%信頼区間1.01〜1.18、中等度の確実性、1件237例)が、静脈内治療の要否そのものへの効果は不確実であり(リスク比0.78、95%信頼区間0.46〜1.32、確実性は非常に低い、2件312例)、生後2年時点の重大な神経学的障害についても効果は不確実である(リスク比0.46、95%信頼区間0.09〜2.47、確実性は低い、1件185例)ことを確認した。閲覧 2026-08-27
  7. 7.Congenital hyperinsulinism: current trends in diagnosis and therapy(Orphanet Journal of Rare Diseases・2011)先天性高インスリン血症は膵β細胞からの不適切なインスリン分泌による遺伝性疾患群で出生1/50,000(近親婚の多い集団では1/2,500に達しうる)の頻度であり、新生児期または生後2年以内に痙攣・意識消失など低血糖症状として診断されることが多いこと、ジアゾキシド不応の重症型の多くはABCC8遺伝子(まれにKCNJ11遺伝子)の劣性変異によること、限局型では18F-fluoro-L-DOPA PETが局在診断に有用であること、治療は低血糖発作時のブドウ糖投与またはグルカゴン注射に加え頻回・高濃度の授乳、ジアゾキシド、オクトレオチドで再発を予防し無効例では外科的膵切除を要することを確認した。閲覧 2026-08-27