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Disease Atlas · 内分泌・代謝 · 先天性疾患

複合カルボキシラーゼ欠損症

Multiple carboxylase deficiency

別名
マルチプルカルボキシラーゼ欠損症MCD
臓器系
内分泌・代謝神経小児
科目
PediatricsMedical Genetics and Immunology (Genetics)
トピック
小児科 2-10:先天代謝異常を疑う状況と初期評価遺伝学 4.6:常染色体劣性遺伝(AR I)
上位概念
先天代謝異常症
関連疾患
ビオチニダーゼ欠損症
治療薬
ビオチン
症状
発作筋緊張低下皮疹嘔吐
検査値
アシルカルニチン分析乳酸アンモニア
下位分類
ホロカルボキシラーゼ合成酵素欠損症
適応薬
ビオチン

🧠 全体像:(MCD)は、単一の病名ではなく、を扱う2つの酵素のどちらかが壊れたときに共通して現れる「生化学的な行き着き先」の名前である。は4つののであり、①をへ結合させる(HCS)、②結合したを回収して再利用させる——このどちらが欠けても、4酵素が同時に働かなくなるという同じ生化学的異常(=MCD)に至る。⭐ 薬理量のをするだけで、原因を問わず臨床的・生化学的に軽快することが、この病気を「見つければ確実に防げる病気」にしている。

病態——2つの入口、1つの生化学的終着点

は・・・という4つののである。この4酵素の活性が同時に低下した状態を(マルチプル欠損症、MCD)と呼ぶ。原因は次の2つの酵素のいずれかの欠損である1。

flowchart TD
    A["食事中の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='protein binding'>タンパク結合</span>型<span class='jp-term jp-term-diagram' title='biotin'>ビオチン</span>"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='holocarboxylase synthetase'>ホロカルボキシラーゼ合成酵素</span>(HCS)<br>が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='apoenzyme'>アポ酵素</span>へ<span class='jp-term jp-term-diagram' title='biotin'>ビオチン</span>を結合"]
    B --> C["4つの<span class='jp-term jp-term-diagram' title='carboxylase'>カルボキシラーゼ</span>が活性化<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='biotin'>ビオチン</span>依存性)"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='carboxylase'>カルボキシラーゼ</span>が分解されるとき<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='biotinidase'>ビオチニダーゼ</span>が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='biotin'>ビオチン</span>を遊離・回収"]
    D --> A
    E["HCS欠損"] -.->|"新規結合ができない"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='multiple carboxylase deficiency'>複合カルボキシラーゼ欠損症</span>(MCD)"]
    G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='biotinidase deficiency'>ビオチニダーゼ欠損</span>"] -.->|"再利用ができない"| F

⚠️ 「=HCS欠損症、=」という対応づけは絶対ではない。 HCS欠損症にも乳幼児発症例があり、臨床病型(発症時期)と原因酵素は必ずしも一致しない1。したがって発症時期だけで原因酵素を決め打ちしてはならず、またはによる確定診断が必要になる。

いずれもである1。

臨床病型

日本のガイドラインは臨床病型を3つに分ける1。

病型 特徴
で発見される無症状例
急性発症型 ・・けいれん・意識障害で急性発症し、代謝性アシドーシス・・・低血糖・を呈する
慢性進行型 ・反復性の嘔吐・難治性の湿疹(皮疹)

⭐ 状は乳児期の重要な手がかりである。 欠損症の症例報告では、全例が1歳未満で様の皮疹を呈し、うち1例は出生時からの()として発症した3。で入院した例は・脳症・代謝性アシドーシスをほぼ全例に、けいれんを半数に伴った3。

新生児マススクリーニング

日本ではによるのであり、指標は(C5-OH)、は1.0 μmol/Lとされるが施設により若干異なる。C5-OHと同時に(C3)が上昇していればMCDが強く疑われる1。

⚠️ わが国での頻度には大きな偏りがある。 HCS欠損症の発症頻度は100万人に1人であるのに対し、は欧米では6万人に1人とされる一方、わが国でこれまで確認されたのは数例のみで、⭐ わが国のMCDではHCS欠損症の診断が優先される1。わが国のHCS欠損症には高頻度変異c.710T>C(p.L237P)とc.780delG(p.G261Vfs*20)があり、症例の80%がいずれかを持つ1。

検査所見

で、・・・・乳酸の排泄増加というMCDに特徴的なパターンを示す1。欠損症の生化学的特徴はとの上昇である3。・アンモニアも評価する。

確定診断には、HCS欠損症かかを区別するためのまたはを要する1。

治療

⭐ 原因酵素を問わず、薬理量のので臨床的・生化学的に軽快する1。

  • 確定診断後は10 mg/日から投与を開始する。
  • ⚠️ 日本のHCS欠損症には重症型が多く、コントロールのため100 mg/日に及ぶ超大量を要する場合がある1。
  • 症例報告では、生存した患者はいずれも1日10〜30 mgの補充で安定し良好な転帰を得ている3。

スクリーニング異常の報告を受けた時点で、と並行してただちに投与を開始する(診断確定を待たない)2。

まとめ

  • (MCD)は、と(HCS)欠損症のいずれかによって、4つのが同時に働かなくなる生化学的な終着点の名前である。
  • ⚠️ 「=HCS欠損症、=」という対応づけは絶対ではなく、臨床病型と原因酵素の確定には・を要する。
  • 日本ではのC5-OHを指標とするのだが、確認されたはごく少数で、日本のMCDではHCS欠損症の診断が優先される。
  • ⭐ 原因酵素を問わず薬理量ので軽快する。スクリーニング異常の時点で確定診断を待たずに投与を開始する。

出典

  1. 1.新生児マススクリーニング対象疾患等診療ガイドライン2019 17 複合カルボキシラーゼ欠損症(日本先天代謝異常学会・2019)先天性ビオチン代謝異常症がホロカルボキシラーゼ合成酵素(HCS)欠損症とビオチニダーゼ欠損症の2種類に大別され、いずれもプロピオニルCoAカルボキシラーゼ・メチルクロトニルCoAカルボキシラーゼ・ピルビン酸カルボキシラーゼ・アセチルCoAカルボキシラーゼの活性が同時に低下する複合カルボキシラーゼ欠損症(マルチプルカルボキシラーゼ欠損症、MCD)を呈すること、従来はMCDを新生児早発型と乳幼児遅発型に分けおもに前者がHCS欠損症・後者がビオチニダーゼ欠損症にあたるとされたがHCS欠損症にも乳幼児発症例があり臨床病型分類と原因分類は必ずしも一致しないこと、いずれも常染色体劣性遺伝形式をとり薬理量のビオチン(10〜100 mg/日)の経口投与により臨床的・生化学的に軽快すること、いずれも新生児マススクリーニングの一次対象疾患であること、わが国でのHCS欠損症の発症頻度が100万人に1人であるのに対しビオチニダーゼ欠損症は欧米では6万人に1人であるがわが国でこれまで確認されたのは数例のみでありわが国のMCDではHCS欠損症の診断が優先されること、わが国のHCS欠損症には高頻度変異c.710T>C(p.L237P)とc.780delG(p.G261Vfs*20)があり症例の80%がいずれかをもつこと、臨床病型が発症前型(マススクリーニングで発見される無症状例)・急性発症型(呼吸障害・多呼吸・けいれん・意識障害などで急性に発症し代謝性アシドーシス・ケトーシス・高アンモニア血症・低血糖・高乳酸血症を呈する)・慢性進行型(食思不振・反復性の嘔吐・難治性の湿疹)に分けられること、マススクリーニングの指標が3-ヒドロキシイソバレリルカルニチン(C5-OH)でカットオフ値は1.0 μmol/Lとされるが施設により若干異なること、C5-OHと同時にプロピオニルカルニチン(C3)が上昇していればMCDが強く疑われること、尿中有機酸分析で3-ヒドロキシプロピオン酸・メチルクエン酸・3-ヒドロキシイソ吉草酸・3-メチルクロトニルグリシン・乳酸の排泄増加というMCDに特徴的なパターンを示すこと、確定診断がHCS欠損症かビオチニダーゼ欠損症かの鑑別に遺伝子解析または酵素活性測定を要すること、確定診断後の治療がビオチン10 mg/日からの投与であり日本のHCS欠損症には重症型が多くコントロールのため100 mg/日に及ぶ超大量を要する場合があることを確認した閲覧 2026-09-06
  2. 2.Biotinidase Deficiency(GeneReviews (University of Washington, Seattle)・2026)Europe PMC経由でNBK1322の全文XMLを自分で取得して確認した。部分ビオチニダーゼ欠損症がかつて遅発型(若年型)マルチプルカルボキシラーゼ欠損症と呼ばれたこと、早発型(乳児型)と呼ばれたホロカルボキシラーゼ合成酵素欠損症と混同してはならないこと、高度ビオチニダーゼ欠損の未治療例で代謝性ケト乳酸アシドーシス・有機酸尿・軽度の高アンモニア血症がみられること、新生児マススクリーニングで異常の報告を受けた時点で確認検査と並行してただちにビオチン投与を開始すべきことを確認した。閲覧 2026-09-06
  3. 3.Holocarboxylase Synthetase Deficiency: Clinical, Biochemical and Molecular Findings in Five Malaysian Patients Including a Newborn Presenting as Collodion Baby(JIMD Reports・2025)ホロカルボキシラーゼ合成酵素(HCS)欠損症のマレーシア人5例のうち1例は出生直後、3例は生後9〜24か月、1例は生後4か月で発症したこと、全例が1歳未満で皮疹(脂漏性皮膚炎様の乾燥性紅斑など)を呈し1例は先天性のコロジオン膜(コロジオン児)として発症したこと、代謝失調で入院した例では呼吸障害・脳症・代謝性アシドーシスが全例に、けいれんが半数にみられたこと、生化学的に3-ヒドロキシイソ吉草酸と3-ヒドロキシイソバレリルカルニチンの上昇が特徴的であったこと、同定された変異のうちc.1522C>T(p.Arg508Trp)が全変異の50%を占める主要変異で新規変異c.271delも報告されたこと、生存した4例全例が1日10〜30mgのビオチン補充で安定し良好な転帰を得たことを確認した。閲覧 2026-09-06