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βヒドロキシ酪酸

Beta-hydroxybutyrate

別名
3-ヒドロキシ酪酸β-ヒドロキシ酪酸
臓器系
内分泌・代謝
科目
BiochemistryInternal MedicinePediatrics
トピック
生化学 5/6:脂肪酸の酸化;ケトン体内科学 L-24:高血糖緊急症の管理内科学 L-25:低血糖小児科 2-30:低血糖の症状と治療
関連疾患
低血糖(非糖尿病性)糖尿病性ケトアシドーシス・高血糖高浸透圧症候群

🧠 全体像は、糖新生の材料が尽きたときに肝がつくる3種のケトン体(・アセトン)のうち最大の分画であり、で最初に上がり最後まで残る指標である。厳密には有機酸でありケトン基を持たないが、生成経路がと共通するため慣習的にケトン体として扱う。尿検査のはこの物質を検出しないため、だけで重症度や治療反応を追うと、実際には改善しているのに悪化したように見える落とし穴がある。

何を測っているか

DKAでインスリンが欠乏すると、脂肪組織からのと肝でのが亢進し、処理しきれないアセチルCoAが肝でケトン体へ変換される。最初にできるのはで、これがによって還元されればに、自然にすればアセトンになる。

は分子内にケトン基を持たない有機酸で、厳密には「ケトン体」の定義から外れるが、生成経路を共有するため慣習的に含めて扱われる。

の比は、還元反応に使われるで決まる。低酸素、、敗血症などが上がる状態では還元側に傾き、の割合がさらに増える。この比の偏りが、下の「測定上の注意」で扱うの落とし穴の根にある——とアセトンしか検出しないため、優位の病態ほど尿検査で過小評価されやすい。

基準値と単位

血中はmmol/Lで報告され、毛細血管血を使う簡易血中ケトン測定器と、静脈血・血清を使う生化学検査のいずれも同じ単位を用いる。健常な空腹時には明らかな上昇を示さないが、統一されたは診療ガイドラインで定義されておらず、臨床的には後述するDKAの診断・回復判定の閾値との比較で解釈する。

高値の意味

機序 代表例 手掛かり
1型糖尿病、インスリン中断、SGLT2阻害薬使用中の2型糖尿病 でグルカゴンが優位となり、高血糖・を伴う。DKAの診断は血中≥3.0 mmol/Lが酸とよく相関し、感度・特異度とも90%を超える1
大量飲酒後の摂食中断・嘔吐 血糖は正常〜軽度低値のことが多い。の著明な上昇でへの偏りがさらに強い
長期絶食、極端な糖質制限食、 通常は軽度〜中等度でpHは大きく傾かない。DKAほどの高値にはならない
SGLT2阻害薬、妊娠、周術期絶食、極端な糖質制限 血糖<11.1 mmol/L(200 mg/dL)でも・アシドーシスが進みうる1。血糖値だけで除外しない
小児の 長時間絶食、胃腸炎、年少児 が少なくに弱いため、低血糖とが同時に進む。小児科学 2-30:低血糖の症状と治療

低値の意味

低血糖の精査という文脈でのみ、の抑制が診断的価値を持つ。

状況 解釈
低血糖2.7 mmol/L以下 が抑制されている=インスリンまたはIGFにより低血糖が媒介されていることを示す2
低血糖が抑制されない 不全、副腎不全、重症疾患、など性の機序を検索する

⭐ 低血糖の原因検索では、を単独で読まずCペプチドIRIと組みで解釈する。IRI高値・Cペプチド高値・抑制がそろえばを、IRI高値・Cペプチド低値ならばの投与を示唆する(両ノートの解離パターンを参照)。内科学 L-25:低血糖の非糖尿病者の精査でも、にこの一式を同時に採取する。

⚠️ 測定上の注意

  • ⚠️ )はを検出しない。 検出できるのはとアセトンだけで、優位の病態ではが弱陽性にとどまり、発症初期の重症度を過小評価しうる1
  • ⚠️ 治療中は逆向きの落とし穴がある。 アシドーシスが改善するとへ酸化されて戻るため、はむしろ見かけ上増加する。臨床的には改善しているのに、尿検査だけを見ると悪化したように映る1。この一点だけで、治療のモニタリングにを使ってはならない根拠になる。
  • 診断・治療反応のモニタリングいずれにも、静脈血または毛細血管血での直接測定が推奨される1
  • DKAの回復は、血中ケトン<0.6 mmol/Lかつ静脈血pH≥7.3または≥18 mmol/Lで判定する1
  • では血糖値だけを見ているとの進行を見逃す。SGLT2阻害薬使用中、妊娠中、・極端なでは血糖が高くないままアシドーシスが進む1

経時変化とモニタリング

DKA治療中は、単回値ではなく血中の低下トレンドをpH・とあわせて追う。は初期に過小評価、に過大評価という双方向のずれを持つため、インスリン持続静注の終了時期をの陰性化だけで決めない。内科学 L-24:の管理が示す「血糖正常化だけで治療終了としない」という原則は、この測定特性を踏まえたものである。

位置づけ/次に進むべき検査

まとめ

  • は3種のケトン体のうちDKAで最大の分画を占め、厳密には有機酸だがケトン体として扱われる。
  • )はを検出せず、発症初期は過小評価、は過大評価という双方向の落とし穴を持つ。治療モニタリングには血中直接測定を使う。
  • DKAの診断は血中≥3.0 mmol/L、回復は<0.6 mmol/Lかつ酸塩基の改善で判定する。
  • では血糖値だけでを除外できない。
  • 低血糖の精査では抑制の有無がインスリン作用の有無を示し、Cペプチド・IRIと組みで解釈する。

出典

  1. 1.Hyperglycemic Crises in Adults With Diabetes: A Consensus Report(American Diabetes Association・European Association for the Study of Diabetes・Joint British Diabetes Societies for Inpatient Care・American Association of Clinical Endocrinology・Diabetes Technology Society(Umpierrez GE, Davis GM, ElSayed NA, et al.)・2024)DKAの診断基準として血中βヒドロキシ酪酸≥3.0 mmol/Lが酸塩基変化とよく相関し感度・特異度とも90%超であること、尿ケトン(ニトロプルシド反応)はアセト酢酸を検出しβヒドロキシ酪酸を検出しないため発症初期は重症度を過小評価し回復期はβヒドロキシ酪酸がアセト酢酸へ酸化される過程で過大評価しうること、診断・治療反応のモニタリングには静脈血または毛細血管血のβヒドロキシ酪酸直接測定を推奨すること、DKA回復の判定基準が血中ケトン<0.6 mmol/Lかつ静脈血pH≥7.3または重炭酸≥18 mmol/Lであること、正常血糖ケトアシドーシスの定義(血漿血糖<11.1 mmol/L[200 mg/dL]でケトーシス・代謝性アシドーシスを伴う)と原因(インスリン注射量不足、摂取不足、妊娠、アルコール・肝不全・SGLT2阻害薬による糖新生障害)を確認した。閲覧 2026-08-04
  2. 2.Evaluation and Management of Adult Hypoglycemic Disorders: An Endocrine Society Clinical Practice Guideline(The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism(Cryer PE, Axelrod L, Grossman AB, et al.; Endocrine Society)・2009)内因性高インスリン血症の生化学的診断基準として、低血糖時(血漿グルコース55 mg/dL未満)にインスリン3 μU/mL以上・Cペプチド0.6 ng/mL以上・プロインスリン5.0 pmol/L以上・βヒドロキシ酪酸2.7 mmol/L以下・グルカゴン負荷後血糖上昇25 mg/dL以上を確認した。βヒドロキシ酪酸2.7 mmol/L以下への抑制は低血糖がインスリンまたはIGFにより媒介されていることを示す所見であることを確認した。閲覧 2026-08-04