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Disease Atlas · 内分泌・代謝 · 疾患

先天性甲状腺機能低下症

Congenital hypothyroidism

別名
CH
臓器系
内分泌・代謝
科目
Pediatrics
トピック
小児科 3-20:小児甲状腺疾患小児科 37:甲状腺疾患
上位概念
甲状腺機能低下症
鑑別疾患
新生児黄疸・高ビリルビン血症
関連疾患
フェニルケトン尿症先天代謝異常症
治療薬
レボチロキシン
症状
傾眠遷延性黄疸便秘嗄声
原因となる疾患
ダウン症候群(21トリソミー)

🧠 全体像:は、予防可能なの原因として世界で最も頻度が高い病態の一つである。母体からのT4移行により出生時にはほぼ無症状であることが多く、症状が出そろってから気づいたのでは遅い。だからこそが存在し、生後数週間以内にを開始できるかどうかが、その後一生続くを左右する。診断確定のための病因検索(画像検査など)を理由に治療開始を遅らせてはならない、というのが本疾患を貫く一本の原則である。

病態

は、障害される部位と経過により大きく4つに分けられる。

分類 頻度の目安 主な機序
甲状腺形成異常(・・低形成) 原発性の中で最多(全体の約80〜85%) 甲状腺の発生過程の異常。多くはで、遺伝子変異(PAX8、NKX2-1、TSHR など)が同定されるのは一部にとどまる
原発性の約10〜15% ()、(TG)、DUOX2 などヨウ素取り込み・・に関わる酵素の性欠損。正所性だが甲状腺腫大を伴うことが多い
中枢性(視床下部・下垂体性) まれ(での報告値は出生1:30,000〜1:16,000)1 下垂体・視床下部の形成異常やの一部として生じる。単独ではなく他の系も障害されうる
一過性 頻度は地域差が大きい 母体の遮断型抗受容体抗体、母体の内服、ヨウ素過剰または欠乏への曝露、早産・に伴うの未成熟など
flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='congenital hypothyroidism'>先天性甲状腺機能低下症</span>"] --> B["甲状腺自体の障害(原発性)"]
    A --> C["視床下部・下垂体の障害(中枢性)"]
    A --> D["一過性の原因"]
    B --> E["甲状腺形成異常<br>(無形成・異所性・低形成)"]
    B --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dyshormonogenesis'>ホルモン合成障害</span><br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thyroid peroxidase'>TPO</span>・TG・DUOX2などの酵素欠損)"]
    E --> G["原発性の中で最多"]
    F --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='autosomal recessive inheritance'>常染色体潜性遺伝</span>、しばしば甲状腺腫大"]
    C --> I["他の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anterior pituitary hormone'>下垂体前葉ホルモン</span>欠乏を伴いうる"]
    C --> J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thyroid-stimulating hormone'>TSH</span>単独のスクリーニングでは見逃し得る"]
    D --> K["母体<span class='jp-term jp-term-diagram' title='blocking antibody'>遮断性抗体</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='antithyroid drug'>抗甲状腺薬</span>・ヨウ素過剰/欠乏・早産"]
    K --> L["多くは経過とともに自然正常化する"]

💡 「原発性か中枢性か」を分けるロジックは成人の甲状腺機能低下症と同じで、の挙動で見分ける。ただし新生児では、のみを測るスクリーニング戦略だと中枢性が体系的に見逃されるという固有の弱点がある点が診断の節で重要になる。

⭐ など一部の染色体異常ではの頻度が一般人口よりも著明に高く、周産期には特に注意して評価する。欧州の合意指針はではの終わりにを測定することを推奨している1。

臨床像

母体由来のT4が胎盤を通過するため、出生時はほとんどの児で症状に乏しく、だけでは診断できない。これがを必須にしている最大の理由である。

未治療のまま経過すると、数週間かけて次第に所見が顕在化する。

  • 、傾眠傾向
  • 便秘
  • 嗄声(かすれた泣き声)
  • 、腹部膨満
  • 粗造・の、低体温

⚠️ これらの所見が揃うのを待って診断してはならない。が明らかになった時点で治療を開始しても、中枢神経系の障害はすでに一部不可逆となっている可能性がある。が恐れられる本質的な理由は、無治療または治療開始の遅れが重度の・聴覚障害・言語発達障害という不可逆的な転帰に直結する点にある。

診断

新生児マススクリーニング

は、から採取したでおよび/またはT4を測定する。⚠️ 採血時期とは国・地域で異なる。 出生直後の生理的サージによる偽陽性を避けるため生後24〜72時間ごろに採取するプログラムがある一方、日本では4〜6に外縁部から採血したでを測る方式(一次法)が標準である2。スクリーニング戦略には2通りがある。

戦略 検出しやすいもの 弱点
を一次項目とする戦略(primary ) 原発性(高値)を高感度に検出 中枢性(が上昇しない)を系統的に見逃す。上昇が遅れて出現する例も再検のタイミング次第で見逃しうる
T4を一次項目としを二次確認する戦略(primary T4) 中枢性も含めて検出できる 早産児・・重症疾患児でT4が生理的に低くなりやすく、偽陽性による再検が増える

いずれの戦略でも、スクリーニング陽性(異常値)となった児は、結果を待つ間も含めて速やかに血清・遊離T4()によるに進む。日本の指針では、初回が陽性基準(15〜30 mIU/L)を上回れば即精密検査、7.5〜15 mIU/Lなら2回目採血を行い14までに最終判定する2。

確認検査と治療開始の判断

  • 血清が明らかに高値かつが低値であれば、原発性として直ちに治療を開始する。日本の指針は、血清 30 mIU/L以上、または 15〜30 mIU/Lかつ低値を「直ちに治療開始」の基準としている2。
  • が境界域(軽度上昇にとどまる、または生後の再検時点でなお高値が持続する)でが正常〜軽度低値の場合も、専門医と相談のうえ治療開始を優先する判断が推奨される。確定診断のための病因検索を理由に治療を遅らせてはならない。
  • 中枢性が疑われる場合(が低値〜であるにもかかわらずが低値)は、他の系(副腎系を含む)を先に評価する。

病因の同定(治療と並行して行う)

・(または)により、甲状腺の存在部位・大きさ・取り込みを評価し、甲状腺形成異常(無形成・異所性・低形成)と(正所性で腫大した腺)を区別する。ただしこれらの画像検査は治療開始を待つ理由にはならず、開始後に並行して行う。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='newborn mass screening'>新生児マススクリーニング</span><br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dried blood spot'>乾燥濾紙血</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='thyroid-stimulating hormone'>TSH</span>/T4。日本は<span class='jp-term jp-term-diagram' title='postnatal age in days'>日齢</span>4〜6)"] --> B{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cut-off'>カットオフ</span>を超えるか"}
    B -->|"陰性"| C["スクリーニング終了"]
    B -->|"陽性"| D["直ちに血清<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thyroid-stimulating hormone'>TSH</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='free thyroxine'>FT4</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='confirmatory test'>確認検査</span>"]
    D --> E{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thyroid-stimulating hormone'>TSH</span>高値・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='free thyroxine'>FT4</span>低値が明確か"}
    E -->|"はい"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='confirmatory test'>確認検査</span>の結果を待たず<span class='jp-term jp-term-diagram' title='levothyroxine, LT4'>レボチロキシン</span>を直ちに開始"]
    E -->|"境界域"| G["専門医と相談しつつ治療開始を優先"]
    F --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thyroid ultrasonography'>甲状腺超音波</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='scintigraphy'>シンチグラフィ</span>で病因検索<br>(治療と並行、治療を遅らせない)"]
    G --> H
    H --> I["定期的な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thyroid-stimulating hormone'>TSH</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='free thyroxine'>FT4</span>、成長・発達を追跡"]
    I --> J["一過性が疑われる例は3歳以降に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='drug holiday (treatment interruption)'>休薬</span>トライアルを検討"]

治療・管理

初期治療

⭐ 単剤を、病因検索の結果を待たずに、可能な限り早く開始する。欧州の合意指針は「可能な限り早く、遅くとも生後2週まで(二次スクリーニングで発見された場合はの直後)」の開始を推奨する1。開始量は上限15 µg/kg/日までで、治療前が5 pmol/L未満といった重症の原発性には最も高い10〜15 µg/kg/日を用い、軽症度やに応じて調整する。日本の指針も10〜15 µg/kg/日を1日1回、最重症例では15 µg/kg/日で開始するとし、サブクリニカルCHでは3〜5 µg/kg/日で治療しうるとしている2。

⚠️ 、カルシウム製剤、大豆由来成分(など)、、イオン、ニューはの吸収を妨げるため、同時投与を避け服用間隔を空ける2。

モニタリング

時期 頻度の目安
治療開始直後 開始後1週(開始量が15 µg/kg/日に近い例では遅くとも1週)・2週・4週に・を確認。以後、血清が完全に正常化するまで2週ごと
生後6か月まで おおむね1〜2か月ごと
生後6か月〜1歳 おおむね1〜3か月ごと(日本の指針は1歳まで1か月ごと)
1〜3歳 おおむね2〜4か月ごと
3歳以降(成長完了まで) おおむね3〜6か月ごと(日本の指針は1歳以降、成人期まで3〜4か月ごと)

⭐ をできるだけ速やかに正常化させることが、正常な知能予後と関連するとされる指標である。欧州の合意指針は4週以内の正常化を第2のに掲げ、正常化するまで2週ごとに評価することを求めている1。日本の指針では、10〜15 µg/kg/日で治療した重症例の多くはが3日以内に、が2〜4週で正常域に入るとされる2。は・の値に加え、、聴覚評価、発達評価(言語・運動発達のマイルストーン)を総合して行う。中枢性ではが調整指標として使えないため、を中心にモニタリングする点は成人の中枢性甲状腺機能低下症と同じ考え方である。

一過性か永続性かの再評価

一過性の原因(母体、母体、ヨウ素曝露、早産など)が疑われ、かつ画像検査で甲状腺が正所性・正常サイズであるなどを積極的に示す所見に乏しい例では、3歳以降(中枢神経系の発達における感受性の高い時期を過ぎた後)に、慎重な監視下でを一時的に中止し、数週後に・を再検してか一過性かを判定するトライアルが行われる2。日本の指針は、月齢12で1.7 µg/kg/日未満、24で1.45 µg/kg/日未満、36で1.25 µg/kg/日未満という低用量で機能が安定している児は一過性の可能性が高く、早期中止を考慮してよいとしている。が明らかな例(明らかな甲状腺形成異常、の遺伝学的など)では、このトライアルは行わず生涯にわたる補充を継続する。

まとめ

  • は出生時にほぼ無症状のことが多く、だけに頼らずで拾い上げることがを守る唯一の方法である。
  • 原発性の主因は甲状腺形成異常(無形成・異所性・低形成)で、次いで(の酵素欠損)が続く。中枢性はまれだが単独のスクリーニングでは見逃し得る。一過性の原因(母体抗体・・ヨウ素曝露・早産)も念頭に置く。
  • 未治療・治療開始の遅れは不可逆的な・聴覚/に直結するため、で高値・低値が明確なら病因の画像検索を待たずにを直ちに開始する。
  • 開始量は重症例で10〜15 µg/kg/日(上限15 µg/kg/日)を目安に、遅くとも生後2週までの開始との速やかな正常化を目指す。以後は年齢に応じた間隔で・、成長、聴覚、神経発達を追跡する。
  • 一過性が疑われる例では3歳以降にトライアルを行い、か一過性かを再評価する。

出典

  1. 1.Congenital Hypothyroidism: A 2020-2021 Consensus Guidelines Update-An ENDO-European Reference Network Initiative Endorsed by the European Society for Pediatric Endocrinology and the European Society for Endocrinology(European Society for Paediatric Endocrinology / European Society of Endocrinology(ENDO-ERN)・2021)全文を閲覧し次を確認した。原発性先天性甲状腺機能低下症の頻度は1/3000〜1/2000、中枢性の報告値は最も高いもので約1/16,000である。原発性の検出に最も感度が高いのはTSH測定であり、財源が許すなら中枢性を拾うためTSHに総T4またはFT4を加えることを提案する(2/++0)。治療は「可能な限り早く、遅くとも生後2週まで(二次スクリーニングで発見された例は確認検査の直後)」に開始し(1/++0)、レボチロキシンの開始量は最大15 µg/kg/日まで、治療前FT4が5 pmol/L未満などの重症例には最も高い開始量(10〜15 µg/kg/日)を用いる(1/++0)。中枢性でも重症例(FT4 5 pmol/L未満)は原発性と同じ10〜15 µg/kg/日で開始し、軽症例は過剰治療を避けるため5〜10 µg/kg/日から始める。フォローは開始1〜2週後(開始量が15 µg/kg/日に近い場合は遅くとも1週後)、以後は血清TSHが完全に正常化するまで2週ごと、正常化後は生後12か月まで1〜3か月ごと、12か月〜3歳は2〜4か月ごと、以後は成長終了まで3〜6か月ごととする(1/+00)。Down症候群では新生児期の終わりにTSHを測定することを推奨する。早産・低出生体重・病的新生児では偽陰性がありうるため生後10〜14日ごろの2回目検体採取を考慮してよい閲覧 2026-09-04
  2. 2.Guidelines for Newborn Screening of Congenital Hypothyroidism (2021 Revision)(日本小児内分泌学会マススクリーニング委員会・甲状腺委員会/日本マススクリーニング学会・2023)全文(英語版・日本語原版の双方)を閲覧し次を確認した。日本の新生児マススクリーニングは1979年開始で、CHのスクリーニングはTSH測定により行い、検体は日齢4〜6に足蹠外縁部から採血した濾紙血を用いる(推奨2-2-1)。初回濾紙血TSHが陽性基準(15〜30 mIU/L)を上回れば即精密検査、7.5〜15 mIU/Lなら2回目採血を依頼し(日齢14までに最終判定)、2回目がカットオフ以上なら精密検査とする(2-2-2)。治療開始基準は、臨床チェックリスト2項目以上・大腿骨遠位端骨核出現の遅れ・超音波で甲状腺が同定できないか甲状腺腫がある場合、または血清TSH 30 mIU/L以上、あるいはTSH 15〜30 mIU/LかつFT4低値で直ちに開始する(推奨4-2)。治療はL-T4 10〜15 µg/kg/日を1日1回、最重症例では15 µg/kg/日で開始し(5-1)、サブクリニカルCHでは3〜5 µg/kg/日で治療しうる(5-2)。L-T4の吸収を妨げるものとして大豆乳・鉄剤・カルシウム・胃薬・イオン交換樹脂・ニューキノロン系抗菌薬が挙げられ、同時摂取を避ける(5-3)。フォロー間隔は開始1〜2週後、4週後、以後1歳までは1か月ごと、それ以降成人期までは3〜4か月ごと(5-6)。L-T4を中止しての甲状腺機能再評価・病型診断は3歳以降に行うことを推奨し、月齢12で1.7 µg/kg/日未満、24で1.45未満、36で1.25未満という低用量で安定している児は一過性の可能性が高く早期中止を考慮してよい(8-1)。日本人CHで責任遺伝子が同定される頻度は約20%である(10-2)閲覧 2026-09-04