内科学

内科学 · L-24

高血糖緊急症の管理

Emergency management of hyperglycemia

前提:病態
代謝性酸塩基平衡障害:代謝性アシドーシスとアルカローシス
前提:正常
脂肪酸の酸化;ケトン体体液量と細胞外液浸透圧の調節
疾患
糖尿病性ケトアシドーシス・高血糖高浸透圧症候群
検査値
転位性低Na血症有効浸透圧βヒドロキシ酪酸

🧠 全体像:高血糖患者では最初にとを除外する。治療は輸液、K評価・補充、インスリン、誘因治療を並行し、血糖値だけでなく、pH/HCO₃⁻、浸透圧、意識、循環を追跡する。

入院中高血糖

入院中血糖 >7.8 mmol/L(140 mg/dL超)は高血糖で、既知糖尿病、ストレス、感染、手術、栄養、ステロイドなどで起こる。24時間内に2回確認された ≥10.0 mmol/L(180 mg/dL以上)の持続高血糖から治療開始・強化を考える1。単独ではなく基礎を含むレジメンを摂食状況に合わせる1。

⚠️ 目標域は重症度で分かれる。「非重症では7.8〜10.0 mmol/L」ではない。 現行のADA基準は、重症()患者で140〜180 mg/dL(7.8〜10.0 mmol/L)、非重症(非)患者では低血糖を来さない範囲で100〜180 mg/dL(5.6〜10.0 mmol/L) を目標とする1。7.8〜10.0 mmol/Lという値は側の目標であって非重症例の下限ではない。厳格化の是非は-SUGAR試験で決着しており、80〜110 mg/dLを狙った群は140〜180 mg/dL群より死亡率が高く(27.5%対25%)、低血糖が10〜15倍であった1。終末期、進行した腎不全・透析、低血糖高リスク例では250 mg/dL(13.9 mmol/L)程度まで許容してよい1。

DKAとHHSの診断

項目
血糖 糖尿病既往または ≥11.1 mmol/L ≥33.3 mmol/L
ケトン ≥3.0 mmol/L または2+以上 <3.0 mmol/L
酸塩基 pH <7.3 またはHCO₃⁻ <18 mmol/L pH ≥7.3、HCO₃⁻ ≥15 mmol/L
浸透圧 可変 >300 または総浸透圧 >320 mOsm/kg
臨床 悪心、腹痛、、脱水 、意識・局在神経症状、痙攣

とは混合し得る。このは2024年のADA/EASD/JBDS/AACE/DTS国際合意によるもので、2001年・2009年のADA声明を更新したものである。高血糖(または糖尿病既往)だけでは足りず、ケトン上昇と代謝性アシドーシスの2項目を伴って初めてと診断する2。

⚠️ は例外ではなく、の約10%を占める。 血糖 <11.1 mmol/L(200 mg/dL未満)でもとアシドーシスの基準を満たせばである。誘因は注射、摂食低下、妊娠、アルコール・肝不全による糖新生障害、そして阻害薬で、近年はの大半を阻害薬が占める2。1型糖尿病で阻害薬を使うとリスクは非使用者の5〜17倍になりうる(2型では1,000あたり0.6〜4.9件と稀で、無作為化試験のでは相対危険2.46)3。正常近い血糖だけでを除外しない。

💡 重症度は「酸の深さ」と意識で決め、療養場所に直結する。 2024年合意はを次のように定め、軽症は静注ではなく皮下インスリンの適応になりうるとする2。

重症度 酸塩基 意識 目安の療養場所
軽症 pH 7.25超7.30未満、またはHCO₃⁻ 15〜18 mmol/L 3.0〜6.0 mmol/L 清明 一般病棟・観察病床
中等症 pH 7.0〜7.25、またはHCO₃⁻ 10以上15未満 mmol/L 3.0〜6.0 mmol/L 清明〜傾眠 準
重症 pH <7.0、またはHCO₃⁻ <10 mmol/L >6.0 mmol/L 〜昏睡

すべての項目を満たす必要はなく、最終的な療養場所は臨床判断で決める2。

初期評価

  • ABC、意識、体重、、入出量、心電図、感染・虚血・薬剤中断など誘因を評価する。
  • 血糖、電解質、尿素・クレアチニン、静脈血pH、HCO₃⁻、、血算、浸透圧を測定する。
  • 、、Kを計算し、感染、心筋梗塞、脳卒中、膵炎、妊娠、ポンプ故障を病態別に検索する。誘因薬剤としてグルココルチコイド、抗精神病薬、、阻害薬を確認する3。

💡 は一次基準から降格した。 大量のによる高クロール性正常アシドーシスが治療後によく生じ、これを遷延すると取り違えると皮下インスリンへの移行が遅れる。2024年合意はを一次的なにも寛解基準にもしないとし、ケトンが測れない環境での代用にとどめる2。同じ理由で、がへ変換されるにはを寛解の判定に使わない2。

治療

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='diabetic ketoacidosis'>DKA</span>/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hyperosmolar hyperglycemic state'>HHS</span>を認識"] --> B["輸液+K・腎心機能評価"]
    B --> C{"K <3.5 mmol/L?"}
    C -->|"はい"| D["K補充を先行しインスリン保留"]
    C -->|"いいえ"| E["静注インスリン開始"]
    D --> E
    E --> F["血糖・K・ケトン・pH・浸透圧を反復"]
    F --> G["血糖低下後はブドウ糖追加し<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ketosis'>ケトーシス</span>解消まで継続"]
    G --> H["皮下基礎・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bolus (prandial) insulin'>追加インスリン</span>へ重複移行"]

輸液

心腎不全がなければ等張生食またはを初期に投与し、血圧、尿量、Na、浸透圧で速度・組成を調整する。高齢者、心不全、腎不全では少量と頻回再評価を用いる。では浸透圧を急速に下げない——血糖の低下は5〜6.7 mmol/L/時(90〜120 mg/dL/時)以内、血清Naの低下は24時間で10 mmol/L以内、浸透圧の低下は3.0〜8.0 mOsm/kg/時以内を目安とし、脳浮腫を避ける2。は総浸透圧320 mOsm/kg以上を重視し、著明ながなければ補液のみで浸透圧が下がらなくなってからインスリンを始めるという運用もある4。

Kとインスリン

総Kは欠乏していても初期血清Kは正常〜高値になり得る。K <3.5 mmol/L なら補充を先行し、上昇までインスリンを待つ2。通常は持続静注を 0.1 U/kg/時 の固定速度で開始し(に時間がかかるときは0.1 U/kgのを先行してよい)、純粋はより低用量を用いる2。血糖が13.9 mmol/L(250 mg/dL)未満へ低下したら5〜10%ブドウ糖を加えてインスリンを0.05 U/kg/時へし、血糖を約11.1 mmol/L(200 mg/dL)に保ったまま・アシドーシス解消までインスリンを続ける2。

はルーチン投与せず、重度(概ねpH <7.0)で検討する2。リンもルーチン補充せず、重度低値や心肺・筋症状があれば補う(必要時はリン酸カリウム20〜30 mmolを補液に加える)2。

終了と再発予防

は血糖だけでなく低下とpH/HCO₃⁻回復、は浸透圧・意識・循環の回復で終了を判断する。2024年合意の寛解基準は、では血中ケトン <0.6 mmol/L かつ静脈血pH ≥7.3 またはHCO₃⁻ ≥18 mmol/L(望ましくは血糖も11.1 mmol/L未満)である2。静注終了前に皮下を1〜2時間以上重複し、原因、、ケトン測定、薬剤アクセス、ポンプ設定を修正する。

まとめ

  • は高血糖・・アシドーシスの3要素、は高度高血糖・・脱水で診断する。
  • 輸液、K、インスリンの順序と反復測定が治療の安全性を決める。
  • 血糖正常化だけで治療終了せず、/アシドーシスまたは浸透圧・意識の回復を確認する。

出典

  1. 1.16. Diabetes Care in the Hospital: Standards of Care in Diabetes—2026(American Diabetes Association・2026)入院中の高血糖を血糖140 mg/dL(7.8 mmol/L)超と定義すること、推奨16.4a・16.4bで重症・非重症を問わず24時間内に2回確認された180 mg/dL(10.0 mmol/L)以上の持続高血糖からインスリン等の治療を開始・強化すること、推奨16.5aで重症(ICU)患者の目標を140〜180 mg/dL(7.8〜10.0 mmol/L)とすること、推奨16.5bで非重症(非ICU)患者の目標を100〜180 mg/dL(5.6〜10.0 mmol/L)とすること、NICE-SUGAR試験で80〜110 mg/dLの厳格管理は140〜180 mg/dL群より死亡率が高く(27.5%対25%)低血糖が10〜15倍であったこと、推奨16.10で基礎インスリンを伴わない補正インスリン単独(旧称スライディングスケール)を推奨しないことを確認した。閲覧 2026-08-25
  2. 2.Hyperglycaemic crises in adults with diabetes: a consensus report(ADA / EASD / JBDS / AACE / DTS・2024)全文を確認した。2001年・2009年のADA声明を更新した2024年国際合意である。高血糖または糖尿病既往に加えてケトン上昇と代謝性アシドーシスの2項目を要するDKA診断、DKAの約10%が血糖11.1 mmol/L(200 mg/dL)未満の正常血糖DKAであり近年その大半をSGLT2阻害薬が占めること、βヒドロキシ酪酸3.0 mmol/L以上をケトン血症の基準とし尿ケトンより血中βヒドロキシ酪酸の直接測定を推奨すること、アニオンギャップは高クロール性アシドーシスの影響を受けるため一次的な診断・寛解基準にしないこと、表2でDKAの重症度を軽症(pH 7.25超7.30未満またはHCO₃⁻ 15〜18、βヒドロキシ酪酸3.0〜6.0、意識清明)・中等症(pH 7.0〜7.25、HCO₃⁻ 10以上15未満、βヒドロキシ酪酸3.0〜6.0、清明〜傾眠)・重症(pH 7.0未満、HCO₃⁻ 10未満、βヒドロキシ酪酸6.0超、昏迷〜昏睡)に分け、それぞれ一般病棟・準集中治療室・ICUを目安の療養場所とすること、インスリンは0.1 U/kg/時の固定速度静注で開始し血糖13.9 mmol/L(250 mg/dL)未満で5〜10%ブドウ糖を追加して0.05 U/kg/時へ減速し血糖約11.1 mmol/L(200 mg/dL)を保つこと、K 3.5 mmol/L未満ではインスリンを遅らせK補充を先行すること、重炭酸のルーチン投与は推奨されずpH 7.0未満の重度アシドーシスで考慮すること、DKAの寛解基準が血中ケトン0.6 mmol/L未満かつ静脈血pH 7.3以上またはHCO₃⁻ 18 mmol/L以上(望ましくは血糖11.1 mmol/L未満)であること、HHSでは血糖低下速度を5〜6.7 mmol/L/時(90〜120 mg/dL/時)以内、血清Naの低下を24時間で10 mmol/L以内、浸透圧の低下を3.0〜8.0 mOsm/kg/時以内に抑えることを確認した。閲覧 2026-08-25
  3. 3.6. Glycemic Goals, Hypoglycemia, and Hyperglycemic Crises: Standards of Care in Diabetes—2026(American Diabetes Association・2026)1型糖尿病でSGLT2阻害薬を使う場合のDKAリスクが非使用者の5〜17倍になりうること、1型糖尿病を対象とした臨床試験で空腹時βヒドロキシ酪酸0.8 mmol/L以上が翌月のDKAリスクを3.2倍にしたこと、2型糖尿病でのSGLT2阻害薬関連DKAは1,000患者年あたり0.6〜4.9件と稀で無作為化試験のメタ解析で相対危険2.46(95%CI 1.16〜5.21)であること、グルココルチコイド・抗精神病薬・免疫チェックポイント阻害薬・SGLT2阻害薬がDKA/HHSの誘因薬剤であること、妊娠例では血糖200 mg/dL(11.1 mmol/L)未満の正常血糖DKAを呈しうることを確認した。閲覧 2026-08-25
  4. 4.Management of Hyperosmolar Hyperglycaemic State (HHS) in Adults: An updated guideline from the Joint British Diabetes Societies (JBDS) for Inpatient Care Group(Joint British Diabetes Societies for Inpatient Care Group・2023)HHSでは総浸透圧320 mOsm/kg以上を重視し、著明なケトン血症がなければ補液のみで浸透圧が低下しなくなってからインスリンを開始する。閲覧 2026-08-25