疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 内分泌・代謝 · 先天性疾患

フェニルケトン尿症

Phenylketonuria

別名
PKUPAH欠損症
臓器系
内分泌・代謝
科目
GeneticsObstetricsPediatricsBiochemistry
トピック
遺伝学 4.6:常染色体劣性遺伝(AR I)遺伝学 4.1:単一遺伝子遺伝産科学 38:遺伝カウンセリングと催奇形学小児科 05:新生児・遺伝スクリーニングと予防医学小児科 2-09:新生児・乳児で疑う遺伝性疾患の特徴生化学 11/1:神経インパルス伝達の分子基盤;アセチルコリンの合成・受容体・アセチルコリンエステラーゼ;シナプス小胞エキソサイトーシスのタンパク質;アドレナリン・ノルアドレナリンの合成と代謝;神経細胞の輸送体
上位概念
先天代謝異常症
合併症
知的発達症
続発疾患
小頭症
関連疾患
先天性甲状腺機能低下症
治療薬
サプロプテリンペグバリアーゼ
症状
けいれん
適応薬
サプロプテリンペグバリアーゼ

🧠 全体像は、の欠損によりをチロシンへ変換できず、とそのが蓄積して脳を傷つける疾患である。この疾患を理解する鍵は「発症前に治療を始められる」という一点に尽きる——には症状がなく、治療を怠って初めて数か月〜2歳ごろまでに不可逆的なが進行する。したがって①で発症前に拾い上げること、②生涯にわたり血中を目標値に保つを継続すること、③PKUの女性が妊娠する際は、児がPKUでなくても母体の高血症だけで胎児に重いが起こりうる(母体PKU症候群)ことの3点が診療の骨格になる。

病態:PAH欠損とBH4欠損は「治療が根本的に違う」

食事から摂取した(Phe)は、通常はによってチロシン(Tyr)へ変換され代謝される。この反応にはPAHのとして(BH4)が必要であり、BH4はPAHだけでなく(TH、ドパミン合成の)・(TPH、セロトニン合成)のも兼ねる1

flowchart TD
    A["食事中の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Phe'>フェニルアラニン</span>"] --> B{"PAH(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='phenylalanine hydroxylase, PAH'>フェニルアラニン水酸化酵素</span>)は働くか"}
    B -->|"PAH遺伝子の異常(PAH欠損症)"| C["Pheが蓄積・血中Phe上昇"]
    B -->|"BH4合成・再生系酵素の異常(BH4欠損症)"| D["PAH酵素活性が二次的に低下"]
    D --> E["同じBH4を使うTH・TPHも同時に働けなくなる"]
    E --> F["ドパミン・ノルアドレナリン・セロトニンも欠乏"]
    C --> G["フェニルピルビン酸などの<span class='jp-term jp-term-diagram' title='metabolite'>代謝産物</span>も増加"]
    G --> H["脳構築障害・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intellectual disability'>精神発達遅滞</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dietary therapy'>食事療法</span>で対応)"]
    F --> I["神経伝達物質欠乏によるうつ症状など<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dietary therapy'>食事療法</span>だけでは対応できない)"]

⚠️ PAH欠損症とBH4欠損症は治療がまったく違う。 PAH欠損症(本項の対象の大部分)はでPhe摂取を制限すれば管理できるが、BH4欠損症はBH4合成・再生系の酵素自体が働かないため、Phe制限だけでは神経伝達物質の欠乏を防げず、BH4補充と神経伝達物質前駆体の投与が必要になる。両者は陽性の時点では区別できず、プテリジン分析・DHPR酵素活性測定・BH4で鑑別する1

疫学

日本では開始から2021年度までの40余年間に高血症(PKU・BH4反応性高Phe血症・BH4欠損症を含む)が800人発見され、発生頻度はおよそ7万出生に1人(全国で年間10人前後)である。病型別にはPKUが約9万人に1人、軽症高Phe血症・軽症PKUが約16万人に1人、BH4反応性高Phe血症がPAH欠損症の約25〜30%、BH4欠損症が約170万人に1人と推定されている。海外では日本より頻度が高く、米国は約1万5千人に1人と報告されている1

新生児マススクリーニングと診断

には症状がないため、診断はが起点になる。乾燥で血中Phe値を測定し、2 mg/dL(120 µmol/L)以上で精査(血漿アミノ酸分析)に進む(0.7〜1.8 mg/dL)。精査で血中Phe値が6 mg/dL(360 µmol/L)以上であれば、結果を待たずにBH4・1回(BH4 10 mg/kgをし、負荷前後4・8・24時間の血中Phe値とプテリジン分析を行う)を実施する。PKUまたはDHPR欠損症では負荷前後で変化がなく、BH4欠損症(DHPR欠損症を除く)では血中Pheが正常化し、BH4反応性高Phe血症では前値より20%以上低下する1

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='newborn mass screening'>新生児マススクリーニング</span>:血中Phe 2mg/dL(120μmol/L)以上"] --> B["血漿アミノ酸分析(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='high-performance liquid chromatography'>HPLC</span>またはLC/MS)"]
    B --> C{"血中Phe値は6mg/dL(360μmol/L)以上か"}
    C -->|"未満"| D["新生児一過性高Phe血症・軽症高Phe血症<br>(多くは治療不要、経過観察)"]
    C -->|"以上"| E["BH4・1回<span class='jp-term jp-term-diagram' title='challenge test'>負荷試験</span>(10mg/kg)を直ちに実施"]
    E --> F{"負荷前後の血中Phe変化"}
    F -->|"変化なし"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='classic form'>古典型</span>PKU、またはDHPR欠損症"]
    F -->|"正常化"| H["BH4欠損症(DHPR欠損症を除く)"]
    F -->|"前値より20%以上低下"| I["BH4反応性高Phe血症"]
    G --> J["PAH・PTPS・DHPR・DNAJC12遺伝子の<br>遺伝子解析で病型を確定"]
    H --> J
    I --> J

PAH欠損症、BH4欠損症、DNAJC12欠損症(PAHなどの構造を安定化するの異常でBH4欠損症と同様の病態を呈する)のいずれも、確定診断には2アレルの同定を要する。無治療時のPhe値が20 mg/dL(1200 µmol/L)以上を「PKU」と表現することがあるが、無治療時のPhe値は摂取量に左右されるため、Phe値だけによる厳密なに一定した基準はない1

臨床像(未治療の場合)

には症状がない。で発見されず、または無治療のまま放置すると、生後数か月〜2歳ごろまでに脳の発達障害が進行し、けいれん、重度の・行動上の問題を来す。特有の尿臭(ネズミ尿臭・カビ臭)、茶髪、色白、湿疹がみられることもある1

治療

食事療法(PAH欠損症の中心)

Pheを含む自然タンパクの摂取を厳しく制限し、Pheを除去した治療用特殊ミルクでエネルギー・・微量栄養素を補う。値を妊婦を含む全年齢で6 mg/dL(360 µmol/L)未満に保つようPhe摂取量を調整するのが原則で、症例ごとにPhe量は大きく異なるため、摂取量の目安より目標血中Phe濃度を保つことを優先する1。診断確定を待たず、無治療時Phe値が20 mg/dL(1200 µmol/L)以上ならPhe除去ミルクのみ、それ未満なら普通ミルクと半量ずつ用いて開始し、数日〜1週間程度で血中Phe値を10 mg/dL(600 µmol/L)以下に下げる。Pheはであるため、Phe除去ミルクのみを摂取する期間が7〜10日間を超えることは避ける1

薬物療法

病型・状況 治療
BH4反応性高Phe血症 BH4製剤()を全年齢で導入。1週間投与試験でPheが30%以上低下すれば適応と判定し、血中Phe 6 mg/dL未満を維持しながら必要最少量へする1
成人PAH欠損症全般 :Pheをアンモニアとケイ皮酸に分解する酵素(アンモニア)をした注射剤で、PAHに依存せず血中Phe値を低下させる。日本では2023年に保険収載された
BH4反応性PKUでの併用が要る場合 (2025年7月28日、生後1か月以上のBH4反応性PKUに対しとの併用でFDA承認)2
BH4欠損症(DHPR欠損症を除く) は原則不要で、速やかな神経伝達物質(L-ドパ・5-HTPなど)の補充療法が中心となる

成人期以降

治療を中断すると成人でも注意力・の低下やうつ症状などの神経心理学的な問題が生じうるため、成人期以降も生涯にわたる血中Phe管理(360 µmol/L以下3)が推奨される。

母体フェニルケトン尿症症候群

PKUの女性が管理不良のまま妊娠すると、児がPKUを受け継いでいなくても、母体の高血症そのものが胎盤を介して胎児に達し、を来す(母体PKU症候群)。目標は妊娠中を通じて母体血中Phe濃度を120〜360 µmol/Lに維持することであり、これを達成できなかった母体群の児ではがおよそ16.4%、がおよそ26.1%、がおよそ27.9%に生じたとする報告がある4

⚠️ の障害作用は胎生早期(受胎後数週)から始まる。 多くの女性が妊娠に気づく前の時期にの重要な時期が来るため、妊娠が判明してからを強化するのでは遅い。PKUの女性には妊娠を計画する前からを再開・継続するよう指導することが、母体PKU症候群を防ぐ唯一確実な方法である4

まとめ

  • PKUはPAH欠損によりPheとそのが蓄積する疾患で、は無症状のまま脳の発達障害だけが進行するため、によるが生命線になる。
  • スクリーニング陽性(血中Phe 2 mg/dL以上)で精査し、6 mg/dL以上ならBH4でPAH欠損症・BH4欠損症・BH4反応性高Phe血症を鑑別する。BH4欠損症はPhe制限だけでは治療できない。
  • は全年齢で血中Phe 6 mg/dL(360 µmol/L)未満。が基本で、BH4反応性例にはBH4製剤、成人にはという選択肢がある。
  • 母体PKU症候群:PKUの女性が管理不良のまま妊娠すると、児がPKUでなくてもを来しうる。妊娠に気づく前からの食事管理が予防の鍵。

出典

  1. 1.新生児マススクリーニング対象疾患等診療ガイドライン2025 フェニルケトン尿症および類縁疾患(日本先天代謝異常学会・2025)日本での新生児マススクリーニング開始から2021年度までの40余年間で高フェニルアラニン血症(PKU・BH4反応性高Phe血症・BH4欠損症を含む)が累積800人発見され発生頻度が約7万出生に1人であること(病型別に古典型PKUが約9万人に1人、軽症高Phe血症・軽症PKUが約16万人に1人、BH4欠損症が約170万人に1人)、米国の頻度が約1万5千人に1人であること、スクリーニング基準(血中Phe 2mg/dL・120μmol/L以上で精査)と血中Phe値6mg/dL・360μmol/L以上でBH4負荷試験を行う診断フローチャート、確定診断後の治療目標が全年齢を通じ血中Phe 6mg/dL・360μmol/L未満であること、BH4・1回負荷試験(10mg/kg)でPheが前値より20%以上低下すればBH4反応性高Phe血症と診断すること、無治療時Phe値が20mg/dL・1200μmol/L以上を古典型PKUと表現することがあることを確認した。閲覧 2026-08-11
  2. 2.Phenylalanine hydroxylase deficiency diagnosis and management: A 2023 evidence-based clinical guideline of the American College of Medical Genetics and Genomics (ACMG)(American College of Medical Genetics and Genomics・2023)PKUでは血中フェニルアラニンを生涯にわたり360 µmol/L以下に維持することが推奨され、知能予後の改善と関連することを確認した。閲覧 2026-08-02
  3. 3.Maternal Phenylketonuria and Offspring Outcome: A Retrospective Study with a Systematic Review of the Literature(Nutrients・2025)母体フェニルケトン尿症症候群において妊娠中を通じた目標血中フェニルアラニン濃度が120〜360 µmol/Lであること、この管理目標を達成できなかった母体群(tP−)由来の児では先天性心疾患がおよそ16.4%(117例中)、小頭症がおよそ26.1%(441例中)、精神発達遅滞がおよそ27.9%(472例中)に生じたこと、高フェニルアラニン血症が胎生早期(embryogenesis)の段階で不可逆的な障害を及ぼすため妊娠に気づく前の受胎前からの食事管理が重要であることを確認した。閲覧 2026-08-11
  4. 4.SEPHIENCE (sepiapterin) oral powder — FDA label(FDA・2025)2025年7月28日、BH4反応性PKUの成人・小児患者(生後1か月以上)に対しセピアプテリンがフェニルアラニン制限食との併用でFDA承認されたことを確認した。閲覧 2026-08-02