疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 内分泌・代謝 · 先天性疾患

テトラヒドロビオプテリン欠損症(BH4欠損症)

Tetrahydrobiopterin deficiency

別名
BH4欠損症BH4反応性高フェニルアラニン血症PTPS欠損症DHPR欠損症
臓器系
内分泌・代謝神経
科目
Medical BiochemistryPediatrics
トピック
生化学 11/1:神経インパルス伝達の分子基盤;アセチルコリンの合成・受容体・アセチルコリンエステラーゼ;シナプス小胞エキソサイトーシスのタンパク質;アドレナリン・ノルアドレナリンの合成と代謝;神経細胞の輸送体小児科 3-64:先天代謝異常症
上位概念
先天代謝異常症
鑑別疾患
フェニルケトン尿症
合併症
知的発達症
治療薬
サプロプテリンレボドパ+カルビドパロイコボリン
症状
筋緊張低下
検査値
血漿アミノ酸分析髄液検査

🧠 全体像:欠損症は、名前だけ見ると()の仲間のようだが、実際には「代謝異常」ではなく「そのものの異常」である。()は(PAH)だけでなく、ドパミン・ノルアドレナリンを作る、セロトニンを作るのも兼ねる。だからが作れない、あるいは再生できないと、Pheの蓄積という「と同じ顔」をしながら、同時に神経伝達物質の欠乏という「にはない顔」を持つことになる。⭐ この二重性が診療のすべてを決める。 (製剤)を投与してもPheは下げられるが、脳への移行が乏しいための欠陥までは治せない。だからだけでも、補充だけでも足りず、・といったの補充が必須になる——これがPKUとのの根本的な違いである。

病態——「合成できない」か「再生できない」か

はGTPシクロI・6-ピルボイルテトラヒドロプテリン合成酵素(PTPS)・還元酵素の働きでGTPから新規合成される。生成されたは水酸化反応のたびに酸化され、プテリン-4α-カルビノラミン脱水酵素とジヒドロ還元酵素(DHPR)の働きで繰り返し活性型へ再生される12。

flowchart TD
    A["GTP"] --> B["GTPシクロ<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hydrolase'>ヒドロラーゼ</span>I・PTPS・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='sepiapterin'>セピアプテリン</span>還元酵素による新規合成"]
    B --> C["活性型<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tetrahydrobiopterin'>BH4</span>"]
    C --> D["PAH・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tyrosine hydroxylase'>チロシン水酸化酵素</span>・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='tryptophan hydroxylase'>トリプトファン水酸化酵素</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='coenzyme'>補酵素</span>として働く"]
    D --> E["酸化型<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tetrahydrobiopterin'>BH4</span>(BH2など)が生じる"]
    E --> F["プテリン-4α-カルビノラミン脱水酵素・<br>DHPRによる再生"]
    F --> C
    B -.->|"合成段階の異常<br>(GTPCH1・PTPS欠損)"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tetrahydrobiopterin'>BH4</span>欠損症"]
    F -.->|"再生段階の異常<br>(DHPR欠損)"| G

⚠️ 欠損症は単一の酵素欠損ではない。 新規合成段階(GTPシクロI欠損・PTPS欠損)の異常と、再生段階(DHPR欠損)の異常のどちらでも欠損症になるが、DHPR欠損症だけは治療に別の考慮が要る(後述)2。欠損症全体の頻度は患者の約1〜2%、新生児約50万人あたり1人と見積もられ、そのうちDHPR欠損症が約27%を占め、報告例の約47%が中東地域からである2。日本のガイドラインでは、欠損症は約170万出生に1人と、(約9万人に1人)よりはるかにまれな病型として位置づけられている3。

臨床像

⭐ Pheだけでなくもに依存するため、症状は「的」な部分と「神経伝達物質欠乏」の部分のになる。 から症状が出現しうる1。

  • ・運動異常・・障害・1。
  • 重症型では髄液中の神経伝達物質(ドパミンの、セロトニンのHIAA)が低下するが、軽症(末梢)型では髄液の神経伝達物質濃度に影響しない1。⚠️ 「Pheが下がった=治った」ではない。 末梢のPhe代謝と中枢のは別の経路であり、両方を評価しないと病型の重さを見誤る。
  • 無治療では発達遅滞が進行性に明確になる。一方、生後2か月未満でとの治療を開始できた例は・発達的な予後がより良好で、青年期に発達が改善し成人の多くが正常なIQを示すと報告されている1。

診断

は、生後24〜72時間に採取したのによる(Phe・Tyr濃度)に基づく。⚠️ 生後24時間未満に採取した検体では偽陰性が報告されているため、早すぎる採血だけで否定しない1。

日本のガイドラインでは、血中Phe値が2 mg/dL(120 µmol/L)以上で精査に進み、6 mg/dL(360 µmol/L)以上であれば・1回(10 mg/kg)を行う。PAH欠損症またはDHPR欠損症では負荷前後でPheが変化せず、欠損症(DHPR欠損症を除く)では血中Pheが正常化し、反応性高Phe血症では前値より20%以上低下する3。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='newborn screening'>新生児スクリーニング</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hyperphenylalaninemia'>高フェニルアラニン血症</span>"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tetrahydrobiopterin'>BH4</span>・1回<span class='jp-term jp-term-diagram' title='challenge test'>負荷試験</span>"]
    B --> C{"負荷前後の血中Phe変化"}
    C -->|"変化なし"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='classic phenylketonuria'>古典型PKU</span>、またはDHPR欠損症を疑う"]
    C -->|"正常化"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tetrahydrobiopterin'>BH4</span>欠損症(DHPR欠損症を除く)を疑う"]
    D --> F["尿中プテリン分析(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neopterin'>ネオプテリン</span>・ビオプテリン)<br>とDBS中DHPR活性を測定"]
    E --> F
    F --> G{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neopterin'>ネオプテリン</span>上昇・ビオプテリン低下・<br>DHPR活性正常か"}
    G -->|"はい"| H["PTPS欠損症などの<br>合成段階の異常"]
    G -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neopterin'>ネオプテリン</span>正常〜軽度上昇・<br>ビオプテリン上昇・DHPR活性低下"| I["DHPR欠損症"]
    H --> J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lumbar puncture'>腰椎穿刺</span>で髄液中の<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='neopterin'>ネオプテリン</span>・ビオプテリン・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='homovanillic acid (HVA)'>HVA</span>・HIAAを測定"]
    I --> J

確定診断は、確認されたに加え、尿またはDBS中の上昇・ビオプテリン低下・ビオプテリン/比の低下、かつDBSでのDHPR活性が正常であることで成立する(PTPS欠損症などの合成段階の異常)1。一方DHPR欠損症では、正常またはわずかに上昇したとビオプテリン上昇に加え、DBSまたは血中のDHPR活性の低下・欠如で鑑別される2。中枢神経系での神経伝達物質産生を直接評価するため、で・ビオプテリン・・HIAAを測定するがしばしば行われる1。

治療——PKUとの違いが核心

⚠️ PAH欠損症と欠損症は、同じから出発しても治療のが違う。 PAH欠損症(PKUの大部分)はPhe摂取を制限すれば管理できる代謝異常だが、欠損症はそのものの異常であり、Phe値を下げるだけではの欠陥を治せない。

項目 PAH欠損症() 欠損症
Phe蓄積の原因 PAH酵素そのものの欠損 PAHは正常だがが不足
低Phe食の効果 生涯にわたる治療の中心 症状の発現・進行を防げるとは限らない(特に重症型)1
投与の効果 一部の反応性例で有効、Phe値を完全に正常化でき長期の食事制限が不要になることがある1 Phe値は下げられるが中枢神経系への移行が乏しく、40 mg/kg/日程度の高用量でもまでは正常化できない1
追加で必要な治療 通常は不要 (/、)、必要に応じドパミン・1

⭐ 「さえ入れれば治る」ではない。 は肝臓へは容易に到達しPAHを正常に働かせられるため、欠損症患者のPhe値を完全に正常化し長期のPhe制限食を不要にできる場合がある。しかし中枢神経系への移行はでは限定的であり、これを補うためになどのの追加投与が長期管理の要になる1。

⚠️ DHPR欠損症だけは、もう一段別の治療が要る。 DHPR欠損症で蓄積する(BH2)が葉酸の再利用を阻害し、脳内でが枯渇しうるため、による補充が必要になる。療法を中断するとを来しうるため、この治療は生涯にわたり継続する2。

まとめ

  • 欠損症は、PAH・・に共通するの合成段階(GTPシクロI・PTPS欠損)または再生段階(DHPR欠損)の異常で、Pheの蓄積と神経伝達物質の欠乏を同時に来す。
  • から・運動異常・・障害・発達遅滞を来しうる。重症型は髄液神経伝達物質が低下し、軽症(末梢)型では低下しない。
  • 診断は(PAH欠損症・DHPR欠損症では反応せず、それ以外の欠損症では反応する)と尿中プテリン分析・DBS中DHPR活性で行い、で中枢神経系の評価を追加する。
  • ⚠️ 治療の核心はとの違いにある。低Phe食だけでは重症型の症状進行を防げず、は中枢神経系への移行が乏しいため、(、)の併用が長期管理に必須である。
  • DHPR欠損症は蓄積したが脳内葉酸を枯渇させるため、()の生涯にわたる補充を要し、中断するとを来しうる。

出典

  1. 1.PTS-Related Tetrahydrobiopterin Deficiency(GeneReviews (NCBI Bookshelf)(Opladen T, Longo N, Blau N)・2026)NCBI Bookshelfのライブページで確認した(2026年3月5日最終改訂、初版2025年7月10日)。BH4がGTPシクロヒドロラーゼI・6-ピルボイルテトラヒドロプテリン合成酵素・セピアプテリン還元酵素の作用でGTPから合成されること、BH4がフェニルアラニン水酸化酵素(PAH)の補因子でありこれが欠乏すると血中フェニルアラニンが蓄積し中枢神経機能障害を来しうること、BH4がチロシン水酸化酵素・トリプトファン水酸化酵素の補因子でもありモノアミン神経伝達物質合成に関わること("BH4 is also a cofactor for tyrosine and tryptophan hydroxylase, enzymes involved in the synthesis of monoamine neurotransmitters")を確認した。新生児期から症状が出現しうること、臨床徴候に筋緊張低下・運動異常・眼球運動異常・自律神経調節障害・発達障害の遅れが含まれること("hypotonia, movement disorders, abnormal eye movements, autonomic dysregulation, and impaired development")、重症型では髄液中モノアミン神経伝達物質代謝産物が低下する一方、軽症(末梢)型では髄液神経伝達物質濃度に影響しないこと、無治療では発達遅滞が進行性に明確化する一方、生後2か月未満でサプロプテリンと神経伝達物質前駆体の治療を開始した例は神経学的・発達的な予後がより良好であること、青年期に発達が改善し成人の多くが正常なIQを示すことを確認した。診断について、新生児マススクリーニングが生後24〜72時間に採取した乾燥濾紙血でのタンデム質量分析によるPhe・Tyr濃度測定に基づくこと、生後24時間未満に採取した検体では偽陰性が報告されていること、確定診断が確認された高フェニルアラニン血症・尿またはDBS中のネオプテリン上昇・ビオプテリン低下・ビオプテリン/ネオプテリン比低下、かつDBSでのDHPR活性正常によって成立すること、髄液中のネオプテリン・ビオプテリン・ホモバニリン酸(HVA)・5-ヒドロキシインドール酢酸(HIAA)を測定するため腰椎穿刺がしばしば行われることを確認した。治療について、PAHの補因子・共基質であるサプロプテリン(BH4二塩酸塩)による速やかな治療が血中Phe濃度を下げるために推奨されること、サプロプテリンの中枢神経系への移行が限定的でありこれを達成するには通常40 mg/kg/日程度という高用量が必要なこと、そのためサプロプテリン治療単独ではPTPSD患者のチロシン水酸化酵素・トリプトファン水酸化酵素活性を完全には正常化できないこと、長期管理にはレボドパ+脱炭酸酵素阻害薬(カルビドパまたはベンセラジド)・5-ヒドロキシトリプトファン・ドパミンやセロトニンの作動薬といった神経伝達物質前駆体療法の追加が必要なこと、PAH欠損症とは異なりPTPSDでは低フェニルアラニン食が症状の発現・進行を防げるとは限らないこと(特に神経伝達物質産生に影響する重症型で)、経口サプロプテリンがBH4を容易に肝臓へ届けPAHを正常に機能させられるためPAH欠損症とは異なりPhe値を完全に正常化でき長期の食事制限を要さない場合があることを確認した。閲覧 2026-09-07
  2. 2.Dihydropteridine Reductase Deficiency(GeneReviews (NCBI Bookshelf)(Longo N, Opladen T, Blau N)・2026)NCBI Bookshelfのライブページで確認した(2026年6月2日最終改訂)。水酸化反応で酸化されたBH4を活性型へ戻すにはプテリン-4α-カルビノラミン脱水酵素とNAD(P)H依存性ジヒドロプテリジン還元酵素(DHPR)の順序立った作用が必要であること、QDPR遺伝子の病的バリアントがDHPRの機能喪失をもたらしBH4の再生に欠陥を生じること(PTS等の合成段階の異常とは区別される再生段階の異常であること)を確認した。DHPR欠損症では、DHPR欠損症で蓄積するジヒドロ葉酸(BH2)が葉酸の再利用を阻害しうるため脳内で5-メチルテトラヒドロ葉酸(5-MTHF)が枯渇しうること、これに対しフォリン酸(ロイコボリン)による治療が行われること、フォリン酸療法の中断が急性脳症を引き起こしうることを確認した。生化学的にはDHPR欠損症は正常またはわずかに上昇したネオプテリンと尿・DBS中のビオプテリン上昇、DBSまたは血液中のDHPR活性の低下または欠如によって他のBH4欠損症と鑑別されること、BH4欠損症全体の発生率が高フェニルアラニン血症患者の約1〜2%、または新生児約50万人に1人であること、報告されたDHPR欠損症患者の約27%がBH4欠損症全体に占める割合であること、報告されたDHPR欠損症患者の約47%が中東地域からの報告であることを確認した。閲覧 2026-09-07
  3. 3.新生児マススクリーニング対象疾患等診療ガイドライン2025 フェニルケトン尿症および類縁疾患(日本先天代謝異常学会・2025)日本での新生児マススクリーニング開始から2021年度までの40余年間で高フェニルアラニン血症(PKU・BH4反応性高Phe血症・BH4欠損症を含む)が累積800人発見され発生頻度が約7万出生に1人であること(病型別に古典型PKUが約9万人に1人、軽症高Phe血症・軽症PKUが約16万人に1人、BH4欠損症が約170万人に1人)、米国の頻度が約1万5千人に1人であること、スクリーニング基準(血中Phe 2mg/dL・120μmol/L以上で精査)と血中Phe値6mg/dL・360μmol/L以上でBH4負荷試験を行う診断フローチャート、確定診断後の治療目標が全年齢を通じ血中Phe 6mg/dL・360μmol/L未満であること、BH4・1回負荷試験(10mg/kg)でPheが前値より20%以上低下すればBH4反応性高Phe血症と診断すること、無治療時Phe値が20mg/dL・1200μmol/L以上を古典型PKUと表現することがあることを確認した。閲覧 2026-08-11