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Disease Atlas · 内分泌・代謝 · 先天性疾患

ホロカルボキシラーゼ合成酵素欠損症

Holocarboxylase synthetase deficiency

別名
HCS欠損症HLCS deficiency
臓器系
内分泌・代謝小児
科目
PediatricsMedical Genetics and Immunology (Genetics)
トピック
小児科 2-10:先天代謝異常を疑う状況と初期評価遺伝学 4.6:常染色体劣性遺伝(AR I)
上位概念
複合カルボキシラーゼ欠損症
治療薬
ビオチン
症状
皮疹嘔吐けいれん筋緊張低下
検査値
アシルカルニチン分析乳酸アンモニア

🧠 全体像:(HCS)欠損症は、(MCD)という同じ生化学的終着点に至る2つの原因酵素のうち、「新規結合」を担う側が壊れた病型である。をへ最初に縛りつける酵素が働かないため、いくら食事からを摂っても4つのは活性化されない。⭐ 日本ではこちらが「」のほぼ全例を占める——が欧米では主要な原因である一方、わが国で確認された症例はごく少数にとどまり、日本のMCDではHCS欠損症の診断が優先される。

病態——ビオチンを「結合させる」酵素の欠損

HCS欠損症は、の様式をとるHLCS遺伝子のにより、食事由来の型をアポへ新規に結合させる酵素の活性が低下する疾患である。この結合ができないと、・・・の4酵素が同時に働かなくなり、(MCD)の生化学的異常を呈する。

姉妹疾患であるは、が分解される際にを遊離・回収する酵素の障害であり、HCS欠損症とは酵素反応の入口が異なる(詳しい対比はのノートを参照)。従来はHCS欠損症を新生児(乳児型)、を乳幼児(若年型)に対応づけていたが、⚠️ HCS欠損症にも乳幼児発症例があり、この対応づけは絶対ではない1。

日本での高頻度変異

わが国のHCS欠損症には高頻度変異c.710T>C(p.L237P)とc.780delG(p.G261Vfs*20)があり、症例の80%がいずれかを持つ2。この2つは日本人集団に特異的なと考えられている。

一方、中国人患者28例を対象としたではHLCS遺伝子の変異が同定され(原著はAbstractで18種類〔既知12・新規6〕、Results本文の内訳集計では17種類としており原著内で一致しない)、56アレル中c.1522C>T(p.R508W)が23アレル(41.1%)と最多を占めた3。💡 HLCS遺伝子の変異スペクトラムは民族集団ごとに大きく異なる——日本ではL237Pとc.780delGが主要変異である一方、中国ではp.R508Wが優位という具合に、地域差が大きい点は診断・遺伝カウンセリングの前提として押さえておく。

臨床像

中国人28例のコホートでは、発症年齢の中央値は生後5か月(生後7日〜19か月)であった3。症状を呈した24例の内訳は次のとおりである3。

症状 頻度
皮疹 66.7%(16/24)
嘔吐 62.5%(15/24)
傾眠 29.2%(7/24)
けいれん 12.5%(3/24)

⭐ 状が最も高頻度の手がかりである。 マレーシア人5例の症例集積でも全例が1歳未満で様の皮疹を呈し、うち1例は出生時からの()として発症した。で入院した例は・脳症・代謝性アシドーシスをほぼ全例に、けいれんを半数に伴った4。臨床病型は、MCDに共通する分類(・急性発症型・慢性進行型)に従う2。

新生児マススクリーニングと検査所見

日本ではによるのであり、として、指標は(C5-OH)、は1.0 μmol/Lとされる2。中国人コホートでは、血中C5-OHは治療前中央値7.01 μmol/Lから、治療後には0.35 μmol/Lへ低下した3。

では、乳酸・ピルビン酸・・・3-ヒドロキシ吉草酸・の排泄増加を認める3。・アンモニアも評価する。⚠️ 確定診断にはとの鑑別のため、またはを要する2。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='newborn mass screening'>新生児マススクリーニング</span>でC5-OH高値"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='confirmatory test'>確認検査</span>と並行して<br>ただちに<span class='jp-term jp-term-diagram' title='biotin'>ビオチン</span>投与を開始"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='urinary organic acid analysis'>尿中有機酸分析</span>で<br>MCDに特徴的なパターンを確認"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='genetic analysis'>遺伝子解析</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='enzyme activity assay'>酵素活性測定</span>で<br>HCS欠損症か<span class='jp-term jp-term-diagram' title='biotinidase deficiency'>ビオチニダーゼ欠損症</span>かを鑑別"]
    D --> E["HCS欠損症と確定"]
    E --> F["薬理量の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='biotin'>ビオチン</span>を生涯継続"]

治療

⭐ 原因を問わず、薬理量のので臨床的・生化学的に軽快する点はMCD全体に共通する2。確定診断後は10 mg/日から投与を開始するが、⚠️ 日本のHCS欠損症には重症型が多く、コントロールのため100 mg/日に及ぶ超大量を要する場合がある2。マレーシアの症例集積では、生存例はいずれも1日10〜30 mgで安定し良好な転帰を得ている4。中国人コホートでは追跡できた患者の82.1%(23/28)が健康で神経発達も年齢相応であった一方、10.7%(3/28)が死亡している3——⚠️ によく反応する疾患であっても、診断・治療開始が遅れれば転帰は不良になりうる。

まとめ

  • HCS欠損症は、をへ新規に結合させる酵素のの欠損で、(MCD)の一方の原因である(他方は)。
  • ⭐ 日本のMCDでは、の確認例がごく少数であるため、HCS欠損症の診断が優先される。日本人には高頻度変異c.710T>C(p.L237P)・c.780delGがあり症例の80%を占めるが、中国人ではc.1522C>T(p.R508W)が主要変異というように、変異スペクトラムは民族集団で異なる。
  • 皮疹(を含む)が乳児期の重要な手がかりで、時は・脳症・代謝性アシドーシスを伴いやすい。
  • はC5-OHを指標とし、確定診断にはとの鑑別のため・を要する。
  • 治療は薬理量ので、日本の重症型では100 mg/日に及ぶ超大量を要することがある。反応性の疾患でも、診断・治療の遅れは不良な転帰につながりうる。

出典

  1. 1.Biotinidase Deficiency(GeneReviews (University of Washington, Seattle)・2026)Europe PMC経由でNBK1322の全文XMLを自分で取得して確認した。早発型(乳児型)と呼ばれたのがホロカルボキシラーゼ合成酵素欠損症であり、部分ビオチニダーゼ欠損症(遅発型・若年型と呼ばれた)と混同してはならないこと、新生児マススクリーニングで異常の報告を受けた時点で確認検査と並行してただちにビオチン投与を開始すべきことを確認した。閲覧 2026-09-06
  2. 2.新生児マススクリーニング対象疾患等診療ガイドライン2019 17 複合カルボキシラーゼ欠損症(日本先天代謝異常学会・2019)わが国でのHCS欠損症の発症頻度が100万人に1人であるのに対しビオチニダーゼ欠損症はこれまで確認されたのが数例のみでありわが国の複合カルボキシラーゼ欠損症(MCD)ではHCS欠損症の診断が優先されること、わが国のHCS欠損症には高頻度変異c.710T>C(p.L237P)とc.780delG(p.G261Vfs*20)があり症例の80%がいずれかをもつこと、新生児マススクリーニングの指標が3-ヒドロキシイソバレリルカルニチン(C5-OH)でカットオフ値は1.0 μmol/Lとされること、臨床病型が発症前型・急性発症型・慢性進行型に分けられること、確定診断後の治療がビオチン10 mg/日からの投与であり日本のHCS欠損症には重症型が多くコントロールのため100 mg/日に及ぶ超大量を要する場合があることを確認した。閲覧 2026-09-06
  3. 3.Clinical, biochemical, and genetic analysis of 28 Chinese patients with holocarboxylase synthetase deficiency(Orphanet Journal of Rare Diseases・2023)PMC全文(PMC9997024)を自分で取得して確認した。2006〜2021年に登録された中国人HCS欠損症患者28例で発症年齢中央値が生後5か月(生後7日〜19か月)であったこと、症状のある24例の内訳が皮疹66.7%(16/24)・嘔吐62.5%(15/24)・傾眠29.2%(7/24)・けいれん12.5%(3/24)であったこと、HLCS遺伝子の変異について、Abstractは18種類(既知12・新規6)、Results本文の内訳集計は17種類と記載し原著内で一致しないこと、56アレル中c.1522C>T(p.R508W)が23アレル(41.1%)と最多であったこと、血中C5-OHが治療前中央値7.01 μmol/Lから治療後0.35 μmol/Lへ低下したこと、尿中ピルビン酸・3-ヒドロキシプロピオン酸・メチルクエン酸・3-ヒドロキシ吉草酸・3-メチルクロトニルグリシンが上昇していたこと、追跡できた患者の82.1%(23例)が健康で神経発達も年齢相応であった一方10.7%(3例)が死亡したことを確認した。閲覧 2026-09-06
  4. 4.Holocarboxylase Synthetase Deficiency: Clinical, Biochemical and Molecular Findings in Five Malaysian Patients Including a Newborn Presenting as Collodion Baby(JIMD Reports・2025)ホロカルボキシラーゼ合成酵素(HCS)欠損症のマレーシア人5例のうち1例は出生直後、3例は生後9〜24か月、1例は生後4か月で発症したこと、全例が1歳未満で皮疹(脂漏性皮膚炎様の乾燥性紅斑など)を呈し1例は先天性のコロジオン膜(コロジオン児)として発症したこと、代謝失調で入院した例では呼吸障害・脳症・代謝性アシドーシスが全例に、けいれんが半数にみられたこと、生化学的に3-ヒドロキシイソ吉草酸と3-ヒドロキシイソバレリルカルニチンの上昇が特徴的であったこと、生存した4例全例が1日10〜30mgのビオチン補充で安定し良好な転帰を得たことを確認した。閲覧 2026-09-06