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Disease Atlas · 内分泌・代謝 · 先天性疾患

チロシン血症1型

Hereditary tyrosinemia type 1

別名
チロシン血症肝腎型チロシン血症HT1hepatorenal tyrosinemiatyrosinemia type Ifumarylacetoacetase deficiencyFAH deficiency
臓器系
内分泌・代謝肝胆膵腎・泌尿器
科目
Pediatrics
トピック
小児科 3-45:胆汁うっ滞・抱合型高ビリルビン血症小児科 2-10:先天代謝異常を疑う状況と初期評価
上位概念
先天代謝異常症
鑑別疾患
遺伝性果糖不耐症古典型ガラクトース血症
合併症
Fanconi症候群
症状
嘔吐黄疸肝腫大末梢神経障害
検査値
AFPプロトロンビン時間

🧠 全体像:1型は、チロシン代謝の最終段階を担うフマリル(FAH)が欠損し、毒性物フマリルと、それが迂回産生するスクシニルが蓄積する疾患である。要点は3つ——①スクシニルは本症に特異的な確定診断マーカーであり、血中チロシンだけに頼るでは見落としが出る、②未治療では乳児期のから、慢性の二次性・くる病・まで多臓器を侵す、③(NTBC)による代謝ブロックが治療の中心で、診断確定を待たずに開始するという点である。

病態:チロシン代謝の最終段階が止まる

チロシンは、チロシン(TAT)→ 4-ヒドロキシ(HPPD)→ 酸化酵素 → マレイルイソメラーゼと進み、最後にFAHがマレイルから生じたフマリルを、と(いずれも・ケトン体代謝に合流する無害な物質)に分解する。FAHが欠損すると、この最終段階だけが止まり、フマリルが肝細胞・に蓄積して直接的なを発揮するとともに、一部がスクシニルアセトアセタート・スクシニルへ迂回産生される1。

flowchart TD
    A["チロシン"] --> B["4-ヒドロキシ<span class='jp-term jp-term-diagram' title='phenylpyruvic acid'>フェニルピルビン酸</span><br>(HPPDによる)"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='homogentisic acid'>ホモゲンチジン酸</span> → マレイル<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acetoacetate'>アセト酢酸</span>"]
    C --> D{"FAHは働くか"}
    D -->|"正常"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fumarate'>フマル酸</span>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acetoacetate'>アセト酢酸</span><br>→ <span class='jp-term jp-term-diagram' title='TCA cycle'>TCA回路</span>・ケトン体代謝へ合流"]
    D -->|"欠損(本症)"| F["フマリル<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acetoacetate'>アセト酢酸</span>が蓄積<br>→ 肝細胞・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='renal proximal tubule'>腎近位尿細管</span>に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='direct toxicity'>直接毒性</span>"]
    F --> G["一部がスクシニル<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acetone'>アセトン</span>へ迂回産生"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ALA dehydratase (porphobilinogen synthase)'>ALA脱水酵素</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='porphyrin'>ポルフィリン</span>合成酵素)を阻害<br>→ <span class='jp-term jp-term-diagram' title='porphyrin'>ポルフィリン</span>様の末梢神経発作"]
    G --> I["HPPDも阻害<br>→ 血中チロシンが二次的に上昇"]

💡 スクシニルが「一人二役」を果たしている点が理解の鍵になる。 蓄積したフマリルそのものが肝・腎のを直接傷害する一方、そこから生じたスクシニルは経路のを阻害し、に酷似した末梢神経発作を引き起こす。さらにHPPDも阻害するため、血中チロシン高値は本症に特異的ではなく二次的な所見にすぎない——確定診断にスクシニルの測定が必須である理由はここにある1。

臨床像:発症時期で急性型と慢性型に分かれる

急性型(多くは生後6か月未満に発症)

・嘔吐・・黄疸で始まり、進行するとに至る。⚠️ の上昇が比較的軽度にとどまる一方、肝の蛋白合成障害を反映して・が著明に延長するという、の程度に見合わない凝固異常のパターンを示す1。腹水・消化管出血を伴うこともあり、無治療では致死的である。

慢性型(生後6か月以降に発症)

急性の肝障害が目立たない代わりに、汎を伴う障害(二次性)、、、高血圧が前景に立つ1。慢性の肝障害は肝硬変へと進行しうる。

末梢神経発作様症状

急性・慢性いずれの病型でも、1〜7日間持続する発作性の意識変容・腹痛・末梢神経障害(進行すると・に至ることもある)を来しうる1。これは前述のスクシニルによる阻害を反映しており、の発作と臨床像が酷似する。

⚠️ のリスクを過小評価しない。 未治療または治療開始が遅れた症例では、が17〜37%という高率に発症する1。一方、生後1か月以前に治療を開始できた例では、長期の追跡でもの発症が報告されておらず、早期治療開始の意義が最も明確に現れる合併症である2。

診断:血中チロシンではなくスクシニルアセトンを見る

⭐ は血中スクシニルを一次マーカーとすべきである。 血中チロシンを指標にすると、スクリーニング採血の時点でまだ上昇していない患児がいるため見落としが生じうる(血中チロシン単独では約28%が見落とされると推定される)のに対し、スクシニルは本症に特異的で感度も高い2。

確定診断は、血中・尿中スクシニル高値(本症に病的特異的)とFAH遺伝子のの確認によって行う1。補助的に、が平均160,000 ng/mL(1,000 ng/mL未満)まで著明に上昇し、・の延長を伴うことが多い1。

の・・凝固異常を見た際、他のとの鑑別で血中チロシンのみに注目すると、二次性のチロシン上昇(肝不全一般で生じうる)と本症を混同しかねない。スクシニルの測定まで進めて初めて確定できることを意識する。

治療:ニチシノンを診断確定前から開始する

  1. (NTBC)を直ちに開始する: HPPDを阻害してフマリル・スクシニルの産生自体を止める薬剤で、推奨は1.0 mg/kg/日、目標血中濃度は40〜60 µmol/Lである12。の結果を待って治療開始を遅らせてはならない——スクシニル高値でスクリーニング陽性となった時点で、確定診断を待たずとを開始する2。早期に治療を開始できた例のは90%を超える1。
  2. 低・低チロシン食を併用する: はHPPDを阻害するため、単独では上流のチロシンが蓄積してしまう。で血中チロシン濃度200〜600 µmol/Lを目標に管理する2。
  3. は限定的な適応にとどめる: に反応しない肝疾患、の合併、が入手できない状況に限られる2。

⚠️ で肝不全・神経発作は防げても、発がんリスクの監視は生涯続ける。 治療反応が良好でも、測定と肝画像検査を3〜6か月ごとに生涯にわたって継続する必要がある2。

鑑別:新生児期に肝不全を来す先天代謝異常

いずれも〜乳児期に・で発症しうるが、発症契機と確定診断の手段が異なる。

項目 1型(本項)
欠損酵素 FAH GALT
発症契機 授乳内容によらず出生後まもなく 乳糖(母乳・粉ミルク)の開始 ・()の導入
確定診断 血中・尿中スクシニル GALT活性低下+血中Gal-1-P著増 ALDOB
特徴的な合併症 、二次性、様神経発作 大腸菌などによる、 による重度低血糖
治療の柱 +低・低チロシン食 乳糖除去食 除去食

⚠️ 血中チロシン高値という所見だけで飛びつかない。 1型以外の重症肝不全(前述のを含む)でも、肝の代謝能低下により血中チロシンが二次的に上昇しうる。本症に特異的なのはスクシニルであって、チロシン単独ではない。

なお、同じ「」という名を持つ2型(眼皮膚型、Richner-Hanhart症候群、TAT欠損症)・3型(4-HPD欠損症)は、いずれも肝腎障害を来さず、本項(1型)とは異なる疾患単位である。

まとめ

  • 1型はFAH欠損により、フマリルとその迂回産生物であるスクシニルが蓄積する疾患で、後者が肝腎毒性と様神経発作の両方を説明する。
  • 急性型(生後6か月未満)は凝固異常が前景に立つ、慢性型(生後6か月以降)は二次性・くる病を主体とし、いずれも1〜7日間の末梢神経発作様症状を来しうる。
  • 未治療または治療開始が遅れた例ではが17〜37%に発症するが、生後1か月以内に治療を開始できれば長期的にも発症が防げる可能性がある。
  • ・確定診断ともに、血中チロシンではなく血中・尿中スクシニルを指標とする。
  • 治療は(HPPD阻害)+低・低チロシン食が基本で、診断確定を待たずに開始し、は不応・合併例に限る。
  • 治療反応が良好でも、・肝画像による生涯にわたるを要する。

出典

  1. 1.Tyrosinemia Type I(GeneReviews(University of Washington, Seattle)・2025)FAH欠損によりフマリルアセト酢酸が肝細胞に蓄積してスクシニルアセトンへ迂回産生されること(Molecular Pathogenesis節)、急性型は生後6か月未満に発症し肝の蛋白合成障害を主体とする急性肝不全(PT/APTT著明延長)を来すこと、慢性型は生後6か月以降に発症し汎アミノ酸尿を伴うFanconi様腎症・くる病・成長障害を来すこと、1〜7日間持続する末梢神経発作様症状(意識変容・腹痛・末梢神経障害)を来すこと、未治療または治療開始が遅れた例で肝細胞癌が17〜37%に発症すること(Clinical Description節)、確定診断が血中・尿中スクシニルアセトン高値とFAH遺伝子の両アレル性病的バリアントであること、血清AFPが平均160,000 ng/mL(基準値1,000未満)まで著明に上昇すること(Diagnosis節)、ニチシノンが1.0〜2.0 mg/kg/日でHPPDを阻害し毒性代謝物の産生を防ぐこと、目標血中ニチシノン濃度が40〜60 µmol/Lであること、早期治療開始で生存率90%超であること(Treatment of Manifestations節)を確認した閲覧 2026-09-05
  2. 2.Diagnosis and treatment of tyrosinemia type I: a US and Canadian consensus group review and recommendations(Genetics in Medicine(米国・カナダ合同コンセンサスグループ)・2017)新生児マススクリーニングは血中チロシンではなく血中スクシニルアセトンを一次マーカーとすべきであること(チロシン単独では診断時点で上昇していない例があり見落とし率28%と推定されること)、ニチシノンおよび食事療法は診断確定(遺伝子検査結果)を待たずに開始すべきであること、ニチシノンの推奨開始用量が1.0 mg/kg/日であること、食事療法の目標血中チロシン濃度が200〜600 µmol/Lであること、肝移植の適応がニチシノン不応の代償不全肝疾患・肝細胞癌合併・ニチシノン入手不能例に限られること、AFP測定と肝画像検査を3〜6か月ごとに生涯継続すべきであることを確認した閲覧 2026-09-05